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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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ザイルくんの美しい思い出

 
前書き
 誰得な、ザイルくんの外伝。はじまるよ! 

 
 物心付いた時には、じいちゃんと一緒だった。
 ときどき物を届けにくるヤツはいても、それだけで。
 じいちゃんとふたりで、他に誰かがいたなんて、考えもせずに育った。

 それが変わったのは、少し大きくなって、ひとりでこっそり洞窟の住み処を抜け出して。
 洞窟からずっと東の――今思えばたいしたことない距離だが、そのときはすごく遠くに思えた――妖精の村に、行ったとき。

 最初に会ったいけ好かない妖精のヤツは、見慣れない子供のオレに、うさんくさい顔を隠しもしなかったけど。
 村のドワーフの大人はまぎれ込んできたオレのことも、ちゃんと扱ってくれた。

「もしかして、ザイルくんかい?西の洞窟の、じいさんとこの。大きくなったな!」
「じいちゃんとオレを、しってるの?」

 オレは、知らなかったのに。
 じいちゃんも、なにも言ってなかったのに。
 何度も抜け出して、色々探検してまわるうちにやっと、ここを見つけたのに。

「ああ。家出した娘さんが赤ん坊を連れて帰ってきて、すぐに亡くなったと聞いたときは、あんな場所でじいさんひとりで、育てられるもんかと思ったが。そのあともたまに届け物に行くヤツに、話は聞いていたけれども。いやいや、元気なようで良かったよ!」

 じいちゃんの、娘。
 そのときはよくわからなかったが、オレの母親にあたる人だと、あとで知った。


 オレは洞窟に帰ると、すぐにじいちゃんを問いつめた。
 村のことを、なんで教えてくれなかったのか。
 あんないいところがあるのに、なんでオレたちは、こんなところに住んでいるのか。
 オレたちのほかにも、ここに誰かがいたのか。

 ため息をつきながらじいちゃんが言ったのは、昔、妖精の村に住んでいたこと。
 元々は妖精だけが住んでいたその村に、ドワーフも置いてもらえるようになって、その恩を返そうと研究に励んでいたこと。
 その甲斐あって新しい技術を見つけたが、そのせいで逆に、村を追われてしまったこと。
 村の便利な暮らしに慣れた娘は、早々にこの洞窟での生活に音を上げ、出ていってしまったこと。
 共に行こうと誘われたが、今さら外の世界でやり直す気も無く、ここに骨を埋めるつもりだったこと。

村長(むらおさ)様は、そうなさるしか無かったんじゃ。そうせねば、他の妖精たちの不満を、抑えることが出来なかったからの。娘を巻き込んだのはすまなんだが、わしひとりが出ていけば済むなら、わしはそれで良かったんじゃ」

 じいちゃんは、そうも言ったけど。
 オレは、納得できなかった。

 村のために頑張ってたじいちゃんが、なんで追い出されないといけない?
 なんで、オレはこんなところにいる?
 本当なら母親という人と一緒で、じいちゃんも一緒に。村で、幸せに暮らしてたはずじゃなかったのか。
 むらおさとかいうヤツが、じいちゃんを追い出しさえしなければ。

 オレはそのあとも何度も村に入り込み、オレと同じくらいの子供が両親と幸せそうにしてるのを、胸が痛くなるような思いで見ながら。
 とうとうむらおさが、ポワンというヤツだと突き止めた。


 その日、洞窟に帰るとオレはじいちゃんに言った。

「じいちゃん。じいちゃんはこれでいいって言うけど、オレはそんなのはイヤだ。じいちゃんがやらないって言うなら、オレがかわりに復讐してやる。じいちゃんを追い出した、むらおさのポワンに。オレが、思い知らせてやる!」

