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真剣で覇王に恋しなさい!

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第3話




 全校集会を終えた後、俺と清楚は3-Sの教室に移動してHRに参加していた。
 Sクラスというのは成績優秀者の集まりでプライドの高い奴が多く、新参者は馴染み難いとも思っていたのだが、それは杞憂だったようだ。
 清楚と俺を、Sクラスの生徒たちは温かく迎えいれてくれた。というか、清楚がお辞儀するたびに喝采が起きていた。相も変わらずすごい人気である。俺一人じゃあこう上手くはいかなかっただろう。

「文学少女キタコレ! Sクラスで良かった!」

「受験勉強で疲れた心が癒されるなぁ」

「うちの学校、やたらと気が強い女子ばっかりでね。清楚な君はそれだけで大歓迎だよ」

「ありがとうございます……すいません、得体が知れなくて」

 恐縮しているらしい清楚に向かって、男子生徒の嬉しそうな声が飛ぶ。
 ……しかし、発言を聞く限りではここの生徒達は女生徒に飢えていたりでもするのだろうか。
 一応、しっかりと心に留めつつ、清楚の方に気を配っておこう。
 俺がそんな事を考えていると、何故か俺の方にも歓声が。

「うちのクラスに二人目のイケメンが!」

「しかも京極君とはタイプが違う!」

「もう死んでもいいかも……!」

 一体全体何を言っているのかさっぱりだが、嫌われているようではないので良しとする。
 九鬼の従者たちとの初対面の時は俺の悪人顔のせいで時が止まったかのような反応をされたのだが、今回までそうならなくて本当によかった。
 そうして俺が清楚と同じように適当に返事を返しながら挨拶していると、やたらと存在感のある男子生徒が近づいてきた。俺とは違って随分と容姿の整った奴だ。さぞ人気もある事だろう。
 格好は何故か着物でおまけに扇子も持っているが、さっきの全校集会の際にはもっと変わった格好の奴もいた事を思い出した。この学校ではこういう格好もそうおかしな事ではないのだろう。

「京極彦一だ。君達の生い立ちについては朝礼で聞いた」

 ざわめく生徒たちの中、その京極とかいう生徒はすごく落ち着いた声で話しかけてきた。
 雰囲気からしても、同年代という気がしない。相当に大人びている奴なのか、年上と話しているような感覚がある。

「その正体が誰であろうと、君達は君達である事に変わりは無い。それに、私達も君達の正体については気にしていない。あまり、自意識過剰にならぬことだ」

 ……たぶん、正体なんか気にせず仲良くやろう、という意味なんだろう。
 いまいち緊張が残る新参者の俺達の事を思っての事だというなら、人間としてもかなりできた奴だ。清楚もその心遣いに喜んで頷いているし、これからは仲良くしていきたいな。
 俺が握手の為に京極へと右手を差し出すと、右手に持っていた扇子を持ち替えて握手に応えてくれた。

「それじゃ、これからよろしく」

「うむ。よろしく」

 今頃は義経たちも2-SでHRに参加している頃だろうか。
 少し心配だが、きっと大丈夫だろう。俺のような奴でも友達ができたのだから、義経たちも大丈夫に決まってる。
 ……与一も含めて大丈夫だといいんだが、こればかりは俺がどうこうする事でも無いか。



 放課後。
 やっぱり気になったので、俺は清楚を連れて義経たちの様子を見に行く事にした。
 廊下を歩いている間もかなり視線を集めてしまっているが、それは主に清楚の人気の高さゆえだろうな。
 悪人顔の俺なんか、通りすがった女子生徒に目を向けただけで視線を逸らされたし。

「義経ちゃん達、大丈夫かな?」

「義経は性格から可愛がられるだろうし大丈夫だとは思うが……」

 問題は与一だからな。本人が照れ屋で人と距離を置きたがっているから、ちゃんと友人を作れているかどうか。
 趣味の合う奴でもいれば良いんだが……

「っ! あなた達は……!」

「……なんだ?」

 2-Sの教室の直前で、俺達は赤い髪の見るからに軍人っぽい女に道を塞がれて動きを止めた。
 ここにいるという事は生徒なのだろうが、明らかに学生という年齢を越えていると思う。

