SAO――とある奇術師は閉ざされた世界にて――
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一章 十話 とある後輩は名を呼ばれる
「お疲れ様でした」
そう言って回復用のポーション小瓶を差し出してきたのは蒼の妖精だった。
「い、いや、いーよ気ぃつかわなくて」
何かむず痒くなって、遠慮。
「飲んどかないと駄目ですよ」
「ポーションくらい、自分でもってる・・・・・る?」
使い切っていた。
「ほら、飲んでください」
「い、いや、いーですから」
「飲んでください」
「いーですから」
「飲んでください」
「いーですから」
「・・・・・」
お、諦めた?
「・・・飲みなさい!」
「ゴボッ」
小瓶を口に突っ込まれた。
変な味の液体が喉を滑る。
「ゴホッ、ゴホッ」
激しくむせる。
「ああっ、先輩、大丈夫ですか!?」
蒼の少女が慌てているが、予想できませんでしたか?
「んで?結局何が目的だったんだ?」
一段落ついて、落ち着い俺は、二人の前に立っていた
蒼の少女のぎこちなさも無くなり、多少和やかさが増している。
いや、ジゼルがいる時点で真面目な雰囲気など二分と持たないのだが。
「簡単に言うと、意識調査ですね」
俺の質問に答えたのは蒼の少女だった。
「意識調査・・・・?」
「重要なのは、君が僕を殺さなかったってことなのさ」
「ああ、成る程」
納得。
俺がジゼルを殺す気でかかれば、改心の色なし、と。
けど。
「今回は、ジゼルを殺そうとすれば、他の連中がだまっちゃいなかったろ?俺が、今だけ妥協したのかもよ?」
「それはないですね」
ずいぶんと、確信のある、といった顔だった。
「先輩が意外と後のことを考えないというのは・・・・あのとき分かりましたし」
一瞬、幼い顔が暗く染まるが、彼女は直ぐに気を取り直す。
「それに、本当に殺す気なら、最後が単発技なんてありえません」
まあ、確かに普段の俺ならあそこでためらわずに”タクティカル”を放っていただろう。
「けど、あなたはあそこで、ジゼルさんのHPを余計に削るのを避けた」
「そりゃまあ、あんなこと聞かされちゃあな」
目的を同じくする者と
知ってしまった以上、ある程度の情はわく、というものだ。
「まあ、君はこれで晴れて我がギルドのメンバーってことさ! 歓迎するよ、ラーク君!」
「いや、入らねえから」
「むう、連れないなあ」
ぶつぶつ言ってるジゼルは、気にしない。
「今、十時、か・・・・」
「あれ、何か予定でも・・・・?」
蒼の少女に聞かれて、少し焦る。
「あー、うん、つか、・・・えっと、」
少し、不安だった。
今の彼女を見ていると、もう、怒っている気配はないが・・・
煮え切らない呻きを続ける俺に、蒼の少女は、全て分かっている、とでも言いたげに微笑む。
少し、戸惑ってしまう。
彼女は、その笑みそ崩さぬまま、言った。
「いいですよ、そんなに気にしなくても。・・・もう、折り合いは着けましたから」
その言葉を聞いた俺に浮かんだのは、心が洗われるような感覚、そして、この笑顔が俺などに向けられていいのか、という疑問。
だが、彼女が、ほら、と促すように、優しく頷いたのを見た時、口から、勝手に言葉が滑り落ちていた。
「・・・・少し、頼みたいんだ」
「何でこんなトコに呼び出したんだよ、ラーク」
「こんなトコってなんだ、こんなトコって」
ボロ店の事を揶揄したクラインが、エギルにどつかれている。
「ねえ、キリトくん、ケーキの美味しい店があるんだけど、今度行かない?」
「い、いや、その日は、ちょっと用事が・・・」
今日もキリト攻略に励むアスナと、相変わらず女が絡むと途端に嘘のステータスが初期値まで下がるキリト。
そして蒼の少女。
「先輩」
彼女の少し気づかうような声に、何となくせかされた気分になってしまうのは、俺が少し緊張しているからだろうか。
ここはエギルの店。
みんかをここに集めたのは俺。
・・・正確に言うと、蒼の少女に頼んでメッセージを送って貰った。
その理由は・・・
「お、おい、ラーク、結局何で俺達を集めたんだ?」
アスナの猛攻に耐えられなくなったキリトが、俺に話をふってきた。
・・・・うーん、心の準備が・・・
「そーだそーだ、教えろよぅ。こっちはギルドの調整もあるんだからよぉ」
クラインの同調に、更に焦る。全く疚しい事はないのだが。
「先輩」
隣から見上げてくる蒼の少女を見て、少し落ち着く。
