皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第12話 「時空のたもと」
前書き
調べても分からなかったので、アルノルト・フォン・オフレッサーにします。
ようやく、ザ○が活躍しました。
あとは白銀の谷ぐらいかなぁ~。
ヴァンフリートはどうしよう?
第12話 「後宮。それは寵姫たちの集うところ」
フリードリヒ四世じゃ。
最近、息子の事で悩んでいる。
まったくあやつと来たら、わしの事を、馬鹿親父だのアル中だのと、さんざん好き勝手言いおって、皇帝に対する敬意というものが感じられん。
一々もっともじゃから、わしもあまり文句は言わぬが、それにしてもあやつを、アッと驚かせてやりたいものじゃ。
泡を食って慌てふためくところが、見たい。どうしても見たい。
何か良い案がないものじゃろうか……?
「のう。グリンメルスハウゼン」
「そうですな~。後宮というのは、どうでございましょうや」
「ほほう、後宮とな」
「左様でございます。皇太子殿下もまだ、お若い。美姫に囲まれては、さすがに慌てふためく事でありましょう。それに美姫に振り回されるところなども、良い見物だと思われますな」
「良い案じゃ。ふむ」
リヒテンラーデ候を呼んで、ルードヴィヒに後宮を造るようにさせよう。
いや、造っておいて、やつに押し付けてくれよう。その方が面白いかも知れぬ。
「それに皇太子殿下には、皇太子妃もお子様もおられませぬ。これでは後継者にお困りでしょう。その上、見目良い小姓を二人、お側に置いておられる。これでは周囲の者に、なんと噂されている事やら。心配ですのう」
「うむうむ。まさしくその通りじゃ。やつめ、驚かせてくれるわ」
薔薇園の一角で、年寄り達の悪巧みがこうして始まった。
「くっくっく、はっはっは、あーはっはっは」
「ふっふっふ。楽しゅうなってまいりましたな~」
たちの悪い爺どもであった。
■イゼルローン要塞 装甲擲弾兵総監 アルノルト・フォン・オフレッサー■
叛徒どもが来るまでのあいだに、MS部隊に機雷を設置させている。
通常、工作船での作業なのだが、ザ○のやつらは一機で工作船と同等の働きを見せる。
「うむ。使える」
ミュッケンベルガー元帥もしきりに頷いておられる。
重機並みの力に、人型の利点だな。器用に指が動く。自分の指を見つめた。この指に重機と同じぐらいの力があれば、大抵の事はできよう。
イゼルローンに来るまでのあいだにも、こいつらは戦艦の補修をしてきたからな。慣れたもんだろう。うまくすれば戦闘中でも、簡単な補修ならできるようにもなるかもしれん。
「設置が終わり次第、やつらを要塞に戻すように」
元帥がオペレーターに指示する。
さあ、来い。叛徒ども。
ザ○を見れば、驚く事だろう。
■第四次イゼルローン攻防戦 アルトゥル・フォン・キルシュバオム中尉■
双方の放つ光芒がこの海域を染め上げる。
十八メートルの巨人達が、戦乙女たちに混じり、戦場を駆け巡っていた。
戦艦の主砲ほどではないが、ワルキューレよりも高出力のレーザーを手に持ち。敵機を撃ち抜く。叛徒どもは、我々の存在に戸惑っているようにも思える。
味方の戦艦の陰から駆け抜け、隙を狙い打撃を与えるのだ。
戦場は混乱を極めている。
敵も味方も入り乱れ、トールハンマーを撃つことすら出来ない。
混戦。
すぐ目の前に敵戦艦が迫っていた。
一キロを越える巨体に撃ち込む。狙いをつける必要さえない。
どこを狙っても敵に当たる。
「中尉」
部下の悲鳴に、レーダーの反応。
後ろかっ。
急上昇しつつ、敵機に銃を向ける。
「ふんっ。背後を撃てぬとでも思っていたのか?」
敵スパルタニアンとは違い、ザ○は自由に狙いを付けられるのだ。
爆散してゆく敵機を見ながら、そう小声で漏らした。
だがエネルギーがあと少ししかない。
