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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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常盤台中学襲撃事件
  Trick44_この兵器、“裏”の作品か?




「ゴミの焼却の完了、っと」

信乃は丸焼き(玉鬘)と串焼き(絵鏡)を引きずり、生徒たちが外に出ても
見えない位置へと移動させて隠した。

全身がケシズミ(死んでいない)の球鬘は見た目がショッキングなのはもちろん、
下半身を露出して陰部がケイズミ、見た目が干物に近いゴミ屑は誰が見てもキツイものだ。

「位置外、神理楽(ルール)からの救護部隊はいつ来る?」

『10分24秒後、といったところか』

球鬘兄妹(プロのプレーヤー)と絵鏡、突入してきた駆動鎧(パワードスーツ)強化人間(ブースデットマン)
神理楽の人間が片づけをすることになっている。

そして今、体育倉庫で放心している少女への対応も神理楽が担当するはずだった。

だが、少女にとっては1秒でも早く安心できるようにする事が必要だ。
そう考えた信乃は深いため息をついた。

「遅すぎる・・・なんで学園都市の反対側から来た俺よりも遅いんだよ」

人類最速(おまえ)と同じに考えるのは酷だぞ』

「それにしても遅すぎるだろ。

 はぁー、不本意だけど・・・琴ちゃんに頼むしかないか・・・」

『頼む、とは倉庫にいる平民(しょうじょ)の事か?

 お前は平民(いもうと)に裏の事情に関わらせる気か?』

「背は腹に変えられない。今はあの子が早く落ち着く状況を作る事が優先だ。

 名前が知られていない風紀委員の白井さんよりも、有名な琴ちゃんの方が、
 そばにいて安心するだろ。

 それに琴ちゃんに裏の事情とか今更の気がする。
 琴ちゃんって明らかに≪事故頻発性体質並びに優秀変質者誘引体質≫だろ?」

『たしかに・・な。高貴なる私の、平凡なる父親と同じ空気を纏っている。

 何より、ニシオリと兄妹の関係という時点で既に当てはまっていると言えな』

「・・・それは俺を暗に変質者と言っているのか?
 まぁいいや。敵の状況は?」

『宗像も体育館にいた敵を殲滅した。
 高貴なる私の情報網では敵はいないと判断した。

 否、残るは対軍兵器だけだ。

 今すぐ動き出す気配はないが、出撃の準備はされている』

「あ~、あれか。それじゃ、今から向かうとするか。

 俺は琴ちゃんにお願いしてから行く。宗像と黒妻さんには先に向かうように言ってくれ」

『急げよ』

「愚問だな、最速装備(プロミネンス)を着けた人類最速(おれ)に向かって言うなんて」

目の前にある校舎に直接昇り、御坂がいる教室へと向かった。





教室にいても落ち着かない御坂は、廊下の窓に背を預けて警戒が解かれるのを待っていた。

空いた窓から優しい風が差し込み、それが御坂の緊張を少しだけ弱くする。

そんな御坂は“後ろ”から、窓側から声を掛けられた。

「よ、琴ちゃん」

「うぁッ! 信乃にーちゃん!? 何で窓の外にいるのよ!
 ここ何階だと思ってるの!? というより後ろから声を掛けないで!」

「2年の教室だから3階でしょ? 何かおかしいの?」

信乃がA・Tを使っていれば、建物の高さなど関係ない。

もちろん御坂も知ってはいるが、常識的に考えれば無理だ。

「・・・・もういいわよ。

 で? 当然終わらせたんでしょ?
 眼まで碧くしてまで本気出したんだから終わってなかったら怒るわよ」

信乃は戦闘が終わっても眼を碧色にしたままであった。

小さい頃から信乃を知っている御坂は、もちろん信乃の眼の事を知ってる。
興奮した時や、怒った時、そして本気で何かをする時に碧くなる事を。
そして確実に結果を残していた事を。

「ああ、もちろん倒した」

「足は? また怪我?」

「まだ戦えるから心配しなくていいよ」

「へ~、怪我をしたかどうかを聞いたのに、『戦える』・・か。

 怪我はしたんだね、しかも正直に答えないぐらいに重症」

「うわ~戯言(ごまかし)が通じない?

