万華鏡
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第三十三話 合宿の終わりその四
「広島までね」
「あれっ、先生広島ファンですか?」
「阪神ファンよ」
関西人らしくこのチームだというのだ、先生もまた。
「だから虎と鯉の試合に行くのよ」
「あっ、だからですか」
「それで広島まで」
「そうなの、甲子園でない時はね」
その時はというのだ。
「広島まで行ってるの」
「だからですか」
「ここまで」
五人も話を聞いて納得した、それでだったのだ。
先生は広島に来て阪神を応援しているのだ、そしてそれは。
「広島市民球場の頃からね」
「長いですね」
景子は先生の話を聞きながら今原爆ドームの前を通った、その広島市民球場はその向かい側にあった。
その原爆ドームは先生も見ていた、そのうえで五人に言う。
「このドームを見る度に思ったわ」
「阪神に勝って欲しいとですね」
「そうですね」
「思ってたわ、いつもね」
原爆ドームを見ながらの言葉だ。
「けれど七割以上はね」
「阪神負けてたんですね」
「いつも」
「全く、勝つ以上に負けるチームだから」
実際はどちらかというと勝つ方が多少は多い程度だ、だが先生はかなりネガティブな顔でこう言ったのである。
「七割以上よ」
「カープに負けたんですか」
「ここで」
「全くねえ、打てなくてね」
これに尽きる、阪神の敗因は。
「ピッチャー抑えても打線が打たなくてね」
「いつも負けてたんですね」
彩夏も沈痛な顔で応えた。
「何か阪神のいつもの負け方ですけれど」
「阪神は打たないチームなのよ」
ピッチャーは抑えるのだ、阪神はそういうチームなのだ。
それでだ、こう言ったのである。
「一点で抑えても完封されたらどうにもならないでしょ」
「うわ、阪神の負け方ですね」
「何かそういうパターンで負けるんですよね」
「ピッチャーが一点二点で抑えても」
「打線が打たないですね」
「チャンスでゴロかフライよ」
三振もするがこの方が多い。
「統一球じゃなくてもね」
「打たないですよね」
「ボールが飛ばないですね」
「それが阪神よ」
先生はまた言った。
「今年は何時優勝するのよ」
「いや、阪神は何年か前に優勝してますよね」
宇野先輩は自分の席に座ってそこからドームを見ている、そしてだった。
遠くを見る目でだ、こう言ったのである。
「カープ、九十一年ですよ最後に優勝したの」
「うっ、そう来たわね」
「阪神なんかまだましですから」
遠くのものだけではない、恨めしさまで見ている。
「一体何時優勝するのか」
「まあ何時かはね」
先生は教師だ、ここで生徒を励まさなくてはならないことはわかっている。しかし教師は嘘を言ってもならない、それで口どころか顔全体を引きつらせてこう言った。
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