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ドラゴンクエストⅤ~リュカとサトチー~

作者:桃色デブ
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第4話 少しだけ暗い洞窟

 ぼんやりと、白いもやがかかった目の前を手で振り払う。喉がざらざらして、気持ち悪い。

「ほら、リュカ。顔洗え」

「わふっ」

 顔に押し当てられた冷たいものに、ぼくは思わず声を上げた。ひんやりと、気持ちが良い。
 タオルを桶の中に置いて、ぼくとサトチーにいさんは部屋を出る。良い匂いのが階段から流れてきた。自然と降りる足も軽くなる。
 テーブルの上にはサンチョが作った朝食が並べてある。旅路とは違って柔らかいパンと、暖かなスープ。おいしい。あったかい。

「む、リュカもサトチーも起きたか」

 身支度をしたおとうさんが奥の部屋から出てきた。普段よりも軽装だけど、武器も持っている。どこかいくのかな?

「父さんはちょっと出掛けるが……二人とも良い子にしているんだぞ村の外には出ないようにな」

「おう、俺達だけで村の外に出るなんて無謀なまねはしないよ」

 珍しく、サトチーにいさんが素直に返事をした。けれど――

「村の外にはね……」

 ――呟いた小さな声は外に出るおとうさんには、聞こえなかったみたいだ。悪いことを考えている顔だって、すぐに分かった。

 

 

 
「ほら、あそこだ」

 サトチーにいさんが指差したのは、少し小高い場所にある洞窟だった。ぼくの胸は高鳴った。探検だ!

「あれ?」

 ぼくは思わず声を上げた。洞窟のそばに有る小屋からおとうさんが出てきた。そしてそのまま洞窟へ向かっていく。

「まぁ、待て」

 おとうさんを追いかけようとしたぼくをサトチーにいさんが首根っこ掴んで止める。

「親父がなんで俺達に言わずに一人であんな洞窟に入っていったと思う?」

 そんなこと言われても分からない。

「実はだな、あの洞窟には古代の魔王が封印されていて親父はその封印が解けるのを察知して魔王退治に出掛けた光の戦士だったんだよ!地球は滅亡する!!」

 な、何だってー! とサトチーにいさんが自分で言って自分で驚く。
 でも魔王がいるなんて大事件じゃないか!

「うむ。というわけでリュカ。俺達に課された使命は親父の手助けをすることだ。行くぞ! 隊員2号!」

「ラジャー!」

 なんだかすっごくわくわくしてきた。でもサトチーにいさんがぼくを止める。

「待て。あの小屋にいるあのじいさん、あれは魔王の手先だ。俺達が洞窟に入らないように見張っているんだ」

 それじゃあどうやって洞窟に入るの?

「こっちだ」

 サトチーにいさんに手を引かれて、少し歩くと洞窟に入れる別の道を見つけた。

「じゃあ行くぞ」

「うん!」

 ぼくとサトチーにいさんは大人達に見つからないように、こっそりと洞窟に入った。













「うわぁ……」

 洞窟の中はほんのり暗いけれど、壁が少し光っている。歩くのはそれほど難しくない。でも、地面が少しぬかるんでいる。少し動きにくい。

「感慨深いものがあるな……」

 サトチーにいさんが呟く。時々する、遠くを見るような眼だ。

「よし! 初めての洞窟探検だ。気張って行くぞ」

「うん。でも魔王って奥にいるの?」

 ぼくの言葉にサトチーにいさんが、一瞬キョトンとしてうめく。

「あ? あ、ああ。魔王ね。えーとそこらへんにいるんじゃないか?」

 なんだい、それ! サトチーにいさんもっと真面目にやってよ!

「まー、奥に行けばいるんじゃないか……おっ!」

 ばさばさって音が上から聞こえた。見上げると、大きなこうもりが赤い目をしたこうもりみたいな奴が、ぼく達をにらみつけていた。

「リュカ、気を付けろ!」

 そう言って、サトチーにいさんが木の棒を手に取った。

「ふんぬばらぁ!」

 変なおたけびを上げて、サトチーにいさんが突っ込む。けれど、こうもりは天井近くに逃げてしまう。

「ぐぬぬ。高低差なんて聞いてないぞ、責任者か開発者を出せ!」

 なんだか結構余裕がありそうだ。いつものよくわからない台詞を呟いている。
 こうもりは警戒しているのか中々降りてこない。ジャンプして叩こうとしているサトチーにいさんを見て、ぼくはひとつ思いついた。

「えいっ!」

 ぼくが投げたいくつかの石ころのうちひとつが、こうもりに当たった。倒すことは出来なかったけど、ひょろひょろと下に降りてくる。

「ナイス、リュカ!」

 それを見逃さず、サトチーにいさんが棒を叩きつける。バシッと音が洞窟内に響く。
 ぼくのひざぐらい所まで落ちてきたこうもりを、サトチーにいさんが持っている棒でもう一度叩く。それでようやく、動かなくなった。

「あっ……」

 何故か声が出た。
 しんっ薄暗い洞窟は静まり返って、サトチーにいさんの少しだけ早い吐息が聞こえる。こうもりはサトチーにいさんの足元。近くに寄って、見る。本当に動かない。

「……」

 何だか、ぼくは、怖くなった。
 よく分からないけれど、もやもやした。
 言葉にしようとして、何と言っていいか分からない気持ちになって、やっぱり口からは出なかった。
 でも、良い気分じゃないのは確かだった。

「ぜえ、はあ……ふう。何とかなったな。よし、行くかリュカ」

 そう言ってサトチーにいさんがぼくの方に振り返る。うん、って言おうとして、何故か言えなくて。何を言えばよいのか分からなくなって、とりあえず頷いた。

「……それじゃあ行くか」

 そう言った時、サトチーにいさんはもうこっちを見てはいなかった。頭の後ろを掻いて、何かを呟いていたけれど、それはぼくの耳にまでは届かなかった。 
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