真剣で覇王に恋しなさい!
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第7話
昨夜、今日ばかりは徹夜させないと清楚に見張られていた俺はいつの間にか寝入っていて、結果として素晴らしい朝を迎える事ができた。
しかも一晩眠っている間に、昨日クリスから負ったダメージは完全に消え去ったらしい。日々の鍛錬の成果、丈夫な身体の賜物だろう。
そして俺は今日も、鍛錬、シャワー、朝食、登校という流れで学校に向かう事にした。
通学途中、多馬大橋で川神ファミリーと遭遇した。
俺は軽く挨拶した後、清楚の後ろで黙っていようとでも思っていたのだが、彼らはそんな俺へと話しかけてきた。
どうやらクリスと決闘した事は彼らの知る所となっていたらしく、その事についてばかりを聞かれてしまった。
「おはよう柳司先輩、その……昨日は自分の攻撃を避けなかったが、怪我は大丈夫だったのか?」
「あぁ。一晩経てば治るものだった。それなりに鍛えているからな」
「それはよかった。自分は怪我をしなかったから、少し気にしていたんだ」
クリスの言葉を聞いて俺も安心した。
限りなく怪我をさせずに無力化したつもりだったが、どうやらそれは成功していたようだ。
他の奴に比べて少しは親しいクリスと話していると、今度は川神一子が話しかけてきた。
「柳司先輩、クリに勝ったのよね?」
「一応はな」
「それじゃあ先輩、アタシとも戦ってくれない? きっといい勝負ができると思うわ!」
川神一子は俺を指差しながらそう言った。
昨日、彼女は確か薙刀を持って義経との決闘を順番待ちをしていたはずなので、きっと武器は薙刀なのだろう。
既にクリスと戦った以上、戦う事を拒み続ける意味はもうないが……
「まだしばらくは義経に決闘を挑む生徒が絶えないだろう。それが収まるまでは俺は戦わないつもりだ。昨日は特別だったがな」
俺はそう言って、川神一子との決闘を断った。
義経との決闘が続けられる以上は決闘場である第一グラウンドは使えない。だからといって昨日のように特別扱いで戦うというのは、どうにも気分が悪いのだ。
そのせいで随分と落ち込ませてしまったようだが、いつかは戦えるのだから待っていてくれ。
「うぅ……クリばっかりずるいわ」
「だいたい犬、お前は昨日義経に負けたばかりじゃないか。自分は義経とは戦っていないから比べる事はできないが、柳司先輩はお前がそう簡単に勝てる相手じゃないぞ」
「それ言うならクリだって先輩に負けたでしょ!」
「なにをー!」
不毛な争いを始めた二人から目を離し、俺は清楚の方に目を向けた。
俺が話しこんでいる間、清楚もまた話し続けていたようで、そこには嬉しそうにはしゃぐ清楚の姿があった。
その後、俺と清楚は風間ファミリーの面々と別れて学校へと向かう事にした。
一応、グループのリーダーである風間翔一と話した事とか、俺の戦闘スタイルを聞いて握手を求めてきた島津岳人と話した事とか、他にも色々あるのだが割愛する。
……別に、その後に清楚に促されて川神百代に謝罪をした事を思い出したくないからではない。ましてや、川神百代が清楚に向かってセクハラ発言をした事が気に食わないわけでもない。
そんなこんなでイライラしている登校直後の俺を、下駄箱のあたりで偶然会った与一は見てしまった。
「ぅおっ!? どうした柳司! 暴走寸前の眼になってんぞ!」
「……そうか? そう見えるか?」
「い、いいいやなんでもない。俺は先に行くからな! 組織の偵察に気を付けろよ!」
義経たちはいつもの三人で登校しているはずなのだが、どうしてか一人だけで走ってきた与一を、俺の顔は随分と怖がらせてしまったようだ。
やはり俺の悪人顔に更なる悪影響が出てしまっていたか。
それもこれもあのセクハラ武神のせいだ。間違いない。
「……ねぇ、柳司くん。本当に大丈夫?」
「なんでもない。平気だ」
「そう? じゃあ教室に行こっか」
「あぁ」
せめて清楚は怖がらせないようにしなければ。
ヒュームの言葉と日頃の鍛錬を思い出し、俺は心を鎮める事にした。
不機嫌を大っぴらにする事もできないとは、己の顔が恨めしい。
なんとも調子の悪い立ち上がりな朝になった。
しかし、そうして不機嫌だったのもほんの僅かな間だけだ。
今日は3-Sのみんなが俺達に歓迎会を開いてくれるのだとか。
それを聞いてから、俺はずっと上機嫌だった。清楚でもないが、鼻唄でも歌いだしたいくらいには。
「楽しみだね!」
「あぁ。本当に楽しみだ」
「柳司くんもしっかり笑顔に戻ったし、本当によかった」
別にそんなつもりは無いが、俺はマジな笑顔を晒していたらしい。
だが仕方が無い。
新しくできた仲間が、親睦を深めるために何かをしてくれる。それは今までになかった事だ。
「授業に身が入らなくなりそうだな」
「あはは。駄目だよ。ちゃんと真面目にね」
