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季節の変わり目

作者:naya
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合格祝い

 
 「合格に、乾杯ー!」

和谷の一声にみんなテーブルに置かれたグラスを高く上げる。10月の下旬、伊角の部屋で小宮、岡、奈瀬の合格祝いが行われていた。足立は最後の最後で負けてしまい、岡にプロの座を譲ってしまった。岡のライバルの庄司も一歩届かずプロ試験に落ちた。岡としては庄司に話も出来ていない状況で、今も不安な心境なのだが、和谷にせっかく呼ばれたのだし来るしかなかった。プロ試験に受かって、北斗杯に出ると意気込んでいたライバルの不合格にどうしようもなく気が沈む。そんな岡をみんな気遣い、少しでも元気にさせてやろうとお菓子やジュースを大量購入してきた。今、テーブルをヒカル、和谷、越智、伊角、門脇、本田と合格した三人が囲んでいる。

「三人ともおめでとう」

「ありがとっ。伊角さん、お祝いに今度デートしてよね」

奈瀬がいたずらっ子のように微笑むと、伊角は「えっ、えっ?」と案の定戸惑ってしまう。そんな二人の様子に和谷が呆れた顔をする。

「奈瀬は相変わらずだな」

「いいじゃない」

門脇はさっきから奈瀬が隣に座っているため、にやけまくっていた。第一印象は最悪だったが一応今では話くらいはするらしい。

「小宮さんは終始絶好調だったらしいですね」

越智が眼鏡を上げて尋ねると、小宮は「今年は運が良かった」と遠い目をしながら呟く。

「やっぱり三人の枠はきついよ。俺は対局相手の順番が良くて落ち着いて試験を受けられたんだ」

「それは影響するよなー」

続いて和谷が自嘲気味に話す。

「俺なんか最終日がフクだったぜ」

「でもフク克服しただろ」

「まあな」

フクは今年の試験も合格できなかった。初戦からつまずいて後の対局にかなり響いたのだという。フクもプロ試験前は合格候補者と噂されていたが、プロ試験中盤にはもうそんな噂など消し飛んで、小宮、足立、奈瀬の三人にみんな意識が集中した。プロ試験終盤になるとみんながぎくしゃくしてろくに話もしなかったらしい。

「足立はまたプロ試験受けるってよ」

「おおっ」

小宮の知らせにみんな口を揃えて嬉しがった。足立は院生時代から一緒に頑張ってきた仲間だ。あと一歩のところで落ちた足立をみんな心配していた。

「こりゃ来年のプロ試験に期待だな」

「おう、足立さんは絶対合格するぜ」

みんなが白熱する中、ヒカルはポテトチップスを頬張りながら岡を眺めていた。岡はどこか心ここにあらずといった感じでみんなの会話に相槌をうっていた。俺も伊角さんのことが気がかりでしようがなかった時があったな、とヒカルは思い出し懐かしくなる。何故かにっこりしているヒカルの視線を辿った和谷が沈んだ岡に気づく。

「岡、あんま気にすんなよ。これがプロ試験だぜ」

試験に対しては和谷はいつも真剣だった。塔矢の不戦敗に激怒したこともあったし、伊角の不調にイラついたこともあった。そんな和谷だからこそ試験の厳しさを受け入れている。

「はい、分かっています。けど」

「今日くらいは楽しもうぜ、岡」

ヒカルも岡に言い聞かせると岡は硬くなった表情を僅かに緩めて頷いた。本田は岡の肩にぽんぽんと手を置いて岡と目を合わせる。

「庄司も来年があるさ」

庄司はいつの間にか合格レースから脱落していった。岡とセットでダークホースだと言われていたが、結果はむなしいものになった。「合格して北斗杯に絶対出てやる」と誓っていた庄司は、不合格になって以来、北斗杯に憧れる前の院生時代の自分の甘さを責め、ひどく落ち込んだ。岡から電話がかかってきても、全て無視した。
 
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