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SecretBeast(シークレットビースト)

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本編 第一部
一章 「出会いはいつも唐突に」
  第一話「不思議な少女」

 この高校に入った頃、俺はある一人の少女に注目しっぱなしだった。いや、いやらしい意味はない、と思う・・・・・・。まあ、話してみるとおれ、藤沢賢治は、彼女から見たらただのそのへんのちょっとのっぽでやせっぽちで金髪ヤンキーにしか見えないだろう。まあ、彼女、豊村(よしむら)伊佐(いさ)、えとイサと読むらしいのだがそのイサはクラスでも噂の美女だから余計関心はないだろうし。うん、だがいっておくと美少女にはなりえない、彼女のルックスはまるでおれたちクラスメイトよりももっと年上の感じのちゃんとした美人だからだ。胸が異様に大きいわけでもなく女子高生らしいちょっと軽い感じもない。背が高くスタイルがよく体がいい感じに発育してもう均整のとれたしっかりした女性の体だ。可愛いよりすこし迫力すらあるかっこ良さがある。だが、それでいて周りに興味がないのか周囲の反応をまるで意に介さず行動する。
 あるときだ。一時間目最初の授業が水泳でホームルームをあまりの暑さにみんなの総意が珍しく一致し、すがすがしく皆の文句の嵐がくるまえに即効で終わらせた先生をあとに残して、脱衣室にみんなは行ってしまった。おれもあまりに暑いのですぐにあとを追う(おれはクラスではなぜかヤンキーで通ってしまったため、人より少し遅れて行動するようにした。すると不思議と人とは違う流れにいるせいかクラスの違った面が見えてくるし、逆にそのゆっくりとした動作が自分をさも強そうに見せてくれる。まあ、俗に言う見た目ヤンキーってやつだ)それで、廊下を無意識に通り過ぎようとしてこれまた無意識にだれかとすれ違った。でそいつがちょっといい感じのハクい美声で挨拶がてらこう聞いてきた。
「おはよう、なあ一時間目水泳のようだけど脱衣室ってどこだ?」
うん、まあ聞いてくるから反射的に答えたわけだ。
「おう、窓からプール見えるだろう。あの入り口を入って右だ」
 そう、そのときは暑かった。だからおれも半ば無意識におれがいつも(・・・)入る(・・)脱衣所(・・・)の場所を答えちまったわけだ。
「そうか、ありがとう」
「おう、遅れんな」
 まあ、おれに話しかけてくる奴だし遅れてくる奴はたいてい野郎の方が多いから別におかしいとも感じずおれは通り過ぎた。
 んで、脱衣所で着替えていた。小学生のころは、着替えるのが恥ずかしいやつとかいてみんな、ゴムが入った腰を隠せるバスタオルとかで着替えたもんだが高校ともなるとサバけてくる。といってもその時は、遅れて入ったから着替えるのが遅い数人の男子と俺一人だった。だけどおれより後に入ってきた奴が視界の隅に入っていたが妙に華奢なやつだった。んでそいつも俺の横で着替え始めたんだが。ん?まてよ、なんつーかこう体のラインつーのがどうも女みてえな奴だな。としかし、ま、今の非力な男子タイプはこんな感じかな、でも、いやっこれはほんとうに女だったらそうとうマブい、て、な、えええええ? 
