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SeventhWrite

作者:完徹
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彼女の事情

「かずみー、元気してる?」
 あたしはベットに寝転がりながら引っ越す前の学校の友達と電話していた。
「してるよー」
 明日から転校生としてのあたしの学園生活は再スタートする、別に前の学校でトラブルがあった訳ではないけど、子供というものは誰だって親の都合とやらに引っ張り回されるものだから。
 あたしの両親は二年前に理由もちゃんと聞かされずに離婚していて、その間あたしは小学校が変わり、仲の良かった友達と離れて、一年と一緒にいなかった同級生と卒業式をする事になった。
 だいたい理由もいわずに離婚していたくせにいきなりまた再婚するだなんて勝手すぎる!そのせいでまた両親は同居する事になり、あたしはようやく住み慣れた土地から、全く知らない土地に住むことになった。最初に住んでいた場所、離婚した後の住居、再婚後の家、全てが違っていたから。
「急だよねぇ、かずみの両親って一度離婚するまで仲良かったの?」
「ぜんっぜん良くなかった。喧嘩ばっかりで家事はしないし常に互いの愚痴ばっかり言ってて。何で結婚したの?って聞きたいぐらい。なのに今では気持ち悪いくらいバカップルなの、全く、どうかしてるわ」
「うわぁ、それホント?」
「うん、マジ」 
 やっぱり持つべきものは本音の話せる友達だ。こうして話してるだけでも寂しくなくなる。
「電話してくれてありがと、また電話してね」
 ケータイを枕の横に置いて明日に備えて眠ることにした。
 明日はいい日になるようにと祈りながら。



 夢を見ていた、そんな気がする。目を開けると何故だか涙が零れた、やっぱり寂しいのかな?あたし。
「こんなんじゃ、駄目、かな」
 両手で自分の頬を挟むようにバチンと叩く、そして気合を入れる。両親が離婚する前からあたしはこうして自分で自分に活を入れていた。
「よしっ!何でもかかって来い!」
 その三十分後、あたしは迷子になった。

   ~三十分後~

「もう、学校なんて見当たらないじゃない!」
 自宅を出発して十分間、父親から『十分で着く』と渡された手書きの地図を見ながら嘆息する。
「何が、十分で着くよ」
 周りには中途半端に舗装された道と田畑と山しか見えない、手元には小学校低学年が書いたような紙切れが一枚あるだけ、別に十分で着くなら、少し歩けば見つかるだろう。と高を括っていたんだけど、学校どころか、家一軒見つからない。って道行く人すらいないし!
「どこなの、ここ」
 だんだん不安になってきた、あれ、ここまでどうやって来たんだっけ?
 振り返ると目の前と同じような景色だった。当たり前だ。
 来た道戻った方が良いかな?

   ~五分後~

「なんで戻れないの!」
 半分パニックを起こしたあたしは一人で叫んでいた。誰もいない事を確認するために。
 って来た道を戻っていたハズなのに何故か山の中にいた、ホントになんで?

「朝から騒々しい人ね」

 ヤバッ!?聞かれてた?……じゃなくて、やっと人が見つかったぁ。
「見慣れない人ね、この山は私有地だから勝手に入られては困ります」
 え?そうなの?
「まぁでも看板も壊れちゃってるから、別にいいんだけど」
 その人はふっと小さく微笑んだ、きれいな人だな、あたしと同じ学校の制服を着てるから歳はそんなに離れていないと思うんだけど、なんていうかすっごく大人びていて年上にしか(こういうと失礼かな)見えない。なんていうか生徒会長でもやってそうな人。
「あ、すいません、あたしここに引っ越したばかりで迷っちゃて……その、ごめんなさい」
 するとその美人さんは穏やかな顔をする。
「だから、別にいいんだって、それより一緒に学校行きましょう。登校途中なんでしょ?」
 美人さんはあたしの制服を指差しそう言った。
「はい、ありがとうございます、助かりました」
 よかったぁ優しそうな人で、もしこんな山の中で出会った人が中年男性だったらと思うと寒気がする。

「安土山蘭よ、よろしくね転校生さん」

 へ?
 一瞬何を言ったのか分からなかったあたしは数秒考えてその人の名前だと分かった。
「はい、杵島(きしま)……じゃなかった水瀬一美です、よろしくお願いしますね、安土山さん」
 あたしが名乗ると安土山さんは少し考えるような仕草をした。そうした仕草もサマになっている。と感心したら突然ぷっと何故か笑われた、そんな可笑しな名前なのかな?
「ごめんなさい、クラスに同じ名前の男子生徒がいてね、同じクラスになったら可笑しいなと思って」  
「う、それはちょっと嫌ですね」
 絶対からかわれるネタになるなそれは。
「でも彼、ちょっと変わってるけど面白い人だから」
 そう言いながら安土山さんはニコッと笑った。 
 その時の彼女が猫をかぶっていたと知るのはもう少し後の事である。

