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生きるために

作者:悪役
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プロローグ

ああ、嫌だと自覚する自分がいる。
恐らく、現実にいるであろう自分は寝顔をかなり顰めているであろう。
自分が夢の中にいると自覚しているのに起きれないのが、更に腹立たしい。
出来の悪いC級映画を見ている気分だが、こうなったら見るしかないのだろう。
いや、C級の映画でもここまで残念感を生み出すこともないか。詰まらない映画でも、一度目ならば多少の面白みがあるだろうが、二度目となると感動が薄れる。
これはそういうものだ。
最初に移るのはぶつ切りの映像。
ぶつ切りなのは、自分があんまり覚えてないからである。それは仕方がないと思う。
何せ、その後に非常に濃厚なくそったれな生活をしたせいである。
唯一、ちゃんと覚えているとしたら……ほら、出た。
浮かび上がった像は黒髪が綺麗な女の子の姿。
その子の声はもう思い出さないが、その開かれる口が発する言葉だけは覚えている。

『約束しよ? 帰ってきたら遊ぶって』

何の気なしな言葉であった。
実際、自分もまた今度遊ぼうという約束であると思っていたし、果たす気満々であった。
家族の付き合いで彼女と幼馴染であった自分は無邪気にそんなの当り前だ、と思ってそれに答えるつもりであった。
何せ、自分はただの家族旅行に行ってくるだけだったのだから。
だから、先の台詞は何か非常に特別な台詞でもなければ、よくある愛の証明などというわけでもない。

旅行から帰ってきたらまた遊ぶ。

本当にただ、それだけの約束であったのだ。
ただ、果たされることはなかったが。
旅行先で自分は無邪気にはしゃぎ、遊び心で親から少し離れた。父さんと母さんも気づいていたが、余り離れないでね、と告げただけ。
別に自分が邪魔とかじゃなくて、単純に離れなければ大丈夫、と思ってただけだろう。実際、うろ覚えだが両親が平凡ではあるが、優しい人であるというのは覚えている。
顔と名前はぼやがかかっているが。
だから、悪いのは自分……などと自虐するつもりはないが、子供の自分に求めるのは酷だが、やはり危機感が足りなかったのだろう。
少し、ほんの少し両親が視線を逸らした瞬間に自分は後ろから大きな力みたいなものに抱擁されて視界が暗くなってしまったのは。
そこから先は自分の理解外であった事は確かである。
真っ暗の中で自分は意味が分からずに揺られ、そして周りには似た境遇の子供達が泣いたり、叫んだりしている。
自分も目が覚めた後は家族の名を叫び、やがて周りの子供達と合わせるように泣いてしまい、そこで全く知らない大人から意味が解らない言語で叫ばれた。後に、それが異世界語であると知るが。
その叫びに悪いことをしたというより何をされるか解らないという恐怖から涙は無理矢理止められ、しかし嗚咽だけが残った。

……自分が人攫いに攫われたと知るのは選択肢(・・・)を選んだ後だったが

そして、自分達はまた知らない大人に引き取られ、叫び声に促されるまま付いていき……そして渡されたのは一つの鉄の塊であった。
それが銃であるということは理解していた───ただし、自分が思った銃というのは玩具の銃だが。
こんな怖い人が何でそんなものを渡すのだろうと周りの子供と一緒に思いながら受け取り、重くて最初は持てなかった。
そして、それを見た大人が苛立ちながら簡単に銃の持ち方を教え───そこで大きな音が鳴った。

なんて無様で無粋な音

そして、自分達はその音で連れられた。

連れられた場所は語彙が少ない自分には解らないが……簡単に言えば地獄であった。
寝転がっていると思ったら死体であり、絵の具かと思ったら血であり、人体模型についているアレみたいなのがあるかと思えば、それは■■であった。
ひっ、と最初に悲鳴を上げたのは誰だったか。
その光景を見て、自分達がここにいるのは間違いであると自覚したのだ。
ここは死者の国だ。
生きている自分がここにいたら、何れ引きずり込まれる。
逃げなくてはという思考が爆発的に大きくなる。
何か、そこに切っ掛けがあればそれに行動を移したくなる。というか、移したいという欲求は強くなり