 まだまだ修行不足だな。師匠に顔向けできないよ、ハハハハハ」

相も変わらず飄々(ひょうひょう)と返すが、御坂は心配そうに睨んでいた。

本当は信乃に余裕が無かった、精神的にも肉体的にも。
だから戯言ではなく戯言もどきしか言えずにバレテしまった。

信乃は足の内出血以外にも、腹も怪我をしている。
倉庫に無理に入るために、怪我を顧みずに突っ込んだ代償だ。

出血を無限の煉獄 (インフィニティ・インフェルノ)で焼き止めているが重症には違いない。

御坂には見えないように、だから校舎の窓を挟んで今は話している。

「ふざけないの。もう終わったんでしょ?

 だったら早く雪姉ちゃんの所に行きなさい、怪我人」

「残念だけど、まだ大きな問題が残っていてな・・・

 敵の本拠地(兵器の隠し場所)が見つかったから、今から潰しに行くんだ。

 俺達、小烏丸は今から離れるけど、警備員を呼んだから従ってほしい。
 琴ちゃんが警備員に従えば、他の皆も大人しく聞くと思うからお願いな」

「わかったわ、貸し一つよ?」

「それならもう一つ、貸しを作りたい。

 今からグランドにある体育倉庫に向かってくれ。
 そこに1人の女の子がいるから側にいて安心させてほしい。

 ・・・・かなりショッキングな状況だから一応は覚悟してくれ」

「どんな状況? 聞いておいた方が覚悟できるけど」

「・・・・男に乱暴された。今は心が壊れる一歩手前ぐらいな状況だ」

「えっ!?」

「間に合ったかの判断に困るが、強姦は完全にはされていない。

 犯人は俺が再起不能にしたから琴ちゃんが怒る必要はないからな。

 ただ、その子をどうにか励ましていて欲しい。頼んだよ、有名人(レールガン)