 山を降りてから五分ほどでやっと周りの景色が町っぽくなってきた。
 あたしと安土山さんはこれまでの道中に部活や学年、クラスの雰囲気などの話で盛り上がった。そこで一番驚いた事は、なんと彼女とあたしは同じ学年だという事だった。
 絶対上級生だと思ったのに。
「一美は初対面の相手に対して買い被りすぎるんじゃない?」
「そんな事ないですよ」
 ファーストコンタクトから五、六分であたしは安土山さんとケータイの番号とメアドを交換していた。
 どうやらこのままいけば、ここの学校生活も安泰かな。
 なんて一安心していると


「びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


 目の前に大声で泣いているランドセルを背負った女の子が現れた。
 田舎町らしく朝なのに人通りがあたし達とその子しかいない。
 だったら仕方ないよね。

「どうしたのかな?お姉さんに話してくれる?」

 あたしはその子をみて三秒後には話しかけていた。
 そんなあたしに安土山さんは軽くあたしの肩を叩いた。

「一美、遅刻するよ」

 ……どうやらあたしは彼女に対するイメージを改めなければならないみたいだ、小学生の子(見た感じ低学年)が泣いているのに「遅刻するから」と見てみぬふりをするなんて……
「安土山さんは先に行ってください、この子はあたしが面倒見るんで」
 そう言うと彼女は笑い出した。さっきとは違う嘲笑というのかな、明らかにあたしを見下した笑い方だ。

「何言ってるの?貴方はこの町の地理に疎いでしょう?」

 それは、もっともだけど、それでも見捨てる気なんて無い、だってあたしにも………助けてくれた人がいるから。

「でも安土山さん、一人より「三人ね」ふた………え?」

 喋ってる途中に言われたのでよく聞き取れなかった。

「都会から来たって言ってるからてっきり現代人っぽい無関心な人かと思ったけど……お人好しなのね、あぁ見誤ったな、まさかこんな面倒臭い人だったなんて」

 さっきまでとは打って変わって平坦な口調になった安土山さんが捲くし立てた。あれ、もしかしてこっちが素?

「あの安土山さん?」

 混乱したあたしは意味も無く名前を言う。そんなあたしをキッと睨みつけ

「その子はあたしが面倒見るわ、遅刻になるけど同級生の子が……学校に行こうとして山に入っていくような方向音痴の人が道も分からない土地で小学生を連れまわして、もし危険な目にあわせたり、怪我でもさせたら夢見が悪いから、あと…蘭でいい」

 完璧な優等生発言でした。
 そしてあたしのプライドはズタズタにされました。
 なんだろう?さっき安土山さん…いや蘭が遅刻すると言ったのもあたしが相手しても遅刻するだけで解決しないと思っての言葉だったのかもしれない。 
 つまり

「ありがとうございます、蘭!」

 なんて真面目で頭のいい人なのかな、さっき心の中で少しでも軽蔑して本当にごめんなさい!!
「はいはい、急ぐわよ、あと敬語もやめなさい」
 そう言うと蘭は泣き止みあたし達を不思議そうに見ていた女の子に話しかけた。
 その女の子は拙い口調で説明を始めた。

 どうやらその子はいつも兄と一緒に集団登校の集合場所まで行っていたらしいけど、今日は兄が風邪で休んでいて一人で集合場所に向かったんだけどいつも兄の後ろを付いて行っただけなので迷ってしまいようやく着いた頃には他の人たちは出発してしまっていた。
 一人で学校へ行った事が無いその子は困り果てて泣いていた、という訳。
 ちなみにこれだけの話を聞きだすのに十分掛かかったの。その時の蘭の粘り強さには何か母性を感じた。

