真剣で武神の姉に恋しなさい!
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箱根 後編
前書き
箱根旅行編終了です
ではどうぞー
大和がいる部屋には、男メンバー全員と千李が集まっていた。その理由は大和が風邪をこじらせてしまったのだ。原因は言わずもがな、昨晩の千李のあれである。
「それにしても、本当に馬鹿は風邪引かないのね……」
大和のとなりで筋肉を見せ付けるようなポーズをとっている岳人を一瞥する千李は軽めにため息をついた。
「まぁ……千李姉さんのせいでもあるんだけどね……」
「女の子の風呂を覗きに行ったんだからそれだけの制裁は受けるものだと思うのだけれど?」
「ぐ……」
正論を言われてしまい黙りこくる大和だが、意を決したように立ち上がり宣言した。
「よし、やってやる。この状態でクリスと決闘してやる」
「おー」
その決意にその場にいた全員の声が重なる、戦闘をすると決まったわけではないが、風邪を引いたまま何かするのは普通ならばつらいものがある。
「ん?」
ふと千李がドアのほうに目を向けると、そろそろとドアに近寄っていた。その行動に小首をかしげていると、千李がドアを一気に開ける。
「わひゃあ!?」
素っ頓狂な声を上げて部屋に転がり込んできたのは由紀江だった。彼女はばつの悪そうな表情をした後大きく頭を下げた。
「す、すいません!盗み聞きする気はなかったのですが、聞こえてしまって……」
「謝らなくていいからまゆっち、顔上げなさいって」
「しかし……」
なおも謝ろうとする由紀江に千李が軽くデコピンを放つ、
「誰も気にしてないしいいってば、だけどこのことは言っちゃだめよ?」
由紀江はそれに不安そうな顔をするものの、大和が頷くのを見ると、渋々といった様子でだが頷いた。
その後大和は買ってきてもらった風邪薬を飲むと、クリスとの決闘のため川原に向かった。
決闘の仕方は百代と翔一が話し合った結果、川神戦役の縮小版となったようだ。ようは平等に入れたくじの中での勝負と言うことだ。先にくじを引くことになったのは大和のようで、箱の中をまさぐっている。
大和が選んでいる最中、横のほうで京が変なイマジネーションプレイを行っていたがそれは無視されてた。
一回戦、二回戦はそれぞれ一勝ずつということで、一勝一敗の同点。その後もどちらも一歩も譲らぬ展開で結局二勝二敗までもつれ込み、最終決戦第五回戦まで執り行われることとなった。
途中妙な勝負もあったがそこはスルーしておいたほうがいいだろう。
最終決戦は山頂からのダウンヒルランニングバトル。引き当ててしまった大和は苦い顔をしていた。なにせ大和は風邪を引いているのだ、それにこの勝負の以前から多少ふらつく場面が何度かあった。おそらく体力も限界に近いのだろう。
それでも大和はあきらめることをせず、勝負を続けると決意していた。
……まったく、負けず嫌いなところは本当に男の子って感じねー。
千李が微笑を浮かべていると、瑠奈が千李の袖を引っ張る。
「ん?どうしたの瑠奈、トイレ?」
「ううん、違う。お母さん、なんだか大和おにいちゃん苦しそう」
心配そうな目で大和を見つめる瑠奈に、千李は腰を落とし瑠奈の頭を撫でると、
「大丈夫よ、それに多少苦しいことがあってもそれを乗り越えるのが男ってもんだから」
「そうなの?」
「ええそうよ、だからがんばる姿っていうのをしっかり見ておきなさい」
千李の声に、瑠奈は大きく頷くと大和のほうに視線を戻した。
……さて、じゃあ一喝入れてきてあげますか。
彼女は大和のもとまで行くと、大和の肩に手を置き小さく告げた。
「応援してるから、がんばんなさい。まぁ、負けようが勝とうが頑張ればいいのよ」
「ああ、ありがとう千李姉さん。だけどやるからには絶対勝ってくるよ」
「そうね……それでこそ男の子だわ」
千李は軽く大和の肩を数回たたくと、瑠奈の元へ戻っていった。大和たちもスタート地点である山頂まで行くため、歩いていった。
レースが開始された直後、千李は翔一に提案した。
「翔一、そこ私と代わってくんない?」
「え?……まぁいっか!あいつらが来た時にいってやれば大丈夫だろ」
翔一は頷くと、千李と場所を交代した。程なくしてクリスの姿が見えてきた、その手には確かにボールが握られている。
「クリスー!タッチするのは俺じゃなくて千李先輩にだからなー!!」