「すいません、あなた達なら止める必要はありませんでした。どうぞ通ってください」

 しかしどうやらその女は、俺達を止めるつもりはないらしい。
 すぐに脇にどいて、教室に入るように促した。

「……どうしたのかな?」

「あんまり人が集まってくるから規制でも掛けてるんじゃないか? 義経ってかなり人気みたいだし」

「ふーん……あっ!」

「おっと」

 そうして俺が清楚と軽く雑談しながら2-Sへ足を踏み入れようとした時、突然に教室の戸が開いて、中から与一と知らない女子生徒一名が飛び出してきた。
 しかもよりにもよって清楚に向かって突っ込む形になっていたので、俺は咄嗟に清楚の前に出て飛び出してきた与一を右手で受け止め、与一の前に回りこむように迂回してきていた白い髪の女子生徒を、猫の首の後ろを掴むように左手でキャッチした。

「ありがとう、柳司くん」

「気にするな……で、どうして突っ込んできたんだ与一、そして……君はなんて名前だ?」

「ユキだよー。榊原小雪だよー」

「そうか。とにかく二人とも、急に廊下に飛び出すのはマナー違反だと思うぞ」

 俺の右手に受け止められてからすぐ飛びのいて驚愕の表情を浮かべる与一と、俺に捕まえられてぶら下がる榊原に向かってそう言った。
 女の子に失礼な行為をしているからだろうか、清楚の視線が痛い気がする。
 そんな状態で道を塞いでいる俺に向かって、与一は随分と必死そうな声で口を開いた。

「いやいやつーかなんで柳司がこんなとこに……って今はそれどころじゃねぇんグェッ!?」

「与一くん!?」

「おー、柳司。それに清楚先輩も。捕まえてくれてありがとさん」

 与一にいきなり変な声を出させて清楚を驚かしたのは弁慶だった。どうやら、いつものように与一が何か言って怒りを買い、逃げ出したらしい。
 それで廊下に飛び出してきて、俺達にぶつかりそうになったと。
 納得はできたのだが、じゃあ俺が左手で掴んでいる女の子はなんなんだ?

「おにごっこだよ。与一を追いかけてたんだー」

「……そうか。手荒い真似をして済まなかった」

「別に気にしなくていいよー」

 よくわからないが、榊原は弁慶に協力していたらしい。
 俺が無遠慮に首を掴んで捕まえてしまった事を詫びると、その榊原という女子生徒は跳ねるようにして教室内へと戻っていった。
 その姿を見送ってから、俺は与一に視線を戻す。
 弁慶の力で思い切り喉が絞まったせいか、ぐったりとした様子で彼女の右手にぶら下げられている。
 弁慶がやった事は俺と似ているが、首を後ろから優しくキャッチングするのと、いきなり後ろから服の襟を掴んで引っ張るのとじゃあ全然違う。
 例えるなら、俺が猫を掴んでぶら下げたのに対し、弁慶は猫の首輪を掴んで引っ張った。たぶんそんな感じだろう。
 いくら与一がああ見えて意外にタフでも、そんな事されたらたまらないだろうな。

「もうかなり参ってるようだし、許してやってくれないか?」

「そうだよ弁慶ちゃん。せっかくの初日なんだから、ね?」

「……んー、本当はこの後ちょっと頭を冷やしてやろうかとも思ってたんだけど、二人がそう言うなら」

 与一の姿をとても見ていられなかった俺と清楚の説得が功を奏したのか、弁慶は与一を解放した。

「た、助かった……」

「次は無いからね」

「お、おおおおう、わかってるさ」

 震え声で頷いている与一だが、きっとまた同じような事が起こるだろう事は想像に難くない。
 まぁ、俺達がいない時に何をやっても自己責任だ。死なない程度に痛めつけられてくれ。