 じいちゃんは顔色を変えて、オレを怒鳴りつけた。

「お前は、何を言っているんじゃ!言うに事欠いて、ポワン様に、復讐するなどと!あの方はドワーフどころか、人間や魔物といった他の生き物にも広く門戸を開く、素晴らしいお方じゃ!そもそもわしを追い出したのは、ポワン様では無いんじゃ。良いか、馬鹿な考えは捨てるんじゃ。もう少しポワン様の統治が落ち着いて、お前が望むなら、村に住むことも出来ようて」

 今さらオレを誤魔化そうったって、そうはいかない。
 むらおさに追い出されたというじいちゃんの話を、オレはしっかり覚えてる。
 そのむらおさがポワンだっていうのも、しっかり調べて突き止めた。
 そんなヤツが偉ぶってる村に、今さら頼まれたって、住んでなんかやるもんか!

 考えを曲げようとしないオレに、じいちゃんはそのあとも何度も言い聞かせようとしてきたが、オレはどうすればポワンと妖精のヤツらに思い知らせてやれるか。それだけ、考えていた。


 そんな、ある日。

 あのひとに、会った。


 美しい、ひとだった。
 村のいけ好かない妖精のヤツらとも、ドワーフの女のひととも違う、銀色の髪と瞳、白い肌の。
 妖精のヤツらが、オレが近くを通るとイヤな顔をしやがるみたいに、オレを近づかせたがらないようで。
 それでいて、寂しそうな。

 雪の上にひとりで立っていたそのひとに、声をかけようか、イヤな顔をされるんじゃないかとまごついてるオレに、そのひとのほうから声をかけてきた。

「……私は、雪の女王」

 女王様ってのは、聞いたことがある。
 村のドワーフの大人がものを知らないオレに、話して聞かせてくれた。
 世界のどこかには、王様とか女王様とかいう、偉いひとがいるらしい。
 きれいな服を着て、城っていうきれいな建物で暮らしてる、国っていう大きなところで一番偉い、生まれつきの特別なひとたち。

 あんな村なんかで偉ぶってるむらおさのポワンなんかとは、きっとものが違うんだ。
 それなら、村のヤツらなんかとは違ってあたりまえだ。

 そんなことを思い出して納得するオレから目をそらし、雪の女王様は言った。

「……冬は、いい。全てを、雪が覆い隠してくれる。……そう、全てを」

 オレを近づけたくないんじゃないかなんて、少しでも思ったのがウソみたいに。
 そのひとは、すごく、寂しそうに見えた。

「……だから、私は、妖精が憎い。春などを呼んで、この白く美しい、冷え切った世界を、醜い生命の営みで満たしてしまうもの。……お前も、妖精が憎いのでしょう?」

 女王様の言ってることは、むずかしくてオレにはよくわからなかったが、最後はわかった。
 たしかにオレは、妖精が憎い。
 なんでこのひとは、知ってるんだろう。

 オレがそう思ったのが伝わったみたいに、雪の女王様が笑う。

「お前と私は、同じ。同じ苦しみと、孤独を抱える者。誰にも理解されない、憎しみ、苛立ち、怒り。ぶつける場所は、あるのでしょう?ぶつける方法を、知りたくは無い?」

 そうだ。
 じいちゃんでさえ、わかってはくれなかった。
 それを、このひとはわかると言うのか?
 このひとも、オレと同じだと?

 雪の女王様は笑顔のまま、見つめていたら吸い込まれそうな、美しい笑顔のまま。
 いや、よりいっそう美しく笑って、オレに手を差し出す。

「おいで。私が、教えてあげよう。お前の怒りを、ぶつける方法も。孤独を癒す、方法も。私たちは、同じなのだから」

 今までオレに、こんなにやさしく笑ってくれる女のひとは、いなかった。
 こんなに美しいひとは、知らなかった。
 そのひとが、なぜか今、オレに手を差し出している。
 なぜ?
 ……オレたちが、同じだから。

 オレにはそのひとの誘いに逆らう力も、理由もなく。
 迷いなく、その手を、取った。 
 

 
後書き
 続きます。
 誰得とか言いつつ、続きます。 
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