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神器持ちの魔法使い

作者:リリック
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始まり
  第03話 嫌な記憶

目の前にはローブを着て顔をフードで隠している男たち。
その手には火薬の臭いを醸す拳銃や血の付いた剣などが握られている。

そんな彼らの後ろには血の海が広がっており、一組の男女が地に倒れている。

「おとーさん……? おかーさん……?」

幼い声が呼びかけるが、二人から返ってくるのは静寂のみ。
その代わりに、男の一人が口を開いた。

「次は君だ」

「ヒッ!」

一見慈愛に満ちた笑みなのだが、それは、正しく歪み、美しく狂っている。
少年が男から感じたものは恐怖だった。
正義に塗りつぶされた狂気。

その男だけではない、それ以外の者たちも同じように狂気を発していた。

「では、最後だ」

一人が十字を切った。

悪魔に魅入られし者に(我らが主の名のもとに)魂の救済を(断罪を)

―――救済を! 救済を! 救済を!

―――断罪を! 断罪を! 断罪を!

剣を、銃を掲げ、狂ったように叫ぶ男たち。
一糸乱れぬその光景は異様で、傍から見れば狂っているようだ。

少年は助けを求めるように男たちの背後に倒れる両親を呼び、手を伸ばす。
しかし、反応は何もなく、聞こえてくるのは男たちの声のみ。
それでも尚、必死に、声を枯らして両親に助けを求める。

何十回、何百回叫ぼうが何も反応がない。
そこで、ようやく少年は両親が生きていないことを理解した。
希望が消え去り、不安と恐怖が体を駆け巡り、幼い少年の体はガクガクと震える。

