皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第15話 「フッ、坊やだからさ」
前書き
キャラクターは揺れ幅が大きい方が良いですよねー。
第15話 「見ろ。あれが諸悪の中心だ」
フリードリヒ四世である。
以前ルードヴィヒから聞いた。
弟のような二人がやってくるというので、楽しみにしておった。
薔薇園にはお茶の用意もしてある。
「は、初めまして。ラインハルト・フォン・ミューゼルと申します。皇帝陛下」
おお、金髪の方か。声が上ずっておるわ。
して中々にかわいらしい子じゃ。隣にいる赤毛の方もかわいいがのう。
それにしても内になにやら、秘めたものがありそうじゃな。才気もある。これは中々の逸材じゃ。ルードヴィヒがおらねば、こやつに任せても良かったかもしれん。
「ジークフリード・キルヒアイスと申します」
目つきも凛っ、としておるわい。
それに引き換え、ルードヴィヒのかわいげのない事と言ったら、ため息がでるわ。
「黙れ、アル中」
ほれ、口を開けば、この始末じゃ。
育て方が良かったのやら、悪かったのやら……。少なくとも親を敬う、という一点においては、間違えたわ。
執務室でのあのねこかぶりとは、うって変わっておる。
「一応、敬意は払ってやってるつもりだがな」
「それでか、のう?」
「アル中なのは、事実だろう。毎日毎日浴びるほど、飲みやがって」
なにを言うか、日に三本しか飲んでおらんわ。
それに二人が、目を丸くしておる。
これが皇帝と皇太子の会話かと、な。
「日に三本も飲めば、立派なアル中だろう。ラインハルトにジーク。こんな大人になってはいけないぞ」
「うむ。確かに、ルードヴィヒのような大人に、なってはいかんな」
■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■
今日、ラインハルトとジークを連れ、親父に会いに行った。
まあ、親父は二人を気に入ったようだった。
なにかあれば、力になってやろうというほどに、な。
それ自体は、良かったのだろう。しかしまさか親父があんな事を言い出すとはな。
「ラインハルトにジーク。二人に申し渡しておく事がある。今はルードヴィヒが帝国の再建を致しておる。しかしこの先、何が起こるやも知れぬ。もしも、もしもじゃ。ルードヴィヒが志半ばで、倒れたときは、お主らがルードヴィヒの志を継ぐのじゃ。そなたらはルードヴィヒの弟のようなものじゃ。わしにとっては子も同然。良いな」
まったく、そこでなぜ、わしがやるとは言えんのだ。親父め。
ガキに押し付けんなよ。
それにしても……ラインハルトにジーク。
お前たちはどうして、俺の後ろに隠れているんだ?
ラインハルトの視線の先を、眼で追う。
ふむ。アンネローゼがいる。あいもかわらずシスコンかと思ってたのだが、どうも様子がおかしい。
ラインハルトがアンネローゼを見て、怯えている!!
おまけにジークもだ。
こはいったい何事ぞ。
う~む。
アンネローゼの方を観察してみる。
見た目は変わっていない。
だが雰囲気は確かに変わった。
前から思っていた事だが、原作のイメージはもはや、どこにもない。
あの儚げな薄幸の美人というイメージだ。
妙にアグレッシブになりやがって。
そういう意味では、アンネローゼも変わったよなぁ~。
そして今では、肉食系女子になってしまった。
うわ~。すごい変わりようだ。
もしかして、こいつら……綺麗で優しいお姉ちゃんが、イケイケになった事に怯えてんのか? 俺を慕っているというよりも、姉ちゃんが怖いからって、俺の背中に隠れてんじゃねえか。
ええい。不甲斐ない奴らよ。
大和撫子など、もはやおらんのだ。
貴様らには、覚悟が足りない。
ラインハルトの意外な弱点かも知れんな。
女性関係に弱い。
とはいえ、ラインハルトもまだこどもだし。ジークもか。
生々しい女は、苦手なんだな。
「どうしたの。ラインハルト、ジーク」
ラインハルトがビクッとする。
お前なぁ~。自分の姉ちゃんだろう。
そんなに怯える事はあるまい。
取って食われるわけじゃなし。
まさか、いや、そんな事、あろうはずがない。
考えろ。考えるんだ。原作でのラインハルトを。
原作では、姉ちゃん、姉ちゃんとシスコン丸出しだった。それだけならまだいい。しかしラインハルトから別の女の話を聞いた事が無い。
強いてあげるなら、ヒルダだけだ。それにしても大抵は政治関係だったな。
はは~ん。なるほどなるほど。
ラインハルトにとって、アンネローゼは理想の女性なんだな。
そして、俺はラインハルトの理想、つ~か幻想を打ち砕いた。というわけか。
ふっ、笑ってやる。
現実なんてひどいもんさ。男も女も生きてんだ。生々しくってどこが悪い。
ちっとばかり甘やかしすぎたか……?