「・・・・わかったわよ・・・・さっさとアジト潰してきて。

 そして今度、一緒にお昼ご飯でも食べよ。もちろん信乃にーちゃんの手作り」

「了解、腕によりをかけて作るよ」

「がんばれ」

「がんばる」

信乃と御坂は拳同士を軽く当てた。
子供の時からやっていた、ハイタッチと同じように使っていた励ましや激励の合図。

そして信乃は3階から直接飛び降りる。

今度は御坂も驚いたりはせず、校門からA・Tで激走する信乃を見送った。

そして一度深呼吸し、信乃に頼まれた少女の元へ走って行った。



・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




常盤台中学から十数キロ離れた倉庫街。

数ある倉庫でも一番大きなものに、怪しげな光沢の機械が蹂躙していた。

「補充は完了しているんだろうな?」

「はい!」

「では行け。全てを蹴散らしてこい」

「了解しました積上(つみあげ)様!」

命令してたのは科学者とも職人とも芸術家とも言えそうな、奇妙な雰囲気を持った男。

信乃がハラザキに関わるなと忠告した時、追加で関わるなと言った6人の中の1人。
それがこの男。

そしてその男が目の前の兵器を作りだした。

「俺はこれで帰る。もう、そいつには飽きた。

 今は小型モーターが思いのほか楽しいからな。
 でかくてでかい力よりも、小さくて普通以上の力を作る方が楽しい」

意味不明な独り言と共に、倉庫の裏口から出て行った。

「・・・本当に大丈夫なのか? あんな意味不明な奴が作った機械に乗るなんて・・・」

「仕方がない。キュモール様の、絵鏡の人の命令だ。

 作った奴が変人であろうとも関係ない。命令に従ってあいつが作ったこれで出るだけだ」

命令された軍隊服の2人は、嫌そうな顔をしながらも機械に目を向け表情を変えた。

「それに・・・これで好きに暴れられるんだぜ?
 壊れるかどうかの不安よりも虐殺(たのしみ)の方がでかい・・・」

「それもそうだな! すぐに学校に行くぞ。

 向かうは“長点上機学園”だ」

そして2人は自分の首筋に注射を刺した。神理楽(ルール)が作り出したドーピング。
表情が高揚したものへとみるみる変化していく。

そしてサソリ型の大型兵器に乗り込んだ。


・・・

・・




倉庫の扉が開き、サソリ型兵器の全貌が見えた。

全長は20m近い巨体。全体的に藍色のカラーリングに局部に赤色のアクセントが付いてる。

しかし、そんな色は問題ではない。問題なのは異常な装備であった。

サソリ型であれば当然のこと、ハサミには強力な武具
エネルギーを通して切れ味あげる特殊なシザースブレード

さらに収納式の105mmリニアキャノン

頭部に強力な35mmバルカン砲が4つ

背部に930mm2連装ショックガン

機動力を上げるために一番後ろの脚にはロケットブースター

サソリのもう一つの特徴、前に向いた尾
そこには左右に120mmレーザーガンが1つずつ
さらに120mmビームガンも1つずつ

2種類の武器の中央にはさらに強力な砲身

空気中の静電気を荷電粒子吸入ファンによって取り込んでエネルギーに変換して圧縮
光速にまで加速して撃ち出して全てを分解して破壊する


学園都市の最先端の技術を悪ふざけで総動員して作り上げたかのような兵器。

悪ふざけと言うのも間違ってはいないかもしれない。

積上(つみあげ)の興味と趣味だけで作られた“おもちゃ”

それがこのサソリ型の兵器、≪スティンガー≫である。

『さて、出撃するぞ』

『ああ! 祭りの始まりだ!』

コックピットの2人から発せられたスピーカー越しの声。

その声は共に楽しげだった。

「君たちは戦いを楽しそうに言うんだね。ひどい人達だ。


   だから殺す  」


≪スティンガー≫の周りに十数個の手榴弾が投げられた。


『!』『なんだ!?』

気持ちよく出撃しようとした瞬間の爆撃。

全くの防御もできずに全てを直撃した。

「さて、今の攻撃がどれだけ通じるか・・・」

「いや宗像、いくらなんでもあれはやりすぎじゃないか?」

すぐその場の倉庫の屋根には暴風族(ストームライダー)が2人。

不安そうな言葉を吐いたが無表情の宗像。
言葉も表情も不安そのものである黒妻。

数秒前、位置外の指示で到着した2人は、ちょうど出撃するスティンガーを見つけた。

それでどうしようかと考えていた黒妻(宗像は含まれず)だが

『攻撃しろ。高貴なる私の命令だ』

「Aye, ma'am」

「え? おい・・・」

指示で宗像が手榴弾を出して投下したのだ。



それが今に至る。

常識人の黒妻には驚くべき状況だが、すでに小烏丸でかなりの時間を過ごした経験から
少しは慣れていた。ゆえにすぐに冷静に冷たい突っ込みができるようになっていた。

「さて、今の攻撃がどれだけ通じるか・・・」

「いや宗像、いくらなんでもあれはやりすぎじゃないか?」

≪スティンガー≫の姿が見えないぐらいに土煙を上がった。

常識人:黒妻綿流にとっては事件が終了した風景だった。

しかし、殺人者:宗像形には不安があった、もちろん本能で捉えていた。

『おそらく無理だろうな』

司令官:位置外水も、宗像と同じ意見だった。

『誰だてめぇ!!?』

煙が晴れていき、怒声とともに兵器の姿が見えてきた。

「予想通り無事か」

『いや、予想以上に悪い。無事ではなく無傷と表現するべきだ』

「マジかよ・・・人間の俺らが戦って勝てるのか?」

『いた! 死にやがれ!!』

サソリ兵器は大きな爪を向け、収納していたリニアキャノンが輝く。

『見つかった。散開しろ』

「わかった!」

位置外の指示に動こうとする黒妻。

「逃げる必要はないよ」

「『え?』」

それを宗像が止めた。

向けられた銃口は

なにも起こらずにカチカチと銃鉄音を立てるだけだった。

『・・・・あ? 弾がでねぇ?』

『ふざけんじゃねーぞ! 一発も撃ってないのに故障してんじゃねーよ!?』

何度も何度も、リニアキャノンからはカチカチと音が出るが反応はない。

「いきなり故障って・・・・いい加減な仕事してるんだな」

『それは違うぞ、平民(くろづま)

