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ストライクウィッチーズ1995~時を越えた出会い~

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第十二話 Me262 V1

 
前書き
8月の16日あたりから、所用で北海道の方に行ってしまうので、更新ができなくなるかも。
それまでにできる限り更新&書き溜めをしておきたいですね。

・・・と言いながら艦これに浮気しようとしてるんですが(汗)
艦これのSSってあるのかしら。 

 
 ――ロマーニャ基地 格納庫

「今日もいい調子だなぁ、わたしのマーリンエンジンは!」

 まだ朝食も済んでいない朝早くから、基地の格納庫ではものすごい轟音が響き渡っていた。もっとも、この光景は501部隊ではお馴染みのもので、今更だれかが咎めに来るようなこともない。

「もう少し出力を上げてみてもいいかな……」

 音の正体は、固定ボルトにロックされたままエンジンを轟かせるストライカーユニット――『ノースリベリオン P-51』である。
 持ち主はシャーロット・E・イェーガー大尉。根っからのスピードマニアであり、自身の手でユニットをチューンすることもある彼女は、今日も今日とて朝からエンジンテストに勤しんでいたのであった。

「シャーロット・E・イェーガー大尉!! そんな格好で何をやっているんだ!!」
「む……バルクホルンか。見ての通りエンジンテストだよ」

 いや、誰も咎めに来ない、というのは誤りだろう。
 ミーナや坂本でさえ黙認するシャーリーのエンジンテストを、いつも注意しにくるウィッチが一人だけ、いる。

「まったく、今は戦闘待機中だというのに……おまけにその格好は何だ。せめてシャツくらい羽織ったらどうなんだ?」
「だって、格納庫でエンジン回すと暑いだろ? 女同士だし、別にいいじゃないか」

 腰に手を当てて注意を促すのは、規律と規則に厳しいカールスラント軍人の鑑、ゲルトルート・バルクホルン大尉だった。対して注意されたシャーリーはというと、可愛らしいレースのついた下着姿のまま、ご自慢の胸を揺らしつつあっけらかんとしている。

「お前たちはいつもいつも……もう少し慎みというものをだな……」
「へぇ、カールスラント軍人は規則に厳しいってか? いやぁ、私にはそうは見えないけどなぁ、ハルトマン?」

 ニヤリと笑ったシャーリーが言うと、ちょうどバルクホルンの後ろから、これまた下着姿のハルトマンが姿を現す。あられもないその格好にバルクホルンが口を酸っぱくして注意をするも、肝心の本人にはこれっぽっちも響いていないようであった。

「は、ハルトマン!? お前までなんて格好だ! それでもカールスラント軍人か!!」
「え? そだけど……」
「あっはっはっは!! だってさ、バルクホルン?」

 拳を握りしめて悔しがるバルクホルン。
 いつもと変わらない501の朝が、今日も訪れていた。





 ――食堂にて

「F-15J型の返還ですか? こんなに早く?」
「ああ、今朝ガランド少将から連絡があった。なんでも、理論だけは既に完成していたらしく、実機テストのおかげで試作機の完成に漕ぎ着けたらしい」

 食堂に集って朝食となった時、坂本の口から告げられたのは、和音の愛機であるF-15が返還される、という話だった。テストのためカールスラントに預けていたのだが、思いのほか早く返還されるらしい。

「午前中に連絡機が来るそうだから、おそらくそこで引き渡しになるだろう」
「そうですか……ガランド少将は、テストの結果について何かおっしゃっていましたか?」
「ん? ああ、ずいぶんと気に入ったらしいぞ。なんでも、〝天使に後押しされているようだ〟と言っていたな」

 食後の茶を啜りつつ言う坂本。約束通り、きちんと本人がテストを行ってくれたようだが、その結果も良好だったらしい。とはいえ、天使に後押しされる、というのはさすがに言い過ぎではなかろうかと思う和音であった。

「食事が終わったら、格納庫の方に顔を出してくれ」
「了解しました」

 そう言って席を立つ坂本。和音も自分の皿を片付けて席を立つと、足早に格納庫の方に向かう。なにしろ愛機が返ってくるのだ。徐々に大きく聞こえてくる連絡機のエンジン音に急かされながら、和音は格納庫へと駆けて行った。



「失礼します。沖田和音少尉でありますか?」
「はい、沖田和音は私ですが、カールスラント空軍の方ですか?」

 格納庫についたときには、すでに連絡機は着陸して、積み込んできた荷物をおろしているところだった。すると、機体の傍らに立っていた男性が和音の姿を認め、こちらに小走りで駆けてきたのである。恰好から察するに、カールスラント軍人であることは間違いないだろう。