彼女だけは、ここに集めた理由を知っている。
「え、えっとだな」
口を開く。
「その・・・・メッセージが使えると、便利だと思わないか?」
「・・・・・?」
全員、キョトン。
「ほ、ほら、今だって、頼まないと、お前等を呼び出せなかった訳だしさ」
キョトンキョトン。
「ほ、ほらさ、階層無視で送れるんだぜ! すごいだろー」
「・・・・先輩」
は、はい。分かりました。分かりましたってば。
「フレンド登録! ・・・してくれないか?」
・・・・ホントはこんな直球キャラじゃないんだけどなぁ・・・
しばしの無言。
激しく緊張。
彼らは二、三度顔を見合せた後、
「なんだ、そんなことか」
口を開いたのはキリトだった。
「それは、そんなに緊張するべき事なのか?」
とエギル。
「そういえばフレンドじゃなかったんだねー。私達」
これはアスナ。
「つーか、今更すぎるだろぉ」
最後のクラインに、何とか返す。
「い、いや、今更だからこそ緊張するっていうか・・・・」
「私はフレンド零人ってトコに驚きました」
「うっせー! ちょっと色々あったんだよ! 多分」
照れ隠しに、ヤケクソになって叫ぶ。
「ていうわけで、攻略組復帰の記念みたいな感じで、頼めると嬉しいなー・・・と」
攻略組復帰。
俺がそれを決めたのは、ついさっきだ。ついさっき、蒼の少女に許しの言葉を貰った時だ。
急といえば急なのだが、最大の懸念がなくなった以上、少しでも人手の助けになれば、と思ったのだ。
そしてそれを口実に、切っ掛けを探していたフレンド登録の件を、持ち出してみようかなー、と。
「そっかー、ようやく復帰かー。頑張ったかいがあったよー」
そんなことを言うアスナと、登録。
「ん?どういう事だ?」
いぶかしむクライン、登録。
「その感じだと、勧誘以外に何かやったのか?」
エギル、登録。
「あ、そういえば、フェイトの登場したタイミング、神がかり的だったよな」
狩り場での、レアドロップよりも確率の低いと言える再開の事を言うキリト、登録。
そこで、アスナが問題発言。
「うん、私がフェイトにあの場所を紹介したんだよー。ラーク君がいるかなーと思って」
「てんめーっ! こっちがどんだけ焦ったと!」
怒りで言葉が最後まで続かない。
「私も・・・正直慌てました」
蒼の少女も抗議の声を上げるが、アスナはしれっといい放つ
「良いじゃない、二人とも仲良くなったみたいだし、結果オーライって事で」
ムカついたので、言い返してやる。
「その図太さをキリト攻略に活かすべきだと思う」
「う、うるさーい!」
真っ赤になって怒鳴り返してくるアスナ。
「ん?どういうこと?」
キリトの相変わらずの鈍さに、自然と笑いが充満する。
アスナも、最初は頬を膨らませていたが、途中からその輪に加わる。
なんともアホ臭く、なんとも幸せと感じた。
そんな笑いも一段落着いたところで、俺は隣の少女に向き直る。
「ありがとな」
「・・・・なんのことですか?」
とぼけた様子ではない。本当に何のことか分かっていないようだ。
自分が、俺にどれだけの影響を与えたのかも知らないで。
「許してくれたのと、協力してもらったこと。」
あと、あの時俺を殺す気できてくれたこと。内心でそうつけ加える。
あの出来事がなければ、俺は今も、ただ復讐の道を歩いていたことだろう。
「ああ、そんなこと・・・・」
少し照れたように顔をうつむかせた蒼の少女。
その顔をみて、少し決意。
名前を、呼ぶ。
「フェイト」
「は、はい?」
名前を呼ばれた本人は、
少し戸惑っているようだった。
それもそうだろう。なにせ、面と向かって名を呼んだのは、これが初めてなのだから。
もう、気兼ねも要らないよな?
そういう意味も付け加えて、聞く。
「フレンド登録、お前もしてくれるよな?」
蒼の少女ーーフェイトは、おそらく俺が見たなかで最も良い笑顔で答えてくれた。
「はい!」
後書き
作者「クラインとアスナが、五十一層で出会ってしまいましたー。原作ではもっとあとなのに。
キリト君が原作以上に鈍くなってしまいましたー。鈍くなりすぎてとぼけキャラ的立ち位置にー」
ラーク「なんつーか適当だな」
「物語の設定がー?」
「いや、作者の性格が」
「そっすかー」
「というわけで」「御愛読、ご感想」「よろしくです」
「次はやっとボス戦です」
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