占術師速水丈太郎 白衣の悪魔
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28部分:第二十八章
第二十八章
「じゃあ私はこれで」
「私はこれを」
速水は魔術師のカードを出してきた。すぐに赤い法衣を来た魔術師が姿を現わしてきた。
「穴を破壊するわよ」
「ええ。それでは」
二人は同時にその鎌と魔術師の炎を放った。紅い紅蓮の炎が銀色の風と合わさってそうして出入り口に向かう。そのまま黒い闇を直撃して消し去ったのであった。
「これで一つね」
「はい。ただ思ったより呆気無かったですね」
速水はそう答えてきた。
「もっと頑丈かと思ったのですが」
「そうかしら」
だが沙耶香は彼のその言葉には懐疑的な言葉で返してきた。
「私はこんなものだと思ったわ」
「それはまた何故」
「所詮入り口よ」
沙耶香は答える。
「それにあの彼がそう凝ると思って?それを考えるとね」
「脆いのも道理というわけですか」
「そういうこと。それじゃあ」
彼女はここで壊れて消え去った出入り口を背にして立ち去った。
「まずはこうして出入り口を一つずつ消していきましょう。この程度だったらお互い一人で充分でしょうしね」
「そうですね。それではそれぞれで」
速水も沙耶香の言葉に応える。
「またお別れして」
「ええ。移動の方法は持っているわよね」
「はい」
ここで運命の輪のカードを出してきた。
「これで」
「そう。それなら手分けしてね」
「ええ」
こうして彼等は門を次々と破壊していく。それが終わり夕刻になると二人は店で落ち合った。今度はバーで洒落たカクテルを飲みながらであった。
「そう。一つを残してね」
「ええ、一つを残して」
沙耶香に速水が応える。二人はそれぞれ互いのカクテルを飲んでいた。そうして話を進めていたのであった。カウンターに二人並んで座っている。
「そう。ではそれでまずは一つになるとなると」
「後はそこで待っていればいいだけ」
「さて。明日かしら」
沙耶香はカクテルを片手に述べてきた。カクテルはブラッディ=マリーである。速水のカクテルはスクリュードライバーであった。彼等の好みの酒である。
「勝負の時は」
「そうですね。今頃は戸惑っておられるでしょう」
速水はまた述べてきた。
「出口が殆ど消えてしまい」
「けれどそれではめげないわよ」
そう言ってくすりと笑う。
「ああした子はね」
「めげませんか」
「貴方と同じよ」
沙耶香は速水を見て言ってきた。妖しく笑うその顔は彼に向けていた。
「そういうところはね」
「おや、私もですか」
「私は気紛れなのよ」
次に自分について言うのだった。
「それなのにどうして今もまた声をかけてくるのかしら」
「私の気持ちはわかって頂けている筈ですが」
「わかってはいるわ」
それは認める。しかしそれ以上ではない。
「それでもね。それ以上ではないのよ」
「それ以上ではないのですか」
「ええ。ただ」
沙耶香は言う。
「気が向けばね。その時を待っていてくれたらいいわ」
「残酷な方です」
速水はそれを受けて右目を細めさせてきた。左目はまだ見えはしない。
「そうして私の誘いを断り続けられるのは」
「だから気が向けばよ。その時よ」
それをまた言う。
「いいわね。それで」
「それで?」
話が変わる。速水もそこに顔を向ける。
「まずはこれでいいにしろ。肝心なのはこれからよ」
「戦いですね」
「そう。わかっているとは思うけれど」
バーの中の薄暗い光の中で沙耶香は言う。その言葉は闇と光の中で静かに響く。女としては低音でその中に艶がある。そうした声であった。
「相手は大変な存在よ」
「残虐なだけでなくその力もまた」
「だからこそよ」
沙耶香はまた言うのだった。
「私も。あそこまでとは思っていなかったわ」
「それは私もです」
速水もその言葉に頷く。
「あそこまでだとは」
「あれだけの殺戮は伊達ではないということね」
沙耶香はまた述べる。冷徹な目になっていた。
「力と。心が」
「恐ろしいまでに残虐な心ですね」
「しかも無邪気でね」
この二つが合わさった時最悪の悪夢が完成する。即ち子供こそが最も恐ろしい悪夢を作り出すことができる存在なのだ。子供の心を持つ者と言っていいだろうか。
「さて」
速水はここでその手にしているスクリュー=ドライバーを飲んできた。そのうえでまた言う。
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