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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  喰い合い

「まだ手はある」

そう殺戮と名乗った男は、言った。

「手って……、あるわけないよ」

「おや、どうしてそう決め付ける?お前ぇはこの世の全てを知っている神様にでもなったつもりだったのかぃ?」

にやり、と嗤うその自信満々な笑みに、やっとレンもこの男が伊達や酔狂で言ったのではないとわかった。

「本当に、そんな都合のいい手があるって言うの?」

身を乗り出すレンを手で制した青年は、ゆっくりと口を開く。

「いいか。第一に言って、これから話す逆転の一手の鍵は他でもねぇ。お前ぇだ、小僧」

「僕?」

「あぁ。簡単に言やぁ、今までのお前の戦い方ぁはっきり言ってお粗末だったって事だよ」

言葉通り、さも簡単そうに言った青年の言葉に、さすがのレンもカチンと来た。

少しだけ語気を荒くして問いただす。

「お粗末だって?今までの僕の戦い方が………!」

「あぁそうさ。お前ぇの集中力ぁ、はっきり言って飛び抜けてんだ。持久戦に持ち込ませたら、九分九厘お前ぇの勝ちさ。だがな、それにかまけて余分な分まで常時垂れ流してたらぁ、いくらなんでも持つわけねぇだろうが、クソが」

がん、と後頭部を殴られたように感じた。

確かに、これまでの自分の戦い方はお世辞でもスマートとは言えなかった。だがそれは、世界樹の上にいるマイを助け出すために必死だったからだ。

見た目など、気にする時間さえなかった。

「だからすぐにガス欠になっちまう。今のお前ぇがそうだろうに。もっとはっきり言やぁ、お前の力は燃費が悪ぃんだよ。しかも、それは本来の仕様じゃぁなく、お前ぇ個人が()()()()()()()()

「そう、させてる……?」

青年はこくりと大きく頷くと、続ける。

「あぁ。お前が心意を使う時ぁ必ずと言っていいほど、自分の周囲にいらんオーラを出しまくってる。もう一段階進めたら、それぁ立派な防御法だが、今のお前ぇじゃ全然ダメダメだな。そもそもお前ぇは心意防御は苦手だろうに」

むぐっ、と何も言い返せずに黙り込むレン。

確かに、使い方が荒いのは常々感じていた。浪費が激しい上に、著しくイメージが上手く投影されないのだ。

想像と現実が、上手く噛み合っていないような感じ。

そんなレンに、蒼い瞳を持つ青年はさらに畳み掛ける。

「もっと集中しろ!お前ぇがそんなんじゃ、姫を助け出すどころか、その前座にすら辿り着けねぇだろうよ」

「…………………………」

「集中力!圧縮!正確さ!今のお前がするこたぁこの三つだ。言っとくが、一つでも欠きやがったら、手前ぇの命は掻き消えるぜ」

その一つ一つの言葉が、真実の重みとなってレンの心に突き刺さる。

「簡単に、な」

「…………わかった」

やっと口を開いたレンの頭に、ポンと青年は右手を置いた。そのまま乱暴に、左右に揺さぶられる。

「心配すんな。お前ぇはこの俺が選んだ宿主だぜ?この程度で死ぬくらいの器じゃねぇ」

「……うん」

こくり、と素直にレンは頷く。

不思議と、心の中がみるみる空っぽになって、透明になっていくのを感じた。

「ありがと。………行ってくる」

静かにそう言うと、青い瞳を持つ青年は

「おう」

短く、それだけを言った。










レンは、唐突に意識を取り戻した。

直ちに状況分析をすべく、辺りを目線だけ回して確認する。

そして気が付いたのは、今自分がいる地点を中心とした大木達が半ばから切り落とされているのだ。

切り落とされた古樹は、空中でさらに細かく千切りにされたらしく、地面には小指の先ほどのウッドチップが散らばっている。

───これは……、僕がやったのか。

ふぅ、と胸中でため息をつく。半自動操縦状態でこの大惨事か。つくづく自分が人外のバケモノだと思う。

この現象には、SAO時代に何度か経験がある。

逆流現象(オーバーフロー)

虚無の心意がアバターを包み込む、零化現象(ゼロフィル)の上位版。怒りや憎しみといった負の心意が溢れ、制御出来なくなることだ。

しかし、意識がない間に殺されなくて良かったは良かった。何はともあれ、結果オーライだ。

鋭く視界を広げ、今現在敵対している、明確な二人の《敵》の姿を探す。

いた。

四時の方向。大木の上に立ち、こちらを睥睨している。

その顔は明らかに怪訝な顔をしている。

当たり前か。ここまで派手に暴れておいて、急に静かになったのだから。

「………………くっ」

その顔が、ひどく滑稽に思えた。

堪えきれずに口角が上がり、腹の底から空気が遡ってくる。

「あハッ、あはハッ、あはハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハハハハはっはハハハはっはははハッはははははハはははハハははっはハハはっははははハハはハッはははハッははははハハははハッはははハハ………!!」