「あぁ、わかってる。でも楽しみだ!」
腹の底から込み上げてきた笑いを顔に浮かべ、俺は何故か顔を赤くした清楚に言葉を返した。
朝にあった忌まわしい出来事を、既に俺は忘れ去っていた。
そして放課後。
俺はもう場所はどこでも気にしない気分だったのだが、クラスメイト達はそれなりの場所を用意してくれたようだ。
学園内は場所を確保するのに時間がかかるという事で、町にある小さな会場の一つを借りたらしい。
「歓迎会といっても大したものではないが、こうも喜んでもらえるとこちらとしても感じ入るものがあるな。彼の期待には応えられたようだ」
「ありがとう、京極くん。柳司くんはあまり笑わないから……たぶん、本当に嬉しいんだと思う」
クラスメイト達に囲まれながらていると、会場の隅で何事かを話している清楚と京極が見えた。
話している内容まではわからなかったが、こっちを見て笑っている事だけはわかった。
確かに俺は普段とはかなり違った態度をしているが、そこまで可笑しな事はしていないと思うんだが。
……話しかけた女子生徒がみんな顔を赤くしている事を考えると、やっぱり変なのかもしれない。
「確かにそのようだな……だが、君も主賓の一人だ。遠慮せずに楽しむといい」
「……うん。それじゃあ私、柳司くんの所に行ってくるね」
この歓迎会が始まってからテンションが上がりっぱなしの俺は、近づいてきた清楚の手を引いて再びクラスメイトと話し始めた。
ちょっと強引だったかもしれないが、そうやって慌てた様子の清楚には大勢のクラスメイトが集まってきた。
みんながみんな、清楚や俺にフレンドリーに接してくれる。
本当に、素晴らしい仲間たちだ。
「なぁ、京極も一人で離れていないで混ざったらどうだ?」
「赤戸くんか……ああいった雰囲気は私には合わないよ」
しばらくしてから俺は、一人だけ少し離れた位置にいる京極に近づき、話しかけた。
歓迎会を企画するような性格には思えないが、その企画内容に大きく関わっているのは京極だろう。
俺はそう推測していた。
「そう言わないでくれ。俺は京極とも仲良くしていきたいと思っている」
「私と?」
「あぁ。クラス全員と仲良くなりたいと思うのはいけない事か?」
俺は京極に本心からの言葉を告げていた。
少し贅沢過ぎる頼みかもしれないが、それでも俺はそうなれればいいと思っている。
それを聞いた京極は、少し驚いたような笑顔で口を開いた。
「君は、随分と熱い人間だったようだな」
「そうなのか?」
「うむ。普段の君を見ているだけではわからなかっただろうが……そんな君が、自覚が無いとはいえ本来の自分を見せてくれたんだ。私もそんな友人の頼みを断るような人間ではないよ」
そう言って、京極はクラスメイトに囲まれている清楚の方へと歩いていった。
どうやら俺の言葉を聞き入れてくれたらしい。
それからはクラスの全員と色々な事を話し、メールアドレスなどの交換をして歓迎会は終了した。
本当に素晴らしい友達をたくさん持つ事ができた。
俺は改めてそう思った。
「本当に、いい人たちばっかりだね」
「あぁ、本当にな」
「みんなお友達になってくれたし……義経ちゃんたちも歓迎会をしてもらったのかな?」
「この学園の生徒はお祭り好きが多いと聞く。きっと大丈夫だろう。それに、前に見た限りではそういう事に気が回る奴も多そうだった」
「じゃあ、きっと大丈夫だね」
「そうだな」
就寝前、俺は清楚とそんな話をしていた。
場所は俺の部屋だ。
長い付き合いの清楚にとっては、勝手知ったるなんとやらである。
「早く義経にも、今の俺の気持ちを体験してもらいたいな」
「柳司くん、今日は本当に楽しそうだったものね。普段は見せない笑顔も見せちゃってたし」
「……ずっと気になってたんだが、俺はそんなに笑っていたのか?」
「うん。ずーっと楽しそうに笑ってたよ」
それはそれで変な奴だと思われていそうだな。大丈夫だといいが。
「クラスの女の子たちが写真撮っちゃうくらいだったのに……柳司くんだから仕方ないか」
「どういう意味だ?」
「あはは、内緒だよ」
俺の問いに、清楚は笑い声を上げてそう応えた。
そして腰掛けていたソファーから立ち上がると、部屋の出口へと向かっていった。
「それじゃあおやすみ。また明日ね」
「あぁ、おやすみ」
清楚を見送った後、俺はまっすぐにベッドへと向かった。
今日はこの気持ちが残っている内に、できるだけ早く眠りにつきたい。そう思ったのだ。
普段徹夜ばかりしているのだから、今日くらいは。
そうして俺は、ベッドに入って数分もしないうちに眠りに落ちた。
今日はいい夢が見られるだろう。
後書き
色々と設定の見落としがあったりして少し混乱してます。
ところで、A-2のおかげでまじこいの二次創作が増えてますね。自分もがんばらないと。
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