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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん!

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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん! 六話 ~カリン VS イシス~

「う、うう……お兄さん、私、もう、だめ……」
「何言ってるんだ、まだナーガ十五体目だぞ。ほら、食え」
「い、いや……もう……いや…………うっ! オエーッ!」
 エキドナのスキル(技能)、威嚇の磨きをかけるために、エキドナの進化前であるナーガをたくさん食べさせていた。
 教科書によると、モンスターを鍛える方法は主に食事をとることだそうだ。特にモンスターのもつスキルを育てるためには、同じスキルをもっているモンスターを食べさせるのがいいのだとか。
 人間が鍛える時は練習あるのみだが、モンスターは人間とは体の作りが根本的に違う。胃袋の中で摂取したエネルギーがそのまま肉体の強化につながる。さらに同じスキルを持っているモンスターを食べた場合、細胞が共鳴して脳や筋肉に影響が云々……という仕組みで強くなるらしい。
 普段は繁殖が少ないナーガが大量発生したというので急いでエキドナのスキルを上げようとしたのだが……どうもやりすぎたようだ。後少しでエキドナの威嚇は最高峰のレベルに達するのだが……。まぁ、明日でもいいか。まだまだナーガがいなくなりそうにないし。
「お兄さん忙しそうネー。そんなにダンジョン行くなら我も連れてってほしいアル。火のモンスターが出るダンジョンなんか、我の得意分野なのに……」
 カリンはボックスで今日も暇そうにしていた。たしかにカリンは水属性だから、火のモンスターには強い。だが、カリンは強い敵に対して真価を発揮する。ナーガが大量発生しているダンジョンは弱いモンスターしかでない。だから、カリンを連れて行くまでもないというだけの話なんだがなぁ……。こいつ、妙な勘違いしているんじゃねえかな。今の時期はたまたま使ってやれないだけなのに。
「私のほうが有利だというだけです。貴方は私に勝てない相手に勝てるのだから、そういうモンスターに対して力を振るっていればいいのではないですか?」
 聖海神・イシスがカリンに話しかけた。やめときゃいいのに……。言っていることは正論だが、お前がカリンの仕事を奪った張本人だというのに。
「んなこたー言われなくたってわかってるアルヨ。暇が嫌だっていってるのがそんなに悪いアルか?」
「もう少し大人な態度はとれないのですか?」
「大人っぽくしてると、キャラポジまでイシスに奪われるネ。っていうか見た目も少しかぶってる気がするアルヨ」
 何を言い出すんだこいつは、カリンとイシスの類似点は黒い長髪と青が貴重のファッションだけなのだが……。服装もチャイナミニのカリンと違ってイシスは質素なワンピース。黄金のネックレスや髪飾りもカリンにはない。パッと見のイメージとしても、カリンはナックルを装備しているのでRPGの職業でいえば格闘家っぽいが、イシスは青い杖を手に持っているので魔法使いかビショップに見える。
「はぁ……『あー言えばこう言う』ばかりしてればいいというものではないですよ」
「それはこっちのセリフネ」
「おいおい、喧嘩するなって。もっと仲良くできないのか」
「どうやったらこんなやつと仲良くできるネ!」
「とりあえず、仲良くするには相手を知ることだ。相手のことを知らないから嫌いになるんだよ。お前らは一緒にダンジョン潜ることもないから、ちょっとしたことで関係が険悪になるんだと思うぞ」
「互いを知れと……で、どのようにすれば?」
「そうだなぁ……とりあえず雑談とか? まぁ、できれば困らないよな」
「つまり、対決すればいいってことアルネ!」
「どうしてそうなった!」
「『試合とは心の対話』って将棋がすごく強い人が言ってたアル」
「いや、まぁ、そうだけど、そうじゃない」
「いいですね。私もモンスターですから、対決という方法が一番しっくりくるかもしれません」
「え、いいの!?」
「決まりネ」
「まてまて、殴り合いは許可しないぞ。万が一があるからな」
「えー、じゃあどうすればいいアルか」
「俺がお題を出すから、それに沿って戦ってくれ」
「どんなお題ですか?」
「そうだなぁ、それじゃ三本勝負で、最初は瓦割り対決とかどうだ?」
「一度に割った数が多かった方の勝ちアルネ?」
「そうだ」

