イドメネオ
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第三幕その二
第三幕その二
「何でしょうか」
「若し私がこの言葉を聞いて死なないとしたら真実ではありません」
「真実ではない?」
「そうです」
毅然としてイーリアに語る。
「愛に人が死に、喜びに心臓が止まるというのは」
「もう苦しみも悲しみもありません」
イーリアも言う。
「私は貴方に全てを捧げます。私の唯一の宝に」
「姫・・・・・・」
「王子様・・・・・・」
「最後に私は欲しい」
「私もです」
見詰め合って語り合う。
「私の花嫁に」
「貴方が私の花婿に」
「愛がそう命じてくれることを」
「私達の喜びは今ここに」
二人で言葉を交えさせる。
「これまで味わった苦しみを」
「この思いは何にも増して強いものだから」
「何を話しているのだ?」
見詰め合う二人のその場所にイドメネオが来た。
「父上」
「どうしてここに」
そしてそこに来たのはイドメネオだけではなかった。エレクトラもいた。彼女は見詰め合う二人を認めてその顔に強い険を浮かべさせたのだった。
「くっ、余計なことを」
「やはり」
イドメネオは沈痛な顔で二人を見て述べた。
「そういうことだったのか。この二人は」
「王よ」
イダマンテはここで何と臣下の礼でイドメネオの前で片膝をついた。
「一つ御好意を頂けるでしょうか」
「何をだ?」
「私をあの獣の下へ」
こう父に言うのだった。
「是非。今より」
「いや、それは」
「ならないのですか」
「そうだ」
彼はまだイダマンテを息子と見ていた。イダマンテは臣下として側にいるというのに。
「このクレタを離れ遠くへ行け。安住の地を」
「しかし」
「これは王としての言葉だ」
有無を言わせぬ強い言葉であった。
「だからだ。それは」
「ならないというのですか?」
「その通りだ。わかったな」
「では私は」
「去るのだ、このクレタを」
また言うイドメネオだった。
「何としてもな」
「それは私の祖国でなければならない」
エレクトラはそれを聞いて青い炎を巡らせながら呟いていた。その赤い衣の上に。
「そうでなければ」
「私は。どうしても」
イーリアもイーリアで言う。
「イダマンテ様に。御無事で」
「では私は」
「行くのだ」
イドメネオはまた我が子に告げる。
「このまま。何処かへと」
「わかりました。それでは」
項垂れて頭を垂れるイダマンテだった。
「何処かで。死を捜し求めて」
「それは・・・・・・それだけは」
イーリアは今の言葉を聞いて顔を蒼白にさせた。
「なりません。死んでは。ならば私も」
「それは駄目だ」
「私が行くことができれば」
イドメネオもまた己の心の苦しみに喘いでいた。
「どうしてこの様な。惨い運命だ」
「このまま私はこの方を祖国に導く」
エレクトラだけが希望を見ていた。
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