「失礼致しました。我々は、カールスラント空軍第44戦闘団所属の者であります。ガランド少将より、少尉のユニットをお預かりしております」
「ああ、なるほど」

 見れば、今しも連絡機からゴツイ固定ボルトが降ろされ、基地の格納庫に運び込まれてゆくところだった。同時に、F-15ともう一つ、見慣れないユニットを積んだボルトが運び込まれてゆく。

「あの、今運び込まれていったのは……?」
「カールスラントで完成したジェットストライカーの試作機です。ノイエカールスラントの方から実地でのテストを行うように、と」

 どうやら運び込みは終わったらしい。
 それでは失礼します、と言って敬礼すると、男性兵士は連絡機へと駆け戻って行った。

「試作機か……誰がテストするんだろうな」

 まだ見ぬ試作機に心を躍らせつつ、和音は久しぶりに再会する愛機の下へと急いだ。





「ほう、これがカールスラントの最新型か」
「正確には、試作機ね。『Me262 V1』ジェットストライカーよ」

 和音がやって来た時、そこには既に坂本とミーナがいた。
 二人の目の前には、赤く塗られたストライカーユニットが鎮座している。
 どうやら二人で荷物の受け取りに出ていたらしい。

「む、なんだこれは。新型のユニットか?」
「ええ、今朝ガランド少将が送って来たの。沖田さんのユニットのおかげで完成したそうよ」

 おくから姿を現したのはバルクホルンだった。後ろにシャーリーが一緒なところを見るに、おそらく食事後もエンジンテストをしていたのだろう。シャーリーも今度ばかりはきちんと服を着ているが、それにしたってラフな格好である。

「まさか、研究中だったジェットストライカーか? ヘルマ曹長が言っていた、あの?」
「そうね。沖田さんのF-15Jをガランド少将が直接テストして、それをもとにエンジンがようやく完成したらしいわ」
「ほう……さっそく履いてみたいものだな」

 カールスラントの最新鋭機とあってか、バルクホルンもずいぶん期待しているらしい。
 一緒にやって来たシャーリーも、興味深そうにユニットを眺めている。

「それでミーナ。スペックはどうなっているんだ?」
「エンジン出力は従来のレシプロユニットの数倍。最高速度は950km/h以上、武装は50mmカノン砲一門と、30mm機関砲四門となっているわ。レシプロストライカーを凌駕する、新時代のユニットね」

 手にした報告書に目を落としつつ、ミーナが詳細なスペックを読み上げる。
 驚異的な性能に居並ぶ一同は瞠目したが、それ以上に反応を示したのはシャーリーだった。

「950km/hだって!? すごいじゃないか!!」

 最高速度を聞くや否や、宝物を見つけたように目をキラキラさせてユニットを撫でまわす。
 スピードマニアとしての血が騒ぐのだろう。

「なぁなぁ、この機体、わたしにテストさせてくれよ!!」

 慈しむように機体を撫でながらシャーリーが言う。苦笑しながらミーナが応じようとしたその時、バルクホルンが横から割って入った。

「ダメだ。これはカールスラントの機体だぞ? カールスラント軍人であるわたしがテストをするべきだ!」
「なんだよ、お前んじゃないだろ!」
「何を言うか。それを言うなら、お前のでもないんだぞ、リベリアン!」

 さっそく火花を散らし始める2人。シャーリーは「超音速の世界を知る私こそが!!」と胸を張り、対するバルクホルンも「カールスラントの誇りにかけて私がテストする!!」と譲らない。喧々諤々の言い争いが、いよいよ取っ組み合いかというところまで加熱した時だった。

「――せっかくですから、シャーリーさんが観測員になればいいのではありませんか?」
「お? 沖田じゃないか。お前も何とか言ってやってくれよ。この堅物軍人がさぁ……」
「こらリベリアン!! 幼気な新人にあらぬことを吹き込むな!! だいたいお前は……」
「あ、あはは……お二人とも、喧嘩はよくないですよ……?」

 やって来たのは和音だった。基地の整備班と一緒に、F-15の固定された台を運んでいたところである。
 一緒に挟み込まれていたメモには、ガランドからの直接のお礼と、使ってみての感想が書き記されていた。また、簡単ながらメンテナンスをしておいたとも書いてあり、整備や補給がほぼ不可能な状況下にある和音は、そのことに深く安堵したのだった。