遠くのほうでクリスが頷くのが見える。そしてその後から一子が迫って来るのが見えるものの、いくら一子が早いといっても追いつける距離ではない。
……ふむ、でもこれくらいで終わるタマじゃあないわよねぇ大和。
内心で千李が考えると、川の上流のほうから大和が駆けて来た。クリスもそれに気付き全力で走るがすでに遅かった。
「俺の、勝ちだぁぁぁーー!!」
勝利宣言とともに大和は千李に思いっきりダイブした。大和は全身びしょ濡れだったが、千李はそれを気にもせず抱きとめた。
「勝者!直江大和!!」
百代の声がこだまし、ついに勝敗は決した。クリスも負けてしまったことに、悔しげな表情をする。
「はい、お疲れさん。よくがんばりましたー」
「ぜぇ……ぜぇ……、やってやったぜ……」
千李の胸の中に顔をうずめながら、大和は息を整える。
その後、大和は今回の作戦をすべて話し終えると、ついに力尽きたのか意識を失った。その際京が大和の股間に触れていたがそこには触れておくべきではないだろう。
意識を失った大和を旅館に運びいれて少したつと、千李の携帯がなった。千李は携帯の画面を見たとき千李の顔が固まった、そこに表示されていたのは、
『親バカ中将』
とあった。そう、クリスの父親のフランク中将だ。
千李が固まっていると百代が怪訝そうに聞いた。
「どうした? 姉さん」
「ん、なんでもないわ。……外で話してくるから」
千李は部屋の外に出ると、通話ボタンを押した。
「なんの御用ですか、中将殿」
『いや、決闘を拝見してね。クリスは大丈夫かね?』
「ええ、クリスの方はぴんぴんしてますよ。大和……あー、対戦した男の子の方は無理したせいでぶっ倒れてますけど」
『そうか、だが実にすばらしい決闘だったよ。クリスが負けるとは思えなかったがね……』
電話越しに賞賛の声を与えているフランクは、実に満足なものの、多少残念そうでもある、クリスが負けたのが残念なのだろう。
「まぁ、そういうこともありますよ」
『ああ、そうだな。……そうだ、君にいい忘れていたことがある。近いうちにマルギッテ少尉も川神学園に編入することとなっているから、そちらもよろしく頼む』
「……」
『千李くん?』
「ああ、いえなんでもないです。……ま、了解です」
『よろしく頼む、では』
それだけ告げられたのを確認した千李は携帯を閉じる、
「はぁ……、まったくあの親バカ中将にも困ったもんねぇ。普通、娘が心配だからって自分の部下を学園に送ろうとするかね……」
肩をすくめながら嘆息する千李だが、不思議と嫌そうではなかった。
その後千李が部屋に戻ると、大和が目を覚ましクリスと由紀江とアドレス交換が行われ、川神魂も教えると、皆の親睦も一気に深まったようだ。
午後になり、一行は箱根観光することとなり、芦ノ湖の遊覧船に乗っていた。一子、翔一の二人は大はしゃぎだった。
一方、世間的に見ればこういうところでは一番はしゃぎそうな風間ファミリー最年少メンバー、瑠奈は千李に抱っこされていた。
「瑠奈はああいうことしちゃだめよー、ほかの人に迷惑がかかるから」
やさしい口調ではあるものの、多少の威圧感を持つ千李の言葉に瑠奈は頷いて返す。二人は船室に移動すると百代たちと合流した。すると百代が、
「なぁ姉さん、瑠奈私にも抱っこさせてくれよー」
「変なことしないならいいけど」
「しないって」
懇願する百代に折れ、千李は瑠奈を百代に預けた。
「おー……、今のワン子では味わえないこの感触……すばらしい」
「完全に変態キャラの台詞よねそれ」
瑠奈を自分の膝の上に乗せ、その感触を味わっている百代に対し、千李は軽くため息をつく。
……まぁ、瑠奈自身が嫌がってないからいいけどさ。
見ると、瑠奈も百代を嫌がることはせず、ちょこんと膝の上に乗っかっている。百代もそれが可愛くて仕方がないのか、頭をなで繰り回す。
そんな光景を見ていると不意に船が止まった。どうやら船から落下したものがいるらしい、何を馬鹿なことをやってるんだと皆で笑いあっていると、
「なんかバンダナつけた高校生くらいの子が落っこちたらしい!」
そんな乗客の声が聞こえ千李たちは一瞬固まると、
「こういうときはあれね、関わらないのが一番いい」
「だな」
千李の言葉に百代が同意すると、他の皆も頷きあう。
皆が平静で笑いあっている中、由紀江だけは最後までオロオロとあわてていた。
時刻は午後四時、西の空に太陽が沈み始めている中、一行はバス停でバスの到着を待っていた。バスの時間には少しだけ早い、皆が思い思いにだべっていると、
「もし……そこのバンダナのお方」
