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後宮からの逃走

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第一幕その三


第一幕その三

「勝手に探してろ」
「まあまあそんなに怒らずに」
 彼は飄々としてオスミンの怒りをかわしつつ述べる。
「私が何か怒ることをしましたか?」
「存在自体がだ」
「まあそう仰らずに。仲良くしましょう」
「御前と!?馬鹿を言え」
 やはり不機嫌で返すオスミンだった。
「そんなことするものか。御前とだけはな」
「おやおや」
「いつもいつも女の子に言い寄りやがって」
 今その不満を爆発させるオスミンだった。
「そんな軟派な奴はまだムスリムなら許せる。だが手前はキリスト教徒でしかも何の仕事もしねえ。奴隷の分際でだ」
「奴隷といっても私のやるべきことは果たしていますが」
「何処がだっ」
 ムキになった声にさらになっていた。
「手前の何処がだ。ふざけるな」
 怒鳴った後でまた言う。
「俺は騙されんぞ。御前等キリスト教徒の奴隷共といえば嘘や悪巧みばかり達者だ。その誤魔化しもペテンももう俺には通用せんぞ」
「おやおや」
「俺を出し抜こうとするなら余程目ざとく動き早起きして早くから動き回って仕込んでおくことだな。だが俺はムハンマドの名にかけて昼も夜も御前等を見張り」
 言葉をさらに続けていく。
「休まず見張り御前等に勝手はささん。御前等がどれだけ警戒しようともな」
「ですから私は別にその様子なことは」
「まず首を刎ねお次は縛り首にし」
 またこのことを言い出す。
「それから焼いた棒で串刺しにし、火炙り金縛りに水責めにして」
 どうやらこれがこのオスミンの口癖らしい。言っていることは物騒だがどうにも迫力がない。勝手に言っているだけで相手も聞き流してしまっている。
「最後は皮を剥いでやるからな。ふん」
 ここまで言ってその場を去ろうとする。にこやかな顔の男はそのオスミンに対して問うのであった。
「何処へ?」
「いちじくを収めて来る」
 半分以上、少なくとも七分は怒った声で彼に告げた。
「何時か思い知らせてやるからな」
「やれやれ」
 オスミンが立ち去ったのを見届けたうえで肩をすくめてみせる。そのうえで一人言うのであった。
「どうしたものかね。困った御仁だ」
「ペドリロ」
 青年はその彼の名を呼んだ。
「ここにいるとは聞いていたけれど」
「ええ、ベルモンテ様」
 ペドリロもまたにこやかに笑って彼、ベルモンテに応える。
「そうですよ。元気にしていますよ」
「けれど奴隷なんだよな」
「ここはあまり奴隷には厳しくないんで」
「そうなのか」
「ええ、案外」 
 実はそうであったのだ。イスラム世界では奴隷に対してかなり寛容だったのだ。しかもムスリムになれば赦される。かなり寛容であったのだ。
「だから別に」
「だといいのだけれど」
「しかも私達三人共一緒ですし」
「そう。それがよかったんだよ」
 ベルモンテもまたそれをいいと言った。
「ばらばらだったらそれこそ」
「ここの太守様が私達を三人共まとめて買い取って下さって」
「うん」
「そしてコンスタンツェ様をえらく気に入っておられて」
「えっ!?」
 今の言葉を聞いてすぐに血相を変えたベルモンテだった。
「ここの太守がコンスタンツェを!?」
「ですが御安心下さい」
 だがすぐにこう言って主を宥めるペドリロだった。
 
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