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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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常盤台中学襲撃事件
  Trick40_正真正銘の傑作だ



「ゴミ屑の排除は完了した。次は?」

信乃が携帯電話で位置外に次の指示を仰いだ。

足元には逆刃刀で殴り、修理不可能なまでに破壊された駆動鎧が1体。
切り裂かれた装甲が鉄屑となり、その鉄屑の中心で白目を剥いて泡を吐く男が1人。

常盤台中学3年を見張っていた敵全員の排除が完了した。

『1年の階にニシオリ、2年の階に宗像が行け』

「了解」「Aye, ma'am」

1年生、2年生を攻めている敵の位置はすでに聞いている。

即座に階段を滑り降りて1年生の白井、2年生御坂の援護に向かった。



****************************************


「白井! 弾はこれでいいか!?」

「ありがとうございます!

 また同時に来ましたの!? 黒妻さん! 近づいてきた1人をお願いします!」

「わかった!」

黒妻が1年生の防衛をしている白井に合流して数分、敵との戦いは安定していた。

白井の空間移動(テレポート)に対応して、複数人数で同時に攻めてくる。

最初の突撃は1人を倒しそびれた所に、タイミングよく到着した黒妻に助けられて
事なきを得た。

今は文房具を空間移動の攻撃用弾丸として使い、
倒しそびれて教室まで入ってくる駆動鎧(パワードスーツ)は黒妻が
力づくて倒す、という戦術をとっている。

最初は時間稼ぎをしろと言われた2人だが、敵がそれを許してくれないために
遠慮なく倒している。

それが原因かは分からないが、敵の攻めの手が徐々に強くなってきた。

「うぉらっ!!」

白井の攻撃から抜けてきた1人が教室に入ってきたが、
黒妻がA・T(エア・トレック)を使って加速した拳を駆動鎧の頭にめり込ませる。

グシャ と機械の歪みヘコむ音を立てて廊下側の窓から外へと飛ばした。

拳には手甲(ガントレット)を付け、金属を殴っても拳を痛まないように防護して
さらに破壊力も上がっている。

平民(しらい)、次の突撃は武器だけを破壊しろ。
 愚民(てき)は止まらずにナイフに持ち替えて突撃してくるだろうが
 教室入口に来るまで倒すな』

「どういうことですの位置外さん!?

 1人が教室に入って来れば黒妻さんがどうにかしますが、
 位置外さんの言う通りにすれば、最低でも3人が入ってくることになりますの!」

『高貴なる私に平民は大人しく従えば良い。

 階段に隠れているのは4人。あと11秒ほどで全員同時突撃をする。

 準備しろ』

「・・・わかりましたの。黒妻さん、聞こえてまして?」

「ああ。よくわからんが言う通りにすれば大丈夫だろ。

 教室の入口なら倒していいみたいだし、俺はその覚悟と準備をするよ」

 ゴィィン!

