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SeventhWrite

作者:完徹
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転校生

「てな始まりなんだけど、どう?面白いっしょ?」
「……え~と……」
 連休明けの教室で僕を待ち受けていたのは自作のライトノベルを自信満々に音読してくるクラスメイトの水瀬和己(みなせかずみ)君だった。今日は早く来て寝る予定だったのにいい迷惑だ。僕の甘い一時を返せ。
「よくそんな自信満々で面白いって言えるね、いきなり主人公がリストカットしてるじゃん、それから回想以降のコミカルなノリに置いてきぼりを食らったよ僕は」
「読者の目を釘付けだぜ!」
 凄くいい笑顔だった。キラリと光る前歯が眩しい。彼は僕がこのクラスで唯一まともに話す相手なんだけど、別に仲が良い訳ではなくて僕は彼を友達だと思っていない。そういう訳で僕にも彼にも友達はいない、クラスでは浮いているほうだ。つまりはボッチだ。
「僕は完璧に興味が失せたけどね」
 水瀬君のまぶしいぐらいの笑顔に対して、僕も出来る限りの笑顔で返した。
 もちろん皮肉だ。
「綾文はクレームが多いな」
 水瀬君は僕の目の前でフーヤレヤレとこれ見よがしに溜息をはいた。
 地味にウゼェ。
「つけたくなる様な内容なんだもん、それに月村って依都子ちゃんと同じ名字使ってるけど、なんで?」
 僕が端っこの席でいつでも本を読んでいる月村依都子(つきむらいとこ)ちゃんを指差しながらそう聞いた。
 それに対して「ふん、それはだなぁ」と何故か得意そうに説明する。
「何か昨日風呂に入ってる時に閃いたというか天啓に導かれたんだよ、主人公の幼馴染は月村しかないってね」
 あっそう、あまりの下らなさに思わず口にする所だった。危ない危ない、水瀬君は休日の度に自作のライトノベル風自作小説を書いてわざわざ僕に読ませたり、話して聞かせたりするんだけど一度だけ彼の解説を聞き流しながらあっそうと言っちゃった時、烈火のごとく怒り出し、宥めるのが大変だった。なのでしっかり考えて返答する。それに今ではどんな話でも聞き逃す事は出来ないし。
「確かに思い付きって大事だと思うけど、登場人物と依都子ちゃんが頭の中で混乱してキャラがぶれるんじゃない?」
 冷静に指摘するとそこで考えを変えたのか、なるほど、確かにとしきりに頷く。水瀬君って自分勝手な所が目立つけど、しっかり人の意見を素直に聞くから僕も趣味に付き合ってられるんだよね。本を読むのは好きだし。
「それは綾文の言うとおりだな、だったら今度は木崎綾文(きさきあやふみ)って名前を使うよ」
 なんで僕の名前なんだよ。つまりは僕と重なっても混乱しないようなキャラなのか?
「あのね、大体身近の人の名前を使ってると、その使われている人は嫌な気分になるよ。っていうか昔一回使ったよね?」
 覚えてないだろうけど。
「え?使った覚えは無いけど………嫌なのか?」
「そりゃ嫌だよ!」
 全くこのボンクラは何を考えているのだろうか……
「なんだよ文句ばっか言いやがって、名前考える方の身にもなって見ろ」
 どんな逆切れの仕方だよ、ていうかなんで不貞腐れるのかなぁ、振り回されてるの僕なのに。とむくれていると、朝のHRの時間になり、教室の扉が開いた。
 どうやらずいぶん話し込んでいたようだ、あぁ僕の貴重な睡眠時間がぁ(泣)

  ガラガラ~

「おらー席につけーって皆座ってるか、ふん、感心、感心」
 僕ら二人が不貞腐れると同時に担任の桜先生が入ってきた。桜先生は数学教師で今年で三十歳の若い先生なんだけど、身体がどう見ても体育教師としか思えないくらい物凄くマッチョメンだ。何故体育教師ではないのだろう?そして名前とミスマッチすぎる(この学校に七不思議があれば採用されるだろうに)その見た目どおり言葉遣いは荒いけど、そんな外見に反してとても優しく、生徒に甘い先生で怒った所は一度も見ていない。
 もちろん生徒からは人気がある。
「よし、欠席はいねぇな、ん?安土山が来てない?珍しい事もあるもんだな、まぁいっか、それよりお前らぁ、朗報だ。今日この二ーBに転校生がやって来たぞ」
 一人の欠席が転校生の話題であっさり流されちゃったよ…って、え?梅雨になったばかりのこの時期に転校生?親の転勤かなんかかな?無い事もないだろうけど、こんな田舎に来るなんてよっぽど珍しい事だな。いや、田舎だからこそ転勤させられるのかな?う~ん……わかんないや。

