DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-36守るべきもの
食堂に顔を揃え、ライアンとホイミンを囲んで一行は歓談する。
「バトランドの王宮戦士に、女性がいたという話は、聞かぬが。今は、女性も多いのかの?」
「いえ。私が初めてで、今のところ続く者はおりません。元々、私も、男と思われて呼ばれたようでしたから」
「ええ?ライアンさんが……、男性と、間違われたのですか?」
「たしかに、凛々しくていらっしゃるけれど。男と間違うということは、ないわよねえ。」
「当時は髪も今よりも短く、男のように刈り込んだ、山での暮らしの長い野生児で、山猿のようでありましたから。そのまま、王宮の山猿等と呼ばれておりました」
「王宮の……、山猿……?」
「ライアンさんが……?」
ライアンの話に、改めて目の前の麗人を眺め、当惑する一行。
「そんなようには、なんだか……」
「見えません、よね……」
「想像が、つかねえな……」
一同の困惑にも頓着せず、アリーナが話に食い付く。
「ライアンは、山育ちなのか!その強さと、関係があるのか?」
「見習いから正式な王宮戦士になる段階では、山で培った体力が、大いに役立ちました。任官までの期間は、最短であったそうで」
「そうなのか!ライアンは優秀なんだな!」
「いえ。山育ち故の、無作法者で。体力や戦いの技術はともかく、王宮で必要な作法等を身に付けるのは、難儀しました。周囲の助力で、今ではなんとか、山猿等と呼ばれることも、無くなりはしましたが。本来、王宮等に居るような者では無いのです」
「実力があるなら、関係無いだろう。サントハイムでも、実力さえあれば、身を立てることは出来るが。貧しい者だと、魔法の教育を受ける機会が、まず無いからな。貴国を見習って、優秀な者を見出だす機会を増やす努力をするべきだろうな」
「魔法使いともなれば、戦士を見出だすような訳には行かぬでしょうから。お察しします」
「まあ、簡単では無いだろうが。何もしなければ、ブライのような者が野に埋もれて終わることも、あるからな。いずれは、何とかしなければ」
「ブライ殿は、王室顧問の立場に居られるとのことでしたが。平民の出であられるのですか」
話を振られ、ブライが応じる。
「うむ。幼い頃にたまたま、近所の老魔法使いに、才能を見出だされての。知識を授けられて今に至るが、それが無ければ、今、ここには居るまいの」
「そうでしたか。サントハイムのような由緒正しい国で、そこまで登り詰められるとは。余程、優秀であられたのですね」
「まあ、それなりに、色々とあったがの。そんな固い話は、良かろうて。ホイミンちゃんとは、今夜がひとまず最後になるのじゃからの。そちらの方が、今は余程、重要じゃて」
ブライの言葉に、トルネコが乗る。
「そうですわよね!今まで、あまり立ち入ったことは、聞いてこなかったけれど。いい機会だから、いろいろとお話を、聞いておきたいわね!どうして人間になろうと思ったのか、とかね!」
「え?ぼく?……えーとね」
ホイミンの身の上話にトルネコ、ブライ、クリフトの女性陣が涙ぐみ、一行はなおも歓談を続ける。
「ライアンも、山で、育ったのね。わたしと、同じね」
「そうですね。尤も私の場合は、山の中の村では無く、本当に山の中の、小屋でしたが」
「村じゃ、ないの?」
「はい。村から離れた小屋に、祖父と住んでおりました」
「そうなのね。お父さんとお母さんは、いなかったの?」
「はい。死に別れて、祖父に引き取られたもので」
「そうなの。……ごめんなさい」
「いえ。それも、ユウ殿と、同じようなものです」
「……魔物に。殺されたの?」
「はい」
「そう。……だから、戦士に、なったの?」
「そうですね。王宮に呼ばれねば、考えはしなかったかも知れませんが。なると決めたのは、その為です」
「そう。……魔物が、憎い?」
「どうでしょう。両親を殺した魔物のことは、憎いかも知れませんが。探せる訳では、ありませんから。それよりも、私は、守りたい」
「……なにを?」
「同じように魔物に襲われるかも知れない、力無き人々を。幼い私を、あの日助けてくれた、戦士のように」
「そう。……だから、わたしのことも、守ってくれるの?」
「はい。力及ぶ限り」
「……わたしが、勇者だから?」
世界を守るために、勇者は守らなければならないから。
勇者が、世界を救うから。
「はい。貴女が、勇者だから。まだ幼い子供でありながら、重い運命を負わされた、勇者だから。誰よりも危険に晒される、子供だからです」
「……子供、だから」
「はい。子供は、守られるべきものです。本来は、戦いからも遠ざけて、守るべきものです。しかし、貴女は、戦う理由があると仰った」
