友人フリッツ
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第三幕その二
第三幕その二
「これはだけれど」
「これは?」
「質問に答えてくれた御礼だよ」
それだというのである。
「だから受け取っておいて」
「御礼ですか」
「うん、有り難う」
ここでまた礼を述べる彼だった。
「それじゃあね」
「はい、有り難うございます」
ペッペもにこやかに笑って言葉を返す。
「それでは」
「またね」
ペッペは一礼してからそのうえで部屋を後にした。部屋に残ったのはフリッツだけであった。彼は一人になるとまた言うのだった。
「愛は美しい心の光」
この言葉を出したのである。
「誰が言った言葉だったかな。これは」
窓を見る。そこには青い空が広がっておりその下には緑の農園や果樹園がある。それに草原も。そうしたものが何処までも広がっている。
「そしてその愛は」
青と緑を見続けながらの言葉である。
「まさか」
ここで、であった。
あの顔が思い浮かんだのだ。このことに自分でも驚く。
「そんな筈がない」
それを否定しようとした。
「そんなことは有り得ない。どうして僕が」
戸惑いながら呟き続ける。
「あの娘のことを。そんな訳がない」
否定しようとする。だがそれはできなかった。
「だとすると」
そして観念したように呟くのだった。
「愛は命というから。僕は彼女に」
気付いて驚きを隠せない。その彼のところにまた人がやって来た。それは。
「ダヴィッド」
「やあ、フリッツ」
彼は真面目な顔でやって来たのであった。
「話を聞いたんだがね」
「話を?」
「うん、スーゼルのことだけれど」
「スーゼルの!?」
自然と言葉が出てしまった。
「あの娘がどうしたんだい!?」
「どうしたんだいって」
フリッツのぎょっとした言葉と顔に内心したりと思いながらも驚いてみせたのであった。
「だから。この前言ったけれど」
「結婚のことかい」
「そうだよ。それが決まったんだよ」
それを聞いたフリッツの顔は。このうえなくおどろいたものになった。そうしてそのうえで何もかもが割れてしまいそうな顔にもなった。
「相手はね」
「相手は!?」
「若いお金持ちなんだけれど」
「駄目だっ」
思わず出てしまった今の言葉であった。
「それは駄目だ、絶対に駄目だ」
「駄目だって」
「僕は認められない」
彼の声はムキになっていた。
「それは絶対に」
「絶対にかい」
「あっ、いや」
ここで自分の言葉に気付いた彼だった。言ってしまってからしまった、という顔になる。しかし言ってしまった言葉は元に戻らなかった。
それでいたたまれなくなって部屋を後にしようとする。ダヴィッドはその彼を呼び止めた。
「待ってくれよ」
「何だい?」
「このまま何処に行くんだい?」
「少し気持ちを落ち着けて来る」
こう言うのだった。
「少しね」
「外に出るのかい?」
「馬にでも乗って来る」
そうするというのである。
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