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ヘンゼルとグレーテル

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第一幕その一


第一幕その一

                  第一幕 森へ行くことに
 昔々のお話です。ドイツの田舎のさらに田舎、そこの端っこの方の小さな家にヘンゼルとグレーテルという仲のいい兄妹がおりました。
 お兄さんのヘンゼルはとても妹思い、妹のグレーテルは頭の回転の速い女の子です。二人は森の側にある家にお父さんとお母さんの四人で暮らしていました。
 ヘンゼルとグレーテルの家は貧乏なのでお父さんは箒を売るのに忙しく、お母さんも毎日家事に追われて大変です。けれど二人はそんなことは気にすることなく毎日二人で遊んで楽しく暮らしていました。
 それは今日も変わりません。二人は家の中で楽しく遊んでいました。
「ズーゼちゃん、可愛いズーゼちゃん」
 金色の目に青い目の少し凛々しい男の子が何やら歌っています。吊りバンドの黒いズボンに白いシャツ、木の靴を履いています。彼がお兄さんのヘンゼルです。
「裸足のままでは嫌だよね」
「そう、裸足は嫌」
 お兄さんと同じ金色の髪に青い目の可愛らしい女の子、赤いスカートに上着の女の子、彼女がグレーテルです。二人は楽しく歌を歌っています。
「靴がないのは困ったこと」
「靴型がないと靴屋さんも何も出来ないわ」
「だからズーゼちゃんは裸足のまま」
「そんなのは嫌だわ」
「けれど僕達には今は何もない」
「困ったわ」
 歌は何時の間にか自分達の方にかかっています。
「おやつも何もなし」
「砂糖のたっぷり入ったお菓子なんてもうどれだけ食べていないのか」
「お腹ペコペコ」
「歌でも歌わないとやっていけないよ」
 ヘンゼルはそう言って床の上にへたり込んでしまいました。
「本当に。何かないかな」
「森に行けば果物があるわよ」
「森に!?」
「ええ。野苺が一杯」
「それはいいね」
 ヘンゼルは野苺の甘さを思い出して口から涎を出さんばかりです。
「最近ずっとパンとほんのちょっとのシチューだけだもんね」
「そうよ。お野菜にベーコンが申し訳程度に入ったシチュー」
「あんなのじゃお腹が膨れないよ」
「そうよ。たまには山みたいなお菓子が食べたいわ」
「そうそう。ケーキもタルトも」
 言っていると涎が出てきます。
「ずっと食べていないわよね」
「食べたいよな」
「うん」
 グレーテルはお兄さんの言葉に頷きました。
「お母さんが言ってたよね」
「何をだい?」
「あれっ、学校の先生だったかな」
 どうもその辺りの記憶はあやふやなようです。グレーテルは首を捻りながら思い出していました。
「おら、聖書の」
「何だったっけ」
「あの言葉よ」
「ええと」
 どうやら学校のお勉強はグレーテルの方がいいようです。
「その苦しみの最も大いなる時に神は御業を差し伸べ給うって」
「そんな言葉もあったっけ」
「あったわよ。だから」
「卵ケーキでも振ってきたらね、それで」
「バターロールも」
 そう言った途端に二人のお腹がギュルルと鳴りました。
「ずっと食べてないよ、どちらも」
「どんな味がしたのかしら」
「甘くてとても美味しいのは覚えているけれど」
「食べてないと。忘れるんだね」
「ええ」
「どうしよう」
 ヘンゼルは妹に顔を向けて尋ねてきました。
「どうするって?」
 グレーテルはそのふっくらとした赤みがかった頬の顔をお兄さんに向けました。
「お腹が空いたのは」
「どうしようもないわ」
「けれどさ、どうにかしないと晩御飯までもたないよ」
「おやつなんかないかな」
「おやつ」
 妹はそれを聞いて考え込みました。
「お外に出て何か探す?」
「何を?」
「野苺か。それとも山羊さんのミルクを飲ませてもらうとか」
「ミルク」
 ミルクと聞いたヘンゼルの顔がピョコンを上がりました。
「そうだよ、ミルクだよ」
 そしてグレーテルに対して言います。
「ミルクがあったよ、グレーテル」
「何処に!?」
「ほら、そこにさ」
 そう言って台所の片隅を指差します。
「そこにあるじゃないか」
「あれ!?」
「そう、あれだよ」
 そこには一つ大きな壺がありました。そこにミルクが入っているのです。
「あのミルクをちょっと頂こうよ」
「駄目よ、兄さん」
 けれどグレーテルはそんなお兄さんを止めました。
「あれは。大切なミルクなのよ」
「そうなの?」
「もうあれだけしかないから。お母さんが帰ったらミルクでお粥を作るって言ってたわ」
「ミルクのお粥!?」
 ヘンゼルはそれを聞いて顔を輝かさせました。ヨーロッパで粥と言えばオートミールです。大麦を粥と同じように炊くのです。そこにミルクを入れて見事完成です。とても美味しいのですよ。
「そうよ、ミルクのお粥」
「いいよなあ、僕あれ大好きなんだ」
「私もよ」
 食べ易くて甘みもあるのです。すきっ腹にも丁度いい。お粥は実にいい食べ物です。
 
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