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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-38情報と宝を求めて

 二手に別れて、サントハイム城に巣食う魔物の掃討を始めた一行。

 バルザックが倒れ、意味深な台詞を残した魔物たちも去って、城内には強い理性や立場を持つようなものは残っておらず、作業は順調に進む。

 一階で作業していたマーニャが、豪華な扉に目を留める。

「城ってのは、扉まで派手なのかよ。豪勢なこったな」

 アリーナが答える。

「そこは、宝物庫だからな。開放はしていないが、賓客に披露することもある。粗末なものでは、体面が保てないからな」
「ほー。……中も、派手なのか?」
「派手かどうかは知らないが、それなりに豪華ではあるな。扉に負けない程度には」
「……見ても、いいか?」
「構わない、と言いたいが。鍵は、父上が管理していたからな。俺でも場所は知らないし、流石にこれを蹴破るのはな」
「ふっ。まかせろ」

 マーニャが得意気に、魔法の鍵を取り出す。

「それは。マーニャが持っていたのか」
「ミネアの荷物から掠めてきた」

 クリフトが嫌な予感に冷や汗を流し、声を上げる。

「あ、あの!それは、少し……、不味いのでは、無いでしょうか……?」

 アリーナが、不思議そうに言う。

「見るだけなら、特に問題無いだろう」
「そ、……そうですね……。見るだけ、ならば……」

 それで済むならば、という言葉を、礼儀正しくクリフトは飲み込む。

「おし!じゃ、開けるぜ!」
「まあまあ。お城の宝物庫だなんて、楽しみね!」

 トルネコまでも乗り気になり、それ以上為す術も無く見守るしかないクリフトを背に、マーニャが気楽に鍵を開け、宝物庫の中に入る。

「おおっ!さすがに、派手だな!しみったれたキングレオなんざとは、格が違うってヤツだな!」
「そうだったか?」
「ばあさんの言う通り、ちっとは見た目も気にしたほうがいいな。全然、違うだろうがよ」
「そうか」
「まあまあ。お宝もそうだけれど、武器のようなものも、いろいろとあるのね。」

 遠慮も会釈も無く中に踏み込み辺りを眺め回すマーニャ、頓着せずついていくアリーナ、商人の目になり品定めを始めるトルネコ。
 はらはらと三人を見守るしかない、クリフト。

「まあ!これは、マグマの杖ね!サントハイムで、お持ちだったのね!」
「なんだ、そりゃ。地味な杖だな」
「そう、馬鹿にしたものではないわよ。古代の技術で造られた、強力な魔力を秘めた杖なのよ。力を最大に開放すれば、山をも溶かすと言われているわね。」
「ほー。見かけによらず、派手じゃねえか。気に入った、持ってこうぜ」
「あ、あの!それは、どうかと」
「ちっと、借りるだけだよ。どうせ城のもんは、アリーナたちしかいねえんだからよ。置いといて盗られるよりは、持ってって役立てたほうが、いいってもんだ」
「それも、そうだな」
「アリーナ様!」
「この先、何が必要になるかわからないんだ。かさ張るものでも無いし、役に立つのなら、持っていったほうがいいだろう」
「……アリーナ様が、そう仰るなら……」
「あら?なんだか、不思議な笛があるわね。」
「トルネコさん……」
「なんだ、そりゃ。妙な形だが、笛は笛だろ?……妙な、魔力は感じるが」
「あら、そうなの。なんだか、不思議な力がありそうだと思ったのだけど。たぶんなにか、決まった使い道が、あるんでしょうけれど。なにかは、わからないわねえ。」
「おし。持ってこうぜ」
「マーニャさん……」
「なんだかわからねえなら、なんかに使えるかもしれねえだろ。姐御が気にするくれえだから、なんかあんだろ。たぶん」
「そうだな。ひとつ持ち出すのも、ふたつ持ち出すのも、同じだろう。可能性があるなら、備えるに越したことは無い」
「…………アリーナ様が、そう、仰るなら…………」



 一方、三階のアリーナの部屋に差し掛かった、ブライたち。

 ミネアが、ブライに問う。

「王族の方のスペースを兄さんに任せるのが不安で、こちらを選んだのは、私ですが。勝手に入っても、いいんですか?」
「問題無い。王族など、普段からプライバシーは有って無いようなものじゃからの。魔物が入り込んでおるような状況で、仲間を通す程度のことを、躊躇う理由も無かろう」
「そうですか。では、失礼します」

