ローエングリン
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18部分:第三幕その三
第三幕その三
「それはやがてわかる」
「でも貴方のことは」
エルザはもう自分を止めることができなくなってしまっていた。
「貴方の出自は。貴方の御名前は」
「それを問うというのか?」
「はい」
頷く、遂に言ってしまったのだった。この言葉を聞いたその時だった。騎士の顔を絶望が支配しそれが永遠に留まってしまったかのようだった。
「遂に。言ってしまったか」
「遂に!?」
「我々の幸せは終わった」
騎士は絶望そのものの声を出した。
「最早。これで」
「あなた。それは」
「むっ!?」
そしてこの時だった。不意に部屋の戸口が開き黒い男達がやって来たのだった。
「まだ起きていたのか」
「伯爵・・・・・・」
「ならばよい。どのみち起きて勝負をしてもらうつもりだった」
テルラムントはもう剣を抜いていた。陰惨な顔で騎士を見据え言うのである。
「貴様を倒し。何者かを暴きわしは名誉を」
「くっ、無駄なことを」
「これをっ」
エルザが素早く動き騎士に彼自身の剣を差し出す。
「お使い下さい」
「わかった」
「行くぞっ!」
「来い、誰も私に勝てはしない」
騎士は剣を抜きテルラムントと対峙する。二人はすぐに斬り合いに入った。
だが勝負は一瞬で決した。テルラムントは胸を貫かれ倒れた。やはり彼とても騎士の敵ではなかったのだった。
「馬鹿な、このわしが二度までも」
「私は。神の御加護を受ける騎士」
騎士は今は沈痛な声になっていた。
「誰も勝てはしない」
「おのれ・・・・・・」
テルラムントは最後に呪詛の言葉を漏らして事切れた。彼の仲間のあの四人の貴族達もいたがテルラムントのあまりものあっけない死に呆然としていた。騎士はその四人に対して命じた。
「この男の亡骸を国王の法廷へ」
「はっ、はい」
「わかりました」
貴族達は雷に打たれたかのように応えテルラムントの骸を抱え姿を消した。騎士は表情がないままそれを見届けた後で部屋の鈴を鳴らした。するとすぐに二人の貴婦人が部屋にやって来た。エルザはその彼から顔を背けて項垂れてしまっていた。先程の騎士の幸福が失われたという言葉を聞いて以来そうなってしまっているのだった。
「明日ですが」
騎士はその二人の貴婦人に対して告げていた。
「皆様にお伝えしたいことがあります」
「明日ですね」
「はい、明日です」
こう告げて貴婦人達を見送り彼も何処かへと姿を消す。エルザは一人部屋で項垂れたままだった。顔は蒼ざめてしまいそのまま夜を過ごすのだった。
翌朝。王はあの川辺にまたドイツの騎士や貴族達を集めていた。彼自身は騎士が来た時と同じく老木を背に玉座に座っている。そこで貴族や騎士達の彼を讃える声を聞いていた。
「ハインリヒ王万歳!」
「ドイツ王国万歳!
ドイツを讃える声もする。それを満足した顔で聞きつつ言うのだった。
「ドイツにはどの地域にもこれだけの軍がある」
「はい、その通りです」
「我がドイツは常に我等が護っております」
「その通りだ。だからこそだ」
彼等の言葉を受けつつまた言うのである。
「東方のあの敵の為に」
「マジャールの為に」
「そうだ。剣を取るのだ」
やはり言うことはこれであった。
「誇り高きドイツの国土を護る為に」
「そう、ドイツの為に」
「我等が祖国の為に」
貴族達も騎士達も王に続く。
「今剣を取ろう」
「そしてマジャール達を倒すのだ」
「そしてだ」
王は彼等の言葉を受けつつここで述べた。
「あの騎士殿は何処か」
「あの方ですか」
「そう、あの方だ」
王は皆の言葉に対して頷く。
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