ゾグッ、と明らかに異質なナニカがレンの体全体から溢れ出す。

それは心意ではない。常人なら、欠片でも見たら発狂するほどの殺人の経験から来る、凄みとでも言うのだろうか。

それは、数十メートルは離れている二人の手練れをたじろがせるには、充分すぎる量。

紅く染まった眼光で、レンの口は血でも垂らすかのような軋んだ声を吐き出す。

「プログラム強化完了ォ。クッカカ。これでお前等をコロセル」

その体から、もはや何も出ていない。ただ、殺気だけが空間を支配していく。

その矛盾した異常に、リョロウとセイが気付かぬはずもない。

そう、まさに矛盾。

相手を殺したいと思い、出る殺気と、心意の力は切って離せない関係だ。

しかし、レンの体からは一切の心意的エネルギーを感じられない。はっきり言って、異常だ。

そして、ソレが口を開く。

「お前ェ等は、僕をこの場に来させるべきじゃなかった。こんな風に遊ぶんじゃなく、一撃で仕留めるべきだったんだ…………」

ぐるり、と首を巡らして、レンは梢の上に立ってこちらを睥睨する二つの影をしっかりと見据えた。

その双眼は、血でも垂らしたかのように紅蓮に染まっている。

ズッ、とレンの左肩のところに突如として過剰光が現れ、ピンポン球ほどの漆黒の球体が形成される。それはまるで指を動かすが如く、滑らかで自然に投影された。

「な…………ッッ!!」

「速いッ!」

頭上の二人が驚愕の声を洩らす。

当たり前だ。心意技を発動するのは、集中→投影のファクターが必要不可欠だ。熟練者になると、戦闘の最中でも集中ができるようになるが、今のレンの心意はそれと同じ次元ではない。

その二つの重要なファクターのうちの集中を抜いているような速度。そんなことはありえない。

「今回のにーちゃんたちの教訓は《窮鼠猫を噛む》、かな?追い詰められた鼠は猫をも噛む。だけどこれには別の見方もある。《追い詰められた鼠は、自分の身に猫をも凌駕する力があることを知る》、という風にね。ま、にーちゃん達に次回はないんだけど……」

レンの言葉が終わると同時にヴン、という小さな音とともに二つ目の黒球がレンの右肩の上に出現した。

それをゆっくりと見回し、レンは呟くように言う。

「新しい攻撃プログラムを構築した。これでお前等を────」

────を助けるのを邪魔する奴等は、すべからく死を。

その思いとともに、レンは言う。

「コロセル」




魔女狩(ソルシエール)残忍(ブルタール)




ボボッッッ!!!

避けるとか、避けられないとか、そういう次元ではなかった。

レンという名の紅衣のケットシーの双肩に浮かぶ、二つの黒球の形が突如として変形した。丸い球から、途轍もなく細長い漆黒の槍へと。

気が付いたら、リョロウとセイの身体はソレに貫かれていた。リョロウは右太腿。セイは左脇腹。

直後、灼熱の熱感が、それぞれの部位を貫く。

「がッ!!」

「くッ!!」

凄まじい痛覚が脳裏に瞬くが、しかし戦闘経験ならば常人の中でも飛び抜けている二人だ。

咄嗟にそれぞれの得物にありったけの心意を纏わせ、ソレを寸断する。

切断された本体ではない方は、空中に溶け去るように消え去る。

「リョロウッ!心意防御ッッ!!」

「わかってる!!」

怒鳴り返すように返事をしたリョロウは、すぐさま意識を己の深部へと向ける。口から自然に漏れ出る、力ある声。

「《神聖領域(セイクリッド・テリトリー)》ッッ!」

途端、両手のひらから溢れ出す蒼色の光の本流。それは見る間に形を変えると、二人の前方を守る円形の巨大な盾と化した。

それとほぼ同時に、ドシャッ!!という鈍い音とともに姿を変えた黒球が、真正面から激突した。

先程、容易くアバターの身体を打ち抜いたそれは、今度はリョロウの心意防御技に阻まれた。

内側から見ている光景は、何と言うのだろうか。例えるなら、透明なガラスに真っ黒な墨をぶちまけるのを内側から見ているような。何も手応えがない、そんな感じ。

受けたリョロウさえも、眉をひそめた。

「何だ……?手応えがない」

その時、セイはあることに気が付く。

二人の背後、リョロウの心意盾に阻まれて飛び散った黒球の欠片達が、不気味に蠢いているのを。

嫌な予感がした。

「リョロウッ!後ろっッ!!!」

「───────ッッッ!!?」

神速と言えるべき速度で振り向いたリョロウは、咄嗟に左手を突き出す。そこから光の波動が溢れ、空間に浸透してそれらの進路を防ぐ。

ゴガガガガガガガガガガガッッッッ!!!

マシンガンの発砲音のような衝突音が、断続的に響き渡る。

視界一杯が、墨をぶちまけられたように真っ黒に塗り潰される。

それを見ながらセイは言う。

「リョロウ、僕は………僕達は、ひょっとすると────」

端整で中性的な頬に冷や汗と呼ばれる液体を垂らしながら

「開いてはいけないモノを開けてしまったのかもしれない」

言った。

交錯する視線の向こうで、紅衣の少年が焼け爛れたように嗤った。 
 

 
後書き
なべさん「メリークリスマスイブー!始まりました、そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「そうか、もうメリークリスマスイブか」
なべさん「早いよねー。去年の今ごろなんてまだ33話でメリークリスマース!!とか叫んでたんだよ?」
レン「今も叫んでるがな」
なべさん「皆様、クリスマスはどのようにお過ごし……お過ご………お過ごされるんでしょうねぇ」
レン「その前にまず日本語の勉強をしろ」
なべさん「彼女と予定が入ってる?うふふ、手榴弾一ダースいかがですか?レッツ爆砕自殺♪」
レン「キャラが違うし読者を殺すな」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
── Merry Christmas Eve! and To be continued── 
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