 部屋に踏み込んだミネアが、すぐに中で立ち止まる。

「……壁、が……。本当に、蹴破ったんですね……。あんなに、分厚いものを……」
「うむ。一度蹴破り、仮修繕で城の資材を使い切り、取り寄せておる最中に、城の者が行方不明となったでの。仮修繕した壁を再度蹴破って、王子は旅立たれたでな。魔法の陣を組み、雨風だけは吹き込まぬようには、してあるがの」
「なんというか……ご愁傷さまです……」
「うむ。日々、何かしら厄介事を起こされる中でも、極めつけの事態であったの」
「本当に、ご愁傷さまです……」

 同情の目をブライに向けるミネア、既に慣れたことと淡々と答えるブライの横で、ライアンと少女が破れた壁を観察する。

「ふむ。道具も武器も使わず、この壁を。やはりアリーナ殿は、まだまだ強くなられますな」
「アリーナは、すごいのね。私なら、武器を使っても、できない」
「ユウ殿は、まだまだ成長の途上ですから。素手でとはいかぬでしょうが、いずれはこの程度は、出来るようになられましょう」
「そうかな」
「はい」

 ミネアが聞き咎め、声を上げる。

「ちょ、ライアンさん。なにを言ってるんですか。おかしなことを勧めないでください」
「はて。勧めたつもりは、無いが。不味かっただろうか」
「物の(たと)えとしても、不適切です」
「そうか。面目無い」
「だめだったの?ごめんね、ミネア」
「ユウが、謝ることではありませんが。壁は、破るものではありませんからね。破らないでくださいね」
「うん、わかった」

 溜め息を吐きながら壁の穴の外に目をやり、ミネアがまた声を上げる。

「あれは。スライムですね。猫と、一緒にいるようですが」
「なんと!ミーちゃんが、スライムに!助けねば!」

 言いながら、さっさと外に飛び下りるブライ。

「ちょ、ブライさん!三階ですよ!」

 焦って手を伸ばすミネアの前で、ブライがふわふわと下降し、一階の屋根に降り立つ。

「……魔法で、浮かべるのでしたね……」

 ミネアが、脱力する。

「あのスライムからは、邪悪な気配を感じません。追いかけましょう」
「うん」

 続いて、ライアンと少女も迷わず飛び下り、難なく着地してブライを追う。

「……」

 ミネアも続いて、壁の穴からぶら下がるようにして、慎重に外に降りる。
 多少よろめきはしたものの怪我も無く無事に降り立って、三人を追う。

 ミネアが追い付くと、(いき)り立ったブライをライアンと少女が押さえ、スライムが懸命に身の潔白を訴えていた。

「ぼく、悪いスライムじゃないよ!友達のミーちゃんが心配で、会いにきたんだよ!」

 スライムの隣で猫も同意するように鳴き声を上げるのを見て、ブライがようやく落ち着く。

「むう。そうであったか。それは、悪かったの。ミーちゃんも、済まぬの」

 スライムがほっとしたように、応える。

「ううん、いいよ。おばあさんも、ミーちゃんが心配なんだね。おばあさんは、このお城の人なんだね?ミーちゃんが、言いたいことがあるって」
「なんと。ミーちゃんの言葉が、わかるのかの?」
「うん、あのね。サントハイムの王様は、不思議な力を持ってるけど。その王様に詳しい人が、サランの町にいるから、話を聞いてって。きっと、役に立つからって」



 スライムから情報を得て、城内の掃討も終え、一行は合流してサランの町に戻る。

 クリフトが、ミネアに謝る。

「申し訳ありません……。私ひとりでは、無理でした……」
「トルネコさんもあちら側になるとは、想定外でしたから……。私でも、無理だったと思いますから……」

 沈むふたりに、ブライが声をかける。

「この非常時じゃ。金目のものを持ち出したという話でもあるまいし、王子が許可されたのじゃ。いつまでも、気に病むようなことではあるまい」

 ミネアが、さらに打ち沈む。

「好き勝手やってる割に、なんだか役に立ってしまいそうだというのが、またやりきれないんですよ……」
「ふむ。複雑じゃの」



 サランの町に到着し、スライムを経由して猫から詳細に聞いた情報を頼りに、サントハイムの三人が(くだん)の人物を訪ね、他の仲間たちは町で情報を集めて、それぞれの用件を済ませて再び合流する。


