箱庭に流れる旋律
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歌い手、未来に驚く
前書き
今回、なぜ耀が奏について知っていたのかがわかります。
では、本編へどうぞ!
ゲームが終わって逆廻君とジン君がコミュニティの“名”と“旗印”を返却しているのを眺めながら、僕は今回の件について考えていた。
旗と名前を返却された人はジン君に感謝の言葉を告げると、狂喜して踊りまわったり、旗を掲げて走り回ったり、そんな事をしている人が目立った。
でも、中には死んでしまった仲間の名前を叫びながら泣いている人もいる。
「もし、もっと早くにガルドを倒せていれば、被害者は少なくて済んだのかな・・・?」
イヤ、そんなことは不可能だ。
僕たちが箱庭に召喚されたのはつい昨日のこと。それで今日潰せたことは、できうる最速の事と考えていい。それに、こんなくだらないことを考えるために一人でいるんじゃない。
「きっと、あのガルドにも大切な人はいるんだ・・・」
そして、そのガルドのことを大切に思う人も、いたはずだ。
僕は、そのガルドの命を奪った。
例えゲームであろうと、悪人であろうと、正気を失っていようと、それに変わりはない。
「・・・結構つらいんだな、こういうの」
「どうしたの、奏君?」
そんなことを考えていたせいか、飛鳥さんが近づいていることに気付けず、少し驚いた。
「ああ、飛鳥さんか・・・ううん、ちょっと今回のことについて考えてたんだ」
「そう・・・結局、全部奏君に任せることになってしまったわ。ごめんなさい」
「ううん、僕が勝手にやったことだし・・・本来なら、春日部さんがあんな怪我をすることなく、終わらせられるはずだったんだ」
「そんなことは・・・」
飛鳥さんが励まそうとしてくれてることがよく分かるけど、これは事実だ。
「いや、そうなんだよ。あの館の中で、ガルドに会った時点でこのゲームは終わらせることができた。でも、僕はギフトを使うことに恐怖して、それをしなかった。だから、自分の手で倒したかったんだ」
「そう・・・貴方のギフトも、何か嫌なことが?」
「昔、色々あってね。でも、今回のゲームで受け入れることはできた。その点に関してはガルドに感謝してるよ」
そこで僕は一つ思い出し、ギフトカードを取り出す。
「どうしたの?」
「ちょっと忘れてたことが・・・はい、これ。飛鳥さんが持ってて」
そう言いながら、今回のゲームで手に入れた武器、白銀の十字剣を飛鳥さんに渡す。
「これは今回のゲームであなたが手に入れたものでしょう?何故私に?」
「黒ウサギさんから聞いたんだけど、飛鳥さんは自分の力を“ギフトを支配するギフト”として開花させるんでしょ?だったらこういうギフトが必要だと思って。僕には、ここまでの武器は必要ないし」
「そう・・・ならありがたく受け取らせてもらうわ」
飛鳥さんはそう言って白銀の十字剣を自分のギフトカードにしまってくれた。
「さあ、旗印の返却もとうに終わったのだから、早く帰りましょう。春日部さんの容態が気になるわ」
「もしかして、帰るって伝えに僕のところまで?」
ふと周りを見ると、もうそこに人はいなかった。
「ええ。終わったことに気づいた様子もなかったし、置いていくのも気がひけたから」
「ありがとう。じゃあ帰ろうか」
どうやら、僕には考え事をしていると周りが見えなくなるという悪癖があるようだ。
♪♪♪
さて、時間は一気に飛びますが、今逆廻君、黒ウサギさん、飛鳥さん、ジン君の四人はサウザンドアイズに行っています。
何でも、サウザンドアイズの傘下のコミュニティ“ペルセウス”の人たちが“ノーネーム”の敷地内で暴れて、暴言を吐いたため白夜叉さんに頼んで決闘をさせてもらうのが目的だそうです。
僕一人が残ったのは、春日部さんが起きたときに無茶しないよう、監視することといざとなったらギフトを使って大人しく寝てもらうため。
「にしても、箱庭ってすごいなあ・・・あんな大怪我が二、三日で治っちゃうなんて」
しかも、もしかしたら今日中には意識が戻る可能性があるとか。
もといた世界じゃありえないことばかりが起きて、そろそろ感覚が麻痺しそうだ。
「う、ん・・・ここは?」
「・・・ホントに意識が戻ったよ・・・」