───ああ、くそ。馬鹿野郎。

最初に逃げたのは自分じゃなくて、違う子供であった。
再び、爆音みたいなものが鳴った瞬間にストレスが限界値にまで膨れ上がってしまったが故の行動であった。
そして、自分達も、その子供の行動を見て一緒に逃げてしまおうと思ったのだ。
恐らく、後、一秒くらいあったら絶対に両手にある重みを捨てて走っていた。
しかし、その一秒後の未来はあっという間に崩壊されていた。

パンっと軽い音。一つの肉の体が軽く飛んだ。

結果として恐慌は無くなった。
逃げられないという事実を知ったから。






そして最大の恐怖が遂に現れる。
前方から何人もの人が現れたのだ。
相手は大人で、こっちに驚いている。あちら側にとっても不測の事態であるというのが表情でわかるものであった。
そこに連れてきた大人達がまた意味が分からない言葉で叫ぶ。
それに対して相手は驚きながらも、こっちに手にあるものを向けている───銃であり杖らしきものを。
そこまで考えてふと思った。
自分を引き連れた大人が後ろ側にいる事に。

つまり、それは自分達を元から生かして返すつもりではなく、死兵として消費することであったのだとこれも未来に知る。

動こうにも足が固まっている。
引こうにも周りには自分と同じ境遇の仲間がいて、後ろに戻れない。
詰んだ。何もかもが詰んだ。
そう───もう自分が今のままでいることはもう不可能である。
絶望は一瞬。
覚悟など生れない。

───故に両腕に来た衝撃が己のこれまでの人生への終止符であると悟った。

それ以降、恐らく買い取った大人からしたら予想外なのだろう。
自分は生き残った。
同じ境遇の兄弟とも言ってもいいかもしれない仲間は九割死んだ中、自分は生き残り、摩耗していく。
そして、そこで自分はようやくここが異世界であり、魔法というものが存在し、自分が人手が足りないという理由で攫われたという事を説明された
異世界はともかく魔法という言葉は聞いた瞬間に思わず鼻で笑い飛ばそうかと思った。

笑わせる。
魔法というのはおとぎ話にある人を幸せにするモノ……などと口が裂けても言わないが、少なくともこんな簡単に人の手に収まるような奇跡ではないだろう。
人の手で私利私欲に使われるものは魔法ではなく、ただの科学(ぎじゅつ)というものだ。
故にその傲慢を自分は嗤った。その傲慢を嗤う権利がない自分も含めて。

その今でも思ってしまいそうなロマンチック思考に大爆笑しそうになるが記憶は続く。
自分は価値有りだとされたのだろう。
そこで、一人の男と出会った。
翻訳魔法を使って紹介された人間は傭兵という事らしい。
地球のそれも今の環境からすれば楽園(エデン)のような日本からしたら、ゲームの中にいるような職業。
最早、笑い飛ばす事が出来ない事が出来の悪い冗談のようであった。
その男はどうやら自分の教育をする係りとなったらしい。
自分のようなお荷物を抱えるのに、彼は別に嫌そうな顔はしなかった。笑いもしなかったが。
男は名乗らなかった。
ただ、与えられた事をこなす人の機能を限界まで行使しつつ、人間性を極限にまで排除したかのような精密機械。
故に自分はそれでは答え辛いので、師匠、とただ呼んだ。本人はそれについても何も言わなかった。
男は教えた。
自分に戦う術を、生きる術を叩き込んだ。
教えられる自分からしたら生き地獄に、もう一つの地獄を追加されたかのような日々。
それでも構いやしなかった。

『約束しよ? 帰ってきたら遊ぶって』

煉獄に落ちている自分が今でも唯一思い出せる光明。
光すら刺さない無明の世界で、唯一の星の如き記憶。
それのみを光源として生きてきたから、それ以外を考える余裕がない。
故に疾走している最中に他を振り返る気力なぞなかった。
そして、師匠はそれについて何も言わなかった。
必要以上に自分に関わらず、ただ、非常に特徴的な十字型の巨大な大型重機関銃型デバイスを持って戦うだけであった。
その印象的な十字架を背負う姿が罪人のようだと思って自嘲した。