「どうでしたか?」
「父上の、立て札があった」
「……すみません、もっと詳しく」

 アリーナの端的過ぎる回答にミネアが問いを重ね、ブライが話を引き継ぐ。

「わしの先輩に当たる、陛下の教育係であったご老体がおられての。陛下のご幼少時に、夢を見て指示され、立てられたものだというのじゃ」

 さらに、クリフトが話を引き取る。

「その立て札には、未来の息子、つまりアリーナ様に宛てて、天空のお城と、そこに住まうという竜の神様のことが書かれていました。その竜の神様は、昔、地獄の帝王と戦い、闇に封じ込めた、と。さらに、天空のお城については、北の海に浮かぶ島国、スタンシアラの人々が詳しい、とも」

 ミネアが、頷いて応じる。

「町で、サントハイムのお城のみなさんが消息を絶った当日の朝まで、お城にいたと思われる方に会いました。その方によれば、国王陛下は、地獄の帝王に関する、夢のお告げを、城の方たちに話そうとしていたとか」
「父上は、一度その話をしようとして、声を失っている。その時は無事に回復して、俺たちが話を聞くこともできたが。やはり、城の者たちの行方と、地獄の帝王とは、切り離せないか」
「なんにせよ、情報が噛み合った以上、スタンシアラに行ってみねばなるまいの」

 他の仲間たちからも異論は無く、トルネコが地図を広げながら話を進める。

「それなら、今日はもう、遅いし。今夜はこの町で休んで、明日、スタンシアラに向かうとして。船旅になるなら、少し、寄っておきたいところが、あるのですけれど。」

 トルネコが、サントハイムの南東に位置する地図の一点を、指し示す。

「ここは。(ひな)びた漁村があるだけでは無かったかの?」

 ブライが疑問を呈し、トルネコが頷く。

「ええ、そうなんですけれど。この村の方たちは、海賊の子孫だという噂がありますの。」
「おお。海賊と言えば、お宝だな!」
「その通りよ!」

 マーニャが食い付き、トルネコが盛り上げる。

「兄さん……。トルネコさん……」
「お宝の中に、役に立つもんがあるかもしれねえだろ」
「そうよ!地獄の帝王とかいうのと、戦うかもしれないんだから!強い武器や防具は、いくらあっても困らないわ!」

 微妙な顔で黙り込むミネアを、クリフトとライアンの良識派が励ます。

「そう都合良くいくかは、わかりませんし。今度は、別行動にはならないでしょうから。大丈夫ですわ、きっと」
「宝はともかく、ルーラで移動出来ることを考えれば、少しでも近くを通るうちに、寄っておくのが得策だろう。言われたままに、受け取らずとも」
「……ありがとうございます、おふたりとも。正直、私の占い師としての勘も、そうすべきだと言っているのですが。素直に、認めたくなかっただけというか……、とにかく、大丈夫です」

 少女が、考えを整理しながら、話をまとめる。

「それなら。明日の朝ここを出て、南東の、漁村、に寄って。それから、北東の、スタンシアラ、に行くのね?……一日では、着かないね。お料理の材料も、買わないと」
「そうね。お店はもう閉まっているから、明日の朝市で、新鮮なものを少し買っていきましょう。保存の利くものは、まだ余裕があるから。」



 サランの宿で一夜を明かした翌朝、前衛の三人はいつも通りに鍛練を済ませ、朝市で新鮮な食材を買い求めて補充し、サランの町を出て船に乗り、サントハイムから見て北東に位置する島国、スタンシアラを目指す。


 船内作業を進めるライアンに目を留めて、トルネコが感心したように言う。

「ライアンさんは、ずいぶんと、手際がよろしいんですのね」
「船に乗る機会は、多くはありませんでしたが、少ないという程でもありませんから。若輩の身ゆえ、作業には馴染んでおります」
「まあまあ。頼もしいですわ。あたしたちも、勉強したとはいえ、素人の集まりですから。お仕事でされてた方がおられるのは、心強いですわ。」
「お役に立てれば、幸いです」
「船で作業と言えば。ライアンは、料理はできるのか?」