 俺の横に平然と全裸の女がそれもそうとうスタイル抜群のグラビアにだってでてこねえようなマブい女は、ってよしむら?そう、おれの横にいたのはよしむらイサ、クラス一の学校で今話題の美女だったのだ。
 完全に言葉をなくして見入っている俺に、首を傾げてるイサ。
そんでさっきのハクい美声で言った。
「ん、なんだ。教えられた脱衣所ってここだろう?今日は、ホームルームが異常に短かったらしいな、そこの男子が話してたぞ?にしてもこの学校は男女合同の脱衣所なんだな。さすがは高校だな。小学生のときなんかは教室で着替えをしたが、中学になると脱衣所がちゃんと用意されてるとは、これはプールも本格的なものと期待していいな」
 ここで俺はしばしこのありえない幸運がどうして起こったか少し記憶をさかのぼってみた。今日は、なんだか馬鹿に早くホームルームが終わり、そしていつものように少し遅れて席を立った、俺は廊下を通り過ぎ様にホームルームに遅刻してきた野郎に脱衣所の場所を聞かれ、んで反射的になんの意識もせずに脱衣所を教えてここにきた。ん?遅刻してきた野郎?俺はそいつを確かにその目で見て野郎だと判断したか?いや、俺はそいつを横目でながしたがちゃんと確実に正確にそれも男か女か判断せずにおれらがつまり男子がいつも使う脱衣所を教えたんじゃなかったろうか。待て待てということはだ。あのハスキーでハクい美声の持ち主はまさか、こいつ!?あ、あ、あ、あばばばばば!!!(意味不明)やべえ、やべえよ、こいつが今は勘違いしてるからいいがもしここが男子専用の脱衣所で女子のはとなりだとしったら。
「よ、よお、たしかよしむらだったよな。悪いな、俺間違えちまってよ!いや冗談のつもりだったんだが」
「ん、なにか間違えたのか?冗談とはおまえなにか面白いこと言ってたのか?」
バンッ!!俺はちょっとというかそうとう強くアグレッシブに自分の横にあった配電盤の金属ケースを叩いた。
赤くなっている後ろの男子がビクッと怯える。
んでもって俺は最大のヤンキー顔(これ、できるのに一週間かかった)で後ろの数人の男子をにらんだ。
「おい、イサさんはちょっと俺の冗談に引っかかっただけだ。間違っても変な噂立てんなよ。噂が立ったらてめえら、病院にもいけないくらいガタガタにしてやるぜ、分かったんか、おお!?」
「は、はいっ!!」
「よし、んじゃさっさと行け」
「はい!すんませんしたー!!」
そしてもう一度顔を百八十度反転させて。
「いや、イサさん?人が悪いつーかもうなんてゆーか」
「くくく、あははは!」
「い、イサさん?」
「あはは!い、いやおまえ、突然すごい音たててあの男子、本気でびびってたぞ、おまえいつもそんなふうに突然きれるのか、おっかしい奴だな」
い、いや笑うところじゃないっすよ?、あーそのスタイルでそのそんなふうに笑いこらえないでまじでまじで刺激強すぎるから。
彼女の美しい肉体が笑いによって痙攣しているのが高校生の自分にはけしからん妄想を抱かせる。
「あはは!で?人が悪いとはどういうこと?」
「い、いや最近ね、不良の間で流行ってるんすよ。こんなふうななりしてて金髪キメてる奴に普通の奴はあまり、話しかけないでしょ?でも最近のやつらはなめてるていうかまれに気安く話しかけてくる奴には、すこし冗談を言ってからかわなきゃいけないっていうまあ、不良の間でのきまりごとみたいのがあるんすよ」
「ん?ほーう、そんなものが、でわたしが気安く話しかけたのでちょっと冗談をいったと?

