アイーダ
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第二幕その五
第二幕その五
「それでは今から」
「はい」
父であるファラオに対して一礼する。それから階段の下のラダメスのところに向かう。その後ろにはアイーダもいた。
ラダメスはアイーダの方を見た。アムネリスはそれに気付くが何も言わない。アイーダは俯いている。この間にも火花が散っていたのである。
「将軍」
アムネリスはそのことを消してラダメスに声をかけた。
「今この冠を貴方に」
「有り難き幸せ」
ラダメスはそれに応え再び片膝をつく。その黒く光さえある髪に今紅と緑の冠が飾られたのであった。それこそが英雄の証であった。
「それでは将軍よ」
冠が授けられ終わるとまたファラオが声をかけてきた。
「立つがよい」
「はっ」
その言葉を受けてまた立つ。ファラオはまた彼に問うた。
「それでは褒美は何がよいか」
「はい、まずは」
ラダメスはそれを受けて話しはじめた。
「捕虜達をここに御願いします」
「捕虜をか」
「宜しいでしょうか」
「うむ」
ファラオはそれを許した。特に問題はないと判断したからであった。どのみち捕虜は凱旋の最後に来ることになっていた。だから問題はなかったのだ。
その言葉通り捕虜達が連れられてきた。アイーダはその中の一人を見て驚きの声をあげた。
「お父様!」
「何っ」
ラダメスはそれを聞いて自身も驚きの声をあげた。
「父だと」
「何という因果か」
それを聞いた人々は思わず声をあげた。アイーダはその間に父の側に駆け寄る。
黒い肌にがっしりとした身体の大男であった。髪も目も黒い。彼はエチオピアの士官の鎧と服を身に纏っていた。名をアモナスロという。
「どうしてここに」
「アイーダ」
アモナスロはそっとアイーダに囁いてきた。
「私の身分を明かすな。よいな」
「はい」
父の言葉にこくりと頷く。アモナスロこそエチオピアの王である。アイーダはその娘、即ちエチオピアの王である。そういうわけなのであった。
「わかりました」
アイーダはそれに頷く。そのうえで父の側にいるのであった。
「そうか、そなた等は父娘だったのか」
ファラオは玉座からアモナスロに問うた。仇敵に見下ろされ激しい怒りと憎しみを感じたが今は消した。そのうえで答えるのであった。
「そうです」
低い声できっぱりと述べた。
「私はこの娘の父です。まさかこうしてここで出会うとは思いませんでしたが」
「そうだったのか」
二人はエジプトの言葉で語り合う。だがアモナスロの正体は誰も知らない。知っているのはアイーダだけ、他の者は誰も知らないのであった。
「我等が王と祖国の為に戦いましたが」
話の最初は嘘である。
「しかし運命は我等に味方です。こうした次第です。王は立派な最後を遂げられました」
「まことか」
ファラオはそれを聞いてラダメスに顔を向けた。そのうえで彼に問うた。
「それは」
「行方は知れませんでした」
ラダメスはそう答える。
「しかしそれがまことならば」
「我等が王はもうおられませぬ」
アモナスロはそう告げる。
「ですが我々はここにいます」
そして次にこう言った。
「我々は」
「その通りだ」
ファラオもそれに頷く。
「そなた達は確かに今ここにいる」
「はい、その私達からの願いです」
アモナスロはそうファラオに呼び掛けた。
「我等に寛容を」
「寛容をか」
「そうです」
アモナスロはファラオを見上げて言う。
「どうかここは。是非共」
「そうです」
他の捕虜達も言う。鎖に繋がれているがそれでも言うのだった。
「どうかここは」
「ファラオの寛容を」
「ファラオよ」
ランフィスがファラオに顔を向けてきた。首だけだったが身体が大きく捻られていた。
「なりません。この者達は奴隷にするか処刑しましょう」
「その通りです」
他の神官達も言う。
「然るべき賠償がない限りは。ここは」
「ふむ」
ファラオは彼等の言葉を聞き左手を顎に当てた。そのうえで思案の顔を浮かべてきた。
「奴隷にすべきかと」
「御慈悲を」
だが捕虜達は諦めずに彼に訴えかける。
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