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ヘンゼルとグレーテル

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第二幕その三


第二幕その三

「魔女さ」
「魔女!?」
「そう、お菓子の魔女なんだよ」
 魔女はケタケタと語りながらヘンゼルに言います。
「子供が大好きなね」
「嘘つけ!」 
 ヘンゼルがそれに言い返します。
「子供が好きな人がこんなことするもんか!」
「やれやれ、聞き分けのない子だねえ」
 魔女は笑ったまま言います。所々抜けた歯が見えます。
「私はね、子供達が本当に好きなんだよ」
 不気味な、歌声の様に言います。
「食べたい位にね」
「えっ!?」
「それじゃあ」
「そうさ、私はお菓子の魔女。子供をお菓子に変えて食べるのさ。子供も好きだけれどお菓子はもっと好きなのさ」
「じゃあ御前は」
「まさか」
「そのまさか。チョコレートにタルト、アーモンドにケーキにパイ」
 子供達が好きなお菓子ばかり言います。
「それで御馳走してあげるよ。そしてお菓子に変えて」
「食べる」
「ペロリ、とね」
 ここで舌なめずりをしました。人間のものとは思えない程のドス黒く、そして長い舌でした。
「さあ中においで。御馳走してあげるから」
「誰が!」
「おやおや、子供は遠慮しちゃいけないよ。さあさあ」
 ここでグレーテルに対して何かを呟きました。すると彼女の動きが止まりました。
「えっ」
「あんたもだよ」
 そしてグレーテルも引き込みます。
「私の御馳走を召し上がれ。そしてたっぷりと食べて丸々と太って」
 楽しそうに歌ってすらいます。
「私のお菓子になるんだよ。ヒーーーーーヒッヒッヒッヒ」
「この悪魔め!」
「誰があんたなんかに!」
 二人は反抗しますが魔女の力と魔法には適いません。そしてお菓子の家に引き擦り込まれてしまったのです。そのチョコレートの扉が閉まりました。
 二人は魔女に家の中に引き摺り込まれました。その中もお菓子ばかりでした。
 テーブルや椅子はビスケット、お皿は飴、そして暖炉はケーキでした。何もかもがお菓子でした。
「さあ、あんたはこっちだよ」
 魔女はヘンゼルをクッキーの檻に押し込めました。そしてチョコレートの鍵を閉めます。
「さて、これでよし」
 魔女はさらに上機嫌になります。
「ポークスポークス!」
 今度は叫びはじめました。何かよくわからない言葉です。
「箒よおいで!」
 箒が一つ魔女のところに歩いて来ました。魔女はすぐにそれを手に取って跨ります。
「魔女は空を飛ぶもの」
 そう言いながら部屋の中をその箒で飛び回ります。あまり広くはない筈の家なのに縦横無尽に飛び回ります。
「空を飛んでお腹を空かして御馳走を腹一杯!」
「僕達は御馳走じゃないぞ!」
 ヘンゼルはクッキーの檻の中から抗議します。
「そうよ、勝手に決めつけないでよ!」
 グレーテルもそれに続きます。
「けれど魔法であんた達は捕まった。もう逃げられないよ」
「ふん」
「逃げてみせるわよ」
「無駄無駄。さて」
 魔女は箒から降りてグレーテルに声をかけます。
「これをそっちの男の子におやり」
 見ればそれはお菓子の山でした。アーモンドや干し葡萄の入ったケーキにクッキーです。
「これを食べたらすぐに太るからね」
「太ったらどうするつもりなんだよ」
「だからさっきから言ってるじゃないか」
 魔女は言います。
「食べるんだよ。お菓子ににしてね」
「何のお菓子にするつもりなの?」
「そうだねえ」
 それを考えるのが魔女の楽しみのようです。ニタニタと貴職の悪い笑みを浮かべています。
「何にしようかねえ」
「どっちにしろ食べるつもりかよ」
「決まってるじゃないか」
 魔女はもう二人を美味しそうに眺めています。
「これからフォークとナイフを用意してね」
 いそいそとした様子です。
「お茶碗と小皿。あとナプキンも」
「完全に食べるつもりね」
「そうみたいだね」
 二人はそんな魔女を見てヒソヒソと囁きます。
「さて、あの娘はケーキにしようかね」
「聞いたな」
「うん」
 グレーテルはヘンゼルの言葉に頷きました。
「竈を覗かせて放り込んで。それでケーキにしてやろう。ジンジャーブレッドのケーキに」
 魔女は上機嫌のあまりついついどうやってグレーテルを料理するのかも言っていますこれは当然ながら二人の耳にも入っています。
「それでパクリパクリとね。やっぱり生姜のケーキが最高だよ」
 この魔女の大好物はケーキ、それも生姜のケーキのようです。もう天にも昇らんばかりになっています。
 
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