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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第16話 「俺の名は左慈。管理者だ」

 
前書き
すいません。水曜あたりから風邪引いてまして、どうにも調子が出ません。
今回短いです。ぶっちゃけまにあいませんでした。ごめんなさい。
それでも5000字超えてるみたいですね……ちょっとびっくり。 

 




  ―― 盾二 side 貢嘎(コンカ)山 八合目 ――




 寒い……
 体が凍える……
 体の芯が、凍結していく……

 息も苦しく、吸うごとに脳髄まで凍るような感覚。
 指先の神経は、AMスーツというパワーフィールドに覆われているにもかかわらず、驚くほどに感覚がない。

 絶対零度のような空気に、眼球すら凍結しそうな吹雪の中。
 崖を登り切った俺の目の前に、ようやく一息入れられそうな盆地を見つけることができた。

 九死に一生……まさにその言葉が、俺の疲れ果てた脳裏に浮かぶ。

 すでにAMスーツの力を発揮しなければ物をもつかめないほど憔悴した俺が、雪でかまくらを作り、その中で焚き火を作った頃には、すでに三十分近くの時が過ぎていた。

 目の前で小さな焚き火が、ちろちろと頼りない明かりを灯し、俺の命をつなぐ。
 ともすれば、今にも目を閉じて気絶しそうな自分を必死に繋ぎ止めて、俺は保存食であるクッキーを口へと入れた。

 氷ついたクッキーは、口に入れるとその熱を奪っていく。
 だが、まぶした砂糖は、脳に力を与えてくれた。

 一時間近く体力の回復に努め、ようやく起き上がると、本日初めての発言が漏れる。

「……山、舐めちゃダメだわ」

 時間の感覚すらも、もはや希薄なこの状況。
 この山を登りだして、すでに七日は経っただろうか?

 世界屈指の堅峰というのは伊達ではない。
 富士山なら丸一日もあれば自力で登頂もできるだろう。
 そしてエベレストでも高度順応さえしっかりすれば、十日程度で往復も可能なはずだ。

 だが、この山は……

(近代でも魔の山と呼ばれるミニヤコンカ……せめて近代装備があればな)

 自作したロープもピッケルも、アイゼンもすでにボロボロ。
 防水加工のAMスーツはともかく、顔を覆う手製のマスクは予備も含めて、ビチャビチャで、すでに防寒具としての機能はない。

(せめて瞬着があれば……ハーケンが打ち込めないほどの岩盤に貼り付けるとか方法はいくらでも……)

 体の体温調節はAMスーツで守られるとはいえ、顔はすでにひどい凍傷になっている。
 唇は乾き、頬の皮膚は凍りつき、歯を鳴らすことさえ筋肉が拒絶する。

 実際、AMスーツがなければ俺は確実に死んでいる。
 外気温は、すでにマイナス三十度といったところだろうか?
 バナナで釘が打てる温度が、マイナス三十五度から四十度と言われるぐらいだ。

 そんな中でも常時パワーフィールドに守られる首から下の温度は二十度前後に保たれている。
 だが、それも生体電気とサイコエネルギーが切れれば効果はなくなる。

 もっとも、その二つが切れるときは俺が死んだ時なのだが。

(温度もそうだが……この酸素の薄さもきついよな。訓練を受けているとはいえ……)

 低酸素濃度下での訓練は、必須で受けている。
 スプリガンは、その性質上、山奥や谷底、深海など人が入り込めないような場所に行くことがほとんどだ。

 ゆえに俺達のような装備を与えられているスプリガンは、その殆どが危険な場所への探索任務につく。
 初代AMスーツ使用者の御神苗優先輩は、全世界を飛び回って山だろうが森だろうが制覇しているし、大槻とて深海や宇宙まで行っている。

 だから様々な特殊訓練も受けているし、そういった資格もあるが……
 さすがに今回はきつい。

 ここ一年、普通の場所で普通に戦い、おまけに数ヶ月前は自室に篭って基礎体力以外は全部政務に当てていた。
 有り体に言えば、(なま)っているのだ。

(こんな時、ティアさんがいればな……魔術でどうとでもしてくれそう……いや、してくれんな。あの人意外にサドだし)

 本人がいれば、おしおきに式神をけしかけられそうな気もするが……
 そんな益体もないことを、目の前で弱々しく燃える燈火(ともしび)を見ながら考えている。

(俺……なんで、こんなこと……してい……だっ……け……)

 その瞼が、重く……





『寝たら死ぬわよん! アタシの体で暖めてア・ゲ・ル♪』




「ギャーッ!?」

 思わず叫んで飛び起きる。
 しかもその拍子に、かまくらを突き破ってしまい、風よけのかまくらが見事に潰れる。

「ぺっぺっ……あ、あれ?」

 雪から這い出ると、すでに吹雪は去っており、見事な朝焼けが東の空から登っているのが見える。
 どうやら気づかぬうちに、気を失っていたようだ。

(あ、危ない危ない……)

