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フィガロの結婚

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28部分:第三幕その五


第三幕その五

「しかもわしの右手には」
「右手には?」
「絵文字があるとか?」
「何でわかったのだ?」
 フィガロも今の二人の言葉には目を丸くさせた。
「そのことが。どうして」
「間違いないわ」
「若しかしたら」
 マルチェリーナとバルトロはここで顔を見合わせた。
「フィガロは私達も」
「うむ、間違いない」
「わしがあんた達の何だというのだ?」
「もう一つ聞くが」
 バルトロは真顔になってフィガロに対して問うてきた。
「盗人共が御前を盗んだのは何処だ?」
「お城の近くらしいが」
「やっぱりだ。間違いない」
「そうね」
 また顔を見合わせる二人だった。
「わし等の子供だ」
「ラファエロよ」
「ラファエロ!?」
 これまた周りにはさっぱりわからないことであった。
「誰だ、それは」
「聞いたこともない名前だが」
 伯爵もフィガロも首を捻る。しかしここでバルトロがマルチェリーナを指し示しながらフィガロに対して言うのだった。
「驚くなよ」
「あんたの顔の方が驚いてるんだが?」
「違う。あのな」
「ああ」
「御前の母さんだ」
 マルチェリーナを指差しての言葉であった。
「これがな」
「何の冗談だ?」
「冗談ではない」
 真顔でフィガロに告げる。
「それでこの人が」
 今度はマルチェリーナがバルトロを指差してフィガロに告げる。
「あんたのお父さんよ」
「何っ!?」
「嘘だ!」
 これにはフィガロだけでなく伯爵とクルツィオも唖然となった。
「何でそうなるんだ!?」
「両親がここで!?」
「そういえばだ」
 伯爵はここであることを思い出したのだった。
「この二人は夫婦だった」
「そうだったんですか」
「そうだ、かつてはな」
 クルツィオに対しても話す。
「しかし。今こうして息子が出て来るとは」
「しかもそれがフィガロとは」
「思いも寄らなかった」
 伯爵ですらそうであった。
「全く。何ということだ」
「まさかこんなところで出会うなんて」
「嘘みたい・・・・・・」
 バルトロとマルチェリーナもやはり唖然としている。しかしその目からは嬉し涙が溢れ出てきていた。
「息子に出会えるとはな」
「フィガロがラファエロだったなんて・・・・・・」
「お父さんにお母さん・・・・・・」
 フィガロもまた呆然としていた。
「ここで出会えるなんて・・・・・・」
 三人で静かに抱き合いはじめた。衝撃の感動の再会であった。
 クルツィオはこの光景を温かい目で見ていた。そうして伯爵に顔を向けて告げるのだった。
「伯爵様」
「うむ」
「結婚のことですが」
「わかっている」
 この話になると憮然とした顔になるしかなかった。
「親子であるな」
「そうです」
「ならばこの話はなしだ」
 当然のことであった。
「幸せの再会なのだからな」
「その通りです」
 伯爵は忌々しげにこの場を去ろうとする。しかしここでスザンナが部屋に入って来て彼に財布を差し出したうえで言うのであった。
 
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