オテロ
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第二幕その二
第二幕その二
「カッシオ」
「ああ」
「あの方が来られましたよ」
「今来たのか」
「探されていたのですか?」
「ああ」
イヤーゴの言葉に答える。
「そうか。今だったか」
「私の妻もいます」
こうカッシオに述べる。見ればその木陰にもうデズデモーナともう一人女がいる。赤い髪と緑の目をした小柄な女であった。
「エミーリアが」
「わかたt。じゃあ」
「はい、どうぞ」
彼が行ったのを見るとまた悪魔の顔に戻って呟く。
「後はここにあの黒いのを連れて来てだ。それから少しの微笑みだけで話が来るな」
こう呟いてオテロを探そうとしたところでそこでオテロを見つけるのだった。
「丁度いいところに。悪魔が俺をみちびいているのだな。それでは」
すぐにまた誠実の仮面を被ってオテロの前に向かう。そこで考える顔を作りながら俯いて呟くのだった。
「困ったな」
「どうした、イヤーゴ」
「あっ、これは閣下」
演技を続ける。軍人としての敬礼をしたのだ。
「何かあったのか。むっ?」
イヤーゴが顔を上げてすぐに視線をあらぬ方に向けたのでそちらを見た。
「あれはカッシオか」
「そうですね。見たところ」
イヤーゴはいぶかしむ顔で述べた。
「閣下のお姿を見て急いで逃げていますな」
「だとしたら何故だ?」
オテロはそれをいぶかしむ。いぶかしむその心に早速イヤーゴが囁くのだった。
「あのですね、閣下」
「何だ」
「閣下が奥様をお知りになられた頃彼は既に奥様を存じておられましたね」
「ああ、そうだ」
何気なくイヤーゴに答える。
「それがどうかしたのか?」
「いえ、別に」
誤魔化した。芝居で。
「ただ。思い過ごしですね」
「いや、それでもいい」
イヤーゴの計算通りオテロはそれに乗るのだった。それを見て心の中でほくそ笑む。
「閣下はカッシオ殿を信頼しておられますね」
「勿論だ」
副官としての任務を解いてでもある。
「あの者はわしが妻を見初めていた頃から度々妻にわしからの贈り物やカードを届けてくれている」
「左様ですか」
「そうだ。誠実ではないのか?」
「誠実だと」
あえてオテロの心に引っ掛かるように彼の口真似をするのだった。
「御前は何が言いたいのだ、一体」
「何が言いたいだと、私が」
「わしの口真似をしているな」
「いえ、それは」
オテロが次第に不機嫌になっていっているのを見ている。だがそれは心の中で収めている。
「御前は何か隠している。何か凶悪な獣をな」
「まさか」
「いや、言ったではないか」
少しずつ不安を感じながらイヤーゴに問う。
「さっき聞いたのだ。困ったな、と呟くのを」
「さて」
「聞こう」
不安を自分でも感じながらまたイヤーゴに問う。
「しかもわしがカッシオの名を呼ぶと顔に暗いものを見せる。何故だ?」
「それは」
「今までの様にわしを慕ってくれているのなら」
「それは否定しません」
わざと恭しく一礼してから述べる。ここでは礼儀正しくする方がいいとわかっていてだ。その方がオテロがイヤーゴに話し易いとわかっているのだ。
「その通りでございます」
「それではだ。話してくれ」
さらにイヤーゴに突っ込みを入れる。
「御前が思っていることを。意地の悪いものでも悪意のあるものでもいい」
「貴方はその掌の中に私の心の全てを持っておられるのですが」
「そうなのか」
「そうです。そしてですね」
そっとオテロの耳元に近付いた。音もなく。そのうえで彼の耳に小声で囁くのだった。
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