占術師速水丈太郎 白衣の悪魔
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32部分:第三十二章
第三十二章
「こうした術って難しいよね」
そのうえで二人に尋ねてきた。
「そうそうは使えないからさ」
「だから一つずつ消していくと」
「そういうことね」
「うん」
また己の周りを取り囲んできた二人に対して言う。やはり余裕のある態度であった。
「そうだよ。じゃあまた行くよ」
再び姿を消した。今度は二人一気にであった。
沙耶香の一人の胸を突き、速水の一人をもう一方の腕で引き裂いた。そうして消したのだがそれでも沙耶香も速水もまだ幾人もいた。しかしそれでも魔人は涼しい顔をしていた。
「こうやって一人ずつ消していけばさ。僕の勝ちになっていくよね」
「随分悠長ね」
沙耶香は悠然と笑って彼に述べてきた。
「いえ、楽しんでいるのかしら」
「そうだよ、楽しんでいるんだよ」
魔人はまた笑ってそれを認めてきた。
「だからさ。また」
「そうして楽しむのもいいわ」
「ですが」
「ですが!?」
速水の声に反応してきた。そのうちの一人はカードの大アルカナを構えたまま攻撃を仕掛けようとはしない。それが妙に不自然でもあった。
「何かな」
「楽しみも何時かは終わる」
「あらゆることが」
「それで?」
魔人はその言葉を軽く笑って否定してきた。
「それでどうにもならないんじゃないの?ここで君達が負ければ」
「そうね、負ければね」
沙耶香はその言葉に頷く。
「あくまで負ければね」
「僕、負けたことはないよ」
魔人はまた沙耶香の一人を消した。その沙耶香の中にも決して攻撃を仕掛けない者が一人いた。それもまた奇妙なことであった。
「言っておくけれど」
「そうですね。だからこそ生きている」
速水はそれに応えて言う。
「魔界では敗北は死」
「だからだよ。けれどそれだから楽しいんだ」
この魔人にとってはそうであった。彼は戦い、殺戮をあくまで無邪気に楽しんでいた。それこそ子供が虫を殺すのを楽しむようにである。
「だからさ。ここでも」
「私達を」
「倒すのね」
「そうだよ。けれどそれまで楽しませてもらうから」
攻撃はどれも打ち消す。身体には触れさせない。そして自身の爪で速水も沙耶香も次々と消していく。その力はやはり圧倒的なものがあった。
「さあ、もうすぐだね」
二人の数が僅かになったところで言ってきた。
「もうすぐ二人だけ。それで」
また言葉を続ける。
「終わりだよ」
消えた。今後は魔人が複数になった。そうして速水も沙耶香も次々と屠った。遂には速水も沙耶香もそれぞれ一人だけとなってしまったのであった。
「さあ、これで本当の君達だけだね」
最後の速水と沙耶香に対して言う。二人は激しく動き回っていたが結局本体は攻撃を加えはしなかった。速水は相変わらず大アルカナのカードを持ち沙耶香は手に何も持ってはいないのであった。
いや、持っていた。それは糸の玉であった。それを右手に持っているだけであった。
「覚悟はいいかな」
「いいえ」
沙耶香は右手にその糸の玉を持ったまま笑みで返してきた。
「それに頷くつもりはないわ」
「往生際が悪いね。そういうのってよくないよ」
魔人は沙耶香だけでなく二人に対して言った。
「これで僕の勝ちは決まりなんだから。諦めないと」
「いえ、私達の勝ちです」
しかし速水がここで言ってきた。
「勝ち!?君達が!?」
「はい」
魔人に対して答える。
「そうです。その証拠に」
「動けるかしら」
二人はそれぞれの口で問うてきた。
「今ここで」
「面白いことを言うね」
魔人はその言葉を聞いてゆっくりと前に出ようとする。
「そんなのこうやって・・・・・・んっ!?」
だがここで異変が起こった。魔人は動けない。まるで金縛りにあったかのように。全く動けはしなかったのだ。
「これは・・・・・・一体」
「こういうことです」
速水が彼に言う。
「これもまた術なのですよ」
「私達のね」
今度もまた二人で言ってきた。
「術・・・・・・まさか」
「そのまさかです」
速水はその手に持っているカードを彼に見せてきた。それは十二番目のカードである吊るし人のカードであった。
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