いつまでも俺のところに、居させる訳にはいかんようになったな。
ちょっと他人の飯を食って来い。
かわいい子には旅をさせろともいうし、な。
■宇宙艦隊司令部 ウォルフガング・ミッターマイヤー■
皇太子殿下の下にいたという幼年学校の少年が研修で、俺のところに来る事になった。
ラインハルト・フォン・ミューゼルというのだ。
当初は、どうしたものかと思ったものだが、ラインハルトは頭が良い。
俺の言う事を、きちんと把握して行動する。
それどころか俺の言う事を先回りすらするのだ。
「今日のところは俺の家で、飯でも食っていけ」
「宜しいのですか?」
「ああ、エヴァも楽しみにしてるからな」
そうして家に連れて行ったら、ラインハルトはエヴァを見て、呆然としていたのだ。
「どう思う? メックリンガー」
「どう思うと聞かれてもな」
メックリンガーは首を捻っている。
卿にも分からんか?
「それは、アレだろう。俺にも覚えがあるぞ。あれぐらいの年頃の男は、だな。年上の女性というものに憧れるときがあるのだ」
「ビッテンフェルト。卿にもそんな頃があったのかっ」
「卿らは俺をどう思っていたのだ?」
「しかしだ。ビッテンフェルトの言う通りかもしれんな。かくいう私も、時折すれ違う女性の姿に胸をときめかしたものだ」
「メックリンガー。卿にも覚えがあるのか?」
「ああ、あったとも」
「会いたさ、見たさに、用もないのに道をうろうろしたりな」
「そうだな。ミッタマイヤー。気にする事は無いと思う。麻疹のようなものだ」
■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■
キルヒアイス。俺は悟ったのだ。
姉上が変わってしまったのは、皇太子のせいだと。
夕べ、研修先のミッターマイヤー准将の家に行った。そこでミッターマイヤー准将の奥方と出会ったのだ。
まるで以前の、皇太子の下に連れ攫われる前の姉上のようなお方だった。
あのような女性は確かにいるのだ。
姉上もそうだったはずなのに!!
俺は何を呆けていたのだ。呆けていた俺を見て、やつは笑っていたのだろう。
めらめらと、この胸に燃え上がる怒りの炎を、奴にぶつけてやりたい。
やつが、やつこそが、諸悪の大元だ。
確かに、皇太子としては優秀であり、有能でもあるのだろう。
しかし個人としてみれば、ろくでなし以外の何者でもない。
ええい。腹が立つ。
呪縛から解き放たれた俺は、もう二度と奴に負けぬ。
あんな大人には絶対にならないからな。
キルヒアイスも気をつけるんだぞ。
油断は禁物だ。
ラインハルト様からの手紙には、皇太子殿下に対する怒りが、行間から溢れてきそうだった。
しかしながらそんな事は、最初から分かっていた事でしょう。とも言いたくなる。
アンネローゼ様ですら、気づいていた事にお気づきなっていなかったとは、私の方が呆然とする気持ちです。
ですが、ようやくラインハルト様は復活なされた。
喜ばしい事です。
ですが……。寵姫として集められたはずの女性たちが、宰相府に集まっています。
机も増えました。
寵姫とはいったい何なのでしょうか?
私には分かりません。
「わたくしはこの度、皇太子殿下の秘書官に任命された。アレクシア・フォン・ブランケンハイムと申します。よろしくアンネローゼ・フォン・ミューゼル様」
「がるるー」
新しく来られたアレクシア様とアンネローゼ様が睨みあっています。
胃が痛いです。
「ジーク。大丈夫?」
「大丈夫ですよ。マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー様」
「マルガレータでいい」
「はい。マルガレータ様」
マルガレータ様はまだ五つの女の子です。
時折、宰相府に顔を出されます。後宮にいても退屈なのでしょう。
にこにことする笑顔がかわいらしい女の子です。
「私もマルガレータよ。ジーク」
黙れ、このショタ。
いけない。わたしも皇太子殿下の口調がうつってしまったようです。
本当に油断は禁物のようですね。
気をつけることにしましょう。
後書き
アニメならOPが変わる頃かな?
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