そして、戦争は終わった。
それは凡そ二年くらいであった。
そもそもの話、戦争はすでにこちら側に不利であった。
当然だろう。人を、それも子供を攫って戦わせている時点で、真っ当に戦って勝てる算段が付いてなかったという事なのだから。
それに相手は巨大な組織……時空管理局というあんまり理解はしていないが、ある種の警察と軍隊が合体したようなものと理解しているものがバックについていたらしい。
後ろ盾も何もないこちら側が勝てる道理など最初から存在していなかった。
そして、それについては元々興味がなかった事であった。
どちらが勝とうが、負けようか自分には関係ないことであった。
ただ、自分は生き残って帰りたかっただけだった。
命を懸けて義理立てするような事情はなかったし、一緒にいたいと思えるような人間関係も築かなかったし、愛するには程遠い環境であった。
故に終わった瞬間に自分の胸に宿ったのは、絶望でも屈辱でもなく、ただ純粋な郷愁の念であった。
それを思い、久々に子供みたいに万歳をしようと思い───両手にある鉄の塊に恐怖をした。
暴発を恐れたというわけではない。今、自分が使っている銃は昔のような実弾ではなく、師匠にならった魔法を使うためのサポートする兵装。デバイスである。自分が連れられた理由のもう一つは魔道士達の心臓とも言えるリンカーンコアがあったからだったのだ。
覚えたのは戦闘に役に立つ種類の魔法で、本音を言えば実銃と変わらないのだが、それでもカートリッジを込めたりしない分、戦場での不測な事態で役に立つものであった。
それが両手に持っている事に恐怖した。
その銃自体に恐怖したのではない。
逆だ。

その銃を持っていることに全くの違和感を覚えない自分に恐怖したのだ。

絶望した。
攫われた瞬間と同じ以上に絶望した。
異世界では知らないが、地球の、それも日本のどこにこんな物を当たり前のように持てる場所があるというのだ。
自分が帰りたかったのはあの日常であり、こんなものを普通だろ? と思えるような場所ではなかったのに。
その存在の頼もしさに手を放すことができない。
殺める事にしか特化していない道具を必要だと思える自分の惰弱な精神構造に生きる場所がもうあそこではないと勝手に理解させられた。
その絶望に思わず、発狂してやろうかとやさぐれた考えを持ちながら───ただ、苦笑と溜息を吐いた。
大袈裟に驚き過ぎだろう、と独り言を発した。
何のことはない。既に無意識的に理解していたことだ。
誰が好き好んで殺人者の両手を握ってにこにこと一緒に暮らそう、遊ぼうなどと言う人間がいるのだろう。それこそ、自分がお断りだ。
だから、自分が血に汚れているからなどという下らなさ過ぎる自罰思考としてではなく、いっそ開き直ってこのまま生きるか、という達観を持ってそう決めた。
自分は巻き込まれはしたが、それを否定する勇気も努力もしなかったのだ。
殺し合いを否定しているようで、肯定していた自分がとやかく言う台詞でもなければ、人間として何かを殺傷しなければ生きる事ができない極悪な生き物として自分を肯定するしかない。
そう考えると結構、気楽になってき、そして辺りを見回す。
探す人がいる。
激戦の中、別れてしまった人だ。その人は数分歩き回ったらいた。

全身が自分の血で塗れた師匠であったが。

既に呼吸はひゅー、ひゅーとおかしな音を出しており、血は彼が座っている辺り一帯を染めている。
致命傷であることなど見慣れていてるが故に覆せない結論であった。
手当など間に合わないことは本人も解っているだろう。その事を教えたのは彼でもあるのだから。
師匠は死ぬ寸前でもそこまで絶望しているようにも見えず、どうするのか、と自分が師匠の前で立ち尽くしていたら彼が声をかけてきた。

───意外か?