「……うん。わたしも、守りたいものが、あるから」
「ならば、その想いごと。私は、貴女を守りましょう。結果、世界は救われるかも知れませんが、それはまた別のことです。まずは、貴女を。私は、守ります」
「そう。……ありがとう、ライアン」
「いえ。……間に合わなくて、申し訳無い」
「ううん。みんなが、決めたことだから。仕方なかったと、思う。来てくれて、ありがとう」
「はい。ありがとうございます」
夜も更け、少女とホイミンは促されて席を立ち、アリーナも明日に備えるとして続く。
「あとのことがあるからな。行きは、キメラの翼でいいとして。オレも着いてって、帰りはルーラで連れてきてやるよ」
「忝ない、マーニャ殿」
「それなら、今度くるときは、船も一緒にこられるもんね!ありがとう、マーニャさん!おやすみなさい、みんな!」
「おやすみなさい、ホイミン。……ちゃんと起きろよ、兄さん」
「起こしてくれんだろ?」
「それは、するけど。起きろよ、ちゃんと」
「わかってるよ」
部屋に戻る三人を見送り、大人たちは飲み始める。
「……かー!やっぱ、こうじゃねえとな!やっと、ありつけたぜ!」
「お待たせしちゃって、申し訳なかったわねえ。たくさんあるから、どんどん飲んでちょうだいね!」
「トルネコさん……」
「大丈夫よ。ちゃんと、適当なところで、とめますから。」
「そうですよね。頼りにしてます」
静かにグラスを傾けるライアンに、マーニャが声をかける。
「ライアン、なかなかいい飲みっぷりじゃねえか。……結構、強えヤツだよな、それ。大丈夫か?」
「バトランドの火酒だな。飲みつけている。問題無い」
「……顔色も、変わらねえな」
「そうだな」
「……強えのか?」
「潰れたことは無いな」
「おし!飲み比べようぜ」
「……いいのか?ミネア殿」
マーニャに話を振られ、ライアンがミネアに確認を取る。
「すみません、やめてください。やめてくれよ、兄さん!明日は、バルザックと戦うんだろ!」
「ちっとくらい、大丈夫だろ」
「絶対に、少しじゃすまないだろう!」
声を荒げるミネアを横目に、トルネコがクリフトに問う。
「クリフトさんは、お酒は、飲まれますの?」
「嗜む程度でしたら」
「そうよね。神官さんですものね。そんなにお飲みになる機会も、ないわよね。」
マーニャが、クリフトの手元を見咎める。
「おい、クリフト。それ」
「……火酒だな」
ライアンが、冷静に指摘する。
「……え?ひ、ざけ?です、か?」
既に呂律の回らなくなったクリフトが、グラスを取り落としそうになり、ライアンが受け止める。
「おっと」
「あら?ありがとう、ございますー。ライアン、さん」
「大丈夫か、神官殿。部屋に戻られたほうが、良いのでは」
「らいじょうぶ、ですわー。それに、わたくしは、クリフト、ですわ。どうぞ、そう、およびください、ませ」
マーニャが、ブライに囁く。
「おい、ばあさん。大丈夫か、あれ」
「ふむ。クリフトが酔うほど飲むのを見たことは、無かったがの。どうせああなってしまったのじゃ、酔った勢いでライアン殿に慣れさせておくのも、良かろうて」
「それもそうだな。戦闘中にいちいちおかしくなられても、困るしな」
「いいんですか?本当に」
「覚えておれば、居たたまれなくなるであろうがの。その程度で済むならば、それも経験じゃて」
そんなやり取りも聞こえぬ風に、クリフトがライアンに説教を始める。
「ひとには、えてふえてが、あるもの、ですから。いたしかたない、とはいえ、わたくしだけ、おぼえて、いただけないなんて。おっしゃってみてください、クリフト、と」
「は。面目無い。クリフト殿」
「おぼえ、ましたか?」
「……」
「クリフト、ですわ」
「……クリフト、殿」
「もういちど」
「……」
なかなか名前を覚えないライアンに、延々と自分の名を言い聞かせるクリフト。
「……説教癖かよ」
「意外というか、らしいというか」
「あらあら、まあまあ。でも、あれならきっと、覚えられるわね。」
「ふむ。怪我の功名じゃの」
クリフトの説教はライアンが名を覚えるまで続き、その後クリフトは酔い潰れて眠りこけ、ライアンに抱きかかえられて部屋に運ばれ、毒気を抜かれたマーニャもそこそこで引き上げて、その夜はお開きとなる。
翌朝、少女とアリーナにライアンも加わり、三人で朝の鍛練を開始する。
「やっとライアン殿と手合わせが出来るな!楽しみだ!」
「武術大会で優勝されたアリーナ殿の、御目に適うかわかりませんが。宜しくお願い致します」
「戦士の国の、本職の戦士が。謙遜するな」
「それじゃ、わたしは、見てるね」
「悪いな、ユウ。行くぞ、ライアン!」
「は。何時でも」
構えを取るライアンに向かい、アリーナが走り寄って距離を詰める。