 まず最初はカリンの番。五十枚の瓦を積み始めた。
「おい、そんなに積んで大丈夫か? 普通の瓦とは違うからな。モンスター用に特殊な素材で作ってる瓦だから、そう簡単には割れないぞ?」
「大丈夫、問題ないアル。我もお兄さんのところに来てすっごく強くなったから、これくらい楽勝ネ」
 そういってカリンは塔のように長く重なった瓦の前で深呼吸をして、真上に向かって高く飛んだ。
 瓦の頂点を過ぎたところでカリンは一瞬止まり、下降を開始すると同時に拳を瓦に向けて突き出す。
 飛び散る瓦を跳ね除けるようにして、瓦解の音と共にカリンが急降下してくる。まだまだ割っていく。もう半分は割った。だけどカリンは余裕の表情。そんなことを考えている間にカリンは地に足をつけた。
「おお、全部割ったのか?」
「いや、一つだけ残しちゃったアル。着地の仕方が悪かったネ」
「あー、それは残念だったな。だけど、それでも四十九枚か」
 非力そうな見た目をしているイシスに、これを超える記録を出せるのだろうか。……無理だろう。カリンに有利すぎる対決だったなと、今更気づく。反省。
「さて、次はイシスの番だけど、どうするんだ?」
「私は百枚でお願いします」
「百枚? ……あぁ、わかった。今積みあげるよ」
「いえ、テキトーにその辺りに置いてくれるだけで十分です」
「ん? どういうことだ?」
「いいですから、お願いします」
 イシスに言われたとおりに瓦を一列に重ねるのではなく、文字通り山積み。山のような積み方をした。
 積み終えてスタートの合図を出しても、イシスは瓦に近づこうとしない。持っている杖を前に向けて、睨みつけているだけだ。
 一体どうするつもりだ? と思った瞬間――。
 イシスの杖から水が細く放出された。非常に小さな水流だが、勢いは強い。まさか、こいつ……。
「あ、念の為に言いますけど、近付かないでくださいね。これ、ウォーターカッターですから」
 そう言ってイシスは杖を少し上に向けて、水流を瓦へ当てていく。
 杖を小刻みに動かし、次々と瓦を切っていく。五分くらいそうした後、水流を止めてイシスがこちらを振り返った。
「さぁ、大体五十枚以上は割れているはずです。数えてみましょうか?」
「いやいや、そういう対決じゃねえからこれ! それにそれは『割る』じゃなくて『切る』だろ!」
「違いがよくわかりません。『割る』も『切る』も、結果は同じじゃないですか。何が違うのか説明してください」
「なにとぼけてるアルか! ぶっ飛ばすアルヨ!」
「勝てばよかろうなのです。こういう発想ができなかった貴方の負けですよ」
「ぐぬぬ! お兄さん、次のお題!」

 次のお題は早食い対決。ナーガ捕獲のついでに捕まえた卵をカリンとイシスに食べてもらう。
 これは瓦割りとは違い、同時にスタート。制限時間はないが、卵が全てなくなった時点で終了。多く食べたほうの勝ちとなる。
「これなら絶対に負けないアルヨ! さぁ、覚悟するネ!」
「私、この対決は棄権します」
「はぁ!? なんでアルか!」
「勝てない勝負には挑まないだけです。私は自分のキャラ付けを歪めてまで貴方に勝とうと思いません。貴方は活発な印象をもっているので早食いをしてもイメージダウンにはならないでしょうけど、私にはそういうイメージはついていないので」
「なんかすげー馬鹿にされた気分アル……」
 中間的な立ち位置の俺でも、イシスの発言は少し小馬鹿にしているように聞こえたが、イシスに悪気がないことは分かっている。誰に対しても、どんな相手でも、こういう言い方しかできない奴なのだ。そういうところをカリンに知ってもらいたかったのだが……すごい誤解を招いてそうだ。

「それで、最後のお題はなんですか?」
「最後のお題はそうだなぁ。キャラから外れない内容の対決にしないといけないんだろ? うーん……そうだ、お前ら女の子だから、女の子らしさ対決とかどうだ?」
「女の子らしさ対決……? それ、何するアルか?」
「例えば性格とか、趣味とか、スタイルとか」
「スタイル……」
 イシスが一瞬ビクッとした。カリンと我が身を交互に見つめた後、視線を地面に落とし、左手でアゴをつまみ、頭を巡らすような表情をしている。そして顔を赤くした。何を考えているのだろうか。顔を赤くするようなことはしないつもりなんだが。
「あ、バイトの時間でした」
「えっ、バイト?」
「お兄さんの友人を助けて友情ポイントを稼ぐバイトです。友情ガチャをするのに必要でしょう?」
「いや、それはそうだが、なんでいきなり」
「というわけで、今回の対決はお預けですね。非常に残念です」
「ちょ、ちょっとそれじゃ我の不戦勝になるけどいいアルか?」
「戦いを放棄したわけではありません。日を改めるだけです。ただ、いつにするかは検討中ですが」
「いや、なにガキ大将みたいなことを言ってるネ……」
「それでは、いってきます」
 イシスは足早にその場を去った。
「どういうことネ……」
「きっと、体で勝負するのが恥ずかしかったんだろ」
「もしかして、意外と太ってたりするアルか?」
「いや、単に乙女的な意味で恥ずかしがってたんだと思うが」
「うっそー。そんなの信じられないアル! 絶対に自信がなかっただけネ」
 こうしてカリンとイシスの対決は幕を閉じた。
 これを機に仲良くなってくれるといいけど、そんなわけないよなぁ……。 
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