アイーダ
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第四幕その四
第四幕その四
「けれど・・・・・・何故・・・・・・」
崩れ落ちる。そのうえでまた叫ぶ。
「私はあの人と一緒にいたいだけなのに!神々はそれを受け入れてくれないというの!」
「王女様」
そこにランフィスが戻ってきていた。そしてアムネリスに声をかけてきた。
「これが運命なのです」
「運命・・・・・・何と残酷なもの」
「はい・・・・・・」
項垂れてアムネリスに答える。
「全ては神々の・・・・・・」
「惨たらしい神々・・・・・・」
アムネリスは顔をあげた。そしてまた言う。
「何処までも無慈悲で。どうして」
「神々を恨んではなりません」
ランフィスは彼女に言葉を伝える。
「ですが。将軍の冥福を祈ることは」
「それだけが・・・・・・」
「はい」
ランフィスは頷いてきた。
「それだけです。できるのは」
「わかりました」
アムネリスは立ち上がった。そうして述べた。
「それではそうします」
「宜しいでしょうか」
「あの方のことは永遠に」
顔を上げる。涙は流れたままだがそれでも言うのだった。
「私の心の中に。そうなのですね」
「はい、それでは」
「喪服を用意しなさい」
アムネリスは侍女達に顔を向け告げた。
「そうしてそれを着て」
「ええ」
侍女達もそれに応える。そうして彼女は彼女の愛を成就させようとしていた。彼女もまた愛を抱いていた。そのことに嘘偽りはなかったからだ。
ラダメスは地下の墓所に入れられた。そこで将軍としての鎧と剣を与えられた将軍として、エジプトの英雄として自害せよというランフィスの気遣いであったのだ。
「ここが私の墓場」
彼は辺りを見回して述べた。
「過ぎた墓場だな。そして」
腰の剣を見る。見事なものであった。
「これで自らを終わらせる。過ぎたことだ」
覚悟はしていた。後は誇り高い死を自身で果たすだけであった。
今それにかかろうと腰の剣を抜いた。だが。
「むっ」
そこに誰かの姿が見えた。ラダメスは最初それを見ていぶかしんだ。
「幻か」
最初はこう考えた。
「まさか」
「いえ」
しかしその幻が声を出してきた。そしてラダメスの前にその姿をゆっくりと現わしてきたのだ。それは間違いなくアイーダであった。
「アイーダ、どうしてここに」
「わかっていましたから」
彼女はそっとラダメスのところにやって来て言った。
「全てが。だから」
「馬鹿な、それでもどうして」
ラダメスは呆然としてアイーダに語る。あまりのことに我を失おうとしていた。
「祖国に帰ったのでは」
「私にとって祖国は貴方です」
顔をム上げて言う。
「貴方しか。そして二人で」
「それは駄目だ」
ラダメスは首を横に振った。そしてアイーダに言う。
「逃げるんだ、ここから」
「どうしてですか?」
「私の為に死ぬことはない」
そうアイーダに告げる。
「私なぞの為に。そんなことは」
「いえ、全ては決めたのです」
だがアイーダはそれを聞こうとはしない。まるで何かに取り憑かれたかのように。
「ですから」
「いや、それは駄目だ」
ラダメスはまた首を横に振る。そうして扉へと向かう。だがそれは開きはしない。
「そうだったな」
ラダメスはその閉じられた扉を見て力なく笑う。全ては彼が望んだことだったのだ。
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