| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

DICTIONARY

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 次ページ > 目次
 

DICTIONARY

 辞典と少年
 

 200年前、小さな村から一冊の本が盗まれた。
 盗んだ人間は、誰にも気づかれぬまま村を抜け出し、林を駆け、森を抜け、川を越え、隣町の方へと走った。
 盗んだ本には、黄金の文字が記されており小さく『DICTIONARY』とみえた。
 本を盗んだのはフードを被る小さな幼い少年だった。
 手のひらより大きく少年が運ぶには大きすぎた、だが少年にとっては今この本が明日を生きるために必要なものだった。
 売ればお金になる、そうすれば明日の食事に困らない…、そう思いながら全力で野山を駆け抜けた。
 少年は町に着いた。
 どれだけ走ったのか…、そんなことなど気にせずそのまま走り続け町の門を抜けた。
 

 少年は、小さなお店の前に立っていた。そこには『鑑定屋』と看板に書いてある、その下には小さい字で『盗んだものは買取らない』と記されていた。
 少年はゆっくりと深呼吸をした。
「はぁ…、はぁ……」
 息を整えできるだけ平常心を保った。
 店のドアに手を掛けた。小さな力で木製の扉を少しずつ開けた。
 開いた扉の奥にはいろいろな商品が置いてあった。小さい置物から見たこともない金属の光る装飾品。
 少年が周りに視線を動かしていると、 
「おやおや、小さいお客様だねぇ……」
 突如聞こえた声に少年は驚いた。左に視線に移し首をゆっくり動かした。
「小さいお客さんの割りに気が強そうな目だ……」
 言ったのはお爺さんだった。
 少年の体より大きく頬はふっくらして、しわが顔をなぞり白いひげが特徴的だった。声は低く、だがはっきりと聞きとれた。
 身長は少年の2倍以上はあっただろう。
「やぁ、今日はどんな御用かな?ふむ……、また持ってきたのかい?」といった。
 また…っと、お爺さんは前にも同じことがあったかのように話した。
 少年は言った。
「き…今日は、これを買って欲しい……」
 そう言いながら本を店のカウンターに置いた。
「ふぅ……」
 お爺さんはため息を少しついた。
「今度は何を持ってきたのかねぇ……ぬぅ…?『辞典』か…」
 少年が言う。
「こ、これは…ぼ、僕の家にあったものだ!だ…だから、買取ってもらえるはずだ!買ってくれよ」
 少年は強く主張した、隣村から盗んだものだとバレたくないからだ。
『盗んだものは買取らない』このお店の看板にはそう書いてあった。それがバレたら買取ってもらえないためだ。
「ふぅ……、分かっておるわい、少し落ち着かんかい」
 お爺さんは分かっていた。小さな少年が泥だらけになってまで、きれいな『辞典』など持ってこないことを…だがお爺さんは何も言わず本を受け取り中を開いた。
「むむぅ…」
 といってお爺さんは鑑定を始めた。


 少年は少し疲れていた。
 お爺さんのお店ではこれまで色んなものを買取ってもらった。そのどれもが見た目が高価な品ばかりだった。しかし、本を売ったのは今回が初めてだった。ここでお金にならないと言われたら、疲れた体でもう一度隣村まで戻らなければいけない。
 それだけは、避けたかった。
 もう一度あの村に戻っていく体力がない。お腹も空いたこの状況で行こうものなら途中で倒れてしまうだろう。
「まだ…?」
 イライラしながら少年は言う。腹が空いたと主張するように。
 お爺さんは首をかしげながら少年に一つ質問をしてきた。
「悪いが、これは字が読めん。どういった辞典なのかわからないし、そもそもこれを他のお客さんに買取ってもらえるか分からないのだが、…君にこれが読めるのかな?」
 そういったお爺さんが少年に本を見せた。
 そこには一文が記載されており、絵と小さい文字列が大量に並んでいた。絵には手のマークと火のように見える線が記されていた。
「これが何かわしには分からんのだが、絵を見る限りじゃ火に見える。だが、それだけでは良く分からない、何よりもこの一文が何とかいてあるのか分からないのだよ」
 そういってお爺さんは一文を指差した。
『Ignis』
 と書かれていた。
 少年は読めた。お爺さんにも読めるはずなのだが読めないといってくる、ふざけているのだろうか?
「お爺さん、これは僕でも読める。馬鹿にしてるの?買えないなら買えないと……言ってくれよ」
 空腹と疲労のせいか口調が厳しくなったが、買えないと言われたら困る為最後はやや小さく小声で言った。
「ふぅ~…どうしようかね…」
 そういってお爺さんは少し考え…、結論をだした。
「まぁ、今回も見た目が綺麗じゃし『辞典』なら物好きな奴が買うじゃろう…」
 そういって少年に少しばかりのお金を渡した。
 お金をもらった少年は急いでお店を出た。売った本を元手に食べ物を買いにさらに大きな町に走っていった。


 15年後、その少年はたくましく育ち町一番の義賊の長となった。



おわり
 
 

 
後書き
読んでいただきありがとうございます。
その後、少年に何があったのかは私の中では考えてありましたが、文字に書き起こす気も起きませんでしたのでここで終わらせていただきました。

時間があれば次回作はもう少し長い物を書こうと思います。

執筆時間2時間/22才 byタタオオツカ 
< 前ページ 次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