両腕のメリケンを胸の前で強く打ち合わせて気合を入れた。

『5秒前、4、3、2、1 来るぞ』

「本当に位置外さんは隠しカメラでも仕掛けているに違いありませんの。
 学校に仕掛けるなんて、これってプライバシーの侵害ですの」

その隠しカメラ(A・Tドラグーン)が自分の頭上にも漂っている事も気付いていないで
白井は呆れたように言った。

位置外の言葉と同時に4人の駆動鎧が出てくる。

タイミングが分かっていれば突撃にも焦ることはない。

冷静に演算をして、持っている銃のみを空間移動を使ってペンを強制割り込みで破壊する。

「ちっ! 銃は捨ててナイフに持ち替えろ! 退くわけにはいかない!!」

「「「はい!!」」」

即座に銃を投げ捨ててナイフに持ち替える。これも位置外の予想通り。

教室の入口から廊下を除いて空間移動(しごと)を終えた白井は教室の中に戻り
入ってくる敵に備えた。

戻るときに一瞬、階段から出てきた人影を見て笑顔になりながら。

「そういうことでしたの、位置外さん。

 指示通りに銃の破壊は完了しましたの」

『そのまま愚民(てき)を教室に入れろ。

 平民(しらい)は即座に愚民(てき)の頭上に空間移動、攻撃してきたらすぐに離脱。
 愚民(あいて)の注意を散らせるのだ。

 平民(くろづま)は入ってくる1人目を10秒足止めしろ、倒さなくていい。
 2人目が一緒に攻撃してきたらすぐに後ろに下がれ。

 その後は各自で対応して倒せ。2人ぐらいは平民達(おまえたち)で大丈夫だろう』

「わかりましたの!」「オーケーだ!」

返事と同時に敵が教室入口から見えた。

相手が一歩入ってくるの待ち、白井は上へと空間移動する。

それに入ってきた1人目が白井を捜して辺りを窺う。上に移動したのですぐには
見つからない。

「お前の相手は俺だ!」

その隙に黒妻が拳を飛ばす。

相手は戦闘のプロ。すぐに黒妻に対応したが、隙を衝かれたために
回避は間に合わずに両腕を交差させて防御する。

「くそっ! なら、お前から先に殺してやる!!」

ターゲットを目の前にいる黒妻に定め、ナイフを横薙ぎに振る。

屈んでナイフを避け、曲げた膝の力でアッパーカットを繰り出す。

それも敵に避けられるが計算の内。普段から“信乃&宗像”(ばけものコンビ)と
模擬戦をしている黒妻には最初から通用するとは思っていなかった。

だから避けられたことにも動揺せずに、次の攻撃を見切るための行動に出る。

「やるなテメェ! 素人にしてはいいじゃねぇか!」

「とっとと来いよ、三下。っても俺も三下だがな」

黒妻は自傷ぎみに笑いながら攻撃を続ける。

「ふざけたことを!」

「わたしくも忘れないでほしいですの」

声は頭上から、そして駆動鎧の頭に着地した白井によって体勢を崩した。

「なにしてんだよ、早く仕留めろ!」

後ろにいた2人目の敵が大声を上げた。

1人目が黒妻によって足止めされているせいで、狭い入口から2人目以降は
入る事が出来ないでいた。

この時間稼ぎこそが位置外の狙い。

「わかってるよ!」

とにかく仲間を中に入れることを優先するため、両腕を交差して
防御しながら突撃する。

黒妻は約束の10秒を足止めしたので、無理に攻撃はせずにすぐに後ろに下がった。

白井も同じように空間移動で距離をとる。

「さて、これまで馬鹿にしてきた罰を受けてもらう≪グシャ≫・・・ぜ?」