「キルシュバオム隊は近くにいる空母に戻れ、補給を行う」
「了解」
ヴェヒター曹長に続いて、他の者も続く。
五機のザ○が格納庫に入ると、それだけで圧迫感がある。
「燃料補給と銃のエネルギーパックも交換しておいてくれ」
「他の者は、今のうちに飯でも食っておけ」
メカニックには補給を、部下には飯を。指示する。
どちらも補給する事には変わりがない。飯かエネルギーかの違いだけだ。
「キルシュバオム中尉。凄いですね。戦艦1。巡洋艦2。スパルタニアン5ですよ」
「わたしが凄いのではない。ザ○が凄いのだ。しかし褒められるのも悪くない。ありがとう」
ダメだ。あのような物言いをするべきではなかった。
悪気はなかったであろう相手だ。しかもメカニックを敵に回してどうするというのだ。
私もまだ、未熟ということか。
「気にせんでいい。初陣の兵士とは余裕のないものだ」
「はっ」
年配のメカニックがそう言って、声を掛けてきた。
そう言ってもらえると、少しは気が楽になる。放り投げられた飲み物に口をつける。
その時初めて、喉が渇いていたことに気づいた。
「俺もこの年になって、こんなごついやつを弄れるかと思うと、嬉しくってな~」
ザ○を見上げながら、そんな事を言う。
その言葉に少しだけ笑った。
「ひでえ混戦だ」
ついさっき入ってきたばかりの、ワルキューレのパイロットが叫んだ。
「上の連中はうまく行ってると言ってたが」
「連中、どこ見て言ってやがるんだ」
「艦隊運動そのものは、うまくいってるからよ~」
戦闘の推移そのものは帝国軍に有利に運んでいる。確かに上の連中の言うとおり、上手く行っているのだろう。しかし我々から見れば、混戦しているとしか思えない。
目の前に敵の戦艦が横切っていくのだから……。
そう目と鼻の先だ。
ザ○でも行ってこれるほどに。
「どっちが勝つと思う?」
「帝国に決まっている」
「ふん。所詮新兵だよな~」
「どういうつもりだ。貴様」
思わずワルキューレのパイロットの胸倉を掴んだ。
「そりゃ~イゼルローンは落ちないだろうよ。だけどよ~損害は帝国の方が多いかも知れねえぜ。それで勝ったって言えるのかよ」
「そ、それは……」
パイロットの顔が歪む。
恐怖心だ。こいつもまた、怯えているのだ。怯えているからこそ、このような物言いをする。
「敵の旗艦をよ~。撃沈してやりたいぜ。そうすりゃ~やつらも逃げるだろうよ」
「ならば、貴様が行って来い」
「ちっ」
やつは逃げるように立ち去った。
その後姿を見ながら、やつの言った言葉を思い返す。
敵の旗艦を撃沈してやりたい。そうだな。しかしワルキューレの武器では、フィールドに阻まれ、旗艦を撃沈する事などできまい。
もし……できるのであれば、そうとうな破壊力を持った武器。
戦艦の主砲のような。もしくは――レーザー水爆を叩き込むぐらいか。
「私の成すべき事か……」
往けるか? やれるのか、この私に。
「補給が終わりました」
さきほどのメカニックが声を掛けてくる。
それに頷きつつ、さっきは悪かった。と返す。強張っていた笑みが緩んだ。
まだ若いな。私よりも年下だろう。こんな子どもまでが、戦場に出ているのだ。
覚悟は決まった。
「キルシュバオム隊は、敵旗艦を討つ」
「――中尉」
「ついて来れぬと言うならば、ヴルツェルのところへ行け。やつなら、無下にはしまい」
「自分は付いていきます。自分も辺境の人間ですから」
ヴェヒター曹長が言った。力強い声だ。
「そうか、我、凶か愚かは知らぬ。ただ一路奔走するのみ。往くぞ」
■イゼルローン要塞 アルノルト・フォン・オフレッサー■
うん?
MS部隊のなかで一隊だけ、飛び出していく連中がいる。
何をするつもりだ。
「まさか……いかん、連中を連れ戻せ」
連中、叛徒どもの群れに飛び込んでいくつもりか?
