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後宮からの逃走

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第二幕その六


第二幕その六

「だって。僕達はここにいるんだから」
「長い苦しみの日々の後にこうして貴方に会えて」
「そう、今こうして」
「嬉し涙を見られるなんて」
「それは僕が消すよ」
「貴方が?」
「そう、この喜びで」
 こうコンスタンツェに告げた。
「今それをね」
「涙もこれが最後なのね」
「そうさ」
 こう言うのであった。
「これでね。もう」
「そう。それじゃあ私はもう」
「自由だ」
「自由・・・・・・」
「そう、自由なんだ」
 ここで見詰め合うのだった。
「これでね」
「さあ、ブロンデ」
 二人の横でペドリロがブロンデに声をかけていた。
「逃げる手筈はね」
「ええ」
「十二時の鐘が合図だ」
 こう彼女に教えていた。
「それはいいよね」
「わかったわ。一分ごとに数えるわ」
「一分ごとかい」
「そのつもりよ」
 にこりと笑って言葉を返すブロンデだった。
「早くその時が早く来ればいいのに」
「希望の光が見えてきたわ」
 コンスタンツェがまた言った。
「暗くて厚い雲の間から」
「その通りだ」
 その言葉にベルモンテも頷く。
「やっと。僕達に神が御加護を下さったんだ」
「喜びと幸せと祝福が」
 ペドリロも言う。
「苦しみが去って行くのを見届けているわ」
 最後にブロンデが。だがここでベルモンテはその顔を僅かに暗くさせるのだった。
「けれど」
「どうしたの?ベルモンテ」
「いや、まさかとは思うけれど」
 不安さを少し増してコンスタンツェの顔を見ての言葉だ。
「君は太守殿に側にいつも置かれていたんだよね」
「ええ」
 コンスタンツェは彼の心の不安の原因が何かわからないままその言葉に頷いた。
「そうよ」
「それじゃあ」
「ブロンデ。そういえば」
 そしてその顔はペドリロも同じであった。その顔でブロンデに問うてきた。
「大丈夫だったのかい?」
「大丈夫?何が?」
「いや、オスミンがだよ」
 彼はベルモンテより直接的に尋ねてきた。
「君を」
「私を?」
「手をつけなかったかい?」
「セリムを愛していなかったかい?」
 ベルモンテも同じことをコンスタンツェに尋ねた。
 
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