「俺ッスか?」
翔一が占師の老人に話しかけられた。老人は翔一の顔を確認すると
「そうです、……あなたはとてもいい人相をしておられますね、人として魅力があります。そしてさらにかなりの強運をお持ちのようだ」
「お?うまいこと言って金取ろうってか、でも悪いなじいさん。金を払う気はないんだ、それにバスがそろそろ来ちまうしな」
「そうですか、ではタダでかまいませんよ。それだけ気になる相があなた方からでておられるのです」
最終的に老人の好意でタダで占ってもらうこととなった。
千李たちは一人一人、老人に名前などを教えていった。すると老人が懐からタロットカードを出したところで、バスが見えてきてしまった。
「バス来ちゃったわねー」
「それは残念、ですが……おぉ、あなた達の未来はとても輝かしいものですな」
「ま、それだけわかりゃあいいや。ありがとなじいさん」
その言葉を皮切りに、メンバーが次々にバスに乗っていくが、老人は満足げに頷きながらカードをめくっていった。
そして最後、千李の番になってその顔は驚愕に歪んだ。
「こ、これは、死神のカード……!待ってくだされ!貴女は……!!」
老人が言いかけたところで、千李は不適に笑みを浮かべ静かに言い放った。
「運命なんてのは、自分で切り開いてこそ意味があるのよ。おじーさん、占いありがとね。そのカードの意味にならないよう気をつけるわ」
言うと千李はバスに乗り込んだ。
一行を乗せたバスを見つめながら、老人は小さくもらした。
「確かに、正位置の意味からすれば、破滅や離散を表すこの死神のカード。しかし逆位置から考えれば新展開や上昇などという意味もある……」
頷きながら老人はさらに続けた。
「せめて彼らグループがこれを一致団結して乗り越えることを願いましょう。それに、最後の彼女のあの瞳……、強い光を宿していた。……うむ、彼女がいれば大丈夫でしょう。願わくば先ほどの運命がジジイの戯言であってほしいものだ」
一行が川神に到着したころには、既に夜になっていた。駅で大和達と別れたあと、千李たちは川神院への帰路についていた。
ちなみに一子と瑠奈は既に眠ってしまっており、百代が一子、千李が瑠奈をおぶっていた。
「なぁ姉さん?」
「んー?」
「……あと一ヶ月だよな?」
「なにがー?」
神妙な面持ちで問う百代とは裏腹に、千李は軽々しく返していく。
「だから!ジジイとの死合いのことだ!!」
そう、千李はあと一ヵ月後に鉄心と死合いをする約束になっている。それを知っているのは現在川神院に在籍している修行僧と、ルー師範代及び百代に一子。そして瑠奈だけだ。
いずれ外部にも漏れることだろうが、あまり大々的にはしないのだ。
百代が声を荒げたのは、鉄心と戦うというのにその存在を忘れていたからであろう。
「でかい声ださない、二人が起きるわよ?……ま、そのことなら何とかなるでしょ。負けたからって破門になるわけじゃないし」
声を荒げた百代を千李が軽くなだめる。
「……姉さんが大丈夫ならこれ以上詮索はしないが……がんばれよ」
「まだまだ先の話だって、でもそれまでは私の相手、よろしくね百代」
千李の頼みに百代は深く頷いて返答した。だがすぐにその顔は難しそうな表情になる。
「でもなー……姉さんだけずるいよなー、姉さんが戦えるなら私だって平気なはずなのにさ」
「まぁ、お前はもっと心を鍛えろってことじゃないのかしらね。それができれば戦うことだってできるでしょうよ」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
百代の怪訝そうな声に、千李は手をひらひらとさせながら返す。百代はそれに不服そうなもののすぐに何かを思いついたように手を叩くと、千李に高らかに告げた。
「よし!姉さんがジジイに勝って、その姉さんを倒せば私が最強ってことだ、待ってろ姉さん!私は姉さんを超えてみせる!!」
「フッ……、まぁやってみなさい。早々簡単にやられる気も無いけどね」
二人は話しながら川神院へと帰っていった。
生ける伝説・川神鉄心と、その孫、鬼神・川神千李が死合いをするまで、あと一ヶ月。
後書き
以上です
以前千李がすでに鉄心を越えているといったような描写をしましたがそれを改変します
本編の中で鉄心と千李を戦わせたいと思います
感想、アドバイス、ダメだしお待ちしております
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