 ガタッ

「せんせー、男ですか?女の子ですか?それとも可愛い女の子ですか?」 
 勢いよく立ち上がってここぞとばかりに質問したのはクラスでお調子者の男子だった。名前は…なんだっけ?
「喜べ、とりあえず女の子だ」
 教師という手前、無闇に生徒に可愛いといえないのか桜先生はそう答えて男子生徒を着席するよう促す。
「そっか、女の子かぁ」
 クラスの皆も女子が増えるということで主に男子がザワザワと浮き足立ってきた。
「お、来たみたいだな、よし入れ、…ん?何で安土山までいるんだ?」
 教室に入ってきたのは見知らぬ女子、つまり転校生ともう一人このクラスの一番の秀才、安土山蘭(あづちやまらん)さんだった。
「登校してくる途中で迷子になってるコイツの面倒みながら来たんです」
 安土山さんは後ろで申し訳なさそうにしきりに謝る転校生を一瞥した。
 あれ?先生が廊下で待たせていたんじゃないの?
 不審に思い桜先生を見ると……

「時間になっても来ないから何の演出かと思っていたんだが……迷子だったのか」

 おいぃぃぃぃぃこの不良教師!!なんで約束の時間に転校生が来ないのを演出だと考えるんだよ!!

「「「まぁそう思うよねぇ」」」

 いやいやいやいやなんでクラスの皆さんは納得してるの!?下手したらっていうか安土山さんがいなかったら今教室で転校生と会えたかどうか分かんないよ!!

「はい、これが家の敷地内に居たので仕方なく案内してきたんです」
 駄目だ、完全に流されてる。
 ………ま、別にいいかな、僕に関係のあることでもないし。
「ごめんなさい、安土山さん」
 その転校生は下げた頭も上げずに安土山さんに謝っている。
 災難だな転校生、安土山さんは他人にも自分にも厳しい人で言葉がきついし一緒にいると何かと疲れる、でも自分が遅刻してまでも人の面倒をみる、優しい人だったりもするんだけど。
「そうか、なら安土山は遅刻にはしないでおくよ、他の先生には内緒だぞ」
 甘いな先生。ばれたら退職させられるんじゃないかな?
「別にそんな事する必用はありません」
 強情だな安土山さん。相変わらずの優等生だ。
「あの、自己紹介……してもいいですか?」
 すっかり蚊帳の外だな転校生。……あらためてよく見ると結構可愛いな、目はパッチリしててショートへアも似合っていて元気なスポーツ少女って感じがして。
「ああ、スマン、とりあえず安土山は席に座れ、改めて今日から二ーBに転校した水瀬一美(みなせかずみ)さんだ」
 そう言いながら先生は黒板に名前を書く。

「親の事情でこちらに引っ越してきた水瀬一美です、よろしく」
 
 ざわざわっっ!!(クラス中がこっちを向く音)

 クラスが一斉に僕の隣の席を見た。……えーと?みなせかずみ?……水瀬君と同姓同名!?…下は漢字が違うけど。
「いやぁ先生もビックリだ、まさか水瀬と同じ名前の奴がこのクラスになるなんて」
 僕は隣の席の水瀬君を見ると何故かニヒルに笑っていた。
「三流のネタだな、俺だったらもっと面白く出来る」
 彼は何故現実と張り合っているのだろうか?確かに面白くないけど。どっちも
「席はそうだな、木崎から一つずつ後ろに下がれ」
 ……桜先生……もしかして、その転校生の席を水瀬君の隣にするの?
「で転校生の水瀬は空いた席に座れ」
 うん、やっぱりか。なんて漫画チックなんだろう、まるで面白くはないけど。
「ふぅ、四流のネタだな」
 だから何と張り合ってるのさ?
「よろしくね、えーと水瀬君」
 気がつくと転校生は席に着き水瀬君に挨拶していた、それに対して彼もよろしくと返した。元気で陽気な印象のその転校生とのファーストコンタクトはすごくグダグダだった。そのせいでこの時の僕はまだ気付けずにいた。一つの違和感に。 
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