「ふぅ。いきなりだったからびっくりしたね」

 なんとか元気を取り戻した与一が教室内にしょっぴかれていくのを見送っていると、少し驚いた顔の清楚が俺に話しかけてきた。
 目の前の出来事が結構衝撃的だったらしい。
 俺もその光景を作るのに一役買っている事を思うと、何とも言えない気分だ。

「あれくらいは日常茶飯事な気もするが、学校で初日からというのは確かに驚いたな」

 朝礼の最中に弁慶が川神水を飲み始めたり、与一が屋上で寝てたり、何か起きそうな感じは確かにしていたが。

「幸い、ここの学校の連中は個性的な奴が多いようだ。これくらいの方がむしろ馴染むかもな」

「そうなの?」

「たぶんな」

 2-Sの教室を覗いてみると、特徴的な奴が何人もいるし。
 と、そんな俺達がいつまで経っても教室内に入ってこないことに痺れを切らしたのか、義経が教室の入り口付近まで駆け寄ってきた。

「二人とも、そんな所にいないで入ってきてくれ! 義経に新しい友ができたんだ!」

 喜色満面な義経にそう言われ、俺はどうしようかと清楚の顔色を伺った。
 俺の方はちょっと義経たちの様子を見たら清楚と一緒に学内探索でもしようと思っていたのだが、どうやら清楚の方は義経の新しい友人に興味津々なようだ。
 一人で学内探索をしても仕方が無い。それはまたの機会にしておこう。

 俺と清楚がSクラスの教室内に入ると、教室に残っていた生徒から一斉に視線が向けられた。
 いい加減その反応に慣れ始めていた俺は、気にしないで義経の新しい友人とやらを観察する事にした。どうせ俺の悪人顔と清楚の容姿を見比べて驚愕しているだけだ。そんなものは気にするだけ無駄だろう。
 とりあえず、俺達はFクラスから挨拶にきたという彼らに対して互いに自己紹介をする事になった。

「俺は赤戸柳司だ。よろしく」

「はじめまして、葉桜清楚です。これからよろしくね」

 まず初めに俺と清楚が。

「アタシは川神一子よ! よろしく!」

「自分はクリスティアーネ・フリードリヒという。クリスと呼んでくれ」

「ども、椎名京です」

 続いて、結構腕が立ちそうな女子生徒の三人。
 ポニーテールが印象的で元気な犬みたいな奴が川神一子。
 真面目そうで義経みたいな奴がクリスティアーネ・フリードリヒ。
 そしてあまりこっちに興味がなさそうなのが椎名京。

「島津岳人です! よろしく清楚先輩!」

「僕は師岡卓也です。よろしく」

 次に清楚の方を見てなんか危ない感じになってた男子生徒の二人。
 やたら暑苦しそうでよく鍛えられた身体をしているのが島津岳人。
 それとは逆に、内向的で大人しそうな印象を受けるのが師岡卓也。

「俺は直江大和です。よろしく、清楚先輩に赤戸先輩」

 そして最後に、直江大和という如何にも知恵が回りそうな男子生徒が自己紹介を済ませて一通りの紹介が終わった。
 やはり予想通りというか。濃い面子が多い。
 Fクラスの面々という事だが、同じ学年ならば義経たちとも触れ合う機会が多いはずだ。きっと義経たちの良い友人になってくれる事だろう。

「私達には聞いてくれないんですか?」

「僕はもう済ませたよー?」

「おや、そうなんですか?」

 褐色眼鏡の男子生徒がなにかを言っていたが、これでここにきた当初の目的は達成した。
 義経たちの様子もちゃんと確認できたし、今日は戻ろう。
 俺がそう清楚に言おうとした時だった。

「よっしつーねちゃーん、たったかおー!」

 ガラリと教室の戸を開けて、川神百代が姿を現した。

 
 

 
後書き

模擬戦とはまったく信長の野望を思い出します
それはそうとこの主人公、基本的に思い込みが激しいです。

 
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