廊下から鉄の、黒妻が敵を殴って飛ばした時と同じ音が聞こえた。

「2人とも、お待たせしました」

「本当に遅かったですわね」

「まったくだ。白井が頑張らなきゃ今頃全員やられてたぞ」

見れば、教室には入っていない2人の駆動鎧が廊下に転がり、
刀を肩に担いだ西折信乃(ストームライダー)が立っていた。

先程の音はもちろん、信乃が刀を使って2人を潰した音である。

「「て、てめえぇぇぇーーーー!!!」」

「お前らの相手は!」

「わたくし達ですの!」

激高して信乃に向かおうとしたが、すぐに黒妻と白井が阻止した。

「引っこんでろ!」

「そうはいかなねー! 俺だって≪小烏丸(こがらすまる)≫の一員だ!」

「わたくしは違いますが、風紀委員(ジャッジメント)としてのプライドがありますの」

振りかぶるナイフを両手のメリケンで受け、A・Tの蹴りで頭の装甲を破壊。

四肢と、背中の制御装置をすべての鉄矢(ペン)の空間移動で貫いた。

信乃の登場と味方の戦闘不能。冷静でいられなくなった駆動鎧には敗北しかなかった。

「ふぅ、これで終わりだな。それにしても遅ぇぞ信乃」

「まったくですの。遅いですわよ」

倒し終わった黒妻と白井は、すぐさま信乃へと言葉を向けた。

「それ、宗像さんにも言われました。

 学園都市の入り口から100km以上を30分以内に到着したことを
 評価して下さい」

宗像のも言った言葉をそのまま返したが

「遅刻だ」「遅刻ですの」

「・・・・・もういいよ」

評価は変わらなかった。即答された。信乃が壁に手を付けて落ち込んだ。


「てめぇ・・・ら! ふざけんじゃねぇ!!」

後ろを振り向けば、ヨロヨロとした足取りで立ち上がる男が一人だけいた。

「あのゴミ屑、黒妻さんの担当ですよ?」

「ちっ!」

信乃の言うとおり、立ちあがった男は黒妻が攻撃していた男だ。

攻撃が浅かったようで、数秒で意識を取り戻して立ちあがったようだ。

黒妻は信乃に指摘されてすぐに倒そうとしたが、それは封じられた。

「動くな!!」

「ヒャッ!」

「「!?」」

手に握られたナイフを向けたのは黒妻でも信乃でも白井でもない。

側で腰を抜かしていた少女、白井のクラスメイトでもあり、
信乃も顔見知りある湾内絹保であった。

駆動鎧は左腕を彼女の首に回し、ナイフを突き付ける。

  人質

敵を倒すうえで位置外が一番懸念していた問題。

それが今、目の前で発生してしまった。

「こいつがどうなってもいいのか?」

「ひ、卑怯ですわよ! 湾内さんを離しなさい!!」

「俺が相手になってやる!! 離せ!」

「ハハハハハ! 離せと言われて人質を話すバカがいるのかよ!」

白井と黒妻の言葉に気分を良くして高笑いした。

ただ一人だけ、その緊迫した状況で呑気に頭をポリポリと掻いていた男がいる。

「まったく、黒妻さんは詰めが甘いですね」

もちろん信乃である。

「信乃さん! そんなこと言っている場合ではありませんわ!」

「・・・わりぃな。俺のせいでせっかくの人質を取らせない作戦が・・・・・」

「別にいいですよ。見えない所で人質を取れば問題でしたけど、目の前であればね」

「あ? お前この状況が分かってんのか!?」

湾内へ更にナイフを近付けて脅そうとするが、


 ズゥン!!


信乃がA・Tで地面を強く踏み付けた。
周りには振動が広がる。



大地の道 (ガイア・ロード)

