久遠の神話
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第五十話 政府の判断その四
「そうなったな」
「そうですけれどね。俺も出世しました」
「警察は出世がしにくい社会だが」
「自衛隊よりはずっとそうですね」
同じ階級社会だが警察と自衛隊ではそこが大きく違うのだ。
「高卒なんてそれこそ滅多に昇進できないですから」
「巡査部長になるのもだな」
「あれかなり競争が激しいんですよ」
高橋は苦笑いをしつつ走りながら工藤に答える。
「それこそ何十倍じゃきかなくて」
「まるで三曹になる様だな」
「自衛隊じゃそうなるかも知れませんね」
「巡査部長は下士官だな」
「まあ巡査でも一生いけますけれどね」
士、兵士はそうはいかない。軍では兵士は任期制だからだ。
そこが普通の公務員とは違う。自衛隊、軍ではそうした立場は徴兵制であることもまだ国によってはあるし職業軍人とはみなされないのだ。
だが警察ではこうなのだ。
「巡査も正式に採用されていますから」
「言うならパート扱いじゃないな」
「はい、正社員です」
「自衛隊は下士官から正社員だ」
「工藤さんはどうだったんですか?」
「俺は最初からだ」
正社員扱いだったというのだ。
「二年で三曹になることが決まっていたからな」
「つまり本採用だったんですね」
「最初からそうだった」
「何か扱いが全然違うんですね。候補生は」
「補士や練習員とは全く違った」
自衛隊では候補生と後の二つはそこまで違ったのだ。
「特に海は制服からして違ったからな」
「そのこといつも仰ってますね」
「俺はセーラー服を着たことはない」
海軍、海上自衛隊の象徴とも言っていい服だが彼はそれを着たことはそれこそ一度もなかったというのだ。
「七つボタンだった」
「その予科練の服をですか」
「格好がよかった。だが」
「動きにくかったんですね」
「あの服にはベルトがなくてサスペンダーだった」
七つボタンの下はそうなっていたのだ。ベルトではなくだ。
「肩で吊るがな」
「それ格好いいと思いますけれど」
高橋はサスペンダーについてはこう思った。
「駄目だったんですが」
「長い間着ていると肩がこる」
サスペンダーで吊っているからだ、どうしてもそうなるのだ。
「それが中々大変だった」
「格好いい服でもそこが問題だったんですね」
「冬は濃い紺で夏は白だった」
「白い七つボタンですか」
「そうだ。格好いいと思うな」
「かなり」
高橋は自分の好みから率直に答えた。
「まさに海軍って感じて」
「下士官から夏の礼服は白だ」
夏服には略装と礼装がありどちらも白だが礼服は当然ながら立派なデザインとなっていてそれが七つボタンだったというのだ。
「幹部もそうだが肩に階級章がつく」
「ですか」
「その夏の七つボタンは大変だった」
「白ですよね」
「大体わかると思うがな」
「すぐに汚れますよね」
正確に言えば汚れが目立つ、白はそうしたものなのだ。
「一回着たらですか」
「簡単に汚れる。一回着たらクリーニングでしかも下着も白でないといけない」
透けて見えるからだ。海上自衛隊の夏服はそこも考えないとならないのだ。
「当然下もだ」
「まさか工藤さん夏は」
高橋は今の彼の言葉を聞いてすぐに引いた感じの顔になった、そしてこう問うたのである。
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