真剣で覇王に恋しなさい!
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第19話
模擬戦復活。
その知らせはあっという間に学校中を駆け巡り、すぐに六つのチームが結成される運びとなった。
まず最初に設立されたのが源氏軍、覇王軍、そして九鬼軍である。
源氏軍の設立は、源氏の三人組が揃っている以上は最も注目される――いわゆる模擬戦においてのアイドルのようなもの。
覇王軍の設立は、覇王である項羽が学園制圧を宣言してはばからない為、まず参加しない理由が見当たらない。
そして九鬼軍の設立も、世界に名高い九鬼財閥の九鬼英雄が大将となっている時点で当然の事である。
さて、本来ならここでもう一軍ほど名が挙がっていなければおかしいのだが、その軍の大将が参加を表明したのは順番としては最後であるために後回しにする。
残る軍は、武蔵軍、松永軍、そして最後に劉邦軍。
一年生ながら非常に高い野心を持つ武蔵小杉の武蔵軍。
何やら色々と思惑を隠し持っている松永燕の松永軍。
そして参加しろと言われているにも関わらず、ギリギリ滑り込むように六番目に参加表明したのが、劉邦軍。
参加しろと言われていたにもかかわらず、わざわざ最後まで参加表明を遅らせたのは何の意味があるのか。
最初の一名を除いた人材の勧誘は、模擬戦開始が告げられた本日16時から。
大将達が様々な思惑を胸に抱き、模擬戦の名を借りた大いなる戦いが始まろうとしていた。
***
~劉邦軍 戦略フェイズ~
15時30分、薄暗い校舎裏にて
そこで劉邦は自分の副将となる人物に勧誘を行っていた。
「お、俺に!?」
「うむ。我が軍の副将を任せたい」
「参加表明が間に合わなかった俺には願ってもねぇ話だけどよ、なんで俺?」
選んだ相手は、劉邦の気が狂ったとでも思われかねない人物。
知ってるにしても2-Fのカメラ小僧くらいにしか知られていないはずの福本育郎だった。
「うむ。確かに……他の軍が選んだ副将に比べたら何故と思われるかもしれん。だが! 貴様には俺に無い人脈がある!」
「な、何!?」
「フフハハハ、バレていないと思ったか童帝とやら。魍魎の宴とやらを組織している事は知っているぞ。そしてお前がそこのトップだという事もな」
どこからどうやって知ったのか。
それは劉邦がまだ目覚めていない頃、柳司は学園の色々なところを見て回って邪気を感じた場所に潜入した事もあるからなのだが、そんな事を育郎の方は知る由も無い。
更に言うならわざとギリギリまで参加表明をしなかったのも、『参加表明して大将になろうとしてなれなかった人物』を探し出すためであったのだが、それに気づいている人物なんてたぶん誰もいないだろう。
しかし育郎は不安になるでもなく、むしろ開き直って口を開いた。
「へっ、それを口にしてどうする気だよ」
「別に何も?」
「え?」
「俺はお前にもっと自信を持ってもらおうと思っただけさ。俺の片腕に足るという自信をな。それだけの組織を持つというのは並大抵の事ではないのだぞ?」
そう言って育郎を褒める劉邦。
実際、魍魎の宴で多くの者の上に立つ育郎にはカリスマがあった。それは歪なものかもしれないが、カリスマである事には違いない。
「正直言ってな。劉邦という名だけで集めるには限界がある。しかしそこにお前の人脈が加わればまさに万全! 覇王? そんなもん一回俺様に負けた雑魚ってものさ」
「おおおお! じゃあ柳司先輩は……」
「当然優勝が見えている。お前が仲間に加わればもはや勝ったも同然よ。どうだ? 俺の誘いに乗るか?」
そう言って、育郎に手を差し伸べる劉邦。
育郎はその手をすぐに握り締めた。
「よっしゃあ! こういう機会を待ってたんだ! 俺はやるぜ!」
「その意気だ! さぁ根回しといくぞ!」
そんな事を言って携帯電話を取り出す劉邦。
しかしそんな彼を見て、意外にもちゃんとルール覚えていた育郎がツッコミを入れた。
「おぉぉい!? 劉邦がそんな事していいのかよ!」
「何? 当然いいに決まっている。清濁併せ持ってこそ真の王なのだぞ? だいたい、俺は勧誘するわけじゃあない。俺が軍を立ち上げたという事を知り合いに連絡するだけだ」
「あぁ、なるほど……じゃあ俺も俺の知り合いに劉邦軍の副将になったって連絡する事にするぜ!」
屁理屈紛いのことを言う劉邦だったが、むしろ育郎としてはその部分にアウトロー的な共感を得たらしい。
そうして二人は、それから勧誘タイムギリギリまで知り合いに電話を掛けまくるのであった。
「あ、言い忘れてたが俺は優勝商品に興味ないから、俺の分はお前にやるからな」
「マジで!?」
「ついでに今度お前が満足できるような九鬼メイドとかの撮影会をセッティングしてやる。粉骨砕身の気持ちでがんばってくれ」
「よっしゃあああああ! こりゃもう勝つしかねぇぜ!」
「うむ。気合が入ったようで実に結構」
***
そして16時の勧誘開始タイムからしばらく後。
各軍の大将の元にはぞくぞくとその兵となる生徒たちが集まっていた。
校舎裏に陣取る劉邦と育郎の元にも、かなり多くの生徒たちが集まっている。
その数はおよそ130ほどである。
「流石に、九鬼や源氏の軍程には集まらんか」