「ぁ、あああ……ッ、あああああああああああああああああああああああああ!!」

壊れたかのように叫ぶ。

カチッ。

死が目の前まで迫ったその瞬間、少年の中に何かが目覚めた。


◇―――――――――◇


「―――ッ! 夢……あの時の、か」

嫌な汗が全身から吹き出したせいか、体が重く感じる。
胸を押さえ、荒く乱れた呼吸をゆっくり落ち着かせる。

コンコンコン。

「秋人、起きているか?」

「……イザベラ?」

ドアをノックして入ってきたのは顔半分を仮面で覆っている女性、ライザーの眷属である『戦車』イザベラ。

「起きているじゃ……どうしたんだ、すごい汗だぞ」

「なんでもない。ただ夢見が悪かっただけだから」

「……そうか。朝食の準備ができたと知らせに来たんだが、まずはシャワーでも浴びてきたらどうだ?」

「そうする」

イザベラの言葉に頷くなり部屋を出て行った。

秋人のどこか暗い後ろ姿にイザベラは顔を曇らせた。


◇―――――――――◇


「どうだった、イザベラ」

「今シャワーを浴びていますので、もうじき来るかと」

ライザーはレイヴェルと眷属たちと朝食の並べられたテーブルに座り、イザベラからの報告を受けていた。

「シャワーなの? 珍しいわね、あの子にしたら」

「夢見が悪かった、と、本人が言っていた。……なので、おそらくアレかと」

アレ、それを聞いて理解したのはライザーとレイヴェル、そして眷属年長者組だけだった。
ユーベルーナも「そう……」と零した。

「あのー、ライザー様。イザベラの言うアレっていったいなんですかにゃ?」

「……ここにいる少数しか知らなかったな」

兵士の一人である獣人のニィの質問に答えようとするが、どこか言いにくそうに眼を閉じた。

「これは秋人自身のことだ。だから本人の知らないところで話すのは、な」

「―――気を遣わなくても大丈夫。一応、自分なりに受け入れているから」

「秋人さま!?」

扉が開くと当時に声が聞こえた。
いつの間にかやってきていた秋人が口を挟んだ。

「いつの間に?」

「ついさっき。それはそうと、さっきも言ったけど、別に気を遣わなくても大丈夫。ここにいる面々は信用してるし。それに隠すほどのことでもないからな」

「……ホントにいいのかにゃ? なんだか思った以上に重いようなしがして……」

「だから大丈夫だって。まあ、食事前にするような話じゃないから、あとで話すよ」

きっかけとなったミィもニィも暗い空気にしてしまったことを反省しつつも、秋人の言葉に申し訳なさそうに頷いた。

しかし、それに待ったがかかった。

ライザーだ。
ライザーは話の腰を折ったことを悪く思いながらも口を開いた。

「すまないが秋人、食事が終わったらレイヴェルと共に書斎へ行ってくれ。父上がお呼びだ」

「何かあるのか?」

「詳しい内容はわからないが、何か頼みごとがあるらしい」

「そう。……じゃあ代わりに説明してやってくれないか?」

「自分で言わなくていいのか?」

「ああ」

その後、朝食を取り終え、各々食卓を後にした。


◇―――――――――◆


ライザーは広間に眷属達全員が集まったことの確認すると口を開いた。

「なんとなく察しているとは思うが、アレは秋人の心の闇だ。春彦殿と夏妃殿を目の前で殺された秋人の、な」

その言葉に誰しもが表情を曇らせた。

「お前達も知っての通り、我がフェニックス家と秋人の家系は代々付き合いがある。悪魔と人間の等価交換から始まり、今では親友で家族といっても過言ではない。その中でも父上と母上、春彦殿と夏妃殿の関係は……お前達もよくわかっているだろ?」

苦笑しながら頷く者もいれば、笑う者もいた。

「元々、春彦殿と夏妃殿は人外に対する嫌悪感を持っていなかった。自分の才に溺れてきつくい接していた時でも、いつも笑顔で迎えてくれて……もう一つの両親みたいな感じだったな」

「わかりますわ。あの方々の優しさは今でも残ってますもの」

ユーベルーナに同意するように全員が思い出に浸り、頷いた。

「そうか、やはりお前達もそう思うか。なあ、知っていたか? 秋人家族は一時期猫又の姉妹を保護していたりしていたんだぞ?」

ライザーも以前なら浮かべることのないような無邪気な笑みを浮かべた。

「っと、すまん、逸れたな。そんな風に悪魔のみならず、妖怪や他の種族達とも友好な付き合いがあったんだ」

だが、と続けると、先程まで浮かべていた笑みは消え失せ、気付けば拳を強く握りしめていた。

「他種族とのそんな関係を持っている家族を良く思わない輩がいやがった。教会のエクソシストだ。奴らはある日突然襲い、まだ幼かった秋人の目の前で春彦殿と夏妃殿を殺した」

「ッ、じゃ、じゃあアキトはまさか……っ」

「ああ、恐らく当時のその光景を見ているんだろ」

これを初めて聞いた年少組は驚き、きっかけを作ってしまったミィとニィは秋人に対する申し訳なさで一杯になった。
そんな面々を目にして、少し間を置きライザーは続けた。

「俺達が秋人達の元に駆け付けた頃には全てが終わっていた。最悪の状況を想像してたがそれは違った。そこで俺たちが見たのは、血を浴び、ただ呆然と立ち尽くす秋人の姿だった。そんな秋人の足もとには、血の海を広げながら地に倒れるエクソシストども。俺たちは秋人に呼びかけた。だが、両親が殺されたショックが大きかったせいか反応はなかった。やっと帰ってきた反応は……まったく感情のこもってない、暗い笑みだけだ。ゾッとした。憎しみも悲しみも何もない、本当に空っぽな、ただ形だけの笑みを浮かべる秋人に俺は恐怖した」

ライザーの脳裏にはその表情が消えることなく残っている。

「結局、直後に秋人は気を失って、俺達が真実を知ったのは目が覚めてからだった。俺達が原因で秋人たちが襲われ、春彦殿と夏妃殿が殺されてしまったこと。これには父上も母上も秋人に頭を下げるしかなかった。それに秋人は何も言わず、憎むことも責めることなく、事実として両親の死を受け入れた」

当時のことを知る年長組はライザー同様に顔を悔しそうに歪めている。

「秋人が教会の者を憎む原因となったエクソシストどもを殺したこと。幸か不幸か……両親の死を前にして秋人に眠っていた才能と神器が目覚めてしまった。魔法の才と神器『八雲立つ紫(アンビギュアス・ホライゾン)』。それらを無意識に行使していた」

ライザーが年少組に向けた顔はどこか悲しみに染まっていた。

「今の状態まで落ち着かせるのに数年全員で努力し、そのあとはお前たちの知っての通りだ。これがあいつの中で残っているものだ。―――これがお前たちに言わずにしてきた秋人の過去だ」 
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