フィガロの結婚
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15部分:第二幕その七
第二幕その七
「どの扉にも鍵かけられてるし」
「けれど何とかしないと」
「もうすぐ伯爵が」
とにかくどうにかしなければならない。さしものスザンナも焦るばかりだった。しかしであった。ここでケルビーノが言うのだった。
「そうだっ」
「そうだ!?」
「逃げればいいんだ」
彼は言うのだ。
「逃げればいいんだよ」
「何言ってるのよ」
だがスザンナは彼の言葉に目を顰めさせる。
「扉は全部閉められているのに」
「扉が駄目なら窓があるよ」
しかし彼はこうスザンナに話す。
「窓がね」
「貴方まさか」
「そう、そのまさかさ」
早速窓の方に行く。そうしてそこから屋敷の庭を見下ろすのだった。エメラルドの芝生と様々な色彩の花が咲き誇っている実に美しい庭である。
「ここからね」
「逃げるというのね」
「うん。これなら」
「危ないわよ」
スザンナは今度は顔を顰めさせてケルビーノに告げた。
「そんなことしたら下手したら怪我じゃ」
「けれど見つかったら終わりじゃないか」
ケルビーノも必死の顔で言う。
「だったら」
「危ないわよ、だから」
「植木鉢に当たっても平気さ」
しかしケルビーノは彼女の話を聞こうとしない。
「だから。それっ」
「あっ!」
こうしてすぐに飛び降りた。スザンナは慌ててバルコニーの方に向かう。すると彼はもう庭の遥か彼方に行ってしまっていたのだった。
「何て早いの。けれどこれで」
助かったと思った。するとここで正面の扉の鍵が開く音がしてそこから伯爵と伯爵夫人が入って来たのであった。
「あら、いけないわ」
スザンナは鍵の音がした時点ですぐに化粧室に飛び込んだ。そうして隠れるのだった。
彼女の姿は二人には見られなかった。伯爵は妻の方を見て言っていた。
「これでいよいよ」
「ですからお止め下さい」
化粧室の扉の前に来た夫をまだ止めようとしていた。
「それはいけません」
「だから何故だ?」
夫もその妻に対して問う。
「扉を開けてはならないのは」
「ですからスザンナが」
「そんなことはもうどうでもいい」
伯爵は遂に居直ってきた。
「この部屋の中に誰がいるのか確かめてやる」
「それは」
「言えぬのか?」
「貴方が疑いを持たれるような者ではありません」
必死にそう主張するのだった。
「今晩の余興に罪な悪戯を考えていまして」
「今宵の?」
「そうです」
正直に言ってしまおうかとも思えてきていたのだった。
「ですから。それは」
「それは誰だ」
だがそれは逆効果で彼は余計に興味を持ったのだった。
「やはりこれは」
「それは」
「申してみよ」
妻を見据えて問うのだった。
「それは一体誰だ?」
「男の子です」
「男の子というと」
「はい、ケルビーノです」
俯いて白状したのだった。
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