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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手、説明を受ける

「ご静聴、ありがとうございました」

僕がそういって頭を下げると、四人とも拍手をしてくれた。これが嬉しいから、僕は歌を続けてる部分もある。

「普通に上手いな、歌」
「ありがとう、逆廻君。そういってもらえると嬉しい」
「本当に上手ね。小さいころからやっていたの?」
「まあ、一応そうなるのかな。いつから始めたのか覚えてないくらいだし」

 気がついたら、当たり前の日常になっていたのだ。

「・・・・・・」
「えっと、春日部さん?何か気になることでも?」
「・・・ううん、気のせいだと思うから」
「そう?ならいいけど・・・」

 勘違いの内容が気になって仕方ない・・・

「・・・さて、皆が落ち着いたところで、説明をお願いしてもいいかな、黒ウサギさん?」
「あ、はい。ありがとうございました」

 別にお礼を言われることでもないんだけどな~。

「では、改めまして。ようこそ、“箱庭の世界”へ!我々は皆さんにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただくために召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「YES!皆さんは普通の人間ではございません!その特異な力、たとえば、先ほど奏さんがやった、伴奏と歌を同時に行う力などですが、それらは様々な修羅神仏、悪魔、精霊、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を持つもの同士が競い合うゲーム、箱庭とは強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活するために作られたステージなのでございます!」

 まあ、これが普通の力じゃないってのは予想がついてたけど・・・またずいぶんとすごい存在から与えられたもんだな。

「まず初歩的なことから聞くけど、我々、というのは貴女を含む誰かなの?」
「YES!異世界から召喚されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多あるコミュニティの中のいずれかに属していただきます♪」
「断る」

 なぜそのタイミングで口を挟むんだ、逆廻君?

「属していただきます!」

 黒ウサギさんも必死になるな。

「そして『ギフトゲーム』の勝者は“主催者”の提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっています」
「・・・“主催者”ってだれ?」
「ゲームによって様々です。暇つぶしのために修羅神仏が試練と称して行うこともあれば、コミュニティが力を誇示するために開催することもあります。特徴として、前者は主催者が主催者なだけにハイリスクハイリターンとなります」
「どんな感じに?」

 これは僕の質問だ。その内容についてはちゃんと知っておかないと。

「そうですね。リスクとしてはゲームの内容が凶悪かつ難題であったり、命の危険もあります」

 予想以上に物騒だな。神様って人の味方のイメージがあったんだけど。

「ですが、それゆえに見返りも大きいです。主催者によっては新たなギフトを手にすることも可能です。ですが、そのような試練にチャレンジするためには参加者もチップを払う必要が出てきます。もし参加者が敗北したなら、それらは全て主催者側に寄贈されます」

 あんまり、軽率にゲームをするべきではないんだろうな。賭けと同じだ。

「また物騒ね。チップには何を?」
「その時に応じて様々なものがあります。金品、土地、利権、名誉、それに人間や己が身に宿す恩恵も可能です。ただし、この恩恵をかけてゲームを行う場合には、これもまたハイリスクハイリターンとなります」
「勝てば相手の恩恵を奪え、負ければ自分の才能が失われる、から?」
「その通りです。さて、他に質問はございますか?もしないのであれば、残りの説明は我々のコミュニティで行いたいのですが」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 今まで静聴していた逆廻君がそう言いながら立ち上がった。
 まだこの場で聴かないといけないことってあるのかな?

「・・・どういった質問でしょう?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「いや、そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ。そんなもんは聞いたところでどうしようもないんだからな。俺が聞きたいのは、手紙に書いてあったことだ」

 逆廻君は巨大な天幕に覆われた都市に向けて、何もかもを見下すような視線で一言、

「この世界は・・・・・・面白いか?」

そう、聞いた。
確かに、忘れていたけど一番重要なことだ。
 手紙には何もかもを捨てて箱庭に来い、と書いてあったのだから、それに見合うものがあるのか・・・それは聞かなければならない。
 そして、黒ウサギはその質問に対して、

「――――YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものだけが参加できる神魔の遊戯。この世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保障いたします♪」

 そう、自信たっぷりに答えるのだった。



♪♪♪



 さて、僕たちは今黒ウサギさんに連れられて箱庭に向かっているのだが・・・

「んじゃあ、ちょっと世界の果てを見に行ってくる」

 逆廻君が黒ウサギさんに聞こえない声量でそう言ってきた。
・・・何なんだこの問題児は・・・おとなしくしようって気はないのか・・・?

