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ドラゴンクエストⅤ~リュカとサトチー~

作者:桃色デブ
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第一話 はじまりがはじまる

 きれいな、おおきな部屋。
 おとうさん? それとおんなのひと。
 おとうさんが笑ってる。
 おんなのひとも笑っている。
 優しそうなひと。
 ぼんやりとそんな夢を見ていた。

「おうリュカ目が覚めたようだな」

 声のする方にはおとうさんがいた。

「なに? 夢を見た? 赤ん坊のときの夢で、どこかのお城みたいだったと?」

 さっきまで見ていた夢のことを話すとおとうさんは笑いだした。そんなに笑うこともないのに。

「ねぼけているな。眠気覚ましに外にでも行って、風に当たってきたらどうだ」

 濡れたタオルで顔をぬぐっていると、そんなことをおとうさんが言った。
 確かに船の上から見る景色はすごい。もう何日も見ているけれど、ちっとも飽きることなんてなかった。それに風もすごくて、気持ち良い。

「父さんは ここにいるから 気をつけて いってくるんだぞ」

 タオルを置いて、ぼくは外に行くことにした。

「ああ、そうだ」

 扉に手をかけたところで、おとうさんが言った。

「外にはサトチーもいる。遊ぶにしても船乗りの皆の邪魔にならないようにな」

 うん、とぼくは頷いて扉を開けた。





 外に出ると、風がすごかった。ターバンで押さえてなかったら髪の毛がぐちゃぐちゃになってしまったかもしれない。
 
「どうした坊や? あ、坊主の兄ちゃんなら船首の所にいるぜ」

 陽気に話しかけてくる船乗りの人にお礼を言って、ぼくは揺れる床を走った。
 船の先っぽには船乗りの人達に混じって、ぼくと同じくらいの高さの背中があった。

「サトチーにいさん!」

 ぼくの声に気が付いたのか、サトチーにいさんがぼくの方を向いた。

「おう、リュカ起きたか。おいおい危ないから走るな走るな」

 そう言ってぼくの頭をぽんぽん叩く。
 サトチーにいさんは、ぼくとあんまり背は変わらないのに、おにいさんぶる。でもサトチーにいさんは、ぼくより難しい話をするし、本だって読める。悔しいけれどおにいさんだ。
 今も船乗りのおじさん達と話してたみたいだ。なにをはなしてたの?

「もうすぐ、港に着くみたいだぞ。なんつったか……ビスコだかビータだか、おいしいお菓子みたいな、携帯ゲーム機みたいな名前の港だ」

 サトチーにいさんが言うことは時々分からない。やっぱりぼくが、こどもだからなのかな。
 首をひねるサトチーにいさんに、ビスタ港な、と船乗りのおじさんは笑って言った。

「おうそれそれ。いやぁ、昔のことは記憶があやふやで困るぜ」

「昔って……坊主達の年で言う台詞じゃねえぞ」

「いや、まぁこっちの話」

 船乗りのおじさんは仕事があると言って、すぐにどこかにいってしまった。ぼくとサトチーにいさんだけが残される。

「よし、不肖の弟、リュカよ。今日も船の中探検隊でもするか」

「にいさん、ふしょうって何?」

「ん? それはだな……えーとあれだ……知らん!」

 難しいことをたくさん知っているサトチーにいさんでも知らないことは結構あるみたいだ。
 ぼくとサトチーにいさんはもう何度目かになるか分からない、探検に行く。
 
「今日はここに忍び込んでみるぞリュカ隊員!」

「ラジャー、隊長! ……でもここ船の中で一番えらい人の部屋でしょ? 入っていいの?」

 確か、ヒゲを生やしたおっきなおじさんだ。

「良いんだよ。むしろここに来ないと永遠に陸にたどり着かないんじゃないかって、俺は危惧してるぞイベント的に」

 よく分からない。けれど、ぼくを無視してサトチーにいさんは、ばーんって音がするぐらい勢い良くドアを開けた。忍び込むんじゃなかったっけ?

「おや、坊や達どうしたのかい。ここは船長室だよ」

 大きなおじさんが大きな机の向こう側にいた。着ている服も船乗りのおじさん達よりカッコいい。
 叱られるっ! と思ったのでぼくはおもわず、ごめんなさいと言おうとしたが、それより先にサトチーにいさんが話し出すほうが早かった。

「おっちゃん達は親父と知り合いなの?」

「ああ、パパスさんの所の坊やか。そうだよ、坊や達のお父さんには昔よく世話になったものだ。お父さんの言うことよく聞いて立派な大人になるんだよ」

 そう言っておじさんは、ぼくとサトチーにいさんの頭を撫でた。大きくてごつごつしていたけれど、温かい手だった。
 しばらく、ぼく達はおじさんに話を聞かせてもらった。大きなイカと戦ったことや、海賊船に襲われた話とか色々だ。ぼくはわくわく、どきどきしながら聞いていると部屋の外から声がした。

「港に着いたぞー! イカリをおろせー! 帆をたためー!」
 
「どうやら着いたようだな。坊や達、下に行ってお父さんを呼んで来てあげなさい」

「はーい。ほら、にいさん起きて!」

 いつの間にか眠りこけていたサトチーにいさんを揺り起こして、ぼく達はおとうさんがいる客室へ向かった。
 おとうさんは部屋で本を読んでいた。

「そうか、港に着いたか! 村に戻るのはほぼ2年ぶりだ……。リュカはまだ小さかったから、村のことを憶えてはいまい」

 村? よく分からない。サトチーにいさんは知ってる?

「おう、サンチョさんマジ肥満と思いきや、筋肉太りだったぜ。力士体型っていうのはサンチョさんみたいなことを言うんだぞ」

 聞いてみると、笑いながらサトチーにいさんが答えた。
 やっぱりよく分からない。ぼくは村のことを聞いたんだけど……。サンチョって誰?

「お前達の荷物は私がまとめておいたからな。では、いくか!」

 おとうさんがぼくたちの荷物も一緒に持って言った。サトチーにいさんはタンスを漁っていた。
 外に出ると、船乗りのおじさん達が慌ただしく走り回っていた。

「リュカ、サトチー。あっちを見てみなさい」

 おとうさんが指差す方を背伸びして見ると、海の向こうに点? が見えた。海の線の上にちょこんと乗っている。なんだろう。

「あれって山?」

 ぼくが言うとおとうさんは笑った。一緒にサトチーにいさんも笑った。

「リュカ、ありゃあ港だ。この船が着くところだぜ」

 そう言ってもう一度サトチーにいさんが笑う。
 もう一度よーく見る。黒い塊みたいに見えたものがぼんやりと、四角になっていく。
 本当だ。建物だ。

「ようやく、始まるなぁ」

 サトチーにいさんが小さな声で言った。楽しそうな、でもよく分からない声。海がざぁざぁいっている。

「ようやくだ」

 横顔が急に真面目になって、ぼくは何と言えば良いのか分からなくなって海を見ていた。
 港はもう、すぐ、そこ。





 
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