 アリーナが、思い出したようにライアンに問う。

「王宮戦士団では、遠征時の調理は持ち回りでありましたから。船内で調理したことも、それなりには。どちらかと言えば、野営で作るほうに慣れておりますが。出来なくは無いというだけで、得意ということも、ありませんが」

 マーニャが、呟く。

「まさに、軍人だな。味には期待できなそうな、作業だけは上手そうな」

 ミネアが、応じる。

「思い出すものがあるね。戦力としては期待できるけど、主力には決してできないというか。とりあえず、安易に任せるのはやめよう」


 ライアンが加わって作業にも戦闘にも余裕ができ、順調に船を進めて、昼過ぎには名も無き海辺の村に到着する。

「お宝は、いいけどよ。オレの趣味にゃ合わねえ、ド田舎だな。村に名前すらねえとか、相当だな」
「また、勝手なことを……。乗り気だったくせに……」
「わたしの村も、名前はなかったけど。わたしの村よりは、大きい」
「ふむ。山も、いいですが。退役後は、こういった漁村で過ごすのも、悪くは無さそうですな」
「小さな村だから、合流に手間取るということも、ないわね。ひとまず手分けして、情報を集めましょう!」


 一旦別れ、話を聞き回って再び合流し、情報を交換する。

「みなさん!聞いてちょうだいな!やっぱり、ここの村の方たちの祖先は海賊で、どこかの滝の奥深くに、宝を隠したのですって!それで、その宝の中に、はぐれメタルの(けん)が、あったのですって!!」
「おお!当たりだな!さすが、姐御だぜ」
「はぐれメタルの剣と言えば、我々戦士の間でも、究極の剣、一度は手にしてみたい名剣として、語られておりますね。在処(ありか)の話を、まさか聞くことになるとは」
「昔、この村にあったという渇きの石は、滝の流れさえも止めたそうです。それなら、宝を手に入れるには、その石が必要になるのでしょうか」
「夜になったら、話を聞かせてくれるという商人さんもいましたから。この際、一晩ここで過ごして、よく調べてみたほうがいいかもしれませんね」
「ふむ。厳しい戦いが、続いておったでな。捜索ついでにここらで少し、骨を休めるのも悪くはあるまいの」
「ここには砂浜があるから、ここで鍛練するのも、身になりそうだな!」
「ここに、泊まるのね。天気がいいから、夕焼けの海も、見られるね」


 渇きの石の捜索と、更なる情報の収集を口実に、一行は長閑(のどか)な海辺の村に宿を取り、身体を休めることとする。

 捜索という名目で海辺を散策し、海の幸をふんだんに使った素朴な料理に舌鼓を打つ。

 夕食後、道具屋の主人の話を聞きに出掛けたミネアとトルネコ、夜風に吹かれて砂浜の散歩と洒落こんだブライとクリフトが、それぞれ情報を持ち帰る。

「道具屋のご主人が聞かせてくれたのは、時の砂という道具の話でした。戦いの際に使えば、少し時間を巻き戻してくれるという」
「それはそれで、役に立ちそうではあるけれど。今欲しい情報とは、少し違ったわねえ。」
「それじゃがの。砂浜を散歩して海を眺めておったら、潮の満ちた砂浜に、不自然に水の引いた場所があっての。あそこに、落ちておるのでは無いかの、渇きの石は」
「はあ?それなりに大事なもんだったろうに、落ちてんのか?その辺の、砂浜に?」
「私も、そうは思ったのですが。本当に不自然に、そこだけ穴が空いたように、水が干上がっていたのです。そうとでも考えなければ、説明が付かない状況で」


 翌朝、ブライとクリフトの案内を受け、魔法の力も用いて砂浜を捜索し、渇きの石を発見する。

「本当に、あったな……。……ただの、石ってこたねえだろうな」
「鑑定も、したもの。間違いないわ!」


 無事に目的を果たし、準備を整えて、一行は今度は北東の島国、スタンシアラを目指して出港する。 
 

 
後書き
 厳しい戦いを重ねた一行の、暫しの休息。
 倒すべき者、救うべき者への糸口を求め、舞台は水の都へ。

 次回、『5-39水の都で』。
 10/5(土)午前5:00更新。 
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