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SeventhWrite

作者:完徹
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自動人形

「もう帰っていい?」

 読んでいる途中の原稿用紙が横から水瀬君に抜き取られた。
「あぁ、もうちょっとだけ!」
 今かなり重要なところだった!てか狙ってやってるんじゃないかな?
「あっそう、じゃあ今日は貸すから明日感想聞かせてくれよ」
「うん、ありがと」

 ユウキと分かれた後、図書室の前で本を返却して帰ろうとしていた依都子ちゃんに会い、水瀬君が三十分ほど前に図書室を出て市立図書館へ向かったと聞いて急いで追いかけて来た。そして市立図書館の個別ブースで原稿用紙と睨めっこしている水瀬君を発見し、偶然を装い近づき今に至る。
 端折り過ぎ?確かにそうかもしれない。でも読ませてもらうまでにいった言葉を公にする気は無いんだ。

「じゃあな、綾文」

 水瀬君は荷物を整えると僕に軽く手を振り、帰っていった。そしてすぐに姿が見えなくなる。
 ん、あれ?何か忘れてるような??
「ん~~~」
 ま、いっか、どうせ大した事じゃないだろうし。
 とりあえずこの原稿の続きを読むほうが先だな。
 気合を入れて原稿に目を落とすと……

  ♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~

 閉館を知らせる音楽が流れた。
 うん、帰ってからでいいかな。

「い・い・わ・け・な・い・で・しょ!!」

 またか……今日は”またか”が多いな。
「耳をそんなに強く引っ張るなよ、千切れるだろユウキ」
 いつの間にか真横に立っていたユウキに囁く。
「あやが怠慢な態度をとるからよ」
 そんな理由で耳を失いたくない。
「仕方ないな、じゃあ続きは屋敷で読むよ」
 この時間は図書館に人気が少ないけどユウキは見た目が目立ってしょうがない。
 あぁ、中学二年生で帰宅拒否なんて僕って不良だな。
「そうね、それなら近いし」
 はぁ行きたくないな。

 人形屋敷

 今から僕達が向かう屋敷は町の人々からそう呼ばれている。
 理由は簡単、その屋敷には国籍を問わず、あらゆる人形が飾られていて余りにも不気味だからだ。
 元々は都会の資産家がこの町で新しくビジネスを始めようとして建てた屋敷だったんだけど完成して数ヶ月でその資産家は病により亡くなり、身内も居なかったらしく、その屋敷の引き取り手のが現れなかった。
 結果、町はこの土地を利用するため屋敷を取り壊す事にしたのだが工事の度に土木関係者が行方不明になるという事件が発生して中止された。その屋敷にはその資産家の趣味だったのか大量の人形に埋め尽くされており、その後の怪談のネタになっていて、肝試しにも使われていたんだけど、今では老朽化が進み、いつ崩れるか分からないので近づく人は居なくなった。

 というホラ話で有名な屋敷だ。

 実際はとある世界で唯一人の人物の別荘で、普通の人が入れば人形の館で、その主人が入れば現代チックな洋館になるという。摩訶不思議な建物である。
 何故そうなるかといえばそれはこの館の主人がなんたって……ねぇ。

「どうしたの?今日はもう貴方と会う予定は無いはずだったのだけれど」

 僕とユウキが屋敷に着くと妙齢の女性が出迎えてくれた。
 老いたものではない眩しいほどの銀髪に西洋よりの顔立ちをしていて上はタンクトップに下はハーフパンツという今まさにエクササイズでもしていました、という格好だ。
 汗一つかいていないけど。
「すいません今日はアイツの筋書きをまだ読みきってないんでちょっと場所借りていいですか?」
 この屋敷の主人、レント・エヴァンツさんに僕は頼んだ。
「いいよ、適当にくつろぎなさい」
 ずいぶんとあっさりだな、今回もまた何か厄介ごとを僕に押し付ける気かな?
 レントさんは初めて会った時に命を助けてもらってから、何かと僕に厄介な頼みごとをしてくる。
「はい、助かります」
 屋敷の中に入ると外から見た時よりずいぶんと広い、いつも思うけど全くどうなっているのやら?
 そして二分ほどするとレントさんがティーポットとカップをトレーに載せてきた。ちなみに僕の分ではなく、彼女が自分で飲む分だ。
 そしてカップにお茶を注いだその時

「来たわね」

 意味深なレントさんの言葉で僕は動きを止めた。
「……どういう意味ですか?」
 僕の質問に対してレントさんはニコニコと笑いながら玄関を指差す。

  バァァァァァァァァァァァァン

 その時屋敷の玄関が勢いよく開かれた。
 もちろんユウキの仕業ではない。

「こういうことよ」
 そこに立っていたのはこの町には無い高校の制服を着た青年だった。
「なんで?ここは無人のハズなのに…………」
 その青年は目を丸くして僕たちを見る。確かにこの屋敷の明かりは外には漏れないようになっているので人がいるとは思わなかったんだろう、変な噂もいっぱいあるし。
 明らかに不審者である、ここにいる全員。
 片方は町でお化け屋敷扱いの場所に普通に住んでいて、片方はいきなり屋敷に侵入しようとした青年。
「くそっ!」
 二秒ほど固まっていた青年は踵を返し、走り去って行った。
「ちょっと!!扉くらい、開けたら閉めなさいよ!」
 そんな場違いなレントさんの声で思考が回復した。
「な、なんだったんだ?今の人」
 それでも動揺を隠せず思った事を言う。
「気付かなかったの?今回の主人公じゃない」
 ……………………ゑ?
「あれが?……峰岸大樹?」
「そっか、本当に全然読んでないんだね?じゃあイメージをあなたの脳に直接送るね、もう読んでる時間なんてないし」
 呆れた顔でそう言ったレントさんは壁に掛けてあった杖を手に取った。