 そしてその子を小学校まで案内して(蘭、女の子、あたしの順)ようやくあたし達が中学校に到着した頃には……

「ま、遅刻よね」

 蘭がうんざりしたように呟く。
 えっと、あたしが悪いのかな?でも雰囲気的にそうだから謝っておこう。

「ごめんね、蘭」

「別にいいけど、ほら職員室に案内するから」

 安土山蘭、あたしが最初に会った同級生はどこまでも優しい人でした。


  ~~~~~~~~~~~~


 市立繰賀(くるが)中学校
 それがあたしの転校してきた学校の名前だった。繰賀っていうのはこの町の名前。
 新校舎と旧校舎(木造)と体育館にプールのある中々大きな(想像していたより)学校だった。

「え?桜先生いないんですか?」

 今は職員室で蘭が入り口付近のデスクに座っていた先生に事情を説明していた。そこで判明した事は、あたしと蘭は同じクラスであるということと担任の先生がもうクラスに向かっているということだった。

「やった、蘭と同じクラスだ!」
「そうねークラスメイトが増えたーやったーわーい」
 物凄く不服そうな顔で棒読みする理由は、なんだろう?
 元々クラスが一学年二クラスなので確率的には二分の一だったんだけどね。 
「あ、でもそのクラスには同じ名前の男子生徒がいるんだよね?どんな人だろう?」
「いつも原稿と睨めっこしてるただの根暗」
 なんかさっきと言ってること違う………そしてすごくテンション低い、出会ったばかりが嘘のよう。
「ほらここ」
 辿り着いた教室の前で蘭が立ち止まる、そして中からタイミングよく

「そっか、女の子かぁ」

 中から調子よさそうな声がした。やっぱ転校生って期待されるのかな?ま、興味を持たれず、ボッチになることを考えるといいことなんだけど緊張する。
「クラスの連中は全然遠慮とかしないから、しっかりしなさい」
 蘭……やっぱり優しい……

「お、来たみたいだな、よし入れ」

 ドアの向こうから成人男性の声がした、きっと担任の先生だろう。
 蘭がドアを開けて中に入る。続いてあたしも。

「ん?何で安土山までいるんだ?」

 教室に入ると約三十人が一斉にあたし……じゃなくて蘭を見た。

「はい、これが家の敷地内に居たので仕方なく案内してきたんです」
 と言いながらあたしを指差した。
 うぅごめんなさいぃ 方向音痴で……
 すると担任の先生(凄くマッチョだ、体育教師かな?)は不思議そうな顔をした。

「時間になっても来ないから何の演出かと思っていたんだが……迷子だったのか」

 ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ

 演出?どういう発想なの?それってよくあることかな?

「「「まぁそう思うよねぇ」」」

 クラスのほぼ全員が首を縦に振りました。どうやら常識のようです。
 ですが一人何か言いたそうな生徒がいました。
 きっと彼はあたしの仲間です。
「はい、これが家の敷地内に居たので仕方なく案内してきたんです」
 これは蘭の弁、ホントにスミマセン。
「ごめんなさい、安土山さん」
 あたしさっきから蘭に頭下げっぱなしだな、クラスの人たちからはどう思われているんだろう?
 ん、あれ?蘭と先生が何やら口論を始めました、あたしの紹介は?
「あの、自己紹介……してもいいですか?」
 おずおずと聞くと先生が今まさに気付いたようにあたしを見た。
「ああ、スマン、とりあえず安土山は席に座れ、改めて今日から二ーBに転校した水瀬一美さんだ」
 ようやく自己紹介が出来る、思えばここまで長い道のりだった……山行ったり、小学校行ったり……。
 感慨深い気持ちを振り払いあたしは教壇の上に立つ。

「親の事情でこちらに引っ越してきた水瀬一美です、よろしく」

 そう言った途端にクラスがざわついた。理由は恐らくこのクラスに”彼”がいるからだろう。
「いやぁ先生もビックリだ、まさか水瀬と同じ漢字の名前の奴がこのクラスになるなんて」
 何か白々しいな、面白がって同じクラスにしたんじゃないかな?
 そしてクラスの注目の的になっている彼、水瀬和己君がニヒルに笑い、口を開いた。
「ネタだな、三流の、俺だったらもっと面白く出来る」
 言ってることが分からないな、電波系って奴?どうやら蘭の言っていた『変わっている』は合っているみたい。
「席はそうだな、木崎から一つずつ後ろに下がれ」
 先生に指名された生徒は先ほど何か言いたげな顔をしていた男子でした。そしてその隣の席は……
「で転校生の水瀬は空いた席に座れ」
 彼の隣でした。
「ふぅ、四流のネタだな」
 やはり、言ってる意味が分かんない、だけどこれからこの学校で長く接する事があるだろう彼とは良い関係を築いておくべきだよね。
「よろしくね、えーと水瀬君」
 自分も水瀬だから何か変な感じ。
「よろしく」
 彼は無愛想ながらにもちゃんとあたしを見て挨拶した。
 これがあたしと彼とのファーストコンタクトだった。

 そしてすぐに初授業は始まった、科目は数学。
 ドキドキするな、これから会う先生は誰も知らないし。
 数学の先生どんな人なんだろ?男性かな女性かな?
 わくわく
 がらがら~
 来た!!えぇと体格は大きめで男性で……って
「桜……先生?」
 あれ?桜先生って体育の先生じゃないの?ジャージ着てるし、ムキムキだし。
「どうした転校生、どうかしたのか?」
 あたしが戸惑っていると後ろからノートの切れ端が見えた。

『桜先生は見た目体育教師だけどれっきとした数学教師なんだ』 

 えぇぇ、そうなの?後ろを向くとあの何か言いたげにしていた彼だった。
 仲間の彼が言う事ならきっとそうなのだろう。
「いえ、髪型が素敵だな……と思って」
 とりあえず適当に答えた。ちなみに先生は角刈りで髪をいじるような余裕は無い。
「そうか?いやぁ都会から来た水瀬に言われると照れるな」
 どうやら満更でもないみたい。クラスの皆は忍び笑いをしてる。ごめんね先生。
 そして新しいルーズリーフを一枚取り出して『教えてくれてありがとう』と書き、手紙折りにして後ろにまわした。
 その後、幸いにも教科書が余ってたらしく、あたしはすぐにその教科書を受け取り、特に授業内容にも取り残される事も無く、順調に一限目が終わった。

 そして休み時間にはお約束の………

「水瀬さんって前はどこに住んでたの?」
「趣味と特技は?」
「好きなアーティストは?最近流行のK-POP?」
「一美って呼んでいい?」
「今週の土曜はヒマ?一緒に遊ばない?」
「彼氏とかいたりする?遠距離恋愛とか?」
「このクラスってどんな感じに見える?」
「どこの部活に入るの?よかったら陸上部に来ない?」
「こら、今は質問タイムでしょ、勧誘しないの」
「もぅ……委員長のケチ」
「ねぇ、さっきの桜先生に言ったことって何?超面白かったんだけど?」
「安土山と今朝なにか話したの?」 

 質問攻めが待っていました。
 ホントに皆同時に言ってくるから返す間が無い、なのに次々と質問されるから最初何を聞かれたか忘れてしまう。

「えっと前に住んでいたのは………」

 こうして半分も答えられないうちに休み時間が終わっちゃった。