 よしむらの目つきが変わった。やばいこの人ヤンキー恐れない人だった。そう彼女はまったくといっていいほど、周囲に関心がない。だがそれは関心がない=どんなやつにも態度を変えない、ということだった。よしむらことイサには入学当初、すこし変わった伝説があった。それはこの学校一の不良の剣持先輩が下級生をいじめていたところをこの入学初日の豊村(よしむら)伊佐(いさ)が下校途中にたまたまそこをとおりかかった。そして剣持先輩のいじめを物珍しそうに見ていたのだ。なんとなくやりづらくなった先輩は、その入学当初からルックス抜群だったイサに因縁をふっかけようとした。だがイサと目が合った瞬間、なにかものすごい恐ろしいものをみたように震えだして、走って逃げたのだ。入学当初に学校一の不良を退散させたこの女はそれいらい、みんなに暗黙の中で恐れられている。
 や、やばいなんとか冗談ということにしてすますはずが、この人には冗談が通じないんだった。
だがそのあとにつづいたイサの言葉は予想を覆すものだった。
「いつだ?私には冗談を言われた記憶はないんだが、なあそういう不良のきまりごとというからにはさぞ悪逆な冗談なのだろう?私の記憶にもないくらいだからまさかしてやられたのか?私は、面白い奴だなおまえ」
「え?」おれは少し想像してた態度とちがうのでびっくりした。なんというか怒っているというわけではなくてなんだか本当にからかわれたことを面白がってるようだ。
「なあ、教えてくれよどんな冗談なんだ。なんだかからかわれたままじゃ恥ずかしいじゃないか」
い、いや、あんた。いまのあんたの格好もふつうだったらはずかしむもんだよ。
「あ、ああえっとな」俺は思った、これはこいつには嘘とかごまかしがなんだか俺の直感がつげているのだが百パーセント通じないだが、あんがいけっこうほんとのこといっても冗談ですまされるかもしれない。なんだかこのイサという人物はまるでなんというか病的なところがまったくないそれどころかなんだか熊でも怖気づくような巨大な恐怖感を抱かせるようなものものしいバイタリティにあふれた精神構造をしている。そう感じたのだ。俺は、見た目ヤンキーといわれても仕方ない姿をしているがこの金髪は生まれつきだ、しかしだからといってのっぽでやせっぽちにも見えるこの体は小学生の頃、知り合いのボクシングジムでものすごい鍛えられ方をしているので着やせしているがけっこうたくましい体をしている。それに鍛えられたのは体だけじゃない、毎日の地獄のような特訓とスパーリングでたいていのやつなら一目みればそいつがどういうやつか分かる。その勘が言っている。こいつはたぶんどんな冗談でからかわれてもこっちが引け目をみるくらいからっとしているんじゃないか。
「ああ、冗談つーのはな、ここは男子用の脱衣所なんだ。女子はとなりだ」
 おお、いまさらっと恐ろしいことを言ったがここでふつうの女子なら凍りつくが・・・・・・。
 彼女はというと、ああそういうことかというような驚きの目をしたあと、大きな声で笑い出した。
「あはは、おまえはほんとうに結構な不良だよ。相手が私だと知りながらそんな冗談をつくとは、おまえ、これがほかの女子だったら殺されるか、一生恨まれてるぞ、はっはっは!」
「ほんとうに・・・・・・」
「ん?どうした。あ、そういえばわたしは全裸のままだな、これは女としてはあまりよくないか?でどうだわたしの裸はけっこうくるか?なあ、なあ」
ほんとうにからっとしている。女性としての羞恥心がまるでない。
「なあ、どうしたんだ。だまってんなよ。それとも私の裸に見とれてんのか」
 人というものは起こると予測していた反発がおきないと不思議とこちらも過剰な反応をしないでいられるらしい。今自分のまえには学校一の美女が全裸で立っている、腰の肉付きすらりとS字に伸びる背、ちょうどいい大きさの胸、だがそれらは本当に魅力的だが不思議と平然としていられてる。で、つい本音がでる。
「ああ、けっこう、ていうかおまえすごいいい体してるな。ものすごいぐっと来るぜ。さっきいた男子なんかにはもったいないくらいだ」
「ば、ばかやろう、そういうことを女の私にするなよな。ふつうの女なら一生おまえの前に出られなくなると思うぞ」
「はは、ほんとうそうだな。なんかおれのほうがからかわれてるみてえだよ」
「気に入った。おまえ、名前は?」
「ああ、藤沢賢治だ。賢く治めるって書いてケンジだ」
「賢治か、いい名前だ。私は豊村伊佐。イサっていうのは父の好きな物語に出てくる聖人の名らしい。もっとも聖人ていうくらいだから、たいてい聖人として選ばれるのは男だけどな」
 そして、恥ずかしげもなくそのまま、学校指定の水着を着ると、脱衣所の出口から出て行った。そのとき、振り返りざまにちょっとおどけてこう言った。
「おまえ、面白い奴だからこれからもよろしくな、それとあの時はサンキュな、残りの男子に切れたの、私のためだろう?おまえの親切にしたがって、何もなかったように、女子のほうの脱衣所からプールにいくよ。またな」
「お、おうまた」
 それが豊村伊佐と俺の初めての出会いだった。 
 
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