 高貴なる私には分かった。宗像、お前の仕業だな』

「やったのは僕だが、手柄は僕のものじゃない。

 信乃が作った手榴弾を使っただけだ」

「手榴弾? あれで故障したのか?」

「故障じゃない。奴らの武装どころか装甲も全く壊れていない。

 使ったのは手榴弾と言うより、正確には毒ガスかな。

 無色だから煙幕とは全く関係なく、今もサソリの周りに漂っている。
 人体や金属には一切の影響を与えないが、火花だけが一切出せなくするガスがね。

 その名も≪神の吐息 (エンゼル・ゼファー)≫  」

「・・・たしかに銃は衝撃から火薬を着火、爆発させるんだっけな。

 その着火で火を発生させないようにする。
 世界には変わった毒ガスがあるんだな。」

『いや、ニシオリのオリジナル作品だ。

 銀河系で分からないことはない私ですら他で開発したという情報はない』

「相手の攻撃を封じて殺すためにどうしたらいいか相談したら貰えた」

正確には銃火器を相手に、殺さずに攻撃を封じる方法を聞いたときに貰ったものだが
素直に言えない宗像だった。

「・・・・もういいや、あいつが普通じゃないってことは今更だし」

「『その通り』」

「・・・・・」

「そこはハモって言うところですか?」

顔を引き攣らせて何も言えない黒妻の代わりに、まさしく今到着したばかりの
信乃が後ろから声を掛けた。

自分の知らない所で、自分が≪普通じゃない(アブノーマル)≫の称号を
付けられた不機嫌そうな顔をしている。

「遅いぞ、遅刻だ」

「君は遅刻をした、だから殺す」

『高貴なる私の、作戦開始時間を遅らせた事は万死に値するぞ』

「てめぇら・・・学校での漫才をまた繰り返すつもりか!?」

 ズゴォン!!