  ~~~~~~~~~~~~


「あたしはつぶ餡派かな」

 あれから休み時間のたびに質問攻めされ、四限目の終わった後にやっと全部の質問に答えきった。

 つ、疲れた~

 今は昼食の時間で皆ご飯を食べてる。この学校には購買があるらしいけど、あたしはお弁当なので利用する予定は無い。
 そして質問の合間に小耳に挟んだんだけど蘭の家はこの町一番の大きな家でこの学校では知らない人はいないらしい。
 そりゃあ山ひとつ(二つ以上あるかもしれないけど)所有しているのだからお金持ちだと思っていたけど、すごいお金持ちだったんだ。
 そんなことを考えながら机にお弁当を広げていると、視界の端に原稿用紙が見えてさらに、見覚えのある単語を見つけた。
 そういえば隣の席の水瀬君と後ろの席のええと……木崎君(だっけ?)がずっと自作の小説について話し合っていた。
「ねぇ水瀬君、その原稿用紙って何が書いてあるの?」
 あたしが思い切って話しかけると彼はこちらを見もせずに言った。
「これは俺の夢だ」
 やっぱり何か変な返事だな。
「夢って……どうゆう事?」
「俺は、物語で人を救うんだ」
 …やっぱり電波だ。
「えっと、じゃあこれは小説なのかな?」
 原稿用紙にはチラッと見た限り焦っている男子高校生が何か言い訳している所みたいだ。
「あぁ、そうだけど」
 やっぱりか、だったら

「読ませてくれない?」

 あの人の名前があるんだもん、内容が気になって仕方ない。
「どうぞ、まだ駄文だが読者が多いに越した事はない、まだ未完だけどな」
 そう言うと水瀬君はクリアファイルから原稿用紙を取り出してあたしに渡してくれた。
「ありがと」
 さぁとりあえず目の前のお弁当から片付けなきゃ! 
 

 
後書き
安土山ってたまにあんどさんって読んでしまう 
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