  Trick - The Trembling Tarth -



「ぐぁ!?」

石の振動でその場の全員が動けなくなった。

この(トリック)を発動させてしまえば、動けるのはごくわずか。
大地の道を走れる者か、攻略方法を実行できる上級者か。

駆動鎧の男はどちらにも当てはまらず、信乃はどちらにも当てはまる。

現状は信乃の独壇場になった。なるはずだった。

「問題ないんですよ、動けなくしてしまえばね。・・・え?」

信乃がとどめを刺すために一歩踏み出したが、それより早く動く影があった。

「女に手を出してんじゃねぇ!!!」

信乃以外が全員が動けない状況で、黒妻が拳を振り上げながら突進していった。

動けない敵はただの的。今度こそ黒妻の拳が意識をかり取った。

「黒妻さん・・・・・何で、動けるんですか?」

「ん? いや、別に最初は動けなかったけど・・・・

 なんか無理に動かしたら動けるようになった」

「・・・・・」

信乃の震脚はA・Tの(トリック)
振動によって相手の動きを止める、振動を受けた者は石のように動けなくなる。

それを“無理に動かしたら”で攻略した。

「・・・・おもしろいですね。

 おっと、黒妻さんの破天荒さで忘れる所でした。
 湾内さん、大丈夫ですか?」

「そ、そうですわ。湾内さん! 大丈夫ですの!?」

「は、はぃ・・・」

湾内に危害が及ばないように、宗像も考えてガラ空きの顔面に攻撃をした。
人質だった彼女は無傷で助かった。

「良かったですわ・・・・

 あ! 信乃さん、お姉様は無事ですの!?」

「宗像さんが行きましたから問題ありません」

言い終わると、白井から他の生徒たちへと視線を変えて大声で話し始めた。

「すみません、皆さん!
 外にはまだ侵入者がいると思うので、今教室から出ると危険です!
 しばらくはここで待っていてください!」

下手に動かれたら残りの敵に見つかるかもしれない。
そう考えて生徒たちへと指示を出した。

言葉はないが、ほとんどの生徒が小さくうなずいたの見て了承したと考えた。

再び白井へ向き、念には念を入れて警護をお願いした。

「それでは白井さん、黒妻さん。私は行きますから
 もしもの時は彼女たちの事はお願いします」

「わかりましたの」「ああ」

信乃はA・Tで滑って出ていった。佐天と合流する外へと。


「西折様/////」

助けられて、湾内は更に信乃へ熱い視線を送るようになった。



******************************************




佐天は調子が良かった。

初めてA・Tを公道で、外で思い切り使用できた解放感。

自分で『本当に大丈夫!?』と思ったルートも次々と成功することができた。

勇気を振り絞って跳んだ大ジャンプ。

失敗と思っていた所に好きな人(信乃)の助け、タッグ技の大成功。

その後も、恐いはずのビル跳びも難なくこなせた。

そう、全てがうまく行き過ぎていた。

調子が良かった。調子に乗ってしまった。

調子に乗って失敗した。たった1度だけだが失敗した。

その結果が1分以上のタイムロス。結果は到着時間の5分以上の遅れ。

もう、自分の存在価値がなくなるほど絶望した。




「なんで・・・なんで!!」

自分に文句を言いながら佐天は必死に走っていた。

自分の限界を超えるために。

さっきまでは何をやっても練習以上の動きができた。体が言うことを利いた。

だけど今は体が重く感じる。

限界を超えるために走っているが、本当に自分は速いのか?

どんなに速く走っても、まだ足りない。全然足りない。

そしてまた、走りに満足ができないまま止まることになった。

赤信号によって。自分に越えられない壁を感じる時間がきた。

「つーちゃん! 他に道はないの!? さっきから信号ばかり!」

『10メートル以上のジャンプが確実にできるようになってから言え。
 たかが道路さえも飛び越えられないくせに何をほざく。

 愚民(おまえ)は高貴なる私の言うことを聞いていればいいのだ』

「っ!」

先程から信号のたびに何度も繰り返される問答。

位置外の指示を無視した結果に遅れたのだから、言い返すこともできずに
会話が終わる。そして悔しさを噛みしめていた。

自分が悪いと解っていても、この道以外が無いと何度言われようと、
早く、速く信乃の元に到着したかった。

何度も言うようだが佐天はA・T(エア・トレック)初心者だ。

始めて2週間で、横幅10メートルはある道路をジャンプで超える実力はない。

大きい道に差し掛かるときは必ず横断歩道、歩道橋を利用するしかないのだ。

「なんで! なんで私は!」

『・・・・・反省は愚民にとって必要なことだ。

 だが、目の前の事を疎かにすることは愚民よりも愚かだ。

 だから今は走ることだけに集中しろ、平民(さてん)

「つーちゃん・・・・」

さすがに怒っていた位置外も、今の佐天の態度に感じることがあったようだ。

先程のミスから位置外は辛辣な言葉しか言わなかった。
それが初めて慰める言葉が出てきた。

「ありがとう・・・・でも」

『信号が青に変わるぞ。5秒前、 3 2 1 GO』

言葉を遮ったのは速く到着するための指示だったが、これ以上考え込ませないことも
理由にあった。

それでも、佐天は自分を責めるのをやめなかった。

(なんで、どうして私はあんなことを・・・)

口には出さなくて責め続けていた。

心だけじゃなく、自分の体も。

不安と恐怖、無理な運動による呼吸の乱れ。
長時間A・Tで走り続けたことによる体中の疲労、苦痛。

体の悲鳴も無視して走り続ける。

無理をすれば必ず異常が発生する。

そんな体に佐天は鞭を打つ。

何度も何度も、疲労している体に奥の奥まで空気を導き入れるように呼吸する。

それは息をする必要がない、自分自身が空気になる感覚で、必死に。必死に。

「カハッ!?」

混乱している頭。無意識化でなぜか、吸うタイミングで息を吐いてしまった。

瞬間、膝、股関節、背骨、体の全ての関節に想像を絶する激痛が走った。

「ッ!!?」

佐天は訳がわからなかった。
息を詰まらせただけで関節に激痛が襲う現象など聞いた事が無い。

(もしかして体が限界!? でも!!)

