男装の麗人
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第一章
男装の麗人
坂上涼子は夫である坂上勇太に対して言った、今は夕食で二人共仕事から帰って夫婦団欒の時を過ごしている。
その団欒の場でだ、涼子はとんでもないことを言い出したのだ。
「あなた背は高いけれどね」
「いきなり何だよ」
「顔立ちはいいから」
それでだというのだ。
「女装してみて」
「えっ!?」
「だから、女装してみて」
こう夫に言ったのである。
「一度ね」
「何を言ってるんだ」
「服はあるから、私のが」
勇太は一七八あるが涼子も同じ位ある、モデル並の超身長にスタイルを誇っているのだ。
「それに私もね」
「御前はどうするんだ」
「あなたの服を着るから」
「男装するのか」
「ええ、そうよ」
その通りだとだ、涼子はあっさりと答える。
「そう考えてるけれど」
「いきなり何を言い出すんだ」
「いいわね、それじゃあね」
「おい、それじゃあも何もないだろ」
勇太は涼子が作った鮭のムニエルを箸で切りながら応えた。
「俺が御前の格好をしてか」
「私があなたの格好をしてね」
「何がしたいんだよ、一体」
「変わったことがしたくて」
それでだというのだ。
「そうしましょう」
「思いつきか」
「そうよ」
まさにそれでだというのだ。
「それでしようって思ったことだけれど」
「そうか、女装か」
「私は断層ね」
そうしてだというのだ。
「やってみましょう」
「あのな、何考えているんだ」
勇太は驚きを隠せない顔で涼子に言った。
「俺が女装してか」
「私は男装してね」
「何でそうなるんだ」
また妻に言う、箸を動かす手はもう止まっている。
「それも思いつきで」
「だから。変わったことがしたくてね」
「全く、御前は普段からな」
実は涼子はよくこうしたことをする、外見ははっきりとした目鼻立ちに黒髪を丁寧に切り揃えている。その顔立ちと髪型が長身によく似合っている。
妻のその外見を見てだ、夫は言った。
「そう言う時があるししかもな」
「しかも?」
「御前男装似合うかもな」
「あなたもね」
今度は涼子が言う、勇太は背は涼子と同じ位でやはり高い、しかしその身体つきは筋肉質ではなくすらりとしている。しかも顔立ちは柔和で髪も綺麗だ、だがその髪は短い。しかしその穏やかで切れ長の目と紅の唇、そして長い睫毛はだった。
「女の子に見える顔だから」
「そういうのも見てか」
「決めたのよ、だからね」
「女装か」
「男装して」
「それで何をするんだ」
「デートよ」
それをしようというのだ。
「デートしましょう」
「夫婦のデートか、それならな」
いつもしている、勇太はこう言った。
「そこまでしなくてもな」
「だから。趣向を変えてね」
まだ言う涼子だった。
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