「おっと!!!」

≪スティンガー≫は、銃火器が使えないと判断して、その固い装甲(からだ)
信乃達が立っている倉庫に突っ込んできた。

あれだけの重量で突っ込めば、当然倉庫は丸ごと崩壊する。

信乃達は屋上から一気に落ちる状況になったが、彼らはA・T使い(ライダー)。

何の合図も指示もなく、各自で別の倉庫屋上に飛び移った。もちろん全員が無傷。

『高い所にいるんじゃねぇ! 降りてこい! 殺してやる!!』

「いやいや、殺してやると言われて降りてくる馬鹿はいないと思うよ」

信乃の場にそぐわない冷静なツッコミ。

≪スティンガー≫は飛び移った先の倉庫にも突っ込んで破壊してくる。

もちろん、全員が突っ込む前に別の建物に移動するから無意味な攻撃に終わっているが。

『お前たちに作戦を与える。高貴なる私に感謝するが良い』

「「「了解だ!」」」

3人は位置外の指示で、それぞれの配置についた。


『チョコまか動きやがって!!』

『殺す殺す』

依然として建物への突撃を繰り返す≪スティンガー≫。

「それでは、作戦を開始します」「そして殺す」

≪スティンガー≫の両側に信乃と宗像が挟むように立ち、
その両手には大量の手榴弾があった。

宗像と同じ方法で手榴弾を出した信乃。

しかし、未熟のために宗像と比べて半分ほどの手榴弾しか持っていなかった。

合計で30を超える数の手榴弾。攻撃には十分だったが、目的は攻撃ではない。

『やれ』

位置外の命令を合図に放たれた手榴弾は、≪スティンガー≫の周りを轟音と爆煙でつつんだ。

視界は全く見えない程に濃い煙の中、信乃と宗像と黒妻は入って行った。

『馬鹿が! 煙幕にまぎれて攻撃するつもりか!? こっちには丸見えなんだよ!!』

最初の爆撃で動かなかったのは、あくまで攻撃した相手が全く分からなかっただけ。

しかし、今回の爆煙は本人の前で作られた。攻撃相手が完全に分かった状態。

だから、カメラのモードを切り替えた。熱感知(サーモ)カメラに。

駆動鎧にも付いていたそれが、上位兵器の≪スティンガー≫に搭載されていない筈がない。

熱感知カメラがあれば、煙幕など何の意味もない。

兵器の前に生身で挑んできた3人の人間、の図式が完成する。

 “普通であれば”だが。

熱感知カメラに切り替え、画面に映し出された人影は3つではなかった。

『なんだこれ・・・』

『ちッ! 奴ら3人だけじゃない! 他にも隠れてやがったんだ!!』

画面に映し出されたのは人型の熱源が無数。

操縦者が一瞬思ったのが、大量発生で飛び交う虫の大群であった。

カメラ映像には目で追える速度はあるがあまりにも数が多すぎて把握できない、と言った状況だ。

『数なんて関係ない』

『そ、そうだ! まとめて殴り殺せば!!』

銃火器は使えなくても、使える武器はあった。サソリのハサミだ。

切断能力があるだけでなく、あのハサミの質量は掠っただけで怪我は間違いない。

大量にいる熱源(ひとかげ)。そのハサミを闇雲に振り回すだけで必ず当たると考えて
実行した。

『良し! 当たったぞ!』

『クズ共め、おれに逆らおうなどとは愚かな』

『俺たちだ! 俺も忘れるな!』

攻撃に手ごたえを感じて喜ぶ操縦者の2人。

だが、2人は考えるべきだった。

兵器に乗っている状態で、視覚の悪い熱感知カメラの状態で、
操縦者にはハサミに何かが当たる感触のない状態での手ごたえとは何だろうか?

それは熱感知カメラから熱源(にんげん)が消えたか、どうかである。

つまりを言えば、ハサミを振った場所の熱源(おとり)を消せば相手にとっては
手ごたえになるのだ。

『この調子で全員殺せ! 殺せ殺せ殺せ!!』

『言われなくても煙幕がはれた時には血の海ができあがっているよ』

喜び勇み、再び熱感知カメラに映った熱源(てき)にハサミを振り続けた。






「全く気付かれてないな」

『作戦に抜かりなどない。高貴なる私が考えたのだからな』

「いや、意外と単純な作戦だぞ、これ?」

「早く殺したい。まだ始めてはだめか?」

宗像と黒妻は今、片膝を地面につけた低い体制をとっていた。

場所はサソリ型兵器≪スティンガー≫の真下。

爆煙と共に突入した3人はすぐに≪スティンガー≫の下へと潜り込んだ。

そして、この場にいない信乃は熱源(おとり)役を引き受けていた。

熱感知に写っている熱源は全て信乃の残像にして炎の道 (フレイム・ロード)の(トリック)

炎の道(フレイム・ロード)であれば、実像を必要としない熱源が大量に作れる。

もっとも、炎の王クラスの暴風族(ストーム・ライダー)しかできない離れ技ではあるが。

煙幕も通常カメラではなく熱感知カメラに切り替えるためのもの。

さらに囮の最終目的は・・

『そろそろだ』

「おう!」「わかった」

合図とともに2人は動いた。

鎧や兵器など、強固な装甲に包まれた相手に対して有効なものは

装甲の隙間への攻撃。ここでいえば脚の関節への攻撃だ

宗像が脚の関節隙間に刀を入れる。

刀の柄の先端、柄頭(つかがしら)を黒妻の拳の手甲で撃ち刺し込む。

釘とハンマーの役割で破壊した。

それを高速で連続で。

操縦者(ばか)は≪スティンガー≫が脚で支えられなくなり
地面に落ちた衝撃でようやく気付いた。

『なんだ!? 一体何が!?」

『歩脚がすべて破壊されている・・・だと?』

大量の警告(アラート)表示に気付いた時には、歩く機能が失われていた。

「さて、本番はこれからだぜ?」

信乃の声を合図に宗像と黒妻は≪スティンガー≫から急いで離れる。

「 炎の道 (フレイム・ロード)