「観測員か……何をすればいいんだ?」
「はい。シャーリーさんのユニットと、このジェットストライカーを同時に飛行させて、性能を試験するんです。そうすれば、どれくらいの違いがあるのかわかると思いませんか?」
「「む……」」

 それはつまり、暗に「勝負してみればわかる」ということだったのだが、シャーリーとバルクホルンは見事に和音の案に嵌まり込んだ。ピクリとこめかみを震わせると、ニヤリと笑ってユニットの固定台に駆けてゆく。

「はぁ、二人ともあっさり沖田さんに乗せられちゃって……」
「そう言うなミーナ。どのみち試験はしなければならないんだ」

 頭を抱えるミーナを坂本が慰める。元気すぎる部下も困りもの、という典型例だろう。
 とはいえテストをしないわけにもいかないのだから、和音の提案は妙案だったと言えるだろう。なかなかどうして和音も501の空気に染まってきている。

「準備はいいぞ、ミーナ!! さっそくテストだ!!」
「わたしのマーリンエンジンに勝てると思うなよ?」

 大きく溜息をつきながらも、ミーナはテストを許可した。
 今日は一日、騒がしくなりそうである。






「……シャーリーさん、12,000mで上昇が止まりました。バルクホルンさん、まだ上がっていきます」

 記録係にサーニャを引っ張り出し、いよいよテスト開始となった。
 まず始めに上昇能力のテストが行われたが、その結果はもはや従来のレシプロストライカーの比ではなかった。現行水準においては最高峰と言われるP-51をあっさりと追い抜き、そのままぐんぐん上昇してゆく。

「おいおい、マジかよ……」

 取り残されたシャーリーは呆然として呟くが、Me262の驚異的な性能はこれだけではとどまらなかった。
 続く積載重量試験でも圧倒的な性能を発揮し、50mmカノン砲と30mm機関砲を装備したまま飛行、そのうえシャーリーのP-51を寄せ付けず、標的として配置したバルーンをいとも容易く撃ち抜いて見せる。もはや比較することすら馬鹿馬鹿しいほどの圧倒的な性能差だった。

「すごい……すごいぞ!! まるで天使に後押しされているようだ!! これさえあれば戦局が変わる!!」

 掴んだ手ごたえに興奮を隠せないバルクホルン。圧倒的な性能差を見せつけられたシャーリーたちは、ただただ驚きに目を丸くするばかりだ。
 結局、この日に取れたデータをまとめるべくテストはここで一旦区切ることにし、万全の整備を行うべく機体は整備班に引き渡された。予想以上の性能に興奮を隠せないのはバルクホルンだけではなかったようで、普段は冷静なミーナでさえ心なしか浮ついているようにさえ見えたほどだった。

「さっそくデータをまとめてくれ、ミーナ。明日もテストを行うぞ。これが実用化されれば、カールスラント奪還も夢じゃない。沖田にも感謝しなければならないな」
「そうね。今回の試験でも予想を上回る結果が出ているわ。この調子でいきましょう」

 格納庫に機体を運び入れると、皆口々にジェットストライカーの凄さを褒め称えながら去って行った。その横顔は期待に満ち溢れ、試作機に対する期待と意欲を容易に感じさせるものだった。
 しかし、その陰で暗い顔をしている人間が一人だけいた。

(ダメだ……これ以上、このユニットに大尉を乗せちゃいけない……)

 まるで恐ろしい怪物を見るかのような表情で、和音は誰もいなくなった格納庫でMe262を見つめていた。この時点で、Me262の欠陥と危険性に気付けていたのは、おそらく和音ただ一人だっただろう。

「このユニットは、危険すぎる……!!」

 深刻な面持ちでそう呟いた和音は、足取りも重く自室へと引き上げていった。





 ――ロマーニャ基地 食堂

「にしても、まさかわたしのマーリンエンジンが負けるとはなぁ……」

 夕食のシチューを口に運びながら、シャーリーは悔しそうにぼやいた。
 言うまでもない。午前中のテストの事についてである。
 現行のあらゆるストライカーユニットと比較して、特に抜きんでた性能を持つ機体がP-51だ。航続距離、武装、上昇力、加速性能、最高速度、旋回性能……どれをとっても一級品であるそれを、シャーリーはさらに改造して性能を底上げしている。それを易々と下して見せたのだ。受けた衝撃は推して知るべきであろう。