体が悲鳴をあげようが、佐天は止まるわけにはいかなかった。

自分の体が痛いぐらいで、これ以上の遅れは出せない、出したくない。

苦痛を我慢して無我夢中で走り続ける佐天。


その瞬間 彼女は“人”の動きすら超え始めた。





『これは・・・・』

いち早く気付いたのは、カメラ越しに佐天を見ている位置外だった。

佐天が急に苦痛に顔をゆがませた。体を故障したのだろうか、と考えた。

体が故障すれば走れなくなり、ホイールを届けられなくなる。

最短時間で届けられなくなった今、優先すべきはホイールを“確実”に届けること。
そのためであれば、更に1分程度の遅れも問題ない。

位置外はペースを落とすよう佐天に指示を出そうとした。


だが苦痛の後、佐天の動きがおかしかった。

痛ければペースが落ちる。たとえ痛みを我慢できてもペースは上がるわけではない。ペースは保たれるだけだ

しかし、佐天の走行スピードが異常に上がった。

特に壁走り(ウォールライド)と曲がり角の曲がり(ターン)は今までの比ではない速度。

先程の調子が良かった時よりもキレがある動き。

依然として激しい苦痛の表情のまま佐天は走り続けている。

そして遂には止まると計算していた信号を、青点滅の時に通り抜けた。

1つの信号に止まったせいで連鎖して別の信号に止まり、5分の遅れが
出ると位置外は計算していた。

逆にいえば1つの信号を通り抜けることができば、信号を待っている時間以上に
短縮ができる。

位置外は急いでキーボードを打つ速度を上げた。

佐天の速度はすでに通常の2倍以上。
このまま走れば最初の予定時間から1分19秒の遅れで到着できる。

佐天がミスしてから5分42秒が遅れると出た結果から大幅に更新した。

平民(さてん)、体に異常はないか?』

「・・全身の関 節が・・急に痛くなった   けど・・大丈 夫。
 まだ遅い から・・ペースを落  とせない!!」

苦しそうに答える。自分のペースが格段に上がっていることに気付いていない。

ならば位置外がやることは一つ。佐天の上がった実力で行けるルートを構築し直す。

特に曲がり(ターン)が上がっているのであれば、連続で直角に曲がる
裏路地の近道も速度を落とさず、トップスピードで使うことができる。

平民(さてん)、100メートル先の小道を左に曲がれ』

「あれ? 真っ直ぐのはずじゃ・・ダメダメ!! つーちゃんは絶対!!」

数秒前の指示との違いに疑問を持ったが、指示無視をした自分のミスを思い出して
すぐさま疑問を振り払って角を曲がる。

完全な直角でありながら、全くバランスを崩さずに曲がり切った。

『(これは間違いないな)』

「つーちゃん! 次は!?」

『3番目の曲がり角を右に。直後を左』

「了解!!」

連続でも曲がり切る。位置外の予想が確信に変わっていく。

「今度は!?」

『300メートルを真っ直ぐ。その後を左に曲がればで常盤台中学の近くに出る。

 信乃を学校の外に出しておくから渡せ。その後に出てきた小道に隠れていろ。

 ニシオリから絶対に戦闘に参加させるなと言われているし、平民(おまえ)では
 戦いは足手・・・戦闘は難しい』

≪足手まとい≫と言いかけたが、精神が不安定の佐天に
これ以上言葉を重ねるのはやめて言い直した。

「わかった!」

幸いにも走ることに夢中な佐天は気付かなかった。

言われた通り左に曲がると、信号が設置される程の大きさの道に出た。

後はこの先の道路を横断すれば終わり。

丁度、信乃が4階建ての屋上から飛び下りてくるのが見えた。

「これで・・・」

これで終わりだ。自分は≪小烏丸≫の足手まといになったが、
これ以上は迷惑をかけないで済む。

そう思って最後の力を振り絞り最高速度で、飛び降りてくる途中の信乃に向かう。


だが、アクシデントはどんな時にでも起こるものだ。

最後の横断する道路に差し掛かった時、横断歩道の信号が青になった。
もちろん、位置外の修正した計算通りの結果である。


問題は横の車線から車が来たことだった。

  信号無視


よりにもよってこのタイミングで、赤になったばかりだから大丈夫だと考えた
馬鹿が止まらずに進んできた。

全速力の佐天。左からは信号を過ぎ去るためにアクセルを踏み込んでいた車。

「佐天さん!!!」

「あ・・・」

信乃の声で、ようやく突っ込んでくる車に気付いた。

『避けろーーーー!』

スピーカーからは位置外の必死な声が聞こえた。

信号が青のタイミングで油断していたのか。
走ってくる車が監視カメラの死角で気付かなかったのか。
それとも両方なのか。

今まで完璧な仕事をしていた位置外水の、初めてのミスだった。


飛び降りている途中で、地面と壁から足を離れているために自由に動けない信乃。
ノーマルA・Tで風の道を使っても佐天を助けられない。他の道も同じ。

モニター越しで指示を出していた位置外。
常盤台中学の中に飛ばしているA・Tドラグーンは、佐天の近くにない。

トップスピードで道路を横断しようとしていた佐天。
ブレーキは間に合わない。“走り”(ラン)だけを考えていたせいでジャンプもできない。
今が最高速度(トップスピード)で、今より速度を上げて通り過ぎることも不可能。