まったくどうしようもない奴らだ。貴様らがやらんでも、帝国は勝つ。
状況は有利に運んでいるのだ。
見ろ。新しい分艦隊を、その指揮官達を。
連中はうまくやっている。有能な奴らだ。帝国軍は良い指揮官を得た。
初陣の兵が無理をせんでもいいのだ。
「ザ○が五機。敵、下方に向かっています」
オペレーターが悲鳴を上げる。
司令部にいる誰もが、連中のやろうとしていることが、分かったのだ。
「本気か?」
ミュッケンベルガー元帥ですら、呆然と口にする。
そして、
「攻撃を強めろ。叛徒どもがザ○に気を取られているうちに、だ」
ザ○の連中を諦めた。
そうだ。総司令長官とはそういうものだ。損害を一々気にしていては、勤まらん。
そういうものだ。
だがわしは、どうしても連中の動きを目が追ってしまう。
連中は装甲擲弾兵なのだから。
「よしっ!!」
思わず、声が出た。
巧みに敵の攻撃を避けつつ、近づいていった連中が上手い位置についた。
そうだ。その位置ならやれる。やれるのだ。
だがこれで連中は戻ってはこれんだろう。間に合ってくれればいいが……。
■第四次イゼルローン攻防戦 アルトゥル・フォン・キルシュバオム中尉■
近づくにつれ、敵が増える。
ふっ、私は何を当たり前の事を思っているのだ。
「ええい。邪魔だぁ」
コックピットの中で叫ぶ。
ついてきた連中もなんとか、持っているようだな。
しかしもういい。ここまででいい。
「お前達は、もう戻れ。後は私一人でいい」
「中尉」
「命令だ。戻れ」
「――ご武運を」
「ああ」
連中が戻っていく。
そうだ。それでいい。
あいつらはイゼルローンまで、帰れるだろう。
いや、そこまでは持たんでも、どこかの空母に拾ってもらえる。
星が光っている。
容赦なく叩きつけられるビームを避ける。
背中につけたレーザー水爆弾頭を構えた。
「成すべき事を為す。ただそれだけだ」
喉が鳴る。
指先が震えた。
「喰らえ」
思わぬ叫びが、喉から飛び出た。
一筋の光が叛徒の群れを貫いた。
一瞬の後、爆発が巻き起こる。
彼らの叫びが私の元まで、届いてくるかのような幻聴を、聞いたような気がした。
振り返った。
イゼルローンが遠い。
流体金属が戦火を映し出して煌いている。
美しい。
そう思う。
「もう、あそこには戻れぬな」
見上げれば、叛徒どもの艦隊が混乱していた。
私はここだ。
ここにいる。
敵を取ろうとは思わんのかっ!!
それとも、そんな事すら思いつかぬほど、混乱しているのか!!
「不甲斐ない奴らだ!! 私はここにいるのだ。貴様らの敵がいるのだ」
「キルシュバオム中尉。そんなに喚くな。さっさと来い」
通信に耳を澄ませば、装甲擲弾兵の強襲上陸艇がすぐ近くまで、来ていた。
「さっさと来い。総司令長官閣下はトール・ハンマーを撃つおつもりだ。巻き込まれるぞ」
■イゼルローン要塞 グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー■
モニター越しに広がる爆発。
叛徒どもの艦隊。
その中心近くで、爆発が起こった。
混乱している。
「今だ。全艦隊を下げよ。トール・ハンマー発射用意」
あのザ○も巻き込まれるだろうが、それは覚悟の上のはず。
許せとは言わぬ。
貴様はよくやった。
巨大な光の暴力が、混乱している叛徒どもの艦隊に撃ち込まれた。
艦隊にまさしく穴が開いたな。
歓声が司令部に沸き起こる。
いつもであれば、浮かれるな、とでも叱責するところだが、まあ良い。
「追撃はなさいますか?」
「いや、かまわぬだろう。連中もほうほうの体で逃げておるしな。あまり追い詰めては、窮鼠、猫を噛むともいう」
とにかく勝ったのだ。
帝国軍の圧勝だ。
近年稀にないほどの勝利だ。
それで良い。
後書き
次は第四次イゼルローン攻略戦の続きかな~。
シトレはこの時期、まだ校長してるし。
ルビンスキーもまだ自治領主じゃないし。
でもそろそろ同盟側に“やつ”がでてくる。
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