 俺は周囲を探って、雪の中から荷物を取り出すと、再びそれを背負った。
 そして朝日を拝みつつ、呟く。

「……なんかこの世のものとは思えない、とんでもないものを見た気がする」

 覚えていない悪夢に吐き気を覚えつつ、山の頂上を見ようとして……

「あ……」

 その目の前に、昨日は全く見えなかった洞窟を発見して、俺は荷物を取り落とした。




  * * * * *




「……ここか」

 そう呟く俺は、よろよろと洞窟の中に入って、不意に気づく。

(……!? 外からの冷気が入って来ない、だと?)

 洞窟の中と外。
 その境目から気温が激変したことを、顔の肌で感じる。

 空気は、日陰特有の若干湿り気を帯びた感じはあるものの、外と内とでは濃度自体が違う。
 常に過呼吸を強いられていた外界と違い、この中は地上と何ら変わらぬ濃度に、俺は濃い酸素をむさぼるように吸うと、その場に仰向けになった。

(く、空気が……酸素がこんなにうまいなんて……)

 七日ぶりの地上の空気。
 過呼吸になり気味な肺をコントロールしつつ身体を休める。
 久々に何も考えずに仮眠して、体調を整えること二時間ほど。

 ようやく手足の感覚も、元に戻りつつあることを確認し、起き上がった。
 凍りついていた麻袋も、すでに溶けてビシャビシャだった。
 その中から、溶けた玄米をポリポリと食べる。

(こんなに溶けて水浸しでは、もう保存も効かないな……帰りはどうするか)

 正直、残りのクッキーだけで山を降りることはキツイかもしれない。
 俺は洞窟の奥――暗闇の先へと目を向ける。

「鬼が出るか、蛇がでるか……」

 俺は、腰のナイフを確認しつつ、奥へと探索する。
 だが、洞窟内部の折れ曲がった場所を覗くと――

「……ん? もういいのか?」
「……は?」

 その場には、一人の男が仁王立ちしていた。
 それも、曲がり角のすぐ先で。

「……………………………………」
「………………………………え、えーと?」

 お互い無言のまま。
 思わず呆けた俺が、トボけた問いかけをしてしまう。

 だってそうだろう。
 俺はこの洞窟に入り、二時間ほども仰向けになっていたのだ。
 その前は、この洞窟の前でかまくらを作ってビバークもしていた。

 ゆえに、こいつがずっとここにいたのなら、半日近くもの間、こいつはここで俺を見ていたということになる。

 声すらかけずに。

 ……………………なんか、自分で整理して無性に腹が立った。

「……………………」
「あの……あんた、だれ?」

 仁王立ちしている男は、俺の問いかけに胡乱げに俺を見ながら首を傾げる。
 男は、この雪山でも軽装な風体で、立ち尽くしている。
 ローブのようなものを羽織っているが、どう見ても雪山にいるような風体には見えない

「俺が誰、だと? お前……于吉から何も聞いていないのか?」
「は?」

 男の言葉に、俺は間の抜けた返答をする。

「いや、俺は于吉に『山の八合目付近にある巨大洞窟の中まで辿り着ければ、そこに賢者の石がある。そこに辿り着けるかが試練だ』としか……」
「…………っんの、メガネ衆道家め。俺に全部押し付けたのか!」

 俺の言葉に、怒りを顕にする男。
 いや、俺に怒られてもな……

「ちっ……まあいい。その状態じゃ万全に戦うこともできんだろう。ついてこい」

 そう言って奥へと歩いていく男。

「ちょ、ちょとまってくれ! あんた、一体誰だ!?」
「む? ああ、それすら聞いていないのか……ったく」

 立ち止まり、盛大に溜息をつく男。
 なにそれ、俺が悪いのか?

「俺の名は左慈。管理者だ」




  ―― other side ??? ――




「な……!?」

 盾二が驚嘆の声を上げる。
 洞窟を歩き、その出口に出た盾二が見た光景は、想像を絶していた。

 周囲は空中に浮かぶ岩岩。
 その巨大な岩の間に、いくつもの通路がかかっており、広い岩の上には館すら立っている。
 その他、広間、庭園、森、家畜小屋、畑や果樹園などもあり、まるでどこかの山林の豪邸のようだった。

 それらが空中に浮かびながら、そこにあったのである。

「こ、これは……異空間か?」
「ほう……察しがいいな。ここは仙人界だ。お前の世界の産物なのだから聞いたことぐらいはあるのだろう?」

 そう言う左慈に、はっとして凝視する盾二。

「……そうか、管理者は仙人……朧が目指したもの、か」
「俺達は本来、別のところにいたんだが、ここが気に入ってな。しばらく前からここを使わせてもらっている」
「あの世界の産物……そうか、大槻が変な空間(ばしょ)で朧と立ち会ったと言っていたのは……ここのことか」