自分が死にかけているのが、と。
むしろ、その問いかけが自分にとって意外であった。
損得関係で動いている傭兵である……とは思ってはいなかった。
損得で動くならばこんな敗北決定の陣営に幾ら金があっても入るわけがない。スリルを楽しみにしても師匠の表情がそんなのを物語った事が一度もなかった。
そして、よくある正義感みたいなものであるなら自分の師になることなどしないだろう。
だから、自分はこの男は自分には埒外の自分で完結した思想を持って、闘争を望んでいる一種の求道者のような存在だと思っており、だから今際の際とはいえこんな人間的な問いを語りかけてくるとは思わなかった。
だけど、その問いかけられた質問自体には自分は首を横に振ることによって答えた。
確かに、この男は強さで言えば間違いなく、トップクラスであり戦場を駆け抜けた今の自分でも勝利のイメージは湧かない。
強さのみで言えば傭兵などという腐った職業に就くような器ではないと何度思ったことか。
しかし、それとこれは別であった。
戦場においての唯一絶対の平等───どんな人間でも死ぬという絶対論理。
生まれたばかりの乳飲み子も、清廉を極めた聖人も、汚濁を煮詰めたような悪人でも、あらゆる性能がチートな人間でも三分クッキングみたいにここでは死ぬ。
特別などない。
余り、覚えていないが三国志の英雄という戦場で輝く星ですら死んでいったのだ。だから、師匠が絶対に死なないとは思わない。
不死身の人間などいない。不死身の怪物などあってはいけない。
戦場で生き残るというのは技術云々もそれはあると思うが、一番大きいのはやはり、運だと自分は思ってる。だから、生き残った自分はもうこれからの人生に運を期待するのは間違っているだろう。
その答えに師匠はそうか、と呟くだけであった。
彼の幕引きは近い。
ここまで持っているのは奇跡に近い鋼のような魂を持っているから。
どういう人生を彼が送ったのかは知らないし、興味もなかったが───ただ、その背中に憧憬の視線で何度か見たのは否めない。

その背中を、最早、永劫見れない。
その事実を───軽くだが、噛み締めた。

もう、お別れだ。
彼の死を、この目で見るのは正直辛い。
別に自分に何か優しくしてくれたとか、特別な事を教えてくれた人ではなかったが、それでも自分が生き残ることが出来たのは師匠のお蔭であるという事は理解している。
別れの言葉は言わない。それは自分と彼の関係ではない。
あくまでも、ドライに。そんな乾いた関係が自分達には相応しい。
師匠も解っているだろう。
だから、彼は特別何も言わずに───その手にあるものを差し出した。
十字架のような大型機関銃。
彼のデバイスで、殺し道具。
インテリジェントデバイスらしいが、会話など全然、聞いたことがない。師匠が道具に対しては道具だと割り切っていたからだろう。
本当に師匠らしくない。その人間らしい餞別に、不覚にも礼を言いたくなる。
互いに心温まるような会話などはしなかったが───その在り方は師匠と弟子と言っても良かったのだろうか。
だから、俺も何も言わずにそれを受け取った。
重い。
今まで使っていたライフルやハンドガンやナイフとかと違って、これは最早レベルが違う重さである。
しかし、その重さを良しとし、自分はそれを背中に背負った。
その背負った自分を一目見て、彼は眠るように目を閉じようとした。
だから、自分も彼に対してらしくない事を言う。

「───今までありがとうございました」

その驚きの表情を記憶野に焼き付け、そのまま背中を向けた。
何も残らない荒野を歩く。
手元には何も残らず、帰る場所も失せてしまったが……これもまた有りだろうと自分はそう思ったのだ。
その自覚をした瞬間に、夢の終わりが近づく。
非常に最低最悪なご都合主義に夢の中の自分が苦笑し、現実に見えない手で引き戻される。
だからこそ、見えなくなった師匠に現実の自分が今更ながら祈った。

願わくば───彼の求道が完結しているように、と。

故にここからは自分の時間だ。
だから、いい加減、起きろと自分に更なる命令を促して起床する。




 
 

 
後書き
はい、どうも。はじめましての人ははじめまして。
衝動的に書きました。
反省はしているが、後悔はしていない類などで気にしないでください、出来れば。
ともあれ、小説情報でも書いているように言い方悪く言えば片手間なので更新が遅くなるのはどうか勘弁を。
まだ、プロローグですが感想をくれたら嬉しいと思います。 
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