「うむ、まさかカールスラントの技術力があれほどとはな」
「ウルスラも大変だったって言ってたよ?」
「そうね。まだ開発が始まったばかりだから……でも、これで大きく開発に弾みがついたわね。今後も試験を重ねて詳細なデータを本国に提出するようにしましょう」

 食卓での話題も専らジェットストライカーの事だった。
 しかし、その中でただ一人、深刻な面持ちを崩さないのが和音だった。

「あれ、どうしたの和音ちゃん。ご飯、口に合わなかった?」
「いえ、そうではないんです。宮藤さん」

 今日の配膳も宮藤とリーネが担当してくれている。口に合わないはずがない。
 
「珍しいですわね。体の具合でも悪いのかしら?」
「そういうわけでも……ないんです」

 果たして言うべきか、言わないでおくべきか……
 和音は迷っていた。これほどまでに大きく期待を寄せている機体の危険性を指摘すれば、バルクホルンやミーナは大きく衝撃を受けるだろう。しかし――

「あ、あの! ミーナ隊長」
「なにかしら、沖田さん」

 和音は意を決して口を開く。

「ジェットストライカーの件に関して、私から一つ提案があります」

 その途端、食堂の全員が和音に注目する。

「そうか、そういえばこの部隊の中で最もジェットストライカー運用の知識と経験があるのは沖田だったな。よし、何か意見があるなら言ってみろ、沖田」
「そうね、F-15を試験させてくれたのも沖田さんのおかげだし、何か考えがあるのかしら?」

 スプーンを置いて先を促す二人を見据え、和音はおもむろに席を立ってバルクホルンの下へと移動する。訝しげな表情をする皆の前で、和音ははっきりと、そして力強く言った。

「――提案というのは他でもありません。あのジェットストライカーは危険すぎます。わたしは、ジェットストライカー運用試験の即時中止と、バルクホルン大尉の飛行停止を提案します!!」

 その瞬間、食堂は文字通り凍りついたように静まり返った。
 一種異様な静寂が場を支配し、一体どうしたんだと言いたげな視線が和音に集中する。

「な、なにを言ってるんだ沖田!! あれはカールスラントの希望だ!! テストを続行するのは当然だろう!!」

 真っ先に我に返ったのはバルクホルンだった。拳を握りしめ、凄まじい剣幕で反論する。
 バルクホルンだけではない。坂本やミーナもそれに続いた。

「落ち着け沖田、それにバルクホルンも。……一体どうしてそう思うんだ、沖田?」
「私たちにとってジェットストライカーは未知の領域よ。それは分かっているけれども……どういうことなのかしら?」

 和音はそれに答えることなく、無言で右手を突き出して見せる。

「……何のつもりだ? 沖田少尉」
「握ってください」
「なに……?」

 眉根を寄せたバルクホルンに対し、和音は努めて冷静に語り掛ける。

「今の大尉が出せる精一杯の力で私の右手を握ってください」
「ふざけているのか? 私の固有魔法を知らないわけじゃないだろう?」
「そうだよ! いくらなんでも本気のトゥルーデに握られたら怪我しちゃうよ!」

 エーリカも強く反論するが、和音は耳を貸さなかった。
 やがて根負けしたのか、バルクホルンがやれやれと首を振って右手を握る。
 しかし、その表情はすぐさま驚愕の物に変わった。

「そ、そんな馬鹿な……なぜ、どうして力が入らない!?」

 精一杯、顔を真っ赤にして握っているというのに、和音は至って涼しげな表情のままだ。
 これには流石に驚いたようで、全員がバルクホルンの下に駆け寄った。

「どうしたのトゥーデ!? 体の具合が悪いの?」
「いや、そんなことはないんだ。なのに何故……」

 理解できないといった表情のバルクホルンに向けて、和音は静かに言った。

「――握れない。――どう頑張っても思うように力が入らない。そうではありませんか? バルクホルン大尉」
「どういうことなんだ、少尉。説明してくれ!」

 真剣な表情で詰め寄るバルクホルンに、和音は順を追って説明していく。それは、ジェットストライカーが主流となった時代のウィッチだからこその視点であり、警告だった。

「ジェットストライカーは、従来型のレシプロストライカーと比較して魔法力の消耗が激しいんです。大尉は今日の午前中だけで、限界高度までの上昇試験と完全装備での飛行試験を行っています。バルクホルン大尉、今の大尉の体は自分が思っている以上に消耗しているんです。一歩間違えば、魔法力を吸い尽くされていたかもしれないんですよ?」