 周囲を見ると、巨大な岩の上から滝のように流れる水が、雲海を川のように流れて各岩の合間を循環している。
 竹藪や森から顔を出した鹿が、こちらに気づき、岩を飛び出して空中を走り、別の岩へと飛び去っていった。

 もはや常識など通じない光景が、盾二の前に広がっている。

「まてよ……ということは、この世界由来の仙人もいるってことじゃ……」
「ああ、いるぞ。だが、大抵は管理者になるか、さらに解脱(げだつ)をして魂魄(こんぱく)となるから、ここにはいないがな」

 そう言って、左慈は川縁へ降り立ち、身を屈める。
 腰につけてた竹筒に川の水を入れて、盾二に放った。
 不意に投げられた竹筒に、慌てる盾二。

「ととっ……?」
「飲め。それで身体の疲れも不調も治る。治ったら死合うぞ」
「しあ……なんでだ?」

 竹筒を眺めつつ、首を傾げる盾二の言葉に、いらいらとして頭を掻く左慈。

「あいかわらずまどろっこしいのは、北郷一刀と同じだな。貴様は、なんのためにここに来たんだ」

 左慈の言葉に、水の味を確かめるように口に含んだ盾二が、竹筒から口を離す。

「……いや、それはわかるが。それと死合うことがわからん」
「……はあ。では、はっきり言ってやる。お前が求める賢者の石を護る番人は俺だ。だから俺を倒さなければ、賢者の石はやれない。これでいいだろう?」

 そう言って左慈は、ついて来いと歩き出す。
 盾二は少しの間逡巡する。
 しかし、やむなしと首を振り、竹筒の水を飲みながら左慈の後を追う。

 しばらく歩き、長い階段を登ると、岩の上に開けた広間へと出る。
 周囲を見渡しても円形状の石畳の間で、およそ四、五十m程度の広さがあった。

 縁の欄干には申し訳程度の柵があるが、その先は断崖絶壁で、下がどうなっているのか全く見えない。
 石を落としても音すら届かないであろう上空にいることは、容易に想像できた。

「ここは……?」
「武舞台みたいなもんだ。ここで死合うぞ。水は飲んだか?」
「……ああ」

 そう言って、盾二は左慈に空の竹筒を投げる。
 そして、腕や足の柔軟をすると感心したように息を吐いた。

「まるで仙○だな……体の不調が嘘のようだ」
「一応、不老長寿の水だからな。飲めば病はもとより、肉体欠損すら治るらしい。試したことはないが」
「……試してないのにわかるのか?」
「于吉が言っていた。あいつはどうしようもないやつだが、嘘はいわん」

 信頼しているのか、馬鹿にしているのか……盾二にはよくわからなかった。
 だが、身体の調子はすこぶる良くなっていることだけは確かだ。

「さて、前もって言っておく。俺は真剣勝負が好きだ。だから本気でいく。死んでも文句言うなよ」

 その言葉に、盾二が呆れた声を出す。

「……まあ、番人として力試しなら当然だが、そこは死にたくなければ~じゃないのか?」
「俺は于吉程、達観しているわけじゃないんでな。恨み募る北郷一刀……その同存在のお前相手に、手加減する気はない」
「どんだけ嫌われてるんだ、一刀のやつは……」

 嘆息しつつも、AMスーツを整え、力を込める。
 バンッ、という音とともに、人工筋肉が肥大化する。

「噂のAMスーツか……そいつのことは、于吉から聞いている。その戦い方もな……」

 左慈は、暗にAMスーツ無効化の拳『浸透撃』をほのめかす。
 それは朧が得意とし、御神苗優や大槻を散々傷めつけた、AMスーツ使いのスプリガン殺しの技だった。

「ああ、やっぱり……仙人だもんな。当然、使うよなあ……怖い怖い」
「徒手空拳でいいのか? 別にナイフ使ってもいいんだぞ?」
「いや……ナイフってやつは、殺傷力はあってもその分、手数が限られるしな。なまじ武器に頼るとすぐやられるんだよ……朧で実感した」
「朧……お前らの世界の仙人か。では、そいつに負けるわけにはいかんな」
「見たこともない相手に対抗心を出さないでくれよ……」

 互いに軽口を言い合うが、目と殺気だけは徐々に鋭くなってゆく。
 じりじりとした、すり足で間合いを詰めること数十秒。

 双方ともに軽口はなくなり、その間合いが触れ合う瞬間。
 互いの目が鋭く光る。

 死闘が、始まった。
 
 

 
後書き
お詫びというかなんというか……以前からプロットだけは練っていた新シリーズ、第1話がほぼ書き上がりました。
近いうちに公開したいと思います。 
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