「Un Look」

 その瞬間、杖から莫大な光が生まれた。
 そして僕の脳裏に走馬灯のように物語が流れ込んでくる。
「嘘……そんな………ことって…」
 それは、あまりにも…悲しい物語だった。
 彼がこんな話を考えていたなんて…………それが…………



   現実であるとも知らずに



 ===============

 僕が始めて水瀬君と話した日が五月一日だった、その日、彼は突然小説を書き出してその次の日、翌日にはゴールデンウィークの後半を控えていた五月二日に僕は一体の人形と出会った。
 それがユウキだった。
 ユウキは巧みな話術で僕を人形屋敷に連れ込み………

 僕を人形にした。

 ユウキは意志を持った人形であり、そして人形遣いだった。
 それから僕はユウキに操られるだけの人形になった。意志はあるのに思い通りに体が動かせず、二日間、生き地獄にあった。
 五月五日にレントさんが現れた。本人からすればゴールデンウィークを利用して(別に働いている訳ではなく【大型連休には別荘に行く】というイメージがあっただけ)別荘に来た。その程度理由だったんだけど、それが僕の命を救った。

 なんたって彼女は現代で唯一の魔法使いだったのだ

 ユウキも人形屋敷が人気の無い廃墟で誰か持ち主がいたなんて知らなかった。
 そして僕はレントさんに助けられて、また人間に……は戻れなかった。
 いや違うな、僕は戻らなかったんだ。

 だって、僕が元に戻るにはユウキを壊さなきゃいけなかったから。

 二日間、たったの二日間、一緒に過ごした人形の為に僕は自分の人生を捨てた。
 何故ならユウキの人形でいる間、僕には体を操られる度に、彼女の感情と記憶が流れ込んできていたんだ。
 それは彼女が人形になってから蓄積されてきた四百年以上にも及ぶ物語。
 そしてユウキが元人間であったことも。
 結局僕はレントさんに反対されたけど、魔法で自分の意志で動ける自動人形(オートマタ)になった。
 人間の模型であり、成り損ないの姿、見たものはまるで画面の向こうのようで聞いたものはスピーカーから流れたようなもの、そして温度も分からない、そんな人形になってしまった。
 もちろん辛いし、不便だし、人間に戻りたいと思う事もあるけど後悔だけはしていない。
 そしてゴールデンウィーク最終日、五月六日に僕は人間として不自然に見えないように出来る事と出来ない事の検証でこの悪夢のゴールデンウィークを終えた(両親には大量に出た宿題の消化合宿という事で無理やり通した、かなり疑われたけど)。

 だけど悪夢はここからだった。
 五月七日、久々の登校日に僕は隣の席の水瀬君に話しかけられた。
 内容はこうだ。
『木崎、この前書いてた原稿、仕上がったんだけど読んでみないか?』
 その時僕は特に何も思わずにその原稿用紙を受け取り、内容を読んだ。
 そして嘔吐しそうになった。
 いや人形だから吐くことなんて出来ないけど、その内容はまさに”僕とユウキ”が主人公の物語だった。
 台詞も、経緯も、思考も全てがあのゴールデンウィークと一致していた。
 その後、僕は体調不良で早退し、人形屋敷へ向かった。
 レントさんならこの怪奇現象を解明できると思ったから。
 そして案の定彼女はその答えを知っていた。

「それは、あれだよSeventh Write(記された七日間)だよ」

「せぶんすらいと?」
 レントさんの説明によると水瀬君はアカシックレコードと繋がっていて無自覚のうちに七日分(四日目を中心としてその三日前と三日後)のこの町に住む人(またはそれに関係する人)の人一人の言動と思考が頭に浮かぶらしい。
 全く持って意味不明な能力で何故そんなことを水瀬君が出来るかは、まだ分かっていない。そして水瀬君は悪くないんだろうけど彼がもしあんな事を書かなかったら……と思う事もある。
 そして、水瀬君はまた新たに物語を書き始めた。
 一体誰が主役か分からない物語を
 そしてその物語もまた悲劇であった……だがそれは二日後の出来事であり、まだ起こっていなかった。
 そして新しい発見をする。
 それは、僕が水瀬君の小説に干渉できるという事だった。
 どうやらSeventh Writeという能力は対象が人に限られており、人形になった僕には通用しないらしい。
 僕はその主人公を探して小説通りの事を邪魔して小説通りの結末を回避した。
 そして次の日に水瀬君に会った時、彼の様子がおかしかった。
 彼はその物語の変えられた部分を忘れていた、原稿も途中から消えており、その物語は未完のまま終わった。
 これが僕の出来る事、物語の結末を空白にする、だった。
 その後、レントさんに協力してもらい(その分面倒事を押し付けられている、主に掃除とか)それからの水瀬君の物語は一度も完結していない。
 そう、今の所は………

 ===============

 急がないと……………



 転校生が危ない!!!! 
 

 
後書き
Seventh Writeの説明についての補足
 例えば一月一日に物語を書きました。
 ストーリーが始まり完結するのは十二月二十九日~一月四日の間の言動や思考で、記憶や夢は七日の枠には当てはまらない。
 綾文の場合は人形になったのが五月二日で、つまり二日まで人間だったので五日までの物語となっている。 
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