   無限の空 (インフィニティ・アトモスフィア)」

次の瞬間、≪スティンガー≫内の画面が真っ白になった。

熱が高ければ高いほど白に近い色を表示する熱感知(サーモ)の画面。


 「   無限の煉獄 (インフィニティ・インフェルノ)!!!!  」


炎の玉璽(プロミネンス)を開放し、大気すらも焼き焦がす炎をぶつけた。


「すげぇ・・・・A・T(エア・トレック)ってここまでできるのか?

 あれ? 今って“火気無効化ガス(エンゼル・ゼファー)”ってのがあったんじゃ・・」

目の前には手榴弾の爆発とは比較にならない程の炎。

≪神の吐息 (エンゼル・ゼファー)≫の中では発揮されない筈の現象だ。

『あれは火花を一切封じるもので、熱を消滅させるものではない。

 限界を超えた摩擦熱は、炎と比べて遜色ない現象を起こす』

「たかが摩擦熱、されど摩擦熱だ。

 僕は炎の道を走る一人のA・T使い(ライダー)として、あいつに勝てる気がしない。
 玉璽(レガリア)抜きでもだ」

離脱した2人と1人は呑気に話していた。

あそこまでの業火で敵が無事なはずがない。

しかし、信乃の性格から殺す事は絶対にない。

だから全く心配していない。
適度に痛めつけられた悪者を引きづって、信乃が出てくると確信していた。
当然の事だと思って。

「ッ!!」

だが、信乃は1人で出てきた。

否、何かから避けるように後ろ向きに跳んできた。

「「な!?」」

『ニシオリ、お前はないをやっている?』

「あの装甲・・・・予想以上に堅い!!」

大量の熱で発生した上昇気流で煙幕が完全に晴れた。

≪スティンガー≫の表面は溶けているようにも見えるが、溶けたのは半分だけ。

あれほどの炎を浴びた事を考えると、今の装備でこれ以上のダメージは望めない。
そう考えられるほどの、被害の少なさだった。

玉璽(レガリア)を使った技は兵器と比べても見劣りしない結果を出す。
信乃の無限の煉獄 (インフィニティ・インフェルノ)も下手な焼却弾(ナパーム)よりも
威力があるはずだ。

「信乃の炎が効いていない!?」

「まさか、玉璽(レガリア)を開放しても無事でいられる存在があるとはね・・・

 この兵器、“裏”の作品か?」

焦る黒妻とは対照的に、宗像は冷静に判断して推理を、正解を口にした。

≪スティンガー≫は移動用の脚は破壊されたが、大きなハサミと大砲(しっぽ)は健在。
例え移動ができなくても、固定兵器としての力は充分だ。

現に、信乃が煙幕から逃げたのはハサミによる横薙ぎをギリギリで避けたからだ。

脚を失っても相手は戦意を喪失していない。むしろ・・・

『てめぇら・・・こんなんじゃ殺す前に逃げられるじゃねぇか!?
 ふざけんなよ!? まだ1人も殺してないんだぞ!!』

『殺す殺す殺す殺す・・・・・

 代わりに お前らを 殺す』

操縦者の()る気は大きくなっていた。

このまま放っておけば、ハサミを使って這いずり回ってでも
人のいる場所に向かうだろう。

そうでなくても背中には巨大な砲台(しっぽ)がある。
ここからでも闇雲に撃つだけで死者が出るかもしれない。

「まったく、なんてもん作ってくれてんだよ罪口(つみぐち)さんよ。

 しょうがないか・・・」

信乃は諦めたようにつぶやく。

「残る手段っていったら二次連結技(セカンドチェーントリック)しかないよな」


無限の煉獄でもなく、連結技(ハンドレット・ガントレット)だけではない。

その先の(トリック)を。



つづく
 
 

 
後書き
作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。
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