箱庭に流れる旋律
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歌い手、幻獣に出会う
「おんしらが望むのは試練への挑戦か?それとも、対等な決闘か?」
さて、白夜叉さんからそう問われたんだけど・・・さすがに、問題児達も状況を考えるよね?
この中決闘とか言われたら、僕死ぬよ?割と冗談抜きに死ぬよ?
「・・・はぁ。参った。やられたよ。降参だ白夜叉。大人しく試されてやるよ」
「く、くく。可愛らしい意地の張り方だのう・・・して、他の童たちも同じか?」
逆廻君、白夜叉さんの言ったことに反応しないで。事実なんだから。
「ええ。私も試されてあげていいわ」
「右に同じ」
よし、苦虫を噛み潰したような表情ではあるけど、全員が挑戦を選んでくれた。
まだ死にたくはないしね。
「も、もう!もう少し喧嘩を売る相手を考えてください!新人が階層支配者に喧嘩を売ったり、あまつさえ階層支配者がそれを買うなんて、どんな悪い悪夢ですか!
それに、白夜叉様が魔王だったのはもう何千年も前の話でしょう!!」
黒ウサギさん、今なんと言いました?え?この人そんな歳でこの容姿なの?
もしかして、箱庭ではよくある話なのだろうか・・・?
「そして!何故奏さんは傍観していたのですか!?黒ウサギを手伝ってください!!」
「無理です。あんな中口を出せるほどすごい人間じゃないです。ただの歌い手なんです」
僕だって死なないように願ってるので必死だったんだよ・・・
さすがに黒ウサギさんも分かってくれたようで、それ以上は何も言ってこなかった。
そうしていると、ずっと遠くにある山脈のほうから何かの鳴き声が聞こえてきた。
何だろう、この鳴き声は・・・獣っぽい気もするし、鳥っぽい気もする・・・この二つが両立することはないと思うんだけど・・・
「何、今の鳴き声。初めて聞いた」
「ふむ・・・あやつなら、おんしらを試すのに打って付けかもしれんのう」
そう言いながら、白夜叉さんは山脈のほうにちょいちょいと手招きをする。
いや、そんなのが見えるわけ・・・あ、何かがすっごく大きな翼を広げて、こっちに滑空してくる。見えるんだ、あれが・・・
そして、その獣誰もが知っている幻獣、 鷲の翼と獅子の下半身を持つ、グリフォンだった。
たしかに、これならあんな鳴き声にもなるよね・・・実際に獣と鳥が混ざってるんだから。
「さて、おんしらにはこのグリフォンを相手に、“力”“知恵”“勇気”のいずれかを比べあってもらおう」
『ギフトゲーム名 “鷲獅子の手綱”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
天歌 奏
・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。
・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。
・ 敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“サウザンドアイズ”印』
「私がやる」
僕たちが契約書類を読み終わると、春日部さんが指先まできれいに伸ばして挙手をしながら、そういった。
一体どれだけやりたいんだろう・・・グリフォンを羨望のまなざしで見つめてるし、動物好きにしては行き過ぎてると思うし。
それと読んでて思ったんだけど、いつの間に僕も参加することになってるの?一回も参加の意思を示してなかったよね?
「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」
「気を付けてね、春日部さん」
「なんというか・・・頑張って」
「うん、頑張る」
一応、僕も参加者になってしまっているので春日部さんに激励を送る。
春日部さんはそれに短く返すと、グリフォンと共に少し離れたところに行った。
おそらく、僕たちを巻き込まないためであろう。
「え、えーと。初めまして、春日部耀です」
『!?』
春日部さんがグリフォンに話しかけて、グリフォンが驚いてるけど・・・まさか、人間が言葉をかわせるとは思わなかったんだろう。
さて、そのまま仲良くなって背に乗せてもらえるといいんだけど、さすがにそれは難しいかな?
「私を貴方の背に乗せ・・・誇りをかけて勝負しませんか?」
あっれー?春日部さんは何のためらいもなく勝負することを選んだぞー。
それに、あの姿がグリフォンを示しているのなら、あれは陸の王者であり、空の王者であるということ。“誇りをかけろ”なんて効果的過ぎる挑発なんじゃないか?
そう思っていたら、グリフォンが何かを春日部さんに問いかけるような動作をする。
さて、春日部さんはどう
「命を賭けます」
答えるのかっておい!
