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銀色の魔法少女

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第二十七話 吸血鬼


side 遼

(ん、え、あれ?)

 何かの反動で肩に響いた衝撃が私の目を完全に覚ます。

「おお、おい、や、やめてくれ」

 目の前には黒い変な男。

 辺りを見渡すと同じような男が二、三人。

 そして、奥で呆然とそれを見ているすずか。

「バカが!」

 私がよそ見をした時に発砲するこの男。

 けど、そんなの見なくてもわかっていた。

 あの特訓で相手の気配や音を感じることができるようになった私には、全方位に目があるに等かった。

 しかし、範囲は自分から約二、三メートル。あの一家には程遠い。

(けどこの距離なら十分すぎるなぁ)

 少し頭を傾けるだけで、銃弾は当たらない。

 相手が驚いた隙に私は安全装置をかけた拳銃を逆さに持ち替えて、ブーメランのように投げつける。

「うぅぐ」

 男のみぞおちに当たり、苦しそうに膝をつく。

「ねえ、あなたたちは何?」

 男の拳銃を取り上げて、取り敢えず尋問する。

「………………」

 けど、男は何も答えない。

「はぁ」

 このままじゃ埒が明かない、そう思った私は取り上げた拳銃でこめかみを殴りつける。

 「あ」と短い声を出して、男は気絶する。

 それを確認すると弾倉を抜いて、拳銃を捨てる。

 他の拳銃も同じようにした後、すずかの元に向かう。

「ねえ、大丈夫?」

 ちょこんと座り込んでいるすずかに手を差し伸べる。

「え、あ、……ありがとう、遼ちゃん」

 すずかはゆっくりと私の手を取る。

「あ、首……」

「え?」

 私はすずかが見ている所を反対の手で触る。

 何か生温かい液体に触れた感触があって、手を見ると血が付いている。

(あちゃぁ、多分さっきのかわし損ねたかなぁ)

 私は、自分の失態に落ち込む。

 更に他に誰もいないということもあり、完全に油断していた。

「遼ちゃん……」

「ふぇ?」

 急にすずかが抱きついてくる。

 生温かい息が首筋にかかる。

「すずか?」

 何か様子がおかしい。

 風邪でもひいているのか、息が荒い。

 そして、大きく口を開けると、



 ―――――――私の首に噛み付いてきた―――――――



「っつ!?」

 私は驚き彼女を見る。

 私からは死角になっているため表情はわからないが、首筋から何かが抜けていく感覚が伝わってくる。

 吸血鬼、そのような単語が私の頭をよぎる。

 鎧を発動させたいが、すずかに怪我を負わせたくはない。

「あ……」

 意識が朦朧としてくる。

 どうやら血が足りなくなってきたようだ。

 その時、すずかが私を離した。

 重力に従って、私はそのまま地面に倒れる。

「あ、れ、……遼、ちゃん?」

 すずかが驚いた様子でこちらを見る。

「――――――」

 私は大丈夫、と伝えたかったが、声が出ない。

 それどころか、抗いきれない眠気が私を襲う。

「遼ちゃん! 遼ちゃん!!」

 そんなすずかの叫び声を聞きながら、私は目を閉じた。



side すずか

 かっこよかった。

 私を追ってた大人たちをあっという間にやっつけた遼ちゃん。

 こちらに手を差し伸べる遼ちゃん。その首筋に赤いものが見えた。

 血だ。

 それを見た途端、私の中から熱いものが湧き上がってくる。

 ――――欲しい――――

 ほかの全てを塗りつぶすほどの、食欲。

 彼女を私の中に取り込みたいという、欲望。

「遼ちゃん……」

「ふぇ?」

 逃げて、と伝えたかった。

 けれど、目の前のそれを見ると、私が私でなくなっていく。



 ――――そして、遂に我慢の限界を迎えた――――



 気がつくと、倒れている遼ちゃん。

「あ、れ、……遼、ちゃん?」

 首筋には二つの赤い点。

 私が噛んだ跡。

「遼ちゃん! 遼ちゃん!!」

 私は遼ちゃんに駆け寄る。

 揺さぶっても、全然起きない。

「あああああああああああああああああああああああああああああ――!!」

 私は泣いた。

 泣いて、泣いて、泣き叫んだ。

 すると、遠くから誰かが駆け寄ってくる。

「すずか!」

「お姉、ちゃん」

 お姉ちゃんと、恭弥さん、それに美由希さんが駆け寄ってくる。

「遼ちゃんが、遼ちゃんが!」

「遼ちゃんがどうしたの?」

 美由希さんが遼ちゃんを診る。

「大丈夫、首以外に目立った傷はないよ」

「首……、そう、やっちゃったのね」

 首という言葉だけで、全てを察してくれたお姉ちゃん。

「取り敢えず私の家に運びましょう、美由希ちゃん、悪いけどそのままお願い」

「うん、わかった」

 美由希ちゃんが遼ちゃんを抱える。

「ほら、すずかも行くよ」

 お姉ちゃんに手を引かれて、私はこの場を後にした。



side ???

「失敗したか」

 使いにやった部下からの連絡がない。どうやら高町家に邪魔されたらしい。

「まったく、楽しようとした結果がこれか」

 私は携帯を折りたたむと、隣にいる手下に命令する。

「次は俺が行く、すぐに足を用意しろ」

「はい、只今」

 そう言ってこいつは奥に引っ込んでいく。

「なかなか思い通りにはいかないな」

 そう言って、私はそのまま携帯を握りつぶした。


 
 

 
後書き
前回と今回を見て一言
「あれ? 遼がチート化していく」 
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