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イドメネオ

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第二幕その二


第二幕その二

 宮殿の前では。イーリアに出会った。すぐにイーリアが口を開いてきた。
「若しもです」
 イーリアがイダマンテに対して言う。
「ギリシアの地にデロスの神、太陽が現われるならば今日がその日です」
「この日がか」
「ですから王様」
 じっとイドメネオを見詰めてさらに言う。
「よくぞ戻って来られました。本当に」
「トロイアの優しい姫よ」
 イドメネオはここで彼女に言葉を返した。
「再び晴れやかな心を戻して欲しい。そして苦悩を忘れ私を頼ってくれ」
「はい」
「これからの私は貴女と貴女の同胞達に友情の確かな証を約束しよう」
「有り難うございます。例え祖国と父を失っても今ではこのクレタが祖国であり貴方様が父です」
「そこまで言ってくれるか」
「はい。最早苦しみも悲しみも思い起こすことはなく」
 こうイドメネオに語る。
「今や喜びと満足に変わっています。最早」
「有り難い言葉だ」
「王様ですから」
(しかし)
 ここでイドメネオは引っ掛かるものも感じていた。
(何故だ。この様な苦境において突如として変わるとは。まさかとは思うが)
 イーリアの目を見て不吉なものを察した。
(何ということだ。イダマンテよ)
 既に彼がとろいあの者達に何をしたのかも知っていた。
(彼女と彼等の鎖を解くのは早過ぎた。それによりそなたは生贄に捧げられ私と彼女は悲しみに襲われる。何という恐ろしいことだ)
「王よ」
「うむ」
 それでもイーリアの言葉には応える。仮面を被り。
「ですから私はもう」
「そうなのだな」
「はい」 
 熱い目で微笑むのだった。
「その通りでございます」
「それはいいことだ」
(だが)
 ここから先はとても言うことができなかった。
(恐ろしい運命だけは。言うことができないのだ)
「では私はこれで」
「ではな」
 イーリアは去った。それを見届けた王は。また呟くのだった。
「しかし。何故だ」
 彼の嘆きの理由はもうはっきりとしていた。
「海から逃れたというのにまたもこの胸に残ってしまった。前に増して不幸な海を。ポセイドンはこの胸のうちの胸にも荒波を立たせられるのか」
 嘆きの言葉を続ける。
「残忍な神よ、せめて教えて欲しい。これ程難破に近いというのに私の心はどのような邪悪な運命によりすぐにも難破することを阻まれているのか」
 嘆き続ける。すると今度はエレクトラがやって来た。
「王様」
「エレクトラ姫か」
「はい、アルバーチェ殿より聞き及びました」
 こうイドメネオに述べるのだった。まずはそれからだった。
「私のことを心より思って下さっておられるのですね」
「人としてとうぜんのことだ」
 彼は奢ることなくこう返した。
「このことは」
「左様ですか。それでも」
 慈悲を受けるエレクトラはこう言われてもあえて述べた。
「その無限の温情、そして私の感謝は」
「貴女を守る責務はイダマンテにある」
「イダマンテ様にですか」
「そうだ。私は我が子のもとに行き今すぐに私の意向と彼の義務を伝え貴女の望みが適うようにしよう」
「私は多くの不幸を味わってきました」
 父の死と母の変節、母の愛人の仕打ち、そしてそれへの復讐。それ等の荒波が彼女を乙女から猛女に変えていたのだ。しかしそれを忘れようともしていた。
 
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