「いや、ちょっとじゃないでしょ?せめて黒ウサギさんに許可を取って、ムグッ!?」

 僕が逆廻君を説得しようとしていたら急に口をふさがれた。何故!?
 誰の仕業かと後ろを振り向くと、久遠さんだった。

「黒ウサギには言わないであげるから、どうぞ行ってらっしゃい」
「オウ、奏の説得も任せた!」

 そして、逆廻君はそのままものすごい速さで駆けて行った。
 とりあえず、話してほしいという意図をこめて久遠さんの腕をタップする。

「あ、ごめんなさい。あのままだと黒ウサギに知られてしまいそうだったから」
「それが目的だったんだけど・・・いいのかな?」
「大丈夫よ。なんとなくだけど、彼は殺されても死にそうにないもの」
「わかるけど、その言い方はどうなんだろう・・・」

 まあ、もう手遅れだしどうしようもないか。後で黒ウサギさんに謝ろう。



♪♪♪



「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 黒ウサギさんは石造りの階段に座っている少年を見つけるとそう声をかけた。
 あれがコミュニティとやらのメンバーなのかな?結構幼い子に見えるけど・・・

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」
「はいな、こちらの方々が・・・あれ?三人?」

 黒ウサギさんはクルリと振り返り、数を数えるとカチンと固まった。

「・・・あれ?もう一人いませんでした?こう目つきも口も悪くて、全身から問題児オーラを放っている殿方が」
「十六夜君なら、“ちょっと世界の果てを見に行ってくる”と言ってあっちのほうに駆けて行ったわ」
「な、なんで止めてくれなかったのですか!」
「“止めてくれるなよ”と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「嘘だ!久遠さんは当たり前のように送り出したし、春日部さんは無関心だったよね!?」

 何故そこで黒ウサギさんを弄り始めるんだ・・・

「奏さんも、知っていたなら教えてください!」
「ゴメン・・・久遠さんに止められた。後、僕が言えた事じゃないかもだけど・・・追いかけたほうがよくないかな?逆廻君が向かったほうからは初めて聞く鳴き声とか聞こえるし・・・」
「そうでした!世界の果て付近にはゲームのために放し飼いにされた幻獣がいます!このままでは十六夜さんが幻獣のギフトゲームに!」
「幻獣?」

 あ、春日部さんの目が輝いてる。動物が好きなのかな?

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉なのですが・・・今はそれを説明している時間がありません!申し訳ありませんが、ジン坊ちゃん。黒ウサギは十六夜さんを連れてきますので、皆さんの案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「分かった。よろしくね、黒ウサギ」
「YES!箱庭の貴族と謳われるウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」

 黒ウサギさんは髪の色を淡い緋色にして先ほど久遠さんが指した方向へと跳んでいった。
 感情に髪の色は左右されるのかな?今も怒ってたみたいだし。

「ええと・・・簡単に自己紹介をさせてもらってもいいでしょうか?」
「うん、君は?」
「あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」
「ええ、よろしくジン君。わたしは久遠飛鳥よ。そっちの猫を連れてるのが」
「春日部耀」
「で、僕は天歌奏。これからよろしくね、ジン君」

 この歳でここまでしっかりとしてるのか・・・すごいな。
 でも、そんな環境にいたってことだし・・・黒ウサギの焦りようから考えると・・・いや、考えるのはよそう。何らかの機会で聞けるだろうし。

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね、軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 久遠さんがそう言いながらジン君の手を取って、何かを楽しみにする笑顔で箱庭の外門をくぐっていった。

「春日部さん、僕たちも行こうか?」
「うん・・・行こう」

 それを追うようにして、僕たち二人と一匹も外門をくぐっていった。
 
 

 
後書き
こんな感じになりました。


次回はエセ紳士が出てくる予定です。


それと、言い忘れていましたがこの作品はヒロイン未定ですのであしからず。


では、感想、意見、誤字脱字待ってます。 
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