「だ、駄目だろ、それは!」
「春日部さん、本気なの!?」
「そんな簡単に命を賭けるなんて!」
「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になる。・・・どうかな?」
春日部さんは僕たちの声に聞く耳を持たず、グリフォンと話を続ける。
その様子に僕たちはさらに焦るけど・・・
「双方、下がらんか。これはあの娘が提案したことだぞ」
「ああ。無粋なことは止めとけ。俺たちは、春日部に順番を譲ったんだからな」
白夜叉さんと逆廻君に止められる。
確かに二人の言うとおりだけど・・・それでもこれは・・・
「三人とも、大丈夫だよ」
僕が悩んでいると、春日部さんが振り返ってそう言ってきた。
その瞳は自信に満ちていて・・・もうそれ以上の反論が出来なくなった。
そして、僕たちが大人しく見守ることをを決めると、春日部さんがグリフォンの背に跨る。どうやら、勝負をするに値すると認められたようだ。
そして、春日部さんを乗せたグリフォンは、そのまま山脈に向かって飛んで、いや、駆けて行った。
♪♪♪
結果として、ゲームは春日部さんの勝利で終わった。
最後に春日部さんがグリフォンから落ちたときにはどうなるかと思ったけど、春日部さんが風をまとって浮き、安全に着地して安心した。
春日部さんいわく、友達になった動物から、その動物のギフトをもらえるものらしく、風をまとったのはグリフォンのギフトをもらったらしい。
そして、春日部さんの持つギフトがお父さんから貰った木彫りのおかげらしく、それを見た白夜叉さんが驚いたりして、今に至る。
「ところで白夜叉様、今日は鑑定をお願いしたかったのですが」
黒ウサギさんがそう切り出すと、白夜叉さんはゲッ、と気まずそうな顔になる。
「よ、よりにもよってギフト鑑定か・・・専門外もいいところなんじゃが・・・」
それじゃあ、もう今日ここに来た意味がないじゃん。
そして、あの気まずそうな顔からすると、ギフトゲームの賞品に依頼を引き受けるつもりだったんだろうか?
「どれどれ・・・ふむふむ・・・」
こんなことを言ってるときって、大抵何にも分かってないよね。
「三人とも素養が高いことは分かるが・・・なんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度把握している?」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「全然知りません」
「うおおおおおい?これでは話が進まんだろう。それに、唯一まともに答えたおんしもそれでは意味がないだろう」
すいません、聞かれたのに何にも答えられなかったり、答える気がないやつらばっかりで。
本当に、この問題児達は・・・
「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃねえしな」
う・・・これは僕も逆廻君に賛成だ。勝手に自分のことを決め付けられるのは、気分のいいものじゃない。
それに、中には怖い人も・・・思い出すのは止めよう。
白夜叉さんはしばらく困ったように頭を掻いていたが、突然いい案が思いついたようににやりと笑い、
「なんにせよ、主催者として、試練をクリアしたおんしらには恩恵を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だがコミュニティ復興の前祝だ。受け取るがよい。」
そういって柏手を打つ。
すると、僕たちの目の前に光り輝くカードが現れる。
コバルトブルーのカード逆廻十六夜・ギフトネーム“正体不明”
ワインレッドのカードに久遠飛鳥・ギフトネーム“威光”
パールエメラルドのカードに春日部耀・ギフトネーム“生命の目録”“ノーフォーマー”
アップルグリーンのカードに天歌奏・ギフトネーム“奇跡の歌い手”“共鳴”“音響操作”“空間倉庫”
何だろう、これ?手に持ったら急に僕の名前とギフトネームとやらが現れた。
こんな名前なんだ・・・ってか、四つも持ってるんだ、僕は・・・
「ギフトカード!」
そう思いながら手元のカードを眺めていると、黒ウサギさんが驚いたような興奮したような声でそういう。
この感じだと、結構貴重なものなのかな?
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
そして、こんな状況でも問題児達は通常運転だった。
「ち、違います!このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードなんですよ!」
「素敵アイテムってことか?」
あーもう向こうは放って置こう。
それよりもこのギフトとやらだ。
多分、僕が箱庭に来たときに着替えるために使ったりしてたのは空間倉庫とやらだろう。物を入れれるところとか、倉庫っぽいし。
次に、伴奏と歌を同時に行えるのは奇跡の歌い手かな?まさかもといた世界で呼ばれてた呼び名がそのままギフトネームだったとは。
残りの二つについては心当たりがないけど・・・いずれ分かるだろう。
「ところで、奏さんはどのようなギフトを?」
「ん?情けないことに、戦闘に使えそうではないよ」
まあ、実際にはどうにかなりそうなものはあるんだけどね。
必要になるまでは使いたくない。一度無意識にやって大変なことになったし・・・
「確かに、これはよく分かりませんね・・・一つを除いて音楽に関わるものみたいですし」
「ほう、どのようなものだ?」
白夜叉さんがそう聞いてくるので、僕は白夜叉さんにギフトカードを渡す。
見たら笑い出すかと思いきや、やけに真剣な表情で見ていた。そこまでのものあったかな?
「おんし、この二つのギフトについてどこまで知っておる?」
白夜叉さんはそう言いながら、“奇跡の歌い手”と“共鳴”を指差す。
ここまで真剣だと・・・隠し事はしないほうがいいかな?
「・・・共鳴については知らないけど、もう片方についてはいくつか。でも、できればあんまりたくさんの人には話したくない」
「そうか・・・では、おんしは少し残ってくれ。黒ウサギ、構わんな?」
「はい、構いませんが・・・何か重要なことが?」
「念のため、だよ。少し気になることがあっての」
「分かりました。では、私たちはコミュニティに戻りますね」
そういって、黒ウサギさんたちはコミュニティに帰っていった。
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