佐天が車に轢かれる直前に、信乃と位置外が目にしたのは

“人”の動きすら超えた(トリック)だった。




佐天はまだ、ギリギリではあるが横断歩道に入っていなかった。

左から来る車に対し、鋭利な曲がり(ターン)で自身を左に。
完全な直角で曲がる。

トップスピードのまま、横断歩道に入る前に車に当たるコースから外れる。

右肩に車のサイドミラーが掠った。それほどのギリギリの回避。

そして次の一歩、1メートルを進まないうちに、今度は右にターン。
車が横断歩道を通り過ぎると同時に横断歩道に突入した。

真上から見れば、まるで稲妻のジグザグの動き。



 Trick - Avoiding Thorn -



1秒でも、1刹那でも早く速く届けたい佐天がとっさに出したのは完璧な(トリック)

アクシデントのリカバリーで上級クラスの大技をキメた。
誰も教えていないはずの技をキメた。

「佐天さん!!」

『佐天! 大丈夫か!?』

着地と同時に近くまで来る信乃、感情を丸出しに心配する位置外が叫んだ。

「だ、いじょ・・・」

道路を渡り切った佐天は、言い終えることなく信乃の腕の中に倒れ込んだ。

「くそ!? 解析開始(トレース・オン)!!」

すぐに佐天の体を解析魔術で調べるが、大きな異常はなかった。
ただ、関節がかなり疲労しているだけで問題ない。

『怪我は?』

「・・大丈夫だ、心配ない。・・・位置外、佐天さんに何があった?」

『どこにも怪我はしていない。

 ただ、佐天がミスをした。

 取り戻すために焦って走り・・・その走りが“道”になった。

 お前の目の前で走った“道”にな』

「・・・・・“荊棘の道”(ソニア・ロード)か・・・・正真正銘の傑作だ」

『成果を出した佐天にはすまないが、愚民(てき)の排除が優先だ。

 佐天はそこの路地裏に隠しておけ。高貴なる私から神理楽(ルール)
 連絡して保護させる。

 お前はホイールを持って中に戻れ。宗像が少しだけ危険だ。
 調律(チューニング)も戻ってからにしろ』

「わかった、すぐ戻る。逃げた車も調べといて。報復してやる、絶対に。百倍返しだ!」

『当然だ。貴様が肉体的に、私が社会的に奴を消す』

「・・・・」

先程のひき逃げ未遂の車は止まらず、そのまま走り去っていた。

その事に信乃は内心怒っており、位置外の発言と自分の報復の内容が
それほど違っていなかったからスルーした、というのは信乃しか知らない。

佐天の背中とひざの裏に手をまわし、お姫様抱っこをして安全な場所に
ゆっくりと運び降ろす。

一度だけ、苦しそうにしながらも口だけが笑っている佐天の頭を撫でた。

「ありがとうございます、佐天さん。本当にありがとう」

そして信乃は走り出した。

常盤台中学に戻りながら、佐天が持ってきた鞄に手を入れる。

入っていたソレに解析魔術を異常が無いかを確かめる。

「よし、故障もないな」

その手に握られていたのは、白い九尾の狐が描かれた赤いホイール。



つづく
 
 

 
後書き
佐天さん復活!!
いや、復活と言うよりもパワーアップと言うべきですね。

原作エア・ギアで出てきた道を出来るだけ本作でも出したいと
考えていました。
信乃1人がいればほとんどの道を網羅できますが、
荊棘の道は別、女性がメインの道です。

A・Tで走る女子は佐天さん一人。ということで
彼女には荊棘の道に目覚めてもらいました!

そしてもう一人のメンバー黒妻が道に目覚め始めた。
こちらも今後期待してください。


位置外が人を呼ぶ時ですが、お気づきの方もいると思います。
下種な奴に対しては「愚民」
普通な奴に対しては「平民」
認める奴に対しては正しい呼び方、となってます。
荊棘の道の後、佐天さんも認められて正しく呼ばれるように
なりました。実は信乃とタッグトリックを使った後も
一度は認められて呼ばれていたんですよ。お気づきでした?
信乃だけがカタカナで呼ばれているのは・・・
漢字変換しちゃダメだからです!理由はそのうちわかります!ガマンして!


作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
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