既に耳に入ってきた情報では、九鬼の軍は180人の定員を越す人数を集めたと伝わってきているし、源氏軍もまた180人の定員に達したという情報がある。
一度に戦いに参加できる上限は150人であるわけだが、負傷していき人数が減る事を考えると、多ければ多いほどに有利である。
「どーする大将。俺が呼べる奴は全部呼んじまったぜ」
「ふ、慌てるな我が将。数が全てというわけではない。何よりも大事なのは士気だ。……さて、そろそろ声を掛けるとしよう」
そう言った劉邦は、ざわざわと騒ぐ生徒たちの前に立った。
彼はその長身で生徒たちを見渡しながら口を開いた。
「よくぞ集まってくれた! 仲間たちよ! 俺は心からお前らを歓迎するぞ!」
大きく腕を広げてよく通る声で言い放った劉邦に、そこにいた生徒たちの注目が集まった。
ここに集まった生徒たちには、所謂アウトロー、はみ出し者、変態などの個性溢れる者たちが多い。
それに加えて、劉邦の名に集まった者や童帝である福本育郎に恩のある者たちがいた。
なぜそういう奴らが集まったのかといえば、劉邦と育郎がそういう連中が集まるように仕向けたからだ。
理由は、その方が面白いし、やり易いから。
「正直言って俺の事を劉邦とか名乗ってるし特別なんじゃね? みたいな事を思ってる奴はいると思う! だが気にするな! 確かに俺は劉邦だが呼びやすいように呼んでいい! ボスでも大将でも好きにしろ! ついでにタメ口でも一向に構わんぞ!」
とりあえず運営をやり易くするために、劉邦はそんな事を言い放った。
育郎が大将ならばこんな事を言う必要も無いだろうが、劉邦というよく知らない人物が大将なら、まずはそれに対する壁を取り払う事が必要だと彼は思ったのだ。
大将としての威厳、劉邦はそんなものは初めから必要としてはいなかった。
「聞け聞け皆の衆! しかも俺たちの大将は模擬戦が終わったら九鬼関係者との合コン開いてくれるって約束してくれたぞおおおお!」
「「「うぉぉマジで!?」」」
「無論マジだ! この写真を見ろ!!」
そう言って育郎は懐から大量の写真をばら撒いた。
もちろん、劉邦が用意したものを事前に大量コピーしたものである。
その写真には、普段はガードが硬い上に実力も高くて写真が取れない九鬼の従者+αの姿が写っていた。
なんでも劉邦が、自分で交渉して写真を撮らせてもらったらしい。
ちなみに+αとは、緑の髪をツインテールにした正体不明の美少女の写真である。
なんにしても集まった生徒たちが気炎を上げるにはもってこいの材料だった。
「劉邦サイコォォォォォォォ!」
「一生ついていくぜえええええええええ!」
「俺を抱いてくれぇ! 尻なら貸すぞ!」
「いやそれはお断りで」
だいたいそんな具合に、集まった男たちのむさくるしい声が校舎裏に響き渡った。
合コンもそうだが、九鬼の従者の写真がタダで手に入った事もかなりテンションアップにつながった様だ。
その気風の良さに男色家な生徒も釣られたようだが、流石の劉邦もそこはきっちり断った。
一気に騒がしさが増した校舎裏だったが、そこで劉邦に声を掛けてきた生徒が一人いた。
「あ、ところで質問なんですけど」
「なんだ? 遠慮せずに言うがいい」
「なんでネットでの募集に変わり者とか変態募集とか書いてあったんです?」
「なんだ、そんな事でいいのか?」
ふふふと上機嫌に笑いながら、やたら
「実を言うと変態というのは強く生きている事だと俺は思うのだ。三大欲求の一つである性欲が強く現れている、それ即ち生命力が強い証だ」
「なるほど……ん? その話本当に――」
「ちなみに俺は『指フェチ』『脇フェチ』『うなじフェチ』と三拍子揃ってるし、他の性癖にもだいたい対応できるぞ。強気な女の長い髪とかいいかもしれん」
「さすが劉邦さん! そこに痺れる憧れるゥ!」
順応性が高すぎる劉邦に、ちょっと疑問を感じていた生徒もすぐに感銘を受けた。
それを聞いていた二人。
育郎に呼ばれてやってきた師岡卓也と島津岳人も
「ちょっとガクト、僕劉邦にすごい親近感が沸いてきたよ」
「俺もだぜ……やっぱ男の王様ってのはエロいのが当たり前なんだな」
こうして世の中の王様に対してだいぶ間違った認識を植え付けながらも、劉邦による人材勧誘は概ね成功に終わった。
「目的はなんでもいい! だがよ、どうせやるなら勝ちにいくんだ! 俺たちの絆パワーで他のチームの奴らに吠え面かかせて、満足してやろうじゃないか!」
「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」
*****
本編中でも重要な部分で説明をいれますが、念のためもう一度模擬戦のルールを書いておきます。
模擬戦のルール
・6チーム総当りで、同じチームとは2回当たる。
・人数は最高180人で一試合には150人ら出れる。
・外部からの助っ人は3人まで
・1シーズンの間に一生徒のチーム間の移籍は一回まで。
・模擬戦は月曜日と木曜日に行われる。
・模擬戦時には戦闘可能な生徒数が30人を割ったら負け。
・模擬戦時には本陣にある旗を倒されたら負け。
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