アリーナがフェイントを入れるのを見切り、逆に隙を突いてライアンが剣を振るう。
アリーナが躱し、一旦距離を取ろうとするのを、追い縋って逆に距離を詰め、更に斬りかかる。
ライアンの猛攻を、アリーナは躱し続けるが、自分の間合いに持ち込もうとするのを、ライアンが許さない。
間合いを取るのを諦め、アリーナが攻勢に転じようとした瞬間、ライアンが一気に剣を振るい、アリーナの喉元に突き付ける。
少女が息を飲み、アリーナは息を詰め、そして、吐き出す。
「……参った。見事だ」
「アリーナ殿も。素晴らしい動きでした」
「これ程、鮮やかにやられたのは、初めてだ。流石だな、ライアン」
「同程度か、それ以上の力を持つ者との手合わせに、慣れておられぬのでしょう。サントハイムの魔法兵も強力と聞きますが、武の方面においては、アリーナ殿と肩を並べ得るものでは無いでしょうから」
「そうだな!ライアンと手合わせを続ければ、もっと強くなれそうだ!」
「武術の使い手と手合わせる機会は、殆どありませんでしたから。それは、私も同じですな」
「もう一本、頼む!」
「は。しかし、ユウ殿が」
「頼む!もう一本だけ!」
「わたしは、大丈夫。見てるのも、勉強になるし」
「では、もう一本だけ」
再び、アリーナとライアンは手合わせを始め、アリーナは善戦するもまたもライアンに敗れ、悔しがりながらも少女に場所を譲る。
少女もライアンと二本手を合わせ、さらにアリーナと少女も一度手合わせて、朝の鍛練を終える。
少女とライアンが部屋に戻ると、クリフトがベッドの上で身を起こし、項垂れていた。
「おはよう、クリフト。……大丈夫?」
「……おはようございます、ユウさん。……大丈夫、……では、無いかも知れません……」
「具合が、悪いの?」
「いえ。それは、大丈夫です。……あの。ライアンさん。……申し訳ありませんでした」
謝られ、ライアンが怪訝な顔をする。
「はて。何のことでしょう。酔い潰れられて、部屋までお運びしたことでしょうか」
「そんなことまで……!本当に、申し訳ありません!それもですが、そうでは無くて。その、……図々しくも、お説教のようなことを……」
「そのことでしたら。お名前を覚えられて、却って助かりました。どうぞ、お気になさらず」
「そう言って頂けると……。でも、本当に、申し訳無いというか、以後、気を付けます……」
「私は、構いませんが。クリフト殿が気にされるのなら、私も酒には気を付けておきましょう」
「ありがとうございます……」
なんとか気を取り直したクリフトも身形を整えて食堂に下り、朝食を済ませて、ライアン、ホイミン、マーニャが宿を出る。
「ホイミン、元気でね」
「うん!ユウちゃんも、元気でね!また、会おうね!」
「うん。また、ね」
「寂しくなるのう」
「本当にねえ。でも、また、会えるものね!」
「うん!ぼくも、さみしいけど。また、会えるから!みんな、気を付けて、旅してね!」
「ホイミンさんも、体に気を付けてくださいね」
「うん、ありがとう!」
「どうせ、またすぐ会うんだろ?そんなに深刻になることも、ねえな。そろそろ、行こうぜ」
「またそんな言い方を。でもそうだね、サントハイムとバルザックのことが片付けば、いずれはバトランドにも向かうことになるでしょうから」
「戦士の国か。楽しみだな!」
「では、ホイミン、マーニャ殿。行きますぞ」
「はい、ライアンさん!」
「おう。いつでもいいぜ」
ライアンがキメラの翼を使い、三人の姿が空に消える。
「……行っちゃった」
少女が呟き、トルネコが気分を引き立てるように、声を上げる。
「……さあ、さあ!寂しいけれど、あたしたちには、まだまだやることが、あるんだから!ライアンさんとマーニャさんのおふたりが戻る前に、出かける準備を、済ませてしまいましょう!」
「うん。そうね。マーニャとミネアのお父さんの仇を討って、アリーナたちのお城を、取り返すのよね」
準備を整え、ライアンとマーニャが戻るのを待って、ブライのルーラでサントハイム城の近くの町、サランに移動する。
町の宿に馬車を預け、全員でサントハイム城に乗り込むこととする。
「ここにきて留守番とか、ねえからな」
「うむ。今回ばかりは、わしとて遠慮はせぬでな」
「城に巣食う魔物を退治するというのに、私も待ってなどいられません」
「うん。行こう、みんなで」
サランの町を出て、アリーナたちには懐かしいサントハイムの城に、いよいよ一行は乗り込む。
後書き
出会いと別れを繰り返し、一行は旅を続ける。
大切な場所を汚す者へ、追い求めた仇への、それぞれの想い。
次回、『5-37激情と本懐』。
9/28(土)午前5:00更新。
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