言ってるそばから目の前で寝ていた春日部さんが目を開け、そうたずねてきた。
まあ、おかげで安心できたけど。
「おはよう、春日部さん。調子はどう?」
「あ、奏・・・なんだか、頭がくらくらする」
「結構血を流したからね。今増血をしてるから、もう何日か大人しく寝てて」
輸血を行わないのは、専門のコミュニティに頼まないといけなくて、お金がかかってしまうからだ。
ノーネームは貧乏だから、できる限り節約しないといけない。
「そう、分かった・・・あの後、ゲームはどうなったの?」
「クリアしたよ。春日部さん以外は誰も怪我せずに」
「そっか。それならよかった」
さて、謝るなら今のうちのほうがいいよね?黒ウサギたちがどこに言ったかを話しちゃったらそれどころじゃなくなるだろうし。
「春日部さん、今回のゲームでは色々とごめん」
「急にどうしたの?」
まあ、説明しないとこうなるよね。さて、どこから話したものか・・・
「まず、あの場を春日部さん一人に任せちゃったこと。そのせいでそんな大怪我をしちゃったんだし」
「それは別にいい。多分、皆がいても無茶してたから」
それはできればやめて欲しいなあ・・・仲間がいるんだから、頼ってくださいよ。
春日部さんも、僕も・・・
「じゃあ、一番謝りたいこと。本来なら、春日部さんが怪我をする前に倒せたのに、ガルドを倒さなくてごめん」
「・・・どういうこと?ガルドはあの十字剣じゃないと倒せないはずじゃ・・・」
「うん、あの指定武具以外では倒せなかった」
「じゃあ、倒すことなんて・・・」
「出来たんだ、あの剣を操って、後ろから刺すことは」
僕はそのまま、“奇跡の歌い手”についての説明を始めた。
全てに干渉するその歌のこと、剣の舞という曲のことを。
「奏のギフトって、そこまで出来るものなの?」
「うん。ただ、僕はこの力に恐怖してたんだ。また、大切な人を傷つけちゃうんじゃないかって。そのせいで使うタイミングが遅れた。春日部さんは大怪我をした。だから、ゴメン」
僕は再び頭を下げる。
なんといわれても、それは受け入れるしかない。
全部聴くつもりで覚悟していよう。
「・・・じゃあ、謝罪代わりに一つお願いを聞いてもらってもいい?」
「内容は?」
「一曲、この場で歌って欲しい」
・・・はい?
「そんなことでいいの?」
「うん。奏はちゃんとゲームをクリアしてくれたんだし、それでいい。それに、あの“奇跡の歌い手”の歌を独り占めできるなんて、そうそうないし」
あ、そういえば一個聞きたかったんだ。すっかり忘れてた。
「なんで春日部さんは僕のことを知ってたの?」
「それは、私は奏がいたよりも未来からこの箱庭に来てるから」
そういえば、黒ウサギさんが様々な時代から召喚されてるって言ってた気がする。
「でも、僕はただの歌い手だよ?」
「ただの歌い手は、歴史の教科書に乗らないと思う」
今なんとおっしゃいました?
「歴史の教科書に、僕が?」
「うん、だから私のいた時代では知らない人はいなかったし、音楽もデータだけどかなりの量が残ってる。私の家にもたくさんあって、よく聴いてた」
「・・・マジか・・・」
現実を受け入れるのがかなり困難です。
教科書に載るって・・・ただの歌い手とはもう名乗れないのかもしれない。
「それで、データの音楽を聴くたんびに生で聴いてみたいと思ってたんだけど・・・」
「箱庭で本人にあって、驚きました、と?」
「正解。だから、独り占めできるなら、すごく嬉しい」
ここまで言われたら、断る理由もないよな。
「分かりました。何の曲がいい?」
「まだ寝たほうがいいみたいだし、ぐっすりと寝たいから何か子守歌をお願い」
ふむ・・・なら、あの曲でいいかな。
「では、『J.ブラームス』作曲の『Wiegenlied』を」
伴奏を一小節半歌い、歌詞に入る。
「Gu-ten A – bend,gut’ Nacht」
春日部さんは、一曲聴き終わると、そのまま眠りについた。
あ、ペルセウスのこと説明し忘れた・・・
後書き
こんな感じになりました。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。
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