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男装の麗人

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第四章

「妖しいっていうか不思議な、な」
「そうした感情がなのね」
「出て来てな」
 それでだというのだ。
「ぞくぞくするな」
「そうでしょ、今ね」
「御前もか」
「ええ、見られてるだけじゃなくて」
 涼子の笑みが変わった、くすりとしたものから。
 妖しい笑みになった、それで言うのだった。
「今は男になっていて、それで女になっているあなたと一緒にいて」
「俺もだ」
「凄くね、胸が熱くなって」
「心の中からな」
「ぞくぞくするわ」
 妖しい笑みで言っての言葉だった、そして。
 夫の手を握ってだ、それで言うのだった。
「エスコートするから」
「レストランにか」
「そこで食べてね」
 それからだった。
「ワインも飲んでね」
「そうするか」
「そうしよう、いいわね」
「わかった、それじゃあな」
 勇太は涼子のその言葉に頷いた、そうして。
 夫、今はそうなっている相手からのエスコートを受けてレストランの席に着いた、そこでも二人はそれぞれの今の性別での待遇を受けた。
 レディーファーストだった、その待遇を受けて夫からのワインを受け取り。
 そのワインを飲み、勇太はこれまで来たことがあっても全く違うものに見えるその店の中で涼子に言った。
「このワインも」
「違う味ね」
「不思議だな」
 今もこう言うのだった。
「何かいつもと違う味がする」
「そうね、私もね」
 涼子もワインを飲む、深紅のその美酒の今の味は。
「ワインはよく飲むけれど」
「それでもか」
「いつもより、誘う感じで」
「また違う美味さがあるな」
「こんな妖しい味のワインははじめてよ」
 いつもこの店で飲んでいる種類のワインだ、だが今はだというのだ。
「すぐに酔いそうね」
「もう酔ってるのかもな」
 勇太もだった、ここで妖しい笑みになって涼子に言った。
「俺達はな」
「そうかも知れないわね。じゃあこのお店の後は」
「ホテルか」
「行きましょう、そこに」
 次に行く場所の話にもなる。
「そしてそこでね」
「また楽しむんだな」
「そうしましょう」
 二人で妖しい笑みを浮かべて話した、そうしていつもとは違う味の美酒と美食を楽しみそれからだった。
 ホテルに入った、そこでもだった。
 それぞれが逆になって夜を過ごした、夫が妻に妻が夫になり。
 一晩愛し合った、そうして。
 勇太は涼子、今は共にベッドにいる彼女にこう言ったのだった。
「御前いつもよりもな」
「あなたもね」
 微笑んでだ、涼子もこう隆太に返してきた。
「凄かったわ」
「いつもは俺が上になるけれどな」
「あなたは今は私の奥さんだから」
 今も男装、そして女装のままだ。服もそれぞれ半分程度着たままだ。
 二人はその格好でベッドの中にいて話していた、部屋の中は薄暗く二人もその夜の薄暗さの中に身を置いて話していた。 
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