 衝撃的な事実に、食堂は水を打ったように静まり返る。
 それが紛れもない真実であることを、力んで震えるバルクホルンの手が証明している。
 これっぽっちの力も出せないほど、操縦者の魔力を消耗させるのだ、と――

「魔法力の過剰消耗によるウィッチの損失を防ぐため、F-15J型には〝緊急停止装置〟が備わっています。加えて、ウィッチを守るために様々な工夫がされているんです。それだけじゃありません。巡航時の速度を音速以下に抑えるなど、運用には注意を払っているんです。いいですか、まだ技術的にも未完成な試作機で無茶なテストを続ければ、大尉は飛べなくなってしまうかもしれないんですよ!? それでもいいんですか!?」

 熱を込めた和音の警告は、しかし今回に限っては逆効果だったようだ。

「技術的に未完成だと……? 黙って聞いていれば好き放題言ってくれたな!! 技術的な水準の話は、あくまで未来から見ての話だろう。現状の技術レベルでは最高水準と言っていい機体だ。実戦で通用するかどうかは、私がテストして証明してみせる。そしてかならずカールスラントを奪還するんだ!!」

 ダンッ!! っと机を叩いて立ち上がると、バルクホルンはいらだちも露わに食堂から去ってしまった。後味の悪い沈黙と罪悪感に胸を苛まれながら、和音もまた食堂を後にする。

「あ、あの、和音ちゃん……」
「ごめんなさい宮藤さん、今、ちょっといっぱいっぱいなんで……」

 唇を噛みしめたまま、和音は小走りで宮藤の横を駆け抜ける。
 そうしないと、悔しさと悲しさで叫び出してしまいそうだったから。
 結局、その日の夕食は、これまでにないほど気まずいものとなってしまったのだった。






 ――夜 自室にて

「うっ……ひっく……大尉の……バルクホルン大尉のばかぁ……」

 飛び込むようにしてベッドに倒れ込んだ和音は、そのまま毛布にくるまって、堪えきれない嗚咽をそれでも必死に堪えていた。自分の思いが伝わらなかったばかりか、逆に怒らせてしまったのでは元も子もないではないか。シーツにはすっかり涙のシミができている。

「なんで、なんで怒らせるようなこと言っちゃったんだろう、私……」

 枕に顔を埋めて自責の念に囚われていると、控えめなノックの音が響いた。
 まるで部屋の中の人間を気遣うような、そんなノックの音だ。

(宮藤さんかな……)

 きっとそうだろう。だけど、今は誰にも会いたくない。
 和音は毛布を手繰り寄せ、その中に埋もれるようにして丸くなった。そうすれば、宮藤さんならそのうちあきらめて帰るだろう。そう思った。


 ――だから、勝手に部屋のドアが開いたとき、和音は心臓が飛び出るほど驚いた。


「――っ!?」
「ごめんな。ノックをしても居留守をしているみたいだから、勝手に入らせてもらったよ」

 明かりのない暗い部屋でもはっきりとわかる、ハニーブロンドの長髪。
 いつになく穏やかな声でそう言ったのは、シャーロット・E・イェーガーだった。

「し、シャーリー大尉……!!」

 驚き目元を拭う和音。そんな姿を笑うことなく、シャーリーはゆっくりと近づいてきた。

「隣、いいか?」
「……はい」

 未だ毛布に閉じこもったままの和音と、そっとベッドに腰を下ろすシャーリー。

(私って子供だな……)

 そう思っていると、シャーリーが唐突に口を開いた。

「――今日は、ありがとな」
「……え?」
「ジェットストライカーの事だよ。わたしも、アレは少しヤバいって思ってたんだ。だから、お前が勇気を出してアイツを止めようとしてくれたことが、嬉しかったんだ」
「………………」

 照れくさそうに頬をかきながら、シャーリーは続ける。

「機体のテストも大事だけど、それでウィッチが死んじまったらどうしようもないだろ」
「…………」

 何も言えずただ話を聞くばかりの和音の頭をそっと撫でて、シャーリーは颯爽とベッドから立ち上がった。普段は部隊のムードメーカー的な側面しか見せないシャーリーだが、その実彼女は思慮深く、他人の心の機微に関しては驚くほど鋭い。

「少佐や隊長にはわたしから言っておくよ。心配すんなって。――お休み、沖田」
「……はい。おやすみなさい、シャーリーさん」

 ようやく、ただそれだけを口にできたことに安堵しながら、今度こそ和音は横になった。
 不思議と涙が止んでいたことに気付く間もなく、和音は深い眠りへと落ちていった――

 
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