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季節の変わり目

作者:naya
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白雪姫

―これから三年C組の劇「白雪姫」を始めます―

―むかしむかし、王妃様が縫い物をしていると間違って指を針で刺してしまいました―

幕がゆっくり開き、椅子に座っている王妃が姿を現した。黄色いスポットライトが当てられて王妃の白い衣装が映える。頑張ったというだけあって、雰囲気作りはばっちりだった。窓に星、雪、衣装まで細かい所に気が遣われている。王妃の横にきらきらと輝く白い粒子のようなものが見えて、きっと何かの劇の道具なのだろうと思う。

「産まれる子供は雪のように白い肌で、雪に広がったこの血のように美しい頬で、窓枠の黒のように漆黒の
髪を持った子供に違いないでしょう」

―その言葉の通り、生まれた子はとても美しかったのです。王妃様はその女の子に白雪姫と名付けましたが、

白雪姫が生まれた後、すぐに亡くなってしまいました。そして新しく迎えられた王妃はとても意地悪で、自惚れ屋でした―

王妃に当たるスポットライトは消え、代わりに新しい王妃へとライトが当たる。

「げ、あれ筒井さんじゃねーか」

ヒカルの言った通り、黒い衣装を纏って鏡の前にいるのはヒカルの先輩、筒井公宏だった。案外はまり役らしく、性悪そうな言葉を大きな身振りをつけながら紡いでいく。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だか言ってごらん」

「王妃様がこの世で一番お美しい」

「ふふふ、そうよ。誰にもこの美しさは超えられないわ」

次に、ミュージカル形式なのか、王妃が歌い始めた。それからどこからともなくバックコーラスの人たちが現れて王妃と一緒に高らかに歌う。歌い終わると王妃は鏡を一撫でして舞台の裾に高笑いをしながら消えていった。

「おーっほっほっほっほ。おーっほっほっほっほ」

女装だったからうけたのか、観客から微かに笑いが聞こえる。ヒカルは何故かいたたまれなくなり俯いた。

―こんな風に王妃は満足して眠り、次の夜も鏡に尋ねる、そんな毎日を繰り返していました―

ライトが落ち、黒子が道具を片づけ始め、新しい場面を作っていく。十秒ほどして今度は城の外にある庭が照らされた。

―白雪姫は成長し、美しい娘になりました。日が経つにつれその美しさは増し、城中に快活さをもたらしました―

右手の舞台袖から白雪姫が登場する。配役はすぐ決まったらしい。佐為だった。水色のサテンっぽいドレスに身を包んで、頭には小さな金色の冠が輝いている。化粧はクラスの女子に無理やりやられたのだろう、どこからどう見ても女の子に見えた。

「ほえー」

和谷はまぬけそうに口を開けて感嘆する。それはヒカル、伊角、他の観客たちも同じで、佐為の美しさに呆気にとられていた。城の使用人たちも表に出てきて、音楽に合わせてワルツを踊る。観客たちは手拍子をしてステージを盛り上げた。

「本格的だなあ」

伊角の声に和谷とヒカルはステージ上を見たまま頷く。

―しかしある夜のこと、いつものように王妃が鏡に問うた時―

ステージの後方に王妃がくるくる舞いながら現れる。白雪姫たちはダンスの途中で静止した状態だった。王妃は大工係によって邪悪な装飾が施された鏡に向かって顔を近づけた。

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは誰だい?」

「それは王妃様、あなた様です。しかしこのまま月日が経てば、白雪姫が王妃様の美しさを追い抜くでしょう」

「何ですって!」

王妃は壇上に崩れ、前方にいる白雪姫を睨みつけた。

「なぜ白雪姫が。私が世界で最も美しいはずなのに」

そして王妃はなよなよと起き上がり、時間のとまった白雪姫のところへ歩いていく。白雪姫の肌に手を添え、憎々しそうに悪口を叩いた。

「まあ、王妃様はまた白雪姫を虐めている」

「助けたいけれど私たちは使用人の身、手を出すことは許されない」

―そしてついに鏡が言ってしまったのです―

「この世で一番美しいのは白雪姫だ。王妃様は二番目にお美しい」

―王妃は激昂し、白雪姫を手先たちに追い出させました―

どんっ。

白雪姫は体を押され、手をついて倒れる。

「まあ、お義母様!やめてください!」

「ええい、こっちへ来い!」

そのまま白雪姫は衛兵たちに連れられて退場した。残された王妃と使用人たちも暗くなったステージを無言で出て行った。同時に黒子がまたステージ上を移動する。

―深い深い森の中に捨てられた白雪姫は、行くあてもなく森を彷徨いました。そして森の中に一軒の家を見つけたのです―

「入ってもいいかしら」

白雪姫は家のセットに足を踏み入れて、きょろきょろと中を見回した。誰も居ないことを確認して、テーブルに用意されたスープやパンを食べ、そのままベッドで眠ってしまう。それから七人の小人が現